22 (エアトラ奪取作戦)〇
負傷者を満載まで乗せて垂直離陸…翼の角度が60°の中間モードに変えてレーダーから発見されにくい 地上30m付近の超低空をタイヤを格納せずに飛行する…匍匐飛行で飛ぶ。
30mだと結構 高さがある様に思えるが、エアトラのコックピットから見ると匍匐の名の通り 地上を はう様な高さだ…。
操縦を誤れば こちらが カバーする時間も無く、1秒以内に墜落するだろう…ここは そんな高度になる。
「うわっ…アシストが入ってるとは言え、結構 神経を使うな…」
通常なら副操縦士が窓から外を見てくれるのだが、今は副操縦士がいない。
『ですが、風は穏やかで飛行日和です。
ほら、高度が高いと見られない良い眺めですよ』
「景色を楽しむ余裕なんてないよ」
重要なのは高度計…山などの地形で地表との高度が下がったら上昇して合わせ、山を下ったら高度を下げる…本当にシビアな作業でコパイによるアシストが無かったら絶対に やりたくない飛行方法だ。
『緊急…後方から急速接近…タイプ特定、携行対空ミサイル…機体を守る為、自己判断で対処します。』
「なっ…何でアメリカのレッドアイが こっちを狙っているんだ?」
『リソース不足により不明…お静かに』
エアトラが 中間モードから プロペラ機モードに切り替え、推力最大での急上昇…だがレッドアイは追尾して来る。
アレは エンジンの排気熱を探知して 追尾する赤外線式のミサイルだ。
『来い来い来い…フレア!』
ミサイルが真後ろに来た所でエアトラがフレア弾を放ち、フレア弾の熱をエンジンの熱と誤認してレッドアイが突っ込み、爆散…。
コン、コン、コン、カン
『機体に破片が接触…貫通無し…あっフレアに隠れて2射目?
回避不能…ダメージコントロール!』
ドン!!
『右翼、第2エンジン被弾…致命的損傷…燃料タンク遮断…隔離…被害軽減の為、右翼をパージします。』
コックピット後ろの天井から爆発ボルトの爆発音…窓から後ろを見ると接続部分を外された 右翼が飛んで行く。
左右のプロペラを別々の方向に回す事でトルクを相殺していた所、右のエンジンが無くなった事で急激に右回転が始まる。
「うっ……」
エアトラは 機首を上に 上げて ほぼ真上に上昇…機体の底面で風を受けて回りながら減速をする…片翼で のきりもみ落下…通常なら確実の死だが、コパイは それが あの短い時間の中で最善だと判断した。
『大丈夫…コントロール出来てます…私は不時着は得意です。』
高度120mを切った所で、左の1番エンジンを停止させ、フラップを下げて 一瞬の滑空。
真上を向いていた機体が水平に戻り、そのまま地面に衝突…。
ドンと衝撃を着陸脚のタイヤとサスペンションで受け止め、タイヤはパンク…。
エアトラは ズザーーと地面を滑走して そして止まった。
「ははは…」
私は苦笑いする…これは人じゃ無理な芸当だ。
エアトラの本社にいる コパイは コンピューターの仮想空間上で『墜落させる側』と『乗員を守って 綺麗に不時着する側』に分かれて、延々と対戦をし、対処法の蓄積と機体の改修をしている。
だから、即死ではない限り 何とか 降ろせてしまうのが エアトラとコパイの特徴だ。
『無事、不時着しました…エンジン停止…火災無し…権限を戻します…ご指示を…。』
「レッドアイに狙われたと言う事は、アメリカが こちら撃墜した可能性がある…助けを使わず、エアトラの機密の保持を最優先にする。
まずは 乗員を脱出させ…コパイは 優先順位の高いデータからダウンロード。
機体の制御コンピューター内のデータは 順次消去。
最後にコパイを回収して、燃料タンクの酸水素を使って エアトラを爆破処理…可能な限りの機体の情報 流出を防ぐ。」
『了解しました…私の容量の限界までデータを積み込みます』
「頼む…よし、おい無事か?」
私は機長席から立ち上がり、後ろの客席が付いた貨物室に向かう。
「ええ…何とか…死人は出てません…吐いているヤツはいますが…」
「よし、脱出だ…動けない重傷者は 担いでやってくれ…私は エアトラの爆破作業に移る。」
「了解しました」
そう言うと軍人の負傷者達が、民間人の重傷者を背負い、後部ハッチから外に出て行く。
「よし、脱出は 完了…コパイ、データは?」
『回収しました…消去も問題ありません…。
では 燃料タンクの冷却器を過熱モードにセットします。
燃料タンク内の燃料の温度が急激に上昇させ、爆発させます。
推定 爆発 時間は1分です…実行しますか?』
「いや…まだ…」
機長席と副操縦士席の真ん中にある 速度を調節するスロットレバーやフラップ、タイヤなどのギアが収まっている制御ボックスのロックを外してフタを上に上げる。
「あった…」
そこには 手の平に収まるサイズの立方体のニューロ コンピューター。
ブレインキューブが入っており、これがコパイの本体だ。
「準備は良いか?」
『ええ…いつでも…』
「それでは実行…」
『実行しました…脱出を推奨します。』
コパイのブレインキューブを引っこ抜き、走って後部ハッチから脱出…120m程離れた場所で手を振っている負傷兵達と合流する。
そして上を見上げるとアメリカ軍のヘリコプター…UH-1 イロコイが 何故かこんなに 早く救助に来てくれた。
ド~ン!!
爆音がなり、エアトラの機体がバラバラに吹き飛び、残骸になって周辺に散らばり、イロコイは 爆風で機体をあおられ、慌てて 急上昇して退避する。
「ははは…ざまー」
私はイロコイに向かって そう言うのだった。
エアトラを撃ったのは 防衛ラインから忍び込んで来た 北ベトナム人で、対空ミサイルはソ連の物と言う事らしく、まだ北ベトナム人が対空ミサイルで狙っているかもしれないのに、まるで狙っていない事を知っているかの様に すぐに救助用のヘリコプターが増員されて…私達は 簡易基地に運ばれた。
後日、ここはアメリカ国内では無く、事故では無く撃墜なのに国家運輸安全委員会が アメリカから わざわざ派遣され、アメリカ主導でトニー王国のエアートラック社の立ち合いの元、爆破されたパーツを証拠として北ベトナムを訴える為、回収される。
回収作業中…現場の作業員は 爆破された部品に ため息を付き、私達は それを笑顔で見守り続ける。
十中 二十九、残骸から エアトラのデータを抜き取るのが目的だろう…アメリカの垂直離陸機の開発は 停滞しているからな。
かと言って、コパイのデータを証拠に アメリカを訴えれば、この嫌がらせは更に エスカレートするだろう。
アメリカの各メディアでは『赤十字マークが描かれた 輸送機を墜とそうとするヤツは 人の所業では無い。
我々は 決してこの行いを許してはならない』とか言ってたが…。
だったら 赤十字のマークを付けて敵地に忍び込んで破壊工作をして良いのかと言えばNOになるのだろうが、国民に知られなければ どんな非道でも正義に出来る。
「結局、撃墜の事実を公表せず、外交カードとして政治家の弱みを握るのがベストか…。」
私はそう思い、NTSBに協力をしつつエアトラを解体して行くのだった。