22 (大陸間弾道 核ミサイル)〇
1956年…(終戦から10年)
小笠原諸島 妹島…妹島宇宙観測所。
宇宙港がある姉島の隣の島…妹島…。
ここに建設されたのは 直径48mの可動式の巨大なパラボラアンテナが設置されており、その下の建物には 妹島宇宙観測所がある。
ここは 宇宙から来る電波を観測したり、電波を放ったり出来る施設で、地球の電離層で電波を反射させる事で、同じくパラボラアンテナがある トニー王国の離島…宇宙観測島とも回線速度は遅いが通信も出来る。
今はソ連がロケットが頻繁に飛ばして実験