08 (核シェアリング)〇
新キューバ…首都ハバナ、役所 会議室。
「ようこそ…お越しいただけました」
「いえいえ…我々は傭兵国家であり、報酬を払えば どちらの陣営にも付きます。
それに私個人としても、今のキューバの実情から考えますと こちらに付くのが 妥当だと感じています。」
クラウドは、この国の代表であるカストロを握手をする。
元々 この国は大量のサトウキビが栽培され、奴隷達が死ぬまでコキ使われて働かされる砂糖プランターだった。
今から250年も昔の1700年…。
砂糖農場の奴隷が過酷な労働により大量に死に、高騰している奴隷の購入費用が圧迫しているとの事で、私は『奴隷を長持ちさせて経費を削減』する為に奴隷船で この国の砂糖農園にむけて向かった。
まぁ私は船から海に落とされてトニー王国の住民となったが、本来なら ここは 私が奴隷の労働環境を改善するはずだった砂糖農園になる。
流石に今のキューバは 奴隷は いなくなったが、ブリテンからアメリカに住み着いた元ブリテン人の企業により砂糖農園の経営は代々続けられ、250年経った今でも キューバ人の大半は農民であり、その農場のおおよそ75%がアメリカの企業『ユナイテッド・フルーツ』の土地で サトウキビとタバコなんかのアメリカに売る目的で自国で消費出来ない『商品作物』の栽培に使われている…。
まぁいわゆるアメリカの経済植民地だ。
第二次世界大戦時に この国では 農奴の様に砂糖もタバコも作る技術が無いと言うのに、労働者をコキ使って私腹を肥やす『バティスタ』と言う独裁者に支配されていて、上層部は アメリカと強く結び付き 政権は完全に腐敗しきっていた。
資本主義では金がある者が独占して利益を得る仕組みであり、働かない金持ちと必死で働く貧乏に 二極化する…実際、法律的には違うのだろうが、現場で働いている農民たちは農奴と大差ない生活をしており、腹を空かせ常に貧困に喘いでいる。
「フィデル・カストロ…あなたの話はよく聞いています。
アメリカと癒着して 私腹を肥やして腐敗 仕切っていた バティスタ政権を打倒した 英雄。」
「英雄と言うには まだまだですが、我々は 何度も政府軍に戦いを挑み、その度に敗れて来ました。
ですが、我々は諦めずに勢力を伸ばして行き、何とか政権を打倒し、1年ほど前に我々革命軍は キューバのサンタクララの戦いに勝利…見事 革命に成功した訳です。」
「そして あなたは 独裁政権の打倒し、独裁政治を嫌い民主主義を こよなく愛する アメリカから国家承認を得ました。」
「ええ…ですが、私の本来の目的は アメリカ企業に管理されている この腹が膨れない農地を取り返し、農民に分配する事です。」
「砂糖とタバコの農園で『食糧作物』を作るのですか?」
確かに砂糖だけじゃ人は生きていけないし、タバコの農園は農地を痩せさせる。
なら麦やジャガイモを栽培した方が国民の腹も満たせるだろう。
「そうです…。
そして今は共産主義が嫌いなアメリカからの経済制裁により、キューバの農地だけでは 国民の腹を満たす事は 出来ません。
ですので 経済制裁の報復と言う形で アメリカ企業の砂糖とタバコの農園をアメリカ企業の財産を国有化をしました。
この国が アメリカの支配から脱却して独立するには、食料自給率を上げないと行けませんから…。」
「ふむ最終的には キューバの独立が目的ですか…。
ですが、流石に あなた方がアメリカ軍と正面から戦って勝てる訳がない。」
「ええ…1000人2000人なら まだしも万単位で来られたら私達は簡単に滅ぼされます。
ですが…核武装出来るなら話は別です。」
「核!? 農民ばかりのキューバが核兵器を作れる技術があると?」
「いいえ…我が国にはありません…。
ですが、ソ連のフルシチョフからミサイル基地の建設と核弾頭の提供の密約を取り付けました。」
