01 (ここから 始まる日本のロケット開発)
1955年…3月11日…東京都 国分寺市。
「3、2、1…GO!!」
コンクリートで作った 半地下式の銃器発射場…戦前 ここでは銃弾の試験が行われていた場所だ。
何枚かの障子紙を張った看板が設置され、奥には今回の目的である小さなペンサイズのロケットがある…ペンシルロケットが勢いよく水平方向に飛び立った。
今の日本には レーダー測定器などが無い為 ロケットを打ち上げた所で 観測が出来ない…それを解決する為にペンシルロケットは 水平方向に発射され、ロケットが障子を破く事で弾道を見る方式になった。
ペンシルロケットの利点は 非常に安価で量産が出来る事…。
様々なタイプのペンシルロケットが作られ、次々と 打ち上げ?実験して行る。
「あ~懐かしいね…昔 何度もやった。」
甚平姿のナオは 試験会場を見ながら言う。
「おっ…ロケットを見に来たのかね」
メガネを掛けた青年がやって来る。
「ええ…お邪魔でしたか?」
「いや…大歓迎だよ…僕は糸川英夫。
今はロケットに興味を持ってくれる人は少ないからね。」
後に日本の宇宙開発、ロケット開発の父と呼ばれる非常に重要な人物だ。
「それにしても、よく政府からロケット開発の許可が降りましたね。
ミサイル転用出来るロケットの開発なんて アメリカが許さないでしょう?」
「それは 結構 苦労した 日本政府には『また戦争がしたいのか!?』と言われたな。
だけど 今 ハレー艦隊プロジェクトと言うのが動いててね。
アメリカの『NASA』…ソ連の『ソ連宇宙科学研究所』…ヨーロッパ各国の出資で出来た『欧州宇宙機関』。
それらが 無人の探査衛星を飛ばして ハレー彗星の近くで観測をしようと言う計画だ。
その計画に日本も乗らせて貰う事になった。
まぁGHQの政策で技術を失った日本は 完全に戦力外で、アメリカには『日本が探査衛星を造る事なんて あり得ない』何てバカに してたけど…。」
「まぁそれは こちらも同感かな…今の日本だと技術開発に制限が多い。
その中でロケットの開発をするのは難しいだろう。」
「だけど、いずれ誰かが やる事だ。
僕の代で出来なくても 次の世代が必ず成功させる…僕は日本のロケット開発の基礎を造れれば それで良い…まずは失った人材の育成からだ。」
「人材の育成か…そうか…それじゃあ…」
オレはメモ用紙のページに住所と電話番号を書いて破り、イトカワに渡す。
「ここに連絡してみると良い…。」
「ん 千葉?ここは 私の研究所の近くじゃないか…エクスマキナ教会?トニー王国の?」
「そう…トニー王国はGHQの占領政策での技術の消失を危惧して、戦後に大量の日本人技術者達を 失踪させてトニー王国に送っている。
彼らは 今もトニー王国で 研究をしているはずだ。
その中には 日本のロケット開発に役立つ 元日本人の人材もいるかも知れない。」
「っ!?…助かる…それにしても キミはいったい…」
「オレは ナオ…小笠原諸島の姉島宇宙港で 宇宙に行く飛行機の開発をしている。」
「まさか…エアトラジェットの?」
「そっ聞きたい事があるなら、オレを頼ると良い…情報の提供なら協力する…それじゃあ…良い物を見せて貰ったよ。」
そう言うとオレは ペンシルロケットの発射場を後にした。
千葉県 館山市…エクスマキナ教会。
「こんにちは~」
糸川 英夫は 教会の扉を開けて 中に入る。
教会の中はテーブルの付いた長椅子が並んでおり、子供達が本を読みながら 藁半紙に ひらがな を書き込んでいる…文字の書き取り?ここは学校も兼ねているのだろうか?
