02 (宇宙開発同盟)〇
1960年…。
クラウド商会ボストン支店…応接室。
「えっ…同盟ですか?
ご存じの通り、我々は西にも東にも組しませんが…。」
ナオがトーマス・キース・グレナン長官に言う。
彼は最近出来た NASAの長官で、重要な話があると言う事で、大使館を兼ねているクラウド商会にオレ達が集まった。
「違う…これは宇宙開発の同盟だ。
我々アメリカは月の宇宙船に行き、宇宙人の技術を得たい…。」
長官は探査衛星の写真をテーブルに置く。
月の裏にある直径6km長さ20kmで月にの土に半分埋まっているスペースコロニー…名前はホープ号。
トニー王国を建国した宇宙人が乗って来たとされる宇宙船で、1700年に月の裏側に機体のトラブルで月の重力に捕まり不時着し、現在は機能を停止して放置されている…と言う事になっている。
「確かに あそこは宝の山ですね。
建国者の宇宙人トニーも把握していない技術も かなり多いはずです。」
実際の所 あのコロニーは まだ生きていて、核融合発電、核融合推進、空間ハッキング技術に、空間波状航行技術…更にタイムマシンの技術も入っている。
どれも この時代では 世界征服が出来るレベルの危険な技術だ…出来るだけ 隠しておきたい。
「そう、恒星間航行が出来る宇宙人の技術で造られてた宇宙船だ。
特に恒星間航行が出来る推進機関や重力制御 技術の情報が手に入れば、今後の宇宙開拓も進むだろう。」
「それで軍事では無く、宇宙開発に限って同盟を結びたいと?
トニー王国は社会主義国…こちらで狩られないか心配なんですが…」
今 この国では、共産主義思想を持つ人間、政敵、気に喰わない人をソ連のスパイと言う名目で殺してしまっている状況だ。
クラウド商会の職員も いつ罪状をでっち上げてられて 殺されるか分からない。
「そちらの心配は理解している…。
我々とは主義が違うが 可能な限りの配慮はするつもりだ。
で、今 あの場所はトニー王国の聖地になる。
あの宇宙船に入るにはトニー王国の協力が不可欠だ。」
「そこで得た技術の所有権は?」
「アメリカ、トニー王国の両国が持つ…解析も共同で行う。」
「う~ん…あなた方の目的を聞かせて貰っても?」
「現在、我が国とソ連は 冷戦状態で、このままでは お互いに核で滅ぼし合う事になる。」
「でしょうね…」
現在 アメリカ イギリス、ソ連、トニー王国の3勢力が核武装と大陸間弾道ミサイルを開発した事で、いつ核戦争が始まっても不自然しくない状態だ。
もし、アメリカ、イギリス、ソ連が保有している 数千発の核ミサイルが一気に放たれれば 地球上から生物がいなくなると言われている。
まぁトニー王国の都市は 本島の地下10kmにあるので、全面核戦争が始まったとしても、地表を焼くだけで 高確率で生き残れるのだろうが…。
で、そのトニー王国は 潜水艦に小型核弾頭を搭載した 無人戦闘機を入れて海中に潜伏しており、トニー王国本島が 核攻撃を受けた場合、撃った国の軍事基地と政府施設に対して核による報復攻撃をすると警告している。
「だが、宇宙開拓が出来るなら もう資源に悩ませれる必要が無くなる。
月の他に火星、金星、木星とその周辺の小惑星からも 手に入れられるだろう。
そうなれば、もう 地球の少ない土地を めぐって争う必要もない。」
「確かに…ソ連が核を放棄する訳もありませんし、全面核戦争の脅威は これから永遠に続きます。
なら、両国が広大な宇宙を開拓して行った方が、メリットが大きいですかね…宇宙開拓時代の始まりですか…」
本来なら宇宙の星の領有権を国が主張する事は出来ないのだが、まだ宇宙条約が無いので 月の所有者は決まっていなく、もしも月を自国の領土に出来るなら 莫大な資源が手に入り、ちまちま戦争を起こして少ない土地を奪いあう事も無くなる…もちろん、後に宇宙条約が出来るのだろうが…。
「うん、月を植民地にする為の方法は?」
「開拓時代のルールに従うなら、現地で 畑を耕して住民を済ませれば、領土を主張 出来るようになる。
もちろん、周辺諸国が正式な国だと認める必要があるが、実行支配してしまえば、実質の領土として振る舞える…キミ達のようにな…」
「あはは…。」
オレは苦笑いを浮かべる。
トニー王国は千島列島や樺太、小笠原諸島、尖閣諸島、竹島と日本を囲む形で島を占領して 実行支配をしている。
それは アジア最前線である日本を守る為の盾であるのと同時に、日本と日本に駐留してるアメリカ軍を閉じ込めておく為の檻だ。
まぁ樺太はソ連に返還する事になっちまったんだけど…。
「分かりました…私が上に話を付けましょう。
世界情勢的にも仲良くしていた方が良いですしね。」
オレは長官にそう言うのだった。
トニー王国 外交島。
「宇宙開発同盟ですか…。
面白いですわね」
都市長のユリンがナオが送って来た書類を見ながら言う。
「面白いですか?
それにしてもナオ様は いつも面倒な問題を持ってこられる。」
技術部門の担当官が言う。
「あの方は不老の神ですから…。
ちゃんと手続きを通してくれるだけマシですわ。
それに 彼らを自由に動かしていた方が 結果的に良く回ります。」
「と言っても少しマンパワーを使い過ぎじゃないですか?
技術者を持ってかれてますし…。」
「整備マニュアルが まだ決まっていない以上、ドラムで代用が出来ませんからね。
技術が確立してしまえば、後は ラクになるのでしょうが…。」
「それにしても 全面核戦争が間近だと言うのに敵国と同盟を結ぶなんて…。
あの国は共産主義と言うだけで罪状をでっち上げて死刑判決をする国ですよ…。」
将軍が言う。
「これは あくまで技術の同盟ですから…。
それに 私達トニー王国も月に行きたいのですから 目的は一緒ですし、これで アメリカのロケット開発にも干渉出来ます。
私達が知らない所で勝手に開発されるより、いくらかマシですわ。」
「そうなのでしょうかね…」
技術部門の担当官はそう言い、書類に目を通すのだった。
「それにしても…最近は本当に科学が良く進む…。
私が子供の時は、どこも かしこも戦争で疲弊してたってのに…。」
「都市長は 宇宙開拓を如何思いですか?」
「今の外国は 定期的に戦争を起こして低所得者を殺し合わせる事で間引きをしていますが、このまま人が増え過ぎたら 地球が人の生活を支えられなくなります。
なら、余剰の人口を宇宙に送って 新しい資源の開拓をして貰うのも良いでしょう」
「成功すると思いますか?」
「さぁ?でも いずれ恒星間航行の生活になるのですから、それなら 今でも良いでしょう?
本島の地下都市は 既にスペースコロニーの生活を再現しているのですし…。」
「確かに…安価に人を宇宙に打ち上げられる技術さえ確立してれば、宇宙生活も行けるとは思いますが…問題は重力ですね。」
「それは 地球上では再現出来ませんですから…。
しばらく我々は 無重力での物体の挙動を観察をしましょう。」
私は宇宙開発同盟の書類にサインをして そう言うのだった。