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27 (ミドリムシ)〇

 ナオ(オレ)が湖に行くとヘルメットをした クオリアが歩きながら湖に入る所だった。

「手伝うよ…。」

「ああ助かる。」

 オレもヘルメットを被り、ホルスターを外して クオリアが先に湖の中に入る。

 その光景は 入水(にゅうすい)自殺を思わせ、泳いでいる気配は無く、全然浮いてこない。

 オレはクオリアの後に続き、湖の底に降りた。


 湖の下で待っていたクオリアは 泳いでいる魚や湖の底に付いている藻類(そうるい)、鉱物を調べている。

 水深は12m程で いきなり水深が深くなる崖のような地形になっていて、オレと合流すると湖の底を歩きだす。

 エレクトロンの中で オレとクオリアは泳げない…。

 140cm、130cm、の身長で体重が80kgもある為、水より身体の比重が重く、浮かばないからだ。

『それで、何をやるんだ?』

『魚の種類と数の調査…。

 後 海藻(かいそう)藻類(そうるい)を調べて欲しいとハルミから言われている。』

 オレは量子通信でクオリアに言い、クオリアが答える。

『住人の(おきて)では、例え住民に餓死者(がししゃ)が出ようが この湖の生き物の持ち出しが禁止されている。

 食べて良いのは 川に流れて来た魚だけ なんだよな。』

 その為、湖には魚を取る為の釣りや罠の類は無いが、川に入ると途端に(うけ)などの罠が多くなる。

『そう だから ここの住民の湖の中が如何(どう)なっているのか一切知らないんだ。

 まっそれを厳しく言われている時点で予想は付くがな…。』

 クオリアは海底を歩き出す。


 太陽に照らされている緑色で薄暗い湖底をクオリアと歩き、クオリアの目が植物の画像データを取って行く。

 ナオ(オレ)は ふと上を見上げると太陽の光が水面と魚の群れに(さえぎ)られ、キラキラと輝いて見える。

「綺麗だな…。」

「ああ…あれはニジマスだな…。

 だが綺麗過ぎる。」

 クオリアが上を見て言う。

「綺麗過ぎる?」

「そう、藻類(そうるい)を中心とした食物連鎖がしっかりと出来上がっていて、この湖だけで生態系が完結しているネイチャーアクアリウムだ。

 そして 魚の数が一定量を越えて湖が(さま)くなると、魚が川に流れて住民の食料になるシステムになっている。」

「つまり、天然の食料生産システムって事か…。」

「いや…この精密さは 人工的な物だな…。

 多分、昔のアトランティス人が これを造ったんだ。

 ただ、どの生物、植物も人が乱獲すれば 途端に生態系が崩れて崩壊する程、(あや)うい バランスで成り立っている。

 湖の魚を獲らせないのは これが理由だな。

 食用で取れる魚だと、アユ、ニジマス…ソウギョ…サケ…と言った所か…。」

「日本の魚が多いのか…ソウギョってのは?」

「中国のコイだな…日本にいる品種が多いが、どれもハルミから(もら)った画像データと少し違う…。

 ここら辺の環境に適応した親戚筋の品種だろうな。」

 クオリアは 持って来た いくつかのシャーレを取り出すと量子光を出して飛び上がり、緑色の水面になっている場所から サンプルを取って行く。

「それは?」

「ミドリムシだ。

 ハルミに念入りに調べるように言われている。」

「ミドリムシね…確か、砦学園都市ではソイフードの材料になっていたな…。」

 確かレナと一緒に砦学園都市のソイフードプラントを見学しに行った時は水槽(すいそう)全体が緑色になるレベルのミドリムシがいた。

 あれを粉状に加工し 乾燥させた物をタンクの中に保管していたが…。

「そう…ミドリムシは遺伝子プールが多いから、環境への適応能力も高い。

 砦学園都市のソイフードプラントにいた個体は栄養特化型の品種。

 その他には、石油を精製出来る品種。

 人の()く二酸化炭素を高効率で酸素に変換してくれて濃度も調整してくれるエアソル。

 これによって宇宙服の生命維持装置の大幅な小型化が出来るようになった。

 後は、放射線を食べて増殖する品種。

 これは 宇宙船の放射線防御に使われたり、核廃棄物を1年で無力化する能力を持っているな。」

「知らない所で あちこちに使われていたんだな…。」

「ああ…ただ、物凄く弱い…。

 食物連鎖の最下層で他の動物に片っ端から食べられて行くから 驚異的な増殖力で全滅を防いでいる品種だ。」

「繁殖力が高いって事は 世代交代も早いから品種改良には有利か…。」

「そう…ただ、ミドリムシは雌雄(しゆう)が無くてクローン個体だ。

 だから交配による品種改良が出来ないので それなりに難しい。

 それで、私達がサンプルと取っても 大量増殖するから生態系の影響は極わずかだ。」

 そう言いながらクオリアは 直径1kmの湖のあちこちからミドリムシを採取して行った。


 竹の森の拠点…植物工場。

『持って来たぞ…。』