「あっお客様ですか?お名前は?」
一番後ろの席で書類作業をしていたシスターが、こちらを見て聞いて来る。
「糸川です…糸川 英夫…。」
「お待ちしておりました…こちらで しばらくお待ち下さい。
シスタークオリア~お客様ですぅ」
彼女は 教会の奥の壇上の横にあるドアを開けて言う。
「ああ 聞こえている。
イトカワだな…よく来た」
奥から出て来たのは 銀色の髪を持った白人の少女で、見た目では 小学生にも見える。
ただ口調や雰囲気に子供 特融の幼さが無く、むしろ老齢の雰囲気を かもし出している…多分、脳だけで 全身が機械で出来た 全身義体だろう…トニー王国で まだ極少数だけだが 全身義体の手術を成功した記録も見た事がある…見た目に惑わされてはダメだ。
「ようこそ…私は シスタークオリア…日本のエクスマキナ教会の管理を任されている。」
「日本でロケットの研究をしている糸川英夫です。
本日は よろしくお願いします。」
僕は頭を下げてクオリアと握手をする。
「さぁ応接室にどうぞ…」
「失礼します。」
応接室
「さて、あなたは エクスマキナ教会に入信したいとの事だが、欲しいのはロケットの技術か?」
クオリアがイトカワに言う。
トニー王国の国教となっているエクスマキナ神は 道具の神であり、未来で人類が造る 人を超えた人工知能が彼らの神だ。
エクスマキナ教徒は その神を作る為に様々な研究や開発などの宗教活動をしている。
「ええ…それに何より人材も…。
今の日本は やる気のある人は 大量に いるのですが、それを教える先生がいない。
あなた方は 戦争の終戦後に日本の技術者を匿い、トニー王国に亡命させたと聞きました。
その中には 特攻機 桜花の固体燃料ロケットエンジンを開発をしていた技術者達がいるはずです。」
「人力対艦 誘導ミサイル桜花のスタッフか…。
確か 戦後 トニー王国の無人戦闘機用の誘導ミサイルの開発してた はずだ。
彼らは いずれ日本のロケット技術者として 戻る時の為に トニー王国の研究島で今もロケットの研究を続けている。
彼らなら アメリカの占領で 失伝した技術も 取り戻せるだろう。」
「助かります…ですが良いのですか?
その様に重要なミサイル開発の技術者を…。」
「技術者の大半は 労働に向かない爺さん達で、既に彼らの技術は 若い技術者達に継承している。
何より 彼らとは 日本に戻る事 前提での雇用契約になっている からな…その契約を履行するだけだ。
もちろん 彼らが日本へ帰りたくないと言えば、連れて これないのだが…。」
「それで構いません…希望者のリストを後日 送ってください。」
イトカワが名刺を渡し、こちらが受け取る。
「同じ千葉か…了解した…この住所に送らせて貰う。
それで…ロケットの開発予算は?政府から いくら予算が出ている?」
「年間で560万円です。」
今の日本の大卒初任給が 8700円 位 だから 560万だと 大卒初任給の643倍。
トニー王国の1ヵ月の生活費が10万トニーだから 643倍だと 6430万トニー…DL 2機をフル装備で買えるかと言う位の金額だな。
「当然ながら ロケットを打ち上げるには 圧倒的に資金が足りない。
最低でも原潜1機分の5億トニー…日本円にするなら 4350万円は必要だ。」
「分かっています…。
まずは 小さいロケットを作って実績を積み、予算を獲得して ロケットの大きさをドンドンと大きくしていく計画です。」
「なるほど……こちらは 日本政府が出しているプロジェクトと言う都合上、キミ達に金銭的な協力は出来ない。
協力出来るのは、人材の提供や 正規金額での物資の取引きだ」
「それで十分です。
本来なら1からロケットの研究を始めないと行けない所、技術者を回せて貰えるのです から…。
ありがとう ございます…それでは失礼します。」
「いや…まてイトカワ…これを」
私は引き出しから 歯数12の歯車の ペンダントを出す。
このマークはトニー王国の国旗にも使われている エクスマキナ教会のマークだ。
「持って行くと良い…何かしらの訳に立つだろう。」
「ありがとうございます…それでは…」
そう言うとイトカワは 私に名刺を渡して 立ち上がり、教会を後にするのだった。