20 (英雄達の帰還)〇
周回軌道上、エアトラ救助船 船内。
アポロなら そのまま地球に向かって再突入する所、エアトラは 周回軌道上に入る為に機体の減速をし、周回軌道に入る。
「よし周回軌道に乗った…降下の為にゆっくりと減速するぞ」
ミラーが皆に言い、地球の回転とは逆方向に加速し、減速する。
「エアトラ、減速中…機首角度は+1°…。」
「おいおい…その角度だと大気に弾かれるぞ」
シートを掴んで計器を見ている ヘルズが俺を止めに入る。
「いや…これで十分降りられるよ。
ヘルズ…キミが言ってるのは 水面に 平らな石を投げた時みたいに大気で機体が跳ね上がる現象だろ…確か水切り理論。」
「そう…アポロの様なカプセル型だと発生するが、飛行機型だと発生しないのか?」
「あ~根本的な勘違い?まぁカプセル型だと そう見えちゃう訳だけど。」
「なら正解は?」
「地球に落ちた事で 速度が上がったから…。
戦闘機乗りなら 誰でも知ってるよな…機首下げで落下する事で加速する、機首上げて上昇すれば 速度が落ちる。」
「ああ…当然」
「で、このエアトラは 地球に向かって落ちているんだけど、エアトラが速過ぎて水平線を越えちまうから、地球から見て相対的な高度を保ってる様に見える…これが周回軌道…。
なんで エアトラの速度を落とすと水平線までの到達時間が長くなるから地球との相対高度が落ちる。
でも、落ちると機体が重力で加速するから 水平線までの到達時間が短くなり今度は相対高度が上がる。
で、カプセル型は 高速で地球に突入して一気に減速するから角度が浅いと加速して大気に弾かれている様に見える訳。」
「確かに飛行機では 当たり前の考え方だ。
はぁ…宇宙船を特別視していたのかもな」
ヘルズが言う。
「まぁこれ…宇宙も飛べる飛行機な訳だし…。
さっカプセル型と違って 降下には 結構な時間が掛かるから…のんびりやろう」
俺は 降下中だと言うのに立ち上がり、ジュースの用意をする。
「降下しているのに 全然温度が上がっている気がしないんだが、大気の摩擦熱は 如何なっている?」
コックピットの窓からラヴェルがふと聞いて来る。
「あ?そりゃあ 地球を半周する位のペースでゆっくり 降りているから…。
それと これも摩擦熱じゃなくて断熱圧縮…車のエンジンで空気を圧縮すると熱を生み出すだろう…それと理屈は同じ。
降下速度を落として 押しつぶす空気の量を少なくすれば そこまで温度が上がらない。
だから カプセル型見たいに融除する必要無い…この機体だと底面部でも200℃も行かないかな…ほら、ここの温度の数値…。
逆に言うなら周回軌道に乗らず、そのまま地球に一気に再突入したら、熱で空中分解するな」
「はぁ…私達は 宇宙の事に付いて全然 知らなかったんだな…。」
「まぁ…そっちは こっちみたいに 数を こなしてないからな…」
俺は そう言い、降下中なのに 皆でティタイムを楽しむのだった。
1時間後。
「おっ…見えて来たぞ…ケネディ宇宙センターだ。
旋回飛行をしながらエアブレーキで速度を落とす。」
『こちらヒューストン…良く戻って来てくれた。
クローラーの滑走路に降下 出来るか?』
「まだ燃料は十分に余ってる…垂直離陸も可能…その辺りに降ろす。」
「うわっ…マスコミの数も凄いわね…」
副操縦席のコクランが コックピットの窓から下を見て降下ポイントを探しながら言う。
「何というか…事故った方が 注目されるんだからな…」
「まぁ生還を喜んでくれるなら良いじゃないか…それじゃあ垂直降下するよ。」
機体を水平にしつつ、推力を徐々に絞り降下…翼を垂直にするヘリモードに切り替える。
『セットリング』『セットリング』『セットリング』
「おいおい…機体から警告が出てるぞ」
スワイガートが言う。
セットリング…別名ボルテックス・リング・ステートは、ヘリコプターによくある現象で、自分が下方向に放った空気が舞い上がって上部からまた吸い込まれ、プロペラ付近にドーナッツの様なリングが発生する事を言う…こうなると揚力が消失し、機体が落下…エンジン出力を上げても、リングが大きくなるだけなので無意味…ヘリコプター殺しで有名な現象だ。
「大丈夫…まだレベル1も行って無い…やかましいアラートが鳴らなければ 大丈夫…ゆっくり降りるよ…」
俺はそう言って タイヤを出し、ゆっくりと垂直着陸を始める。
警告を受けてい時点では 大丈夫…これがヤバくなるとアラートが鳴り、コパイが操縦権を俺達から勝手に奪って墜落を防ぐ為に対処してくれる。
ヘリコプターにとっては 致命的なセットリングだが、翼の角度を自由に変えられるエアトラなら 翼の向きを斜めに変えて 空気のリングを吹き飛ばしてしまえば良い…これは ティルトウィングだから出来る対処法だ。
と言うか この機体は ある程度セットリングをしないと 全然降下しない。
ガタッ…少しの機体が大きく揺れたが 問題も無く 無事着地…プロペラの回転を止める。
「はい、到着…お疲れ様でした~」
「はぁ…やっと帰って来れた…」
「さて、英雄の帰還だよ…マスコミ達の元へ行ってごらん」
「ああ…助かった…それじゃあ」
そう言うと アポロクルー達は後部ハッチから外に出て、近づいて来たマスコミ達の取材を受ける。
「今、アポロ13号のクルーがトニー王国のエアトラで帰還しました。
様々な困難なトラブルを乗り越え、前代未聞の宇宙での救出ミッションを成功させての帰還です。
今回のミッションは失敗の連続との声もありますが、それを協力して乗り越えたと言うのは、今後の宇宙開発にとって重要な資産だと言えるでしょう。」
マスコミの後ろから 家族も走って来る…アポロクルーは妻を抱きしめ、子供を抱えて マスコミ達に写真を撮られる。
「さぁこっちも帰ろうか…」
俺は 妻と抱きしめ合っているアポロクルーを見つつ、プロペラを60°に傾けて再起動…低速で トニー王国の仲間達がいる臨時整備場に向かったのだった。
この一連の騒動はメディアで大々的に取り上げられ、アポロ13号のクルーは生きる英雄となった。
13号を飛ばしたロケットの不調など、このミッションはトラブルの連続だったが、致命傷になった酸素タンクの爆発の原因は いくつかの要因が複雑に重なった問題だと判断され、詳しい原因の報道は されなかった。
ただ、ナオが実際に見て 調べた範囲では、船内の酸素に使われる 液体水素タンクの温度を維持する為のヒーターを 65ボルトの規格に合わせるよう仕様変更を行った際、ノース・アメリカン社の下請けのビーチクラフト社が タンクを改造を担当し訳だが、この時 致命傷になりかねない サーモスタットだけには 何故か 何も変更が加えられなかった。
宇宙開拓の予算を縮小されて ベトナム戦争の予算を獲得すると言う陰謀論が正しいとした場合、このビーチクラフトに工作員が紛れ込み、サーモスタットだけを 意図的に交換しなかったと思われるが、2度目の偶然のミスの可能性もある…。
まぁ真実は 如何あれ、投棄されたアポロ13号は地球と月の間の何処か…地球の公転も考慮すると回収は不可能だろう…結局、真相は闇の中だ。
そして アメリカは、アポロ計画と同時に開発されたいた トニー王国への対抗する為の次の計画…スペースシャトル計画に切り替えるのだった。