10 (地球温暖化)〇
小笠原諸島、母島、母島保育院。
『今日、私は国民の皆様に重要な問題についてお話しする機会を得て光栄に思います。
それは、私達が直面している環境問題に関するものです。
私達は『地球温暖化』という現代の脅威に真剣に取り組まなければ なりません。
地球温暖化とは フロンガス、化石燃料の燃焼で発生する二酸化炭素などの温室効果ガスによって地球の気温が上がってしまう事になります。
北極の氷は融け、氷の大地が無くなった事による白熊の数が減少。
更に融けた氷が水になった事で海の水位が上昇し、海岸に近い地域が海に飲み込まれる可能性も出て来ており、100年後のブリテン島の面積は大幅に縮小すると考えられています。
なので、私達は 温室効果ガスの削減に勤めなければ なりません。
具体的には 火力発電所の縮小…停止。
火力発電所からは 二酸化炭素だけでは無く、大量の有害物質も出しており、私達が呼吸する地球の大気を汚染し続けています。
更に これらの化石燃料の使用量は 産業革命以降 年々上昇し、このままでは 地球から化石燃料が無くなる可能性も あります。
そして この問題の解決策として原子力発電施設の建設数を増やす事…。
原子力発電は 持続可能なエネルギー源であり、二酸化炭素を排出しません。
なので 火力発電所を減らし、原子力発電所の数を増やす事こそが、この地球温暖化を解決手段だと私は考えております。
私達の国は 技術革新と環境保護の両面で世界でのリーダーシップを発揮するべきです。
原子力エネルギーへの投資は、私達の未来への投資です。
私達は子供、孫の為にも この美しい地球を次世代に引き継ぐ責任があります…その為に 今こそ行動を起こす時なのです。
私は 国民の皆様と共に、この重要な取り組みに取り組んでいく事を心から期待しています。
地球の未来の為に 共に努力し、前進していきましょう。
ありがとうございました。』
リビングのブラウン管テレビで再生したのは、イギリスの政治家サッチャーの演説のビデオで画面下に日本語訳が追加されている。
「あららら…石油が取れなくなるの?」
オレの横から5歳程の女の子を抱えて ソファーに座るのは 野坂楓…。
原子力発電に興味を持っていた彼女は 今は 母島原発の職員になり、産まれた娘の奏を自分で育てる為、母島保育院の保育士も兼任している。
「いや…こらぁ原発 作りたいから言いよるんやな。」
楓の後ろからテレビの画面を覗いているのは、野坂 晴太。
楓の夫で奏の父親の青年?だ。
彼も原発職員であり、夫婦そろって この島の原発の面倒を見ている。
「あたり…地球温暖化の話も嘘ではないけど、真実ではないね…」
オレが書類を見ながら言う。
「言うたら?」
「えーと、ハイこれ…一緒に送られて来た地球の平均気温のグラフ」
「なんや、比例で上がっとるやん」
「確かに産業革命以降、地球の平均気温は比例で上がり続けている。
だけどな…このグラフは不自然しいんだよ。
さて、分かる?」
「いや…楓は分かるやろけ?」
「う~ん…巻き戻し、巻き戻し…」
楓はリモコンを操作してテープを巻き戻す。
「あ~なるほど…。」
『これらの化石燃料の使用量は 産業革命以降 年々上昇し、このままでは 地球から化石燃料が無くなる可能性もあります。』
「化石燃料の使用量が年々増えているなら、温度は比例じゃなく反比例にないといけないのね。」
「そう言う事…。
つまり温暖化は本当だけど、それが 化石燃料を燃やして二酸化炭素を出しているからってのは嘘。
二酸化炭素との因果関係はないから 地球全体が 温暖期に入っているってだけだな。」
「とは言っても原発は絶対に必要…。
今 日本では電力が足りなくなって来て、ダム建設の計画が次々と始めているけど、村を沈めるからって現地 住民と殺し合いに発展しているし…。」
「日本では 夏に水不足もあるし、雨季には 洪水もある。
