03 (放物線飛行-パラボリックフライトー)〇
ワシントンD.C NASA本部。
トニー王国は ひ弱で面倒くさがり屋で 地下都市に引きこもり 外にあまり関心を持たない国だ。
外に出ている軍人も宇宙に行く為には 過酷なトレーニング受ける必要があるのだが、どうしてもメンタルが負け、基準値を満たせない。
普通の国なら戦闘機パイロットを宇宙飛行士に転用させるのだが、トニー王国は無人機主体の為 パイロットがいず、エアトラのパイロットも高G負荷には耐えられない…あの機体は安定飛行を前提にしている為だ。
その為、アメリカとトニー王国が主催で 宇宙飛行士や管制局で計算や指示を送るクルーの募集を始めるのだった。
「まだ結構いるな…」
ナオが群衆を見ながら言う。
書類精査と最低限の学力テストをして合格した1000人位が NASA本部に集まって来ている…元が2000人に近かったと思えば これでも結構 減った方だ。
「テレビ局も来ていますっね」
オレの隣にいるボーマが言う。
集まっているメンバーは 老若男女人種を問わず 様々な応募者が 建前上では 揃っており、テレビ局のカメラが この差別をしていない光景の撮影に来ている。
「ただ、次のテストで黒人と女性は落ち、白人男性だけが 残る事になる。
まぁ人種差別をしていませんアピールだな。」
建て前上では ジェット機の資格を持っていないから…それに家の素行の問題などで落とす予定となっている。
既にアメリカでは 人種や男女差別をして行けない と言う事になっているが、女性、黒人蔑視がそう簡単に抜ける訳も無く、まして宇宙に出れば 歴史書にも残る有名人だ。
優秀とされる人材を集めるのは仕方のない事。
「適正としては 女性の方が高くなるんでは?」
「本来ならそうなんだが…宇宙飛行士は国の看板だ。
能力は もちろんの事、家柄、人種、性別を徹底的に選別して、優秀な白人男性の軍関係者を宇宙に送りたいんだろう。
あっちには あっちの価値観がある訳だし、素直に篩い落とされた黒人男性と女性を頂こう」
「そうすっね…。」
ボーマがそう答えるとオレ達12人の試験官は NASA本部へと向かった。
彼ら彼女らから提出された履歴書を見て、学歴などの経歴や志望動機などを 見て選別し、SSSからAクラスまでに分け、S以上は 即刻採用…むしろ こちらから交渉してお願いする程の人材だ。
そしてAクラスは 地上スタッフがメインで 仕事を頼もうと思っていて、該当人数が50人程…。
で、プロペラ機の飛行免許を持っている、もしくは飛行経験がある人物が30人…この中から12人を選ぶ。
オレは Sクラス以上の面接だ。
オレが部屋会場の大部屋に入る。
中では5人の女性と1人の男性がパイプ椅子に座っており、こちらを見て驚いている。
オレの身長は150cm…女性でも160mはある この国では、オレは かなり小さい。
「トニー王国って小人種族がいるって聞いたけど…本当に小さいんだな。
まるで子供みたいだ。」
真っ黒な肌を持つアフリカ系アメリカ人の男が言う。
身長は180cmはあるか?筋肉質で屈強そうだ。
オレはそんな事を思いながら壇上に付く。
「さて、よく集まってくれた…。
オレの名前は ナオ・マキナ…姉島宇宙港の主任をやっている。」
「あ゛?マジか…こんな子供がか?」
「こんな見た目でも キミ達より年上だよ。
オレも上品な英語は使えないから言葉遣いには 文句を言わないけど、最低限 言う事は聞いて貰えるかな…」
「あ~失礼しやした…ナオ主任」
「じゃあ まずはキミの面接から始めよう。
名前は スティーブン・ミラー。最終階級が少尉。
元、第332戦闘群 黒人航空部隊、レッド・テイルズ部隊所属。
戦後に退役…間違いない?」
「ええ…先の戦争では 俺はドイツを攻撃する爆撃機の護衛に付き、3機のドイツ戦闘機を撃墜し、ドイツへの爆撃を成功させやした。」
「あなたが乗ってた戦闘機の機種は?」
「P-51…」
「あ~やっぱりプロペラ機か…耐G訓練は?」
「しやした。
『黒人は戦闘に使えない』事を証明する為に、選別は一般兵士より厳しかったっす。」
「何Gまで耐えられた?」
「短時間なら8Gまで」
「同じGで10分間 ぶん回すとした場合、どの位まで耐えられる?」
「6Gはいける…7Gは厳しい…。
耐Gスーツを使わせてくれれりゃ もう少しは 行けるんでしょうが…。」
「こっちのエアトラジェトはMAXで6G…鍛えて勉強する気はあるか?」
「ありやす。」
「で、何で宇宙飛行士に志願した?
