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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 10巻 (スターマンの宇宙開拓史)
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14 (地球への帰還)〇

 月の高度120km周回軌道上 エアトラ船内。

 アポロ11号の司令船コロンビア号の1時間 後ろを飛んでいたエアトラが、司令船と軌道を変え、高度120km上空で作業に付く。

 こちらのエアトラ()月に着陸しないが、この軌道上に投入する物は かなりの数ある。

 コクラン()は両手で抱える位のサイズの折り畳まれた通信用の人工衛星の太陽光パネルを開いて一定間隔で 宇宙に放って行く。

 投入数は12…これで月の何処(どこ)にいても、トニー王国の高速 大容量通信が受けられる。

 ただ光の速度の限界の関係で、地球との通信には 往復に3秒位のタイムラグが掛かってしまう。

「さて…クリストファー…準備は?」

『順調に進んでいます…予定通り投下 出来そうです。』

 クリストファーは、2つの筒型バルーン燃料タンクをワイヤーで まとめる改造作業をしている。

 とは言え、燃料タンクの上に色々な物を くくり付けるだけの比較的 簡単な仕事なのだけど…。


 月面 静かの海。

「3、2、1、GO!!」

 月の石を回収した月着陸船イーグルが推進剤を空にした下段を切り離して飛び立ち、周回軌道に向かって加速を始める。

 月の重力は地球の6分の1なので 大幅に燃料を節約 出来る為、ロケットのサイズを大幅に小さく出来、燃料込みで5t程度の重さのイーグルでも軌道上に上げる事が出来る。

 軌道上には司令船のコロンビア号が おり、ドッキングして合流する。

「お帰り」

「ただいま…」

 ハッチを開けた所で コロンビアにいたコリンズがアームストロング()達を出迎えてくれる。

「トニー王国は?」

「高度39万3700フィート(120km)の周回軌道…。

 ギリギリ、ここからでも ライトが見えるかな…。」

「向こうは月面に着陸しないんだろう?」

「ああ…でも、軌道上と月面に物資を落とす。」

『こちら エアトラ…通信用衛星の軌道投入が終わった。

 イーグル船の下段は 正式にトニー王国が貰うぞ』

 この声は黒人宇宙飛行士のミラーか?

『分かった…上と話しは付いている。

 悪いな聖地に不法投棄してしまって…。』

『いえいえ…あれは 立派な素材ですから…。』

 この声はドラムのクリストファーか?

『準備完了…切り離します。』

 エアトラの下部についている 大きな燃料タンクが切り離され、内蔵されていた推進剤を使って減速して 軌道を外れ、降下を始める。

『こちら setlantoj(セントランティ)(開拓者)号…降下開始…』

「なっ!…そんなのアリなのか?」

 筒型の燃料タンク2本の上に機材をくくり付け、その上にドラムを乗せた即席ロケット?が 減速方向に推進剤を噴射して加速して 月面に向けて降下して行く。

『空気や食糧が必要な私達と違ってドラムは 電気さえ あれば 稼働出来る。

 もちろん、細かな補修パーツや物資を これからも月面に持って行く 必要があるのだろうが…コストは人に比べて遥かに安いだろう。

 クリストファーは、月の入植への開拓者になって貰う。

 まずは 簡易拠点と推進剤の工場を月に造って 地球の軌道上に推進剤スタンドを建築する。

 これで、軌道上で補給する事を前提にして 地上で積み込む燃料の量と燃料タンクの重量を大幅に削減 出来るから宇宙に来るためのコストも大幅に削れる…宇宙開発には 必須の作業だ。』

