13 (宇宙人からの しゅくだい)〇
打ち上げから2日半後…。
アポロ11号。
船内は 見動きも難しい程 狭い中、コリンズ達ら3人は 大量の計器やボタンと一緒に押し込められている。
「はぁ…向こうのエアトラは快適で良さそうだ。」
「そりゃ空力を稼ぐなら表面積が大きい方が有利だからな。
向こうは殆ど燃料だけで、船内はスカスカだ。
こっちは推力の力技で一気に打ち上げるから面積は小さい方が良い。」
隣の席に座るニール・アームストロング船長が言う。
「その内、こっちも 飛行機で宇宙に行けるのかな…」
「どうだろ…一応、ベルXV-15のティルトローター機が試験飛行を続けているが、まだ課題も多からな。
それに推進剤に使われている液体酸素と液体水素が、船内の空気と飲料水を作り出しているのは面白い発想だ。
洗練されていて一切の無駄がない…」
「こっちは推進剤と別で入れてますからね。
予備呼吸無しの一気圧で動けるのは正直 羨ましいです。」
反対側に座るバズ・オルドリンが言う。
「トニー王国を建国した宇宙人は 地上の事が分からず、宇宙での生活を前提で技術を教えた らしいからな。
なんで 気体でタンクに あまり詰め込めない不効率な酸水素を車に使っているのかと思ったが、こうして宇宙に出て見ると非常に合理的だ。
酸水素を いっぱい詰め込んでも破裂しない圧力タンクに、酸素と水素を燃料に使う事で推進剤の習熟と それに適したエンジンの開発。
基礎研究を建国当初から250年もやっていたと思えば、あの技術も納得が行く。」
船長はそう言いながら計器を見る。
「おっ…今、何か光った。
光った人が ゆっくりと近づいて来る。」
窓を見ている僕が船長に言う。
「まだ月の宇宙人が生き残っていたのか?
まさか我々は領空…いや領宙 侵犯をしたのか?」
「本当にエスペラント語が必要になるなんて…。」
この宇宙の共通言語は 英語では無くエスペラント語だ。
一度 世界共通語をエスペラント語にしようと国連で議題に上がったが、それでは英語を使っている我が国が有利に立てなくなる為 否決され、現在では加盟国は 基本 母国の言葉で話し、英語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、アラビア語、エスペラント語のどれかに その都度 通訳を入れる事で解決した。
僕達は 宇宙人との遭遇や 彼らの遺物や文字を調べる事を想定して エスペラント語を学んでいる。
基本、月面に降りて軌道上に 上がって戻って来るだけの簡単ではないが単純な仕事だ。
「取り合えず連絡だけは入れておこう。」
そう言うと僕達は地上と連絡を取り始める。
「さて…準備は良いか?」
アームストロングは 2人に言う。
「OK…」
減速シーケンスだ。
今の私達は空に投げた野球の球だ。
パッと見てアポロ11号が宇宙に浮かんで月に向かっている様に見えるが、それは物凄く月に届く程まで高く飛ばしたから…なので このままでは月の裏を通り、放物線の軌道を通って地球に落下する。
で、その落下するエネルギーを使って 月の周回軌道の速度に合わせて減速し、月を回り続けるのが 月着陸に必要な工程となる。
「3、2、1減速…1、2、3、4、5…」
規定時間の噴射を行い減速させ、予め計算していた量の推進剤を使って行く…。
少しでも燃料を使い過ぎれば 帰って来れなくなるシビアな作業だ。
「よし月の軌道に投入出来た」
「ふう…次は着陸船だな。」
着陸船の操縦担当のバズが そう言うのだった。
月着陸船イーグル…高度1800m。
コリンズを司令船に残し、アームストロングとオルドリンが降下する。
「順調に降下中…高度6000フィート…トラブル…計器の表示が消えたぞ!!
エラーコードは1202…」
『1202…彼女の言う通りだな。
非常に残念だが…。』
「ん、彼女?何のトラブルだ…対処法は?」
私は不安そうに言う。
何かしらの致命的なトラブルだろうか?
『今、専門家と代わる…『こちら マーガレット・ハミルトン…』』
「またキミか…今度は着陸船に何を仕込んだ?
