21 (ベトナム戦争)〇
南ベトナム、最前線。
この時代、ベトナムは 南ベトナムと北ベトナムに分かれており、1954年のジュネーブ協定でベトナム南北統一が実現するはずであったのだが、統一後のベトナムの主導権を南か北が取るかで揉めに揉め、アメリカの都合の良い様に動く傀儡政権である南ベトナムと、ソ連や中国からの支援を受けている北ベトナムとで戦争が始まった。
ここでも また資本主義と社会主義・共産主義の対立が生まれ、互いが核兵器で滅びかねないと言うのに この思想の押し付け合いは、ベトナムの住民と国土を犠牲しての代理戦争と発展し、次の世界大戦に発展しようと していた。
南ベトナム側、野戦病院、捕虜収容施設。
「あがががが…」
「はい、大丈夫…地雷で 片足で吹き飛んだだけ…この地雷に人を殺す程の威力は無いよ」
ハルミは 地雷を踏んで 足をふっ飛ばされて ストレッチャーの上で苦しんでいる私服の男性の治療を行っている。
出血部分をバーナーで焼いて感染症防止の抗菌薬を吹っ飛んだ傷口に塗り包帯で保護。
後は鎮痛剤であるモルヒネを打ち込んで取りあえずは終わりだ。
最近は 地雷による被害が多い…少し前まで 地雷を踏めば 下半身辺りまで吹っ飛び、実質死亡の状態が多かった訳だが、今は かなり威力が抑えられ、人の足を吹っ飛ばす程度の威力になっている。
人は死んだら その場に放置される…だが、生きているなら別だ。
1人の兵士や住民達を医療施設に運ぶために何人もの労働力を削り、それを治療する前線の医療施設にも負荷が掛かり、医者の増員と医療施設の増加…それに ともなう予算の圧迫…採算に合わない戦争を維持する為の議会での無駄な争い…と、殺すより負傷にならない程度の重傷の患者を増やす方が戦争にとってはメリットが多い。
そして、この戦争の原因であるアメリカ軍は、宇宙開発を推進している大統領の暗殺未遂に、アポロ船への破壊工作をしたりと、宇宙開発の予算をベトナムに投入させる為に必死で、それらをナオ達の わがままで潰してしまうから 南側陣営の弱体化に繋がり、今は 北側陣営の優勢だ。
今の所 予算が取れなかったせいで 史実と比べ、 数万の人間が追加で くたばり、現在も記録を更新中…。
ただ ナオが軍事予算の追加を防いだ事により、史実より早く 共産主義の北ベトナムが勝利する可能性も出て来ている。
そうなればトータルでは 人死にが少なく済むだろう…さてどちらに転ぶか…。
外に出て負傷者が寝かされている赤十字マークが描かれたテントの中入ると中は悲惨だ。
包帯でぐるぐる巻きにされた 男、女、子供、老人、関係無く床に死体の様に寝かされ、苦痛から来る うめき声がBGMの様にテントの中に響いている。
声を上げて いるなら まだマシだ…妙に大人しいと思ったら既に死んでいた何て事も ここでは普通だ。
ここのテントは 地雷での負傷者では無く、重度の火傷が多い…。
森の中でのゲリラ戦法を得意とし、高い温度と湿気、土にまみれた森の中では、射撃精度は悪いが 作動不良が非常に少なく、雑に扱っても普通に動くAK47アサルトライフルを装備した北側陣営に対して、南ベトナム事 アメリカ側は M16…。
射撃精度は良いが こまめに整備しないと 作動不良になる 悪環境に弱い銃で、非常に分が悪い…。
と言う訳で 脳筋のアメリカ軍は ナパーム弾と枯葉剤を空から 撒き、森その物の消滅しに掛かった。
で、不運にも 焼死 出来ず 半端に生き残ってしまった患者達が寝かされていると言う訳だ。
軽度の火傷なら大した事はないが、重度の火傷だと話が変わって来る。
まず、消毒液を やけど箇所にぶっかけて、感染症の防止…。
これは 痛覚神経が生きていて 神経が剥き出しになっている 患者だと 激痛に苦しみ、空気が触れる事でも痛みを感じる。
で、包帯をグルグルに巻いて外からの感染症を防ぐ…可能なら無菌室に入れるのが良いのだが、この環境では それも望めない。
次に治って来ると 身体から大量の水膨れが発生して皮膚の組織が急速な修復に掛かり、顔が変形…皮膚が引きつり、手足の関節の曲がる範囲が制限される事もある。
その後は 皮膚移植と言う手もあるが 古い皮膚を丁寧に削ぎ落として行き、皮膚が完全に入れ替わるまで これを辛抱 強く続ける。
治療期間は火傷の範囲にもよるが、長いと2年位の治療期間が必要になる事もあり、そして 終わったら整形治療で また身体を傷つけられる。
治療期間中は 常に苦痛をともなう 拷問に近く、鎮痛剤の使用が無ければ 痛みに耐えかねて自殺する事も普通にある まさに生き地獄だ。
こいつらも治療は しているが 時期に感染症で死ぬだろうな…。
「まったく…犠牲になっているのが軍人じゃなく民間人ってのがね…」