 ミラーが言う。

『とは言え、設備が整うまで10年位掛かるから 業務開始は 80年以降ね。』

『まぁこの環境だと私は3年位で身体が壊れると思いますが、私はデータの状態でトニー王国に帰還 出来ますから…。』

 コクランとクリストファーが話している。

『すまないね…ボディを壊しちゃう前提の危険な仕事を任せちゃって』

『いえいえ…私達ドラムは 人に作り出された道具。

 今後の人の入植の為に私のボディを犠牲にしましょう…。』

『うん、なら頼むよ…くれぐれも破損しない様に気を付けて…ここまで物資を運んで来るのも大変なんだから…』

 コクランが輸送費用で誤魔化しつつ クリストファーを気遣う。

 クリストファーが取り付いたロケットは着々と降下し、ロケットの耐久性に頼り切って静かの海に乱暴に着陸…と言うより衝突…。

 月面を何度かバウンドして転がり、そして止まる。

『こちらクリストファー…予定通り無事 着地。

 建設作業に取り掛かります。』

 クリストファーは そう言うと こちらとの通信を切ってトニー王国との通信に切り替えた。

『さぁ今度は こちらが1時間早く 月軌道を出ます。

 まぁ帰還は そちらの方が早いのでしょうが…。

 こちらは通信を切ります…何かあれば気軽にどうぞ』

 そう言い、コクランは エアトラとの通信を切った。

「さぁ私達も地球に返ろう…家族が待ってる。」

 私がそう言うと、2人は席に付いて今後の手順の確認をし始めるのだった。


 2日半後 地球 周回軌道…。

 エアトラが推進剤を使って減速して地球の周回軌道に乗り、アポロ11号から切り離された司令船コロンビア号は 積める推進剤の量の問題で そのまま減速をせず、物凄いスピードで大気圏に そのまま突入する。

 エアトラがこんな事をやったら 翼がもげて 空中分解てしまうのだが、アポロ11号は 底面の耐熱性を強化する事で こんな無茶苦茶な突入を可能にした。

 大気圏に突っ込んだコロンビア号の底面は、彼らが言う大気の摩擦熱…実際は空気の断熱圧縮により高温の環境にさらされ、分厚く塗ってあるポリマーが融けだして気化する。

 ポリマーが融け出した時の気化熱で船体の熱を奪い、機体が高熱に さらされる事を防ぐ 耐熱用の融除材ポリマーだ。

「あ~突入角度がズレてる…」

「向こうは水切り理論で突入しているからね…」

「さて、残りの燃料は ほぼ空…100km分も無いだろうな。

 それじゃあ、こっちも降下するぞ」

 機体を反転させて機首を傾けて 浅い角度で推進剤を使って降下…水切り理論だと浅い角度降下した場合、バウンドしてしまう為、この方法は取れない。

 大気が機体を押し上げる力を利用して 推進剤を使わないグライダー状態で ゆっくりと降りて行く。

 速度が欲しいなら機首を下向きに傾けて 高度を下げる代わりに速度を得る。

 逆に高度が欲しいなら、機首を上向きに傾けて速度が減る代わりに高度を得る。

 このバランスを維持して降りる事で、推進剤を使わずとも かなりの距離の移動が出来る…グライダー飛行だ。

 今の高度は120km…速度は 秒速8km…これだけあれば 地球1周も余裕で出来る。

「ここからだと 姉島宇宙港かな…」

 この機体は宇宙環境でのエアトラの影響を調べる為、トニー王国のユートピア島に回されて徹底的に調べられる。

 本来なら気を利かせてトニー王国まで自走させたい所だが、出来ない事はないが角度的に少し遠い…姉島宇宙港なら確実に機体を壊さずに帰れるだろう。

 機体のAIのコパイが翼の向きを変えて 適切な速度と高度を維持しつつ ゆっくりと降下…。

 落下速度は 非常に穏やかで食事をする余裕もある位に快適だ。

 空気の密度が上がって来た所で反転し、高度1万m辺りでスクラムジェットエンジンを使って空気を取り込み、エンジンを再起動。

 大気を使って ゆっくりと減速しながら、ハワイ、グアム、小笠原諸島辺りの上空をグルグルと周り、音速付近に近づいた所で小笠原諸島の上空で旋回しつつ減速。

 で、十分に減速した所で スクラムジェットエンジンにタンク内の最後の燃料を使って速度を0に調整して ランディングギアを降ろして 姉島宇宙港のヘリポートに垂直着陸し、エンジンやシステムを完全に止める。