計器の表示が消えたんだぞ!」
彼女はマーガレット・ハミルトン…アポロの誘導コンピューターに送る命令文の作ってる人物だ。
『パイロットは決してミスをしない、機械による自動操縦は不要だ。
あなたは そう言ってましたよね。』
「ああ…私達はミスをしていない…これは エンジニアの問題だ。」
『そうですか…そのコードは、コンピューターのオーバーフローを防ぐ為の物です。
あなたはコンピューターの処理能力の確保の為に着陸に使わない 計器類を消さなければなりませんでした。
コンピューターが過負荷状態になってフリーズする可能性がある場合、いったん すべての処理をダウンさせて最優先で必要な機能のみを再起動させる仕組みです。
手順を確認して、自分のミスを洗い出して下さい。』
ハミルトンは皮肉を込めて言う。
確かにコンピューターがオーバーフローを起こした場合、着陸船の全部の機能が停止して 復旧出来ずに確実に死ぬ。
人は必ずミスを犯す…彼女の言った事は本当だった訳だ。
「チッ…了解した………あ~ランデブーレーダーをONにしていた。
原因はコレだな…ハミルトン…助かった。」
『そう…では、マイクを お返します。『と言う事だ…手順を再確認してくれ』
「了解」
その後、何度か1202を出しては コンピューターの再起動を繰り返す…。
処理能力がギリギリで余裕が無いと言う事もあるのだろうが、彼女の機転に何度も助けられている。
私は月面の視界に月面の文字が一瞬入る。
Ni venis ĉi tien per kunlaboro kun maŝinoj.(私達は機械と協力する事で ここまで来ました。)
確かにそうだ…人だけの力だけじゃ ここまで来れない。
これは認めるしかないだろう。
「こちらイーグル…今、静かの海に着陸した」
『おめでとう…さぁ次の撮影の準備だ。』
着陸船から降り、アームストロングは月面に足を付ける…。
「月はの地面は とてもきめの細かい、ほとんど粉で まるで砂漠の様だ。
我々人類は遂に月に到達した…これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩である。
ただ、悲しい事に 私達は 一番乗りでは無い様だ。
大きな巨人の足跡…これはトニー王国のDLだろうか?
それに人サイズの足跡もいくつか見える。
多分トニー王国を建国したと言う宇宙人の足跡だろう。
よっ…今から月の文字の中に入る。
『Ni venis ĉi tien per kunlaboro kun maŝinoj.』
意味は『私達は機械と協力する事で ここまで来ました』 だ。
穴は塹壕になっており、巨人が掘削した様に大きく、非常に深い…。
これは宇宙人が使っていたDLで掘った物だろう。
おっ…宇宙人は これを我々に見せたかったのかもしれない。
氷だ…月面を5m程掘られた場所に氷が混じった砂が見える。
ここまで冷えていると流石に生物が生息出来る環境では無いだろうが、氷があるなら、電気分解をすれば 酸素と水素が取れ、ロケットの推進剤としても使える。
燃料を現地で補給出来るのは非常に有難い。
将来、ここは宇宙の油田に なるかもしれない。」
実際、トニー王国は 周回軌道上で別のエアトラから燃料の補給を行う事で月の周回軌道まで余裕を持って来られた。
もし 月基地から推進剤を地球の軌道上に届ける事が出来れば、打ち上げる為のロケットのサイズを相当小さく、軽く出来る。
月基地を作るには もっとも必要な情報だ。
「さて、本来なら月にアメリカの旗を建てて見たかったのだが、ここはトニー王国の聖地…トニー王国の要請で旗は建てられなかった。
アメリカ国民の皆さん すまないね…。
はい、生中継は ここまで…次は着陸船の打ち上げ時に…それでは…。」
『はい、カット…良い感じ…』
「アレは映ったか?」
『少しね…でも、白黒だし判別は難しいでしょうね。』
オルドリンが言う。
「そうか」
私は月の砂を回収して塹壕を出る。
塹壕の横に見には 黒い布で出来た筒型のテントが見える。
「これから宇宙人のテントの中に入る。」
テントの側面には気密隔壁があり、ドアレバーが付いている。
その横には『pordotelefono』と書かれたブザーと金属製のパネルがある。
金属製のパネルにヘルメットを接触させてブザーを押しブゥゥ…と言う音がなる。
真空中では空気が無い為、音は伝わらない。
が、ヘルメットのカバーがブザーの音で僅かに振動し、僅かな音になってこちらに聞こえて来る。