「ソ連ですか…確かにソ連は自国内にしかミサイル基地は ありませんからね…。
アメリカ本土を狙えるこの位置に核ミサイルを置きたいと言うのも納得できます。」
今のアメリカは、ウクライナを始めとした東側陣営に近い西側陣営の国々に核ミサイルを配備して それをアメリカが管理しており、ソ連全土に4000発近い核ミサイルを撃ち込む事が可能だ。
ソ連もそれに近い数の核ミサイルを保有してはいるのだろうが、自国内からでしか撃てない都合上、今のミサイルの射程距離では アメリカ本土まで届くか怪しい。
そこでフルシチョフは、隠密性が高く移動出来る潜水艦とアメリカから近いキューバに核ミサイルを配備しようとしている訳だ。
「でも核なんて…きっとアメリカが空爆してきますよ。」
「分かってます…。
ですが、いつアメリカが キューバに向けて核ミサイルを発射されるか分かりません…他の核武装していない西側諸国もです。
現に ベトナムでは 核武装をしていない事でアメリカ軍の介入を許す事になっていますし…一刻も早く核武装をする事が国民を守る事に繋がります。」
「まぁ言っている事は分かりますが…。」
戦闘機や戦車を大量に買って軍備を整えるより、核兵器を1つ保有しているだけで、敵が派手な行動をとって来ないのは非常にコスパが良い。
「と言う事は我々の仕事は核ミサイルの配備までの警備ですか?」
「ええ…ソ連から核弾頭がやって来る前なら、アメリカは 空爆や上陸作戦によりミサイル基地を破壊する事が出来ます。
だから核武装をするまで何としてもミサイル基地を守り抜くのです。」
「分かりました…こちらは中立を維持する為、アメリカ政府には トニー王国の傭兵部隊がキューバに雇われている事を公開します。
これである程度の抑止力が期待出来るでしょうが…。」
「戦闘は避けられないでしょうね…。」
「でしょうね…取りあえずドラムと弾薬は用意します。
後は こちらの兵の頑張り次第ですかね…」
「ありがとうございます…ではミサイル基地に案内します」
カストロはそう言い、一緒に会議室を出てミサイル基地に向かうのだった。
ミサイル基地はミサイルを地下に隠す為の穴と言った感じで、空から隠蔽する為の迷彩柄の大きなハッチがあり、重いハッチを数人で開くと ミサイルが入った筒型の縦穴が開いている…それだけの施設だ。
「何と言うか…本当に最低限ですね。」
「まぁ見た目は悪いですが、ここからでも アメリカの首都に対して攻撃も出来ます。
ただミサイルの装填にクレーン車が必要になるのですが…。」
見た所、ハッチの数は12程…そして偽装網を被された倉庫の中に入ると 技術者達が 大型のミサイルを背負った8本タイヤの大型車両を整備をしている。
「これは…MAZ-537でしたか?
ソ連の最新の自走ミサイル発射機ですね。」
「ええ…これはトラックとミサイル発射台を一体化した物で、先程のミサイル基地の様に土地に縛られません…トラックで移動させて好きな位置から敵に対して攻撃が出来ます。
ただ弾道ミサイルに対して小型な分 飛距離が大幅に落ちてしまうので、アメリカを狙うならキューバの範囲内で無いと撃てませんね。」
「このミサイル…通常弾頭ですか?」
「ええ…核弾頭はソ連船が持って来てくれる予定です。」
「と言う事は ソ連が核攻撃を受けた場合、キューバが報復攻撃をする訳ですか?」
「まだ正式には 決まってませんが おそらくは…。
そして キューバが攻撃を受けた場合もソ連本国から報復攻撃を行って貰える様になっています。」
「つまり…アメリカは ソ連からの報復を恐れてキューバを攻撃しないと…。」
「そして こちらもアメリカに攻撃をすれば 報復を受ける事になりますから撃つ事も難しいです。
アメリカの政府が理性的なら…この国の安全は確保されるでしょう。」
「今はケネディ大統領でしたっけ…不安だな。」
私はそう思い詳しい作戦について詰めて行くのだった。