「ふう…燃料は まだ十分に余裕があるな…」

 ミラー()が計器を見ながらコクランに言う。

「まぁ大半はグライダー状態で降りて来たしね。

 あ~早くシャワー浴びたい…と言うより地球の重力って こんなに重かったのね…よっと…わっ」

「おっと大丈夫か?」

 俺はスパウトパウチのジュースを()()()()()()、コクランの身体を支える。

「俺達はパイロットスーツのEMS機能で筋肉を刺激して鍛えていたから そこまで問題無いが、歩き方は この一週間で完璧に忘れているな。

 あ~俺も宇宙の感覚が抜けない みたいだ。」

 床に落下したスパウトパウチを持って苦笑いしながら言う。


 後部ハッチを開けて外に出ると、ナオや整備クルー達がどんどんと出て来る。

 その中には車椅子を押しているジャックとケビンもいる。

「お疲れ…車椅子は?」

「大丈夫…少し ふらついているけど、多分 これは感覚誤差…。

 筋肉の劣化はパイロットスーツのお陰で最小限に出来た…と思いたい。

 これは明日の健康診断の結果 次第かな~。

 それと当直室のシャワー室は空いているか?コクランがシャワーを浴びたい らしいんだが…。」

「ああ…空いてる。

 でも除菌シートで身体の汚れを ふき取ってたよな。

 臭うのか?」

 ジャックが俺の臭いを嗅ぎながら言う。

「いや…臭いセンサーは正常値だった。

 多分、気分的な問題だろうな。」

「シャワーの前に広報用の写真撮影だ。

 皆、機体の前に並べ…はい、撮るよ」

 ナオがそう言い、俺達とジャック、ケビンを中心に周囲に整備クルーが集まり、デジタルカメラのシャッターを押す。

「よ~し 良い出来、さーて まずは燃料は抜いて」

 翼にホースが差し込まれ、液体水素と液体酸素が 全部抜かれる…。

 冷却機能が動いていない 常温で燃料が膨張したら圧力で翼が破裂しかねない。

「ジャックとケビンは 既に検査済み、2人の精密検査は明日…。

 それまでは ゆっくりと休んでいてくれ…。

 整備班は今日は簡易チェックして、明日は梱包して潜水艦に積み込む。

 梱包が終わって送り出したら皆で帰還パーティだ…頑張れよ」

「「はい!!」」

「あっ…クリストファーは?」

 俺が心配そうにナオに聞く。

「今は穴を掘って地下拠点の建築と地質調査…。

 重機も無いシャベルでの手作業だから相当 時間が かかるな。

 とは言え、これで技術的な問題は無くなった…後は 単純に金の問題だ。」

「その金もトニー王国だったら上限無く引き出せる。」

「そう、ただ この宇宙開拓に興味を持ってくれるって言う人材がトニー王国から採れればな…。」

 トニー王国の本島は外からの干渉も無く、住民が皆 快適な生活をしている…人類の楽園だ。

 研究開発を趣味でやっている人が多いから 技術的な問題の解決は速いが、外からの危険と言う圧力が無いので わざわざ不便な環境である外に出ようと思う人材は限られており、それが200万人の人口中 2万人のトニー王国軍人となる。

 で、その中で現場作業をしてくれる人材を探して転属させないと いけない訳だが、これが非常に難しい…トニー王国人は金じゃなく やりがいで動くからな。

「ふぁ~眠い…時差ボケか?

 俺は当直室で寝るわー」

 俺はそう言い、パイロットスーツのまま当直室に直行して眠るのだった。

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