「Saluton, sinjoro eksterterano... ĉu vi estas ĉi tie?(こんにちは 宇宙人さん、ここにいますか?)」
「Jes, jes, kliento? Vi povas enveni.(はい、はい、お客さん?入って良いよ)」
よし、エスペラント語は通じる。
私はドアレバーを下げてエアロックの中に入り、ドアを閉めるとプシューと霧が吹き付けられ、内部の空気が入る。
横のパネルに表示されている エスペラント語の文字と数字が上昇し、Tera atmosfera premo: 1/3, oksigeno 100%,Ĉambra temperaturo: 20℃(地球気圧:3分の1、酸素100%、室温20℃)で止まる。
この地球気圧が 地球の1気圧を指しているなら、3分の1気圧の純酸素…つまりアポロ船と同じ大気だ。
ただヘルメットは まだ開けない…。
宇宙人が我々と同じ大気成分で生活しているとは限らないからだ。
エアロックのドアレーバーを下げて室内に入る。
そこには150cm位の小人種族の人型の宇宙人がいた。
服装はトニー王国のパイロットスーツの様な薄手の宇宙服で、顔はアジア人が近いのだろうか?まだ幼さが残る子供の様にも見える。
「ヘルメットを脱いで構わないよ…あなた方に合わせている。
もちろん、我々を信用出来るならだがね…。」
宇宙人がエスペラント語で言う。
「あなたのご厚意に甘えましょう。
私はニール・アームストロング…アポロ11号の船長です。
あなたのお名前は?」
「私の名前はナオ…トニー王国の建国をした人物の1人で、今はトニー王国の神として世界の技術発展を見守っている。」
「トニー王国の建国神話の1人ですか…。
確か1人は獣人の少女で、その御付きが4人。
機械の身体を持ち、不老不死だと言われていましたか…」
「そう、でも 限りなく死に難いってだけで不死では無いけどな。
機械の身体だからパーツの自体の寿命は 代謝で自己修復される 人より圧倒的に短いし、宇宙船での定期的なメンテナンスが必須なんだ。
まぁここにいるのは あなた方に会いたかっただけなんだけど…。」
「それで、あなた方の目的は?
トニー王国を造って一体何をしたいのですか?」
「人類の技術の進歩と宇宙開拓かな。
増え過ぎた人口を宇宙に移民させてしまえば、もう資源と土地を めぐって殺し合う事も無くなる。
トニー王国は 宇宙での生活のモデルケースだ。
人…特に政府は前例がないと動かないから…。」
「あなたは 私達の脅威になりますか?」
「そちらからケンカを売って来ない限りは…。
正直、武力で無理やり言う事を聞かせる事も出来るんだけど、現地の文化を破壊するのは ダメだと言われているからな。
だから世界の警察の横暴も我慢している。」
「……こちらは まだ学んでいる最中です。
この宇宙開発で民衆の心が動き、また進歩して行く事でしょう。」
「なら、まずは東側陣営の価値観を認めて 上手い付き合い方を模索する所からだな。
全面核戦争が始まり掛けているのだろう?
価値観が違うからって互いを排除して行ったら 何も残らない。」
「アメリカの未来を背負う宇宙飛行士としては、その答えを認められません。
ですが、私個人としては、少なくとも宇宙には国境が無いと思っています。」
「そうか…じゃあ、もう しばらく強硬策は取らないでおくよ。」
「強硬策…」
「そう…世界征服かな…。
圧倒的武力で世界を統治して、管理された快適な社会と効率的な技術発展を与える…子供達が 元気にロックを聞いて踊る事が出来る社会だ…もちろん可能な限りの自由の尊重してね。
それは1億人の犠牲を払ってでも やる価値のある事なのだけど…。」
「そっそれは困りますね。
リミットは?」
「2050年…キミ達の孫世代になるか?
それまでは見届ける…まぁ十中八九改善は見込めないんだけど…。
さっここの空気が無ければ、そろそろ宇宙服の酸素残量が危なくなっているはず…。
キミは英雄として地球に帰るんだ。」
「分かりました。
でも、何で ここでこの話を?」
「ここは どこの国の土地でもない治外法権だから…。
それじゃあ、長寿と繁栄を…。」
中指と薬指の間を開け、人指し指、中指、薬指、小指と それぞれくっ付け、相手に掌を見せる。
「スタートレックか…良いでしょう 長寿と繁栄を」
私はそう言い、テントから出た。
「すまない、電波遮断室に居て連絡が取れなくなった。」
『無事でしたか…連絡が取れずに心配しました。
例の宇宙人ですか?』
「そう…話は後で話す…色々と話したい事もあるしな」
私はそう言い、着陸船のイーグルに戻って行った。