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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 10巻 (スターマンの宇宙開拓史)
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09 (道具の使い手の責任)〇

 アメリカ ワシントンD.C. ホワイトハウス。

「なっ…キューバがトニー王国の傭兵部隊を雇っただと。」

 ケネディ()が報告書を見ながら言う。

「ええ大統領…キューバが核武装するまでキューバの防衛をするそうです。」

「はぁ…トニー王国政府は 如何(どう)言って来ている?」

「いつも通りです。

 『彼らは雇われている傭兵であり、政治的な主義主張はない。

 アメリカ側がキューバを攻撃する気がなければ 彼らが戦う事も無い。

 何故警戒する必要がある?』と…。」

「あの位置にミサイル基地を配置されれば、我が国の主な都市が射程圏に入る。

 核ミサイル基地の配備は絶対に認められない…。」

「それに対してのトニー王国の回答は『キューバの核武装を認めないならアメリカの核をすべて廃棄せよ』…です。」

「そんなの国の防衛上、認める訳にはいかない。」

「『おや…アメリカを守る為の核武装は許され、キューバを守る為の核武装は許されない。

 あなた方は核でキューバを焼土に変える気か?』と…」

 なるほど…一通り交渉した後か…。

「むう…我が国を守る為には 核武装をするしかなく、周辺国の核武装を認められない。

 だが、キューバに核武装させないと言う事は、こちらが核を撃つ気がある事になる。」

「しかも皮肉な事に我が国は既にキューバを独立国として認めています。

 キューバは『核武装させない事は 彼らの領土を守る権利…自衛権を侵害している』と言って来ています。」

「結局、キューバが我が国に対して核を撃つ気があるのか?…と言う信用問題になるのか…。

 あくまで抑止で撃つ気が無いと思っているなら核武装させられるだろうと…。」

「そうなります…如何致(どういた)しましょう?」

「う~んキューバに対しての経済制裁は続いているな?」

「ええ…」

「なら、まずは物流を制限する為に海上封鎖だ。

 ソ連、トニー王国の船舶、潜水艦のキューバへの通行を認めない…。

 それと、彼らは 我が国の企業である『ユナイテッド・フルーツ』所有物である農場を私物化していて明らかに不当だ。

 その為、核を使わない通常戦力による武力行使で 農場の奪還を試みる…。

「それは こちらが経済制裁した事への報復なのですが…。」

「だが、経済制裁は こちらの正当な権利で、ヤツらの方が不当だ。

 名目としては これで良いだろう。」

「相手の心証はよろしくないですが…。

 それでトニー王国の傭兵部隊の対処は如何(どう)しますか?」

「最新機のE-2が有っただろう…早期警戒機の」

「E-2…ホークアイですね…。

 確かにあれなら 無人機部隊にも対処は出来るでしょうが…。

 こちらの兵士の犠牲も多くなります。」

「構わん…今は ロケット開発で予算を取られ、最近だと ベトナムでの経費も無視出来ないレベルになって来ている。

 それに比べれば安い損害だ…議会は私が説得する。」

「了解しました。」

 私はそう言い 次の問題に取り掛かるのだった。


 キューバ コチノス湾、作戦司令部。

 テントの中にブラウン管のコンピューターを設置してトニー王国の傭兵達が現場にいるドラムから情報を受け取って操作している。

 キューバの周辺海域には アメリカの軍艦が大量に配置され、ソ連やトニー王国の船や潜水艦をキューバに入れない為に海上封鎖が始まっている。

「来たぞ!!」

 装甲板を取り付けたモーターボートLCVPに乗って海岸へと突入して行く。

「撃て!!」

 傭兵側の作戦指揮官であるクラウド()がそう言うと、120機のドラムが塹壕の中から半身だけ出して 一斉にライフルを撃ち、LCVPの装甲板に当たるが貫通はしない。

「やっぱり、無理か…RPG-7に切り替え!!」

 ボッボッボッ…。

 最新型のソ連の対戦車兵器RPG-7が発射され、次々とLCVPに命中して爆発して行く…。

 が、背後に配置されているアメリカ艦による砲撃が始まり、顔を出していたドラムが何機か巻き込まれる。