「ナオか…助かった。」

 ハルミが手を大きく振って言う。

 植物工場の上をファントムがゆっくりと飛び、降下してする。

 湖のデータは クオリアが量子通信でハルミに送ったが、採取したミドリムシは物理輸送が必要なので、ナオ(オレ)がファントムで空輸する事になった。

 ファントムを駐機状態にしてコックピットブロックから降り、植物工場に入る。

「こっちだ」

 植物工場には ハルミの研究室が増設されいて、日当たりが良い所に棚があり、そこにシャーレを置いて行く。

「まずは ミドリムシの培養(ばいよう)からだな…。」

 ハルミがそう言うと棚からシャーレを取り出し、椅子に座って顕微鏡(けんびきょう)にシャーレを入れて 中の様子を見て行く。

顕微鏡(けんびきょう)を作ったのか…。」

「まぁな…ガラスのレンズを2枚貼り付けるだけだから仕組み自体は簡単…その代わり、レンズの精度の問題で倍率が中途半端になったんだけど。

 性能自体はこれで十分…。

 あらら…やっぱり ミドリムシが雑菌(ざっきん)にやられているな…」

 ハルミはシャーレの(フタ)を取り外し、植物を育てるのに使っている寒天培地(かんてんぼんち)のシャーレを メタノールを 燃料にしたアルコールランプで熱し、液体になった所で、顕微鏡(けんびきょう)の横に起き、ピンセットミドリムシの救出を始める。

「うわっピンセットがデカいな…救えるか?」

 ハルミが 慎重にピンセットを動かし、(つかむ)のでは無く ピンに乗せる感じで ミドリムシを回収し、寒天培地(かんてんぼんち)の中に入れて行く。

「よーし終わり…次、」

 オレは アルコールランプで寒天培地(かんてんぼんち)を熱して液体にしてハルミに渡し、ハルミは強いアルカリ性を持つ水酸化カルシウム水溶液 を薄めて作った消毒液の瓶の中にピンセットを入れ、次のピンセットを取り出し、また寒天培地(かんてんぼんち)にミドリムシを救出して行く。

「これで全部だな…っと。」

「こんだけで良いのか?」

 寒天培地(かんてんぼんち)のシャーレの中には 緑と識別出来ない程のミドリムシが ほんの少し 付いているだけだ。

「安全第一だからな…。

 雑菌(ざっきん)を少しでも入れるとミドリムシを食べて雑菌(ざっきん)の方が多くなっちまうし、ミドリムシが全滅する事も普通にある…実際、リアルタイムで やられていたしな。

 見て見るか?」

 ハルミが救出前のシャーレをセットし、オレが顕微鏡で確認する。

 シャーレの中では 本能なのか 鞭毛(べんもう)をオールのように使い 必死に逃げるが、大量のミドリムシを色々形の細菌(さいきん)が食べて殺している。

 個体数は ミドリムシの方が圧倒的上なのに 少数の細菌(さいきん)による大量虐殺が始まっている…相当ミドリムシって弱いんだな…。

「で、培養(ばいよう)に どれだけ掛かるんだ?」

「あ~1ヵ月位かな…。

 理論的にはミドリムシは1ヵ月で10億倍に増えるから…。」

「10億倍!?そんなに」

「そ…逆に言うなら10億倍も増やさないと生き残れない位 弱いって事だ。」

 確かにあの光景を見る限り、その位の増殖をしないと生き残れないか…。

培養(ばいよう)が終わったら、半分を薬品で負荷を掛けて見てミドリムシの特性を見る。

 後はこっちの都合の良いように能力を強化して行く。」

「ミドリムシは雌雄(しゆう)が無いから交配が出来ないんだろ…。

 如何(どう)やる気だ?」

「ミドリムシが自分のクローンを作って増やして行くって言っても、一定確率で周りのミドリムシと合体して遺伝子を取り込んだり、ミドリムシの中にある不活性状態の遺伝子が活性化して性質が変って、環境に適応出来る個体が出てくるんだ。

 で、環境に適応出来た個体を回収して培養(ばいよう)して また負荷を掛ける…。」

「自然淘汰を意図的にやる訳ね…。」

「そう…で、限界まで特化した個体を作ったら、今度は特化個体同士を同じシャーレの中に入れて、(さら)に強力な個体を作る…と。

 最終的には 成長に窒素が必要無く、強炭酸水と糖と光があれば 増える個体を作るつもり、研究の進展が無くて25年、研究が進展して短縮出来たとしても 数年規模のプロジェクトになるのは確実かな。」

「分かった直近での成果には期待しないよ…。

 ただ記録は付けてくれ。」

「了解…あ~後、色々な環境のミドリムシが欲しい。

 適当に新しい所に行ったら探して見て欲しい。

 掘り出し物が出るかも知れないからな…。」

「ああ…分かった…それじゃあ 戻るよ…。」

 オレは研究室のドアを開けて出る。

「はい…お疲れ~。」

 ハルミはそう言うと また顕微鏡(けんびきょう)でミドリムシの観察を始める。

 どうやら ハルミは個人的に ミドリムシの生体に興味があるようで、なんだか楽しそうな様子だった。

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