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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 10巻 (スターマンの宇宙開拓史)
274/339

17 (僅か4アンペアの電力をめぐって)〇

 月 軌道上

 アポロ13号は 月面には降りず、想定外の着陸船の推進剤を使って 月の軌道をまわって地球に戻る軌道を取る。

「うわっ機体がヤケに暴れるな…」

「後ろに司令船(荷物)をくっ付けて飛ぶ事を想定していない からだよ。」

 ラヴェル()が機体を四苦八苦で操作しながら軌道に乗せている中、ヘイズが言う。

「よし、おおよそ だが 軌道に乗った 後は ニュートン先生に お任せだ」

 計器を見ているスワイガートが言う。

 宇宙には 空気が無くぶつかる物が無いので、宇宙船は 止まる事無く いくらでも進める。

 後は このまま推進剤を使わずに進んで、地球の重力に捕まえて貰うだけだ。

『こちらヒューストン…一応の帰還軌道に乗った。

 後もう2、3回軌道の修正が必要になって来ると思うが、取りあえずは 時間を稼げた。

 そして キミ達に朗報だ…まだプランの作成中だが、トニー王国の姉島宇宙港から出たエアトラが 地球軌道 付近で アポロと ランデブーしてクルーを回収してくれるプランが上がって来ている。』