「上陸されたぞ!!」

 砲撃の中 キューバの兵士が塹壕から身体を出して歩兵を削って行く。

「よし、この分なら対処出来る…。」

「空から来るぞ!!」

 プロペラ機の音が聞こえ、私はテントを出て上を向く。

 2機のプロペラに上部に巨大な皿の様な装備を付けている輸送機だ。

「あれは…ホークアイ?…こんな近くに?」

 ホークアイは最新型の早期警戒機…長距離のレーダーを使い、敵の接近を知らせる為の機体だ。

 こんな距離にいるのは不自然(おか)しい。

「戦域全体で通信不良…電子妨害…ジャミングです。」

 通信兵が無線のノイズを聞きながら言う。

「まさか…」

 こちらの無線機で調べるが、使用可能な全周波数に意味を持たない強力な電波が放たれている。

「これはマズイぞ…伝令を出せ!ドラムとの通信を確保するんだ。」


「おいっ…撃て、撃て!!」

 塹壕の中から顔を出してライフルを構え、敵を撃ちながらキューバ兵 大尉(オレ)が怒鳴りながらM3グリースを持ったドラムに言う。

 現場のドラム達は 無線を封じられた事で後方からの遠隔操作が出来ず、自分で動き 銃を構える動作は取るが発砲が出来ない。

「くっそ…トリガーは後ろの兵士が引いているのだったか…。」

 オレはドラムを盾にしつつ塹壕内の敵を排除して行く。

sé mi(セミ) escudo(エスクード)(オレの盾になれ)!」

「………」

 動いてはいるが応答無し…。

be(ビィ) my(マイ) shield(シールド)

I(アイ) got it(ガデット).(私は了解しました)」

 なるほど…英語なら通じるか…学んでいて良かった。

「戦えるか?」

「撃てません」

「撃てる様にするには如何(どう)すれば良い」

 パパッ…よし仕留めた。

 狭い塹壕内でドラムを盾にしているから なんとか戦えているが、こっちだけじゃ(さば)けない。

「通信が回復するか、私達が自己判断で現場の責任者を決めて動くかです。」

「責任者?殺しの責任者か?」

「はい、私達ドラムは人を殺める事は出来ません…。

 殺める時は殺人を代行している時だけ…道具は責任を負えませんから…。」

 ドラムが自己判断で無差別殺人をしない様にする仕組みか。

「キミらは兵士が使うナイフか?

 人を殺すナイフに罪はなく、罪があるのはナイフを使う使用者だ。

 それがキミが言う責任者?」

「はい、その認識は正しいです。」

「よし…この階級章を見ろ…オレの階級は大尉だ。

 この現場で一番偉い…作戦本部と連絡が取れない為、通信の復旧までオレがドラムの行動のすべての責任を負う責任者となる。」

「通信不良で本部からの指示が受け取れない為、自己判断で動きます。

 現場の状況から代理の責任者を立てる事に正当性があると感じます。

 了解しました…あなたを責任者代理とします。

 私達は あなたが振るうナイフです…ご指示を」

「よし、発砲を許可…敵を殺せ、敵 味方は軍服で識別しろ」

「了解しました。」

 有線通信の一種だろうか?

 こちらが命令を出したドラムが別のドラムと手を繋いで情報を受け取り、そのドラムがまた別のドラム達と手を繋いで行く事で この戦場にいるすべてのドラムに指揮権の情報を送って行く。

「どいて下さい」

 4本の脚で味方の死体を躊躇(ちゅうちょ)なく踏み潰して移動し、敵にM3グリースを向けて引き金を絞る。

 パパパッ…。

 金属製のヘルメットの上から45口径弾で撃ち抜かれ、敵兵が驚く程 あっさりと死んで行く…。

 ドラムは撃たれても気にせず、撃たれた角度から敵の位置を割り出して即座に反撃し、敵を効率良く殺して行く…そこには一切の感情は無く、背筋が凍る程 恐ろしい光景だ。

 メンタル、射撃精度は ベテラン兵士に匹敵し、ライフル弾をある程度防げる分厚い装甲をまとっていて、しかも これが1日に何十体も製造が出来ると…。

 本当にトニー王国は 恐ろしい物を作り出した。


 作戦司令部。

「クソッ…」

 クラウド()悪態(あくたい)を付く。

 使用帯域は全部 塞がれた。

 通常なら全周波数に無意味な電波を流しても、味方との通信を維持する為、特定の周波数を通信可能状態にしたり、周波数変更アルゴリズムを使って、高速で周波数を変えて、無意味な電波に情報を混ぜるのが一般なのだが、敵は 電子戦では こちらが上だと判断したのか、全帯域に強力な妨害電波を流している。