ここベトナムでは民間人とゲリラの区別はつかない。
彼らは 私服で行動し、情報を流し、表向きには民間人として振る舞い、こちらが隙を見せれば 笑顔で銃をぶっ放して来る…史上最低のクズ 便衣兵だ。
軍事行動をする人間は 軍服なり腕章なり、自分達の組織を明確にしないと いけなく、便衣兵は捕虜にも なれない。
ただ ここでは民間人も自衛目的で銃を所持しているし、最近だと6才の少女がハンドガンをぶっ放してアメリカ兵を射殺し、次の瞬間には 少女が蜂の巣になって その日の内に集落が壊滅した…何て事も起きた。
現場の兵の中では、もう0才の乳幼児が 銃をぶっ放す可能性までも想定していて『疑がわしいなら即 殺せ』『動く者は 敵であり皆殺しにしろ』などの民間人を大量虐殺する可能性のある命令が普通に出ている。
まぁ国家総動員を理由に日本人全員を私服を着た便衣兵として扱い、空爆と原爆を落とした連中だ。
で、この戦場で唯一の救いがトニー王国軍だ。
トニー王国軍は いつも通り 両陣営に 配置されていて、両陣営への条約の徹底、人道的な捕虜の輸送、敵味方、軍人、民間人関係の無い治療を行っている。
正直、怪我している人は 全員 負傷者として疑わず治療出来る…今の立場に感謝だ。
今日も怪我人が発生し、住民や軍人達が運ばれて来る。
「今日は実験体が3体 手に入りました…1名は子供です」
白衣を来た研究者の1人が言う。
「おっ…じゃあ、死ぬ前に後方の基地に運ばないとだな」
戦場では 負傷者を使った 非人道的な実験も行える…こちらが やっているのは 身体を脳以外、全部 機械にする全身義体技術の開発だ。
まだ技術授的な問題も多く、その中で一番の原因は適合不良。
これは 新しい機械の身体を脳が受け入れず、ただ脳が生かされているだけの植物人間 なってしまう事だ。
手術自体はドラムがやっているから そこまで問題無いが、この適合不良の問題で 成功率が1割以下…。
しかも、歳を取れば 取るほど成功率が低くなり、逆に子供だと成功率が飛躍的に上がると言う統計結果が出ている…。
「えっと…今日…医薬品を乗せたエアトラが来ます。
荷物を降ろして負傷者を乗せて後方のトニー王国軍の簡易基地に搬送します。
ここじゃ設備が足りないので…」
「了解~ん?」
ドォォン!!テントの1つが吹き飛び、強烈な爆音と爆風が辺りを襲う。
「伏せろ!」
「えっあがっ…」
「よし…もう大丈夫…怪我は?」
「口の中が土だらけ…額もぶつけた…ペッペッ」
「大丈夫そうだな…テントに向かうぞ」
「自分は ここにいます…銃は苦手で…」
「分かった…安全が確保されたら呼ぶ」
私は吹っ飛んだテントに向かって走り出す。
「私は衛生兵だ!生存者はいるか!?」
私はテントの近くを歩きながら叫ぶ。
「生きてます~何とか…アタタタッ」
木製の瓦礫の中から パイロットスーツと白衣を来た兵士が出て来る。
「何があった?」
「多分 爆弾男…民間人の負傷者が いきなり爆発した。
この分ですと、パイロットスーツを着ていない患者は即死でしょうね…」
衛生兵の胸部には いくつかの破片が刺さっているが、パイロットスーツで貫通は防げた様だ。
「相手はバカなのか?この赤十字マークが目に入らないのか?」
「以前に 赤十字マークを掲げて、医療部隊として 敵に近づき 皆殺しにする作戦がありましたから…」
「はぁ…所属を明確にしないから、こんな事が起きるんだよ…取りあえず掘り起こすぞ」
「はい…」
掘り起こしてみた結果、テント内にいた患者は 全員が爆死…治療を行っていた衛生兵はパイロットスーツとヘルメットを ちゃんと装着していた為、1名が負傷…2名が命に別状はないが重傷で、任務の続行が不可能。
「酷いな…モラルを失ったヤツ程、残酷になれる。」
「本当ですね…」
エアトラから降りてきたパイロットが言う。
「オマエら 衛生兵の資格を持っていたよな。」
「ええ…ここに派遣された兵士の大半は そうです。
あ~衛生兵の補充ですか?」
「すまん…2名は ここで治療しつつ待機。
次の便で追加の衛生兵を持って来る…エアトラは 私が運転して 後方まで運んで行く…この赤十字マークも当てに出来ないからな」
私はエアトラの側面を見る。
エアトラの両側面には 大きな赤十字マークとトニー王国軍のマーク。
その下に Đơn vị Chữ Thập Đỏ của Quân đội Vương quốc Tony.(トニー王国軍 赤十字部隊)
Chỉ có thiết bị tự vệ(自衛装備のみ)とベトナム語でペイントされている。
「さぁ医薬品を早く降ろして負傷者を積み込むぞ」
私は周りの兵士達にそう言い、作業に入るのだった。