「本当か…」

「だが それには 大きな問題もある。

 こちらは エアトラが 回収可能なポイントに アポロを移動させないと いけない事…現状では これも難しい…到着前に 生命維持装置が先に尽きるからだ。」

「それは こちらも理解している…延命のプランの作成は頼むよ」

『ああ…それで もう一つの問題は 政治だ。

 他国の…しかも仮想敵国に救助される事を望まない連中がいる。

 我々の力で地球に帰還し、このトラブルへの対処能力を世界中に アピールする気だ。』

「もし、こちらが失敗した場合は?」

『豪華な葬式と国民が喪に服す事になるだろう…』

「なるほど…他国に頼る位なら切り捨てるか…主任管制官(クランツ)は?」

『救出 寄りだ…それでだが、この判断は キミ達にして貰いたい。

 姉島宇宙港は対価として エアトラ内での広報映像の撮影を要求している。』

「その位、私達なら いくらでも やるが…」

 とは言え、私達を切り捨てる程だ…余程、放送出来ない 内容なのだろう。

「問題なのは 黒人と女の飛行士に対して 彼らの救出に感謝し、優秀な宇宙飛行士として こちらが認めると言う内容だ。」

「それこそ 今更だろう…実際に彼らは何度も宇宙に出ているし、月にも行った…宇宙に出た回数も飛行時間も彼らの方が上だ。

 機械のアシストだらけの エアトラだと言うのが 少し不満だが、私はもう彼らを評価しても良いと思っている…それに…」

『それに?』

「迎えに来るのは おそらく スティーブン・ミラーだろ。

 『俺達は劣った存在じゃない。

 俺達を足掛かりに 次々と新しい宇宙飛行士が現れる。

 ここでは人種も男も女も関係ない…俺達は地球人だ』だった かな。

 地上の問題は 如何(どう)あれ、この宇宙では 彼らを地球人として扱いたい。

 こちらはトニー王国の協力を全面的に支持する。」

『了解した…その方針でプランを まとめる…交信 終了。』

「良いのか?オレ達は宇宙飛行士になる為に 必死で競争を勝ち上って来たんだろ…それを…」

 スワイガードが隣の私に言う。

「そうだな…でも マスコミとか子供達に よく聞かれるよな『宇宙旅行には 後 何年で行けますか?』って…。

 彼ら 長期休暇で 外国に行く感覚で 宇宙旅行に行ける生活を望んでいるんだ。

 だから 私達も ジェット旅客機のパイロットと一緒で、いずれは ありふれた専門職 程度になるのが 本当の所は 望ましい。」

「そんな未来が来るのかね…。

 宇宙開発を民間で やろうなんて明らかに採算が合わないだろ。」

「姉島宇宙港の彼らは それを 目指して やろうとしているんだ。

 さぁ私達は彼らを信じて待とう。」

「了解 船長。」

 スワイガートが私に笑顔で そう言うのだった。


 ケネディ宇宙センター上空。

 姉島宇宙港から、エアトラジェットと推進剤補給用のドロップ エアトラと一緒に 可能な限り最速で ミラー()達は ケネディ宇宙センターに向かっている。

『エアトラ…滑走路の様な アスファルトが見えるか?二本線の』

 ケネディ宇宙センターの管制官が無線で俺に話しかけて来る。

「ああ…確認している…これは クローラー・トランスポーターの為の道路か?」

『そうだ…ロケットが宇宙に行った 今では、次のロケットが組み上がるまで ここは 使われない…この道路の周辺を自由に使って良い。』

「了解した…感謝する。」

 エアトラは翼を縦にした状態で ゆっくりと垂直着陸し、エンジンを落としてプロペラが回転が止んだ所で 俺は 後部ハッチを開いて外に出来る。

 遠くでは エアトラの着陸を待っていた車が こちらにやって来る。

「さて、潜水艦が来るまでエンジンを切るな…」

「ええ…それにしてもナオは 上手くやっているかしら…」

「今は信じるしかないさ…」

 俺は コクランにそう言うのだった。


 ジョンソン宇宙センター上空。

「こちらヒューストン…エアトラ…任意で着陸を許可…スペースには 十分に余裕が あるはずだ。」

「了解…」

 ナオ(オレ)は ジョンソン宇宙センターの敷地の上で速度を落とし、ゆっくりと降下する。

 隣のクラウドは身体を乗り出し、着陸ポイントの選定を行っている。

 ジョンソン宇宙センターは 今後の拡張の為に 大規模な芝生の土地を確保している。

 ただ…ここだとエンジンからの排気熱で火事になる可能性もある。

 出来れば アスファルトが望ましい…が、どこも近くに建物があるので風に流されたら激突するし、建物に反射した風が 機体に跳ね返って傾く事もある。

「アスファルトでの着地は無理…芝生だな」

「了解…ヒューストン…近くに消防署はあるか?

 芝を焼いて火災になる可能性がある…多分、焦がす程度だと思うが…」

『こちらヒューストン了解…近くの消防署に連絡を入れる。』

「着陸ポイントを決めた…」

「OK…真下は見えないから誘導を頼む」

 ホバリング状態で ゆっくりと降下…しばらくして ガクッと着地する…。

「こちら エアトラ無事着地…あ~芝生は焦げているが、火災は無し…今、外に出て確認する。」

「了解…消防署は 出動 待機状態、今 迎えの車を回している。」

「助かる…交信終了」

 そう言い オレは エンジンを止め、後部ハッチを開けて、外に出て 火事になっていない事を確認し、機体の電源を落としたのだった。


「皆、黒板を見てくれ…」

 主任管制官のクランツが皆を集めて黒板にチョークで大きな丸と小さな丸を描いて行く。

「これが地球…これが月…13号は月を周って…現在はこの辺り…だが、船内の残り時間は 45時間…これでは 地球まで辿り着けない。

 最低で後、24時間…余裕があるなら30時間は ひねり出したい。」

「いいえ…主任 生命維持装置は 45時間持ちますが、問題は電気だ。

 いいですか? 交信、軌道修正、コンピューター…すべでが電力で動いている。

 今の状態では 残り16時間で電気が切れて漂流する。

 なので、今 60アンペアを使っている着陸船を12アンペアまで落とす必要があります。

 つまり、無線と生命維持装置以外のレーダー、ヒーター、モニタに 誘導コンピューターをすべて切る事になります…それ以外に 生き延びる方法はない。」

「それでは 手動で操縦すると言う事か?」

「ええ…船内は氷点下になるでしょうが、これで再突入までに必要な電力を確保出る。」

「トニー王国が救助して くれるんじゃないのか?」

「例え、救助されるとしても 電力があるに越したことはない。

 それにトニー王国側の救助が失敗する事も想定するべきです。

 今でも 船内では 貴重電力を消費しています…今後のプランで 1アンペアが あるか ないかが生存の鍵になって来る事もあるかも しれません。」

「分かった…落とさせよう…では、アドバイザーのナオ…エアトラの合流ポイントは?」

「えーと こちらが回収出来る 距離はアポロの移動速度から考えて、再突入の12時間前の この地点。」

「この地点の理由は?」

「単純な推進剤の問題…今回 エアトラは 地球の回転方向に向けて加速する事になる。

 皆さん、ご存じの通り、地球の回転方向に逆らう方が 地球の自転速度を使えるので速度が出しやすくなる。

 逆に地球と同じ回転方向の場合、推進剤と大幅に消費する。

 えーと、今回のプランでは いつも通り 推進剤を満載にしたエアトラを先に上げて、その後ろに救助用のエアトラを向かわせる。

 周回軌道に乗った所で、燃料の供給…前のエアトラは そのままグライダー状態で地球に降下。

 救助用のエアトラは着陸船の突入コースを辿って行き、司令船と衝突する前に逆噴射して減速…この時 相対速度を合わせる。

 で、乗員を回収して こちらは 再加速して地球の軌道上に乗って降下と…。

 スイングバイなんかを無しで、単純に推進剤を使って加速と減速をするので、この辺が限界になる。

 月のクリストファーが 推進剤を宇宙に上げてくれれば、取れる軌道の幅も増えるんだがな…」

「それが一番先に推進剤スタンドを造ろうとしている理由か…」

「そう…液体水素と液体酸素の推進装置で燃料タンクの規格を合わせてくれれば、宇宙で補給するよ…まぁ燃料代は高く付くんだろうけど、地上から持って来る よりは安いかな。」

「それは当分先の事だろうな…まずは 生還させる事だ。

 それじゃあ 電源を落とすように伝えよう。」

「じゃあ、オレはエアトラの移動ルートを決める…航法担当をしているヤツはいるか?