 こうなると敵味方関係無く一切の通信が使えず、現場に指示を出せなくなる。

「はぁはぁ…伝令戻りました…。

 ドラムによる自己判断により、現場の指揮官を臨時責任者として戦闘を再開…圧倒的に優性です。」

「マズイな…アイツらは捕虜も容赦なく殺すんだ。

 有線に切り替える…ドラム行けるか?」

「はい、大丈夫です。

 行ってきます。」

 接続された有線ケーブルを巻きつけた 巻き取り機をバギーの後ろに乗せて ドラムがバギーに乗りこみ、巻き取りきを回しながら 有線ケーブルを現場に繋げに向かう。

「技術班 ホークアイは?」

皆殺し(デストロイ)モードで行くしかないっすね…。

 ソニックに有線でデータ入力中。

 1分待って下さい」

「了解…」

 デストロイモードは、指定区域内の航空機を無制限で皆殺しにするモード。

 幸い味方機は 飛んでいないし、敵が向かっているであろう爆撃機も一緒に落とせるなら効果的な手だ。

 こちらが持って来ている戦闘機は3機…。

 小型無人可変ジェット戦闘機『音速(ソニック)』…今まで実験戦闘機だらけだったが、コイツは ペットネームを貰った正式採用機だ。

 小型ターボジェットエンジンを2本積んで翼の角度を変更 出来るティルトウィング機。

 装備は機銃もしくはミサイルが1本…武装が心もとないが、小型で人が出来ない高機動戦闘に対応しており、機銃でも十分対応出来る。

「OK行けやす…退避!!」

 整備員が退避し、3機のソニックがエンジンが始動…。

 排気熱で芝生を燃やしながら 垂直離陸をし、すぐに翼を真っすぐにして音速を超え、ソニックブームを放つ。

 整備班がバケツで消火活動している中、私は双眼鏡でソニックを追いかける…いた…。

 ソニックの編隊が ホークアイの上まで一気に上がり、急降下しながら機銃を撃ち込んで行く。

 両翼、コックピットを撃ち抜き、ホークアイが空中分解…。

 翼の向きを変えて すぐに加速し、2機目のホークアイに向い、程 無くして撃墜。

「よし、無線回復しました…。

 追加で付近にいたアメリカの爆撃機2機を撃墜。

 ソニックの制御を切り替えます。」

「良かった…それじゃあ 報復 攻撃だ。

 こちらに攻撃した事を後悔させてやれ!」

「了解~」

 歩兵部隊を送った空母に3機が接近…付近の戦艦から機銃弾が飛んで来るが左右の翼の角度を自由に変えた変則軌道を取り、敵に狙わせない。

 ソニックは空母の後方から接近…着陸をせず 甲板を低空で飛び、一気に加速…甲板の上で音速を超えソニックブームを発生させる。

 圧縮された空気が甲板の上で放たれ、爆音が鳴り、空母の乗員の鼓膜を粉砕、音圧、空気圧で乗員を吹き飛ばしたり、内臓にダメージを与えて気絶。

 更に離陸の為に固定されていなかった甲板上の戦闘機が軽く飛ばされ、海に落ちる。

 通常の大きさの戦闘機なら 空気圧で戦闘機を吹き飛ばし、人の内蔵を確実に潰してしまうのだが、ソニックは小型戦闘機である程度 威力が抑えられており、報復攻撃としては丁度良い。

 この攻撃は 超低空飛行を音速で突っ切る都合上、非常に難易度が高い操縦技術を要求されるので、安全に戦術として組み込むにはAIを積んで制御するしかない。

「報復終了…帰還します。」

「ご苦労さん…さて、ドラムとの回線は?」

「まだです…後 もう少し…。」


 コチノス湾

「止めろ!!」

 防衛には成功した…ドラム達は手を上げて降伏をしている敵兵達を次々と撃ち殺して行く。

「殺すな!もう戦いは終わったんだ!」 

 キューバ兵 大尉(オレ)の声が通じる範囲のドラムは言う事を聞いて大人しくなるが、ドラムは恐ろしい程、効率が良い。

 このままでは 全機を止める前に敵兵士を狩り尽くされそうな勢いだ。

「武器を捨てて軍服を脱げ!!モタモタしていると撃ち殺されるぞ!!」

 敵兵士は慌ててヘルメットと上着を脱いで下着姿になると、ドラムから撃ち殺され無くなる…軍服で判断しているからだろう。

 敵は電子妨害でドラムの動きを封じられると思ったのだろうが、それは大きな間違いだ。

 人に制御されていたドラムの拘束を外してしまった。

 ドラムは話が通じるが根本的に人とは違う…ちゃんと制御をしないと非常に危険だ。

「通信回復…司令部はドラムを強制停止させる様です。」

 向こうは伝令が届いた時点で これを予測していたのか…。

 次々とドラムの機能が停止し、すぐに動かなくなる。

「はぁ道具の使い手の責任か…。

 こりゃあ 重くなりそうだな」

 ドラムが作って行った手を上げて死んでいる敵兵見つつ オレはそう言うのだった。

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