水を溜めて置ける場所が ある事は良い事なんだがな。
まぁ水力発電所を建てた所で、今後の莫大な電力需要は満たせないか…。
皮肉だよな…未来では原発が停止させられて、火力発電所で電力を賄っているんだから…」
「えっ温暖化は?」
「原発が安価で大量の電気を作れるものだから 他の発電方式の会社のビジネスを妨げてな。
そこで 放射能が危険だと言って過剰な程の安全管理をさせる事で、電気の単価を上げ、更に安定しない自然エネルギーを使い出した物だから、原発が廃止になり掛かった。
おかげで未来では意図的な電力不足だ。」
「物を製造するには エネルギーが必要。
エネルギーの制限を受ければ、文明の発展が遅れると言うのに…」
「企業同士が自分の利益を追求して行くと最終的には、同業他社の潰し合いが始まって全体だと 必ず不利益になる。
資本主義は個人の利益を追求し、全体の利益を蔑ろにするからな…」
「じゃあ、解決策は?」
「無いよ…トニー王国の様に完全国営にして民間を排除すれば良いんだけど、そんなの外国に忖度する日本じゃ無理だし…。」
「はぁトニー王国は 競争が無いから発展が遅いとか言われているけど、利益の為に潰し合いをする事は 都市長と教会が許さないからね…。
いったい どっちが良いのかしら」
「安定を望むなら社会主義、国民に多大な犠牲を出しても発展を望むなら資本主義って所かな…。
どっちの考えにも利点はあるし欠点もある…最適解は西と東が手を取り合って欠点を補って最大利益を得る事なんだが、今は 核で威嚇し合っている状態だからな~さて、キミ達には朗報だ。
日本がアメリカから原発を買った…場所は福島だ。
今現地ではアメリカ人の技術者達が原発を建造中。
ただ日本側は原子力に詳しい人員が全くと言っていない状態なので エクスマキナ教会に要請があり、保護した技術者を日本に戻している。
全員が日本人、もしくは 元日本人が条件だ。」
「よっしゃ、遂に来た…楓、日本の原発を支えるわい。」
「奏は?」
「現地に生活拠点があるから 連れて行く事も出来るけど。
ここの方が安全かな…清潔な環境で食事にも困らないし…。」
「う~ん奏、ママとパパと一緒に日本に行きたい?」
「うーん…ここ ともだち いっぱい、はなれたく ない」
「そう…奏がそう言うなら そうしましょう。」
「わ~い」
「まぁ建築資材の運搬にはトニー王国の潜水艦を使うし、ヘリポートもあるから エアトラなら片道2時間位だ。
月一位で交代要員と入れ替えるから帰宅も出来る。
人生は短いからな…思い残す事が無いようにやって行け。」
オレが2人にそう言い、福島 第一原発の管理者に労働者の名簿を送るのだった。
一週間後…母島ヘリポート。
トニー王国の研究島から来た 元日本人の技術者達が エアトラに乗り込んでやって来て、健康診断を受け無事合格…。
燃料である酸水素を補給し、福島原発まで向かおうとしている。
後部ハッチから次々と技術者達が乗り込み、最後はパイロットスーツ姿の楓と晴太が乗ろうとする。
オレとオレに抱っこ されている奏ちゃんは お見送りだ。
「それじゃあ、世話になった…」
「一ヵ月後に戻って来るんだろう…あっそれと…。」
「ん?」
「原発の非常用 外部電源は、徹底防水の上で 原発の屋上に置く様に 現場のアメリカ人と交渉して欲しい。
津波による浸水で非常電源が停止すると冷却が出来なくなって 原発がメルトダウンする危険性がある。」
「っ!…分かった…絶対にさせる。
それじゃあ…奏…またね」
「また~」
オレ達が離れると後部ハッチが閉まり、待避線を越えた所で 2つのプロペラが回転し始め、地面に突風が放たれる。
奏ちゃんは 飛ばされない様にオレに強く抱き着き、オレは力を強める。
エアトラが垂直離陸…安全高度まで上昇した所で翼の向きを変え、福島へと向かった。
「さあて…今回は爆発しないと良いけど…。」
オレは拳ほどの大きさになったエアトラを見つつ そう言うのだった。