 アポロの速度と通るルートを なるべく詳細に聞きたい。」

「では私が…」「よし、オレは それが終わったら アポロのシミュレーターを見に行く。」

「分かった…」


 着陸船。

「電源を切る?正気か?」

『私も 正直 正気だとは 到底 思えないが、電力を節約する為だ。』

「あっ氷点下になれば 再起動時に水滴でショートするかも…。」

『今は そこまで辿り着く事が優先だ。』

「了解…生命維持以外の電源を落とす…はぁ…」

『これで後45時間は持つ…次は二酸化炭素の問題だが、今、検討中。』

「検討中?確かに着陸船のフィルタでは後1.5日と言った所、でも司令船のを使えば持つはずだ」

『だが、司令船のフィルタは 四角、着陸船は丸い…流用 出来無いんだ。

 今、現場の物を使って何とか 取り付けられないか 試している。』

「了解…あっ本当だ…本当に想定されて無かったんだな。」


 アポロ シミュレーター。

「ケンだ…ケン・マッティングリー。」

「知ってる有名だからな…風疹(ふうしん)は?」

「今の所、発症して無い…。

 今、再突入の省電力化のマニュアルを組んでいるんだが 一向に進まない。

 正直、お手上げだ…後4アンペアが如何(どう)しても 足りないんだ。

 後、もう少しアポロの電源を切る判断が早かったら 4アンペアなんて普通に稼げたのに…」

「無い物を求めても仕様が無いからな。

 今作っている マニュアルは あるか?」

「ああ、手書きだが…」

「うっわっ…酷いな…良くこんなので 飛ばそうとするな…正直 無謀だよ…宇宙飛行士の能力に頼り過ぎ。

 えっと…図面を見せて…有った…このケーブル 着陸船のバッテリーは まだ生きているよな…なのに 何故ここからの電源を使わない?」

「いや それは 司令船から着陸船に電力を送る為の回路だ。

 いや、電気を逆流させれば…そうか…大分 ロスが増えると思うが4アンペア程度なら…。」

「行けるか?」

 オレがケンに聞く。

「ああ…おそらく、助かった…それでメインの救助は?」

「オレの連絡ミスで、乗員の乗り入れ方法の見直しになった。」

「連絡ミス?」

「そう、オレは アポロクルーが 宇宙服を着て 着陸船から船外に出る事を想定していた。

 だからガイドロープでも接続すれば それを辿って回収出来ると思ったんだが…。」

「宇宙服が使えなくなったと?何故?」

「二酸化炭素のフィルターのパーツに宇宙服の素材が使われた。

 まぁ二酸化炭素を取り除かないと乗員は 死んでいたんだから 仕様が無いんだろうが…なんで気圧を保ちつつ、生身の人間を移動させる方法を考えないと いけなくなった。

 メジャーはあるか?物差しでも良いけど…あ~メートルじゃなくて ヤードかよ…計算メンドっ」

「それで、如何(どう)やって?司令船を切り離して ドッキングするのか?」

「いや、使うのは 何枚も繋げた黒いゴミ袋だよ…ここのゴミ袋…黒いビニール製だよな。

 皆、同じサイズだから どうせ一括で仕入れているんだろ…備品用の備蓄倉庫とかは ないのか?」

「ある…ただ担当じゃないな…備品科に聞いて来る。」

「それじゃあ 黒いビニール袋とダクトテープを ここに持って来てくれ…可能な限り、大量に…後、暇している人員も」

 作業員が走って出て行く。

「宇宙空間をビニール袋で行けるのか?」

「行ける…エアトラと着陸船のハッチ部分に長いビニール袋を取り付けて 外から ダクトテープで空気を逃がさない様に厳重にビニールを止める。

 後は 気圧を上げてビニールを膨らませればOK…多少空気漏れが あるかも知れないけど、脱出する5分程度なら問題無い。

 長さが12m…繋げたビニール袋を4枚作らせる。

 後は確認だ…こっちのエアトラは1気圧で酸素が20%…アポロ船は0.3気圧の100%酸素…窒素は事前に身体から抜いているだろうけど、減圧症が心配だ。」

「詳しい事はドクターに聞かないと分からないが、経験上1.6気圧までは 問題無いはずだ。」

 ケンが マニュアルを見ながら言う。

「で、そのドクターと どう連絡を取れば良い?」

「あっ…自分が呼びに行ってきます。」

 作業員がドクターを呼びに行く為に走り出す。

「さて、じゃあ俺は 再突入のマニュアル作成を続けるよ」

 ケンはそう言うとアポロ船に入る。

「おう、こっちも しくじる可能性があるからな…サブプランがあるに越した事はない。」

「ゴミ袋とダクトテープ…持って来ました。」

「よし、空いてるヤツで つなぎ合わせるぞ…つなぎ方は 左右交互に…そうそう…」

 こうして、オレらは 同じ部屋で2チームに分かれ、別々の作業をするのだった。 

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