キミは テストで好成績を残し 上位に入っていて、少なくとも次の試験までは残れそうだったのに 家の問題を理由に大幅に減点をされて失格となった。」
「あ~やっぱり この肌で減点されやしたか…。」
「まぁ人種差別になるから表向きは別の理由だけど…で、理由は?」
「そうだな…俺は 白人より劣っていない事を証明したい。
戦闘機では俺も白人パイロットと同じく乗れて、戦果も上げられた。
次は宇宙飛行士だ…世界初の黒人宇宙飛行士…悪くないだろ。
まぁNASAには落とされちまった訳だが…」
「良いだろう…黒人宇宙飛行士。
地上より紫外線量が多い 宇宙では、白より黒の肌の方が適正があるからな…はい、採用」
「おっしゃあ!!」
「じゃあ 次はジャクリーン・コクラン。
空軍婦人パイロット部隊 WASPのメンバー…。
戦時中には 戦闘機を製造工場から前線に届ける任務に付いていた…戦闘経験は無し。
で、えーと、爆撃機、ジェット機を操縦して大西洋横断飛行、酸素マスクを装着して上空2万フィート以上を飛行、超音速経験あり、ベンディックス大陸横断レースに参加したと。
と言うか、よくジェット機を飛ばせたな…あれは女性だと資格が取れないだろうに…。」
「ええ…ただ私の夫はジェット機の開発会社の社長でして…私物のジェット機を飛ばしていました。
まぁ無免になる訳ですが…。」
「なるほど…その手があったか…。
で、宇宙飛行士になろうとした理由は?」
「私は速い乗り物が大好きです。
周回軌道に乗れるほどのスピードが出る乗り物…宇宙船の他にありません。
ただ宇宙飛行士になるには 表向きジェット機の免許を持ってないと行けず、女性はジェット機の免許を取れません。
なので、宇宙飛行士に なれるなら こちらだと 思っていました。」
「あのカプセル型の宇宙船にジェット機のテクニックが必要なのか疑問なんだがな~。」
「あれは 女性をパイロットにさせたない為の名目ですから…」
「男性より、女性の方が耐G性能が高いんだがな…と言う訳で採用。
で、残りの4名はコクランと同じWASPのメンバーで、ジェット機の経験は無し。
理由は ジェット機の資格を取りたいからか…。
エアトラジェットは まだまだ数が少ないし、基本 実験機だから資格も無い。
ただ乗れる事は確かだな…それで良いなら採用するけど。」
「「お願いします」」
「はい、と言う事で 全員合格…。
後で報酬の交渉官が来るから相談して、常識の範囲で吹っ掛けて良い。
キミ達には それを通すだけの価値がある優秀な人材だから…。
じゃあ、交渉官を呼んで来るな~」
そう言うとオレは部屋から出て行った。
「如何だった?良い人材はいたか?」
オレが歩きながらボーマに聞く。
「ええ…とても…なのに向こうと全然 被りませんでした。
交渉する事も想定していたんすが…。」
「まぁ問題が無い分には良いじゃないか…。
さて、戻ったらカリキュラムを建てて新人さんを教育しないとな。
エアトラ系は こっちの飛行機とは全然違うし…」
翌週…正式に契約をした18名と親戚、オレらを含めた32人は、エアトラジェットで小笠原諸島へと向う。
「さあて…最終テストだ。
一気に行くぞ…何人耐えられるかな~」
ターボジェットエンジンで音速まで向かい、スクラムジェットエンジンを作動させ 急加速が始まる。
「うわあああ…」
「ヒッ…ヒッ…ヒッ」「ヒッ…ヒッ…ヒッ…」
コクランとミラーは 腹に力を入れて短く息をし続ける 耐G呼吸法を使っている。
「ほら、気ぃ抜いてると~落ちるぞ~」
オレは更に加速すると3Gを超えた辺りで何人か落ち始めた。
やっぱり女性は耐性があり、まだ大丈夫だ。
そして1分程…。
「はい、お疲れ~何人生き残っている?
おお…Sクラス以上は全員が生還か…Aクラスは何人か落ちたな。
お~い起きろ~」
オレは安定飛行に入った所で席から立って、気絶している乗客の頬をペシペシと軽く叩いて起こす。
「あれっ…あ~落ちたのか…」
Aクラスの男性パイロットが言う。
「そっ…皆、起きろ」
応募していない家族達も次々と起き始める。
「さて左右の窓をご覧ください~」
乗客達が窓を覗き込むと暗い空に青白い中の姿が見える。
「まさか宇宙?」
ミラーが言う。
「いんや…まだ成層圏…高度だと20km位かな。
周回軌道じゃなくて弾道軌道だから このまま 小笠原諸島辺りに落ちる。
この分だと2時間は掛からないな。
後、着陸前に無重力の体験が出来る…この高度だと 30秒位は出来るかな~」
オレが笑いながら言う。
「そんじゃあ、皆さんシートベルトを外して…30秒 行っきますよ~」
エアトラジェットのエンジンが停止し、放物線を描いて急速に落ち始める…。
「おおっ身体が浮く…」
「これが無重力…」
「あ~髪が散らばる…」
コクランが宙に浮かびながら言う。
「はい、5、4、3、2、1…終了~」
「あがっ」「痛てっ」
調子に乗っていた2人が座席に身体をぶつけて地面に叩きつけられる。
「はい、シートベルトを締め直して…そろそろ小笠原諸島が見えるよ~」
雲を抜けて降下を続けると小笠原諸島が見え、空中旋回をしながら減速して行き、ヘリモードに切り替え、姉島宇宙港のヘリポートに着地した。
「はい、お疲れ様~。
それじゃあ 荷物を降ろそう…。
エアトラは 18時に迎えが来るから それまでは施設見学…。
そこからエアトラで母島の寮に行く…。
お疲れだろうが もう少し頑張って」
「「はい…」」
乗員達は手荷物をもって降りて行った。
隣の妹島宇宙観測所から出たエアトラが、姉島宇宙港のヘリポートに着陸する。
中には飛行機だと言うのに椅子が無く、電車の様な つり革に掴まっている技術者が乗っている。
人数が増えて 効率良く 労働者を運ぶ様に考えられた結果、座席だけじゃなくコックピット席も取っ払われ、換わりにつり革を掴む 方式に変わった。
コパイの完全自動制御で 高度も低く、翼も斜めにした中間モードで 加速も減速も穏や かなので、立ったままでも通勤が出来る。
通常30+パイロット2人の32人乗りなのだが、60人の労働者が隙間なく収まり、ヘリポートから上空に上がる。
姉島から母島までは10km程…離着陸を含めても10分も掛からない…。
そして普通に着地…労働者が ぞろぞろと降り始める。
現在 朝と夕方の2便しかないので こんな状況になっているが、これから人員も増えるし そろそろ増便した方が良さそうだ。
オレは キツめの機内でそう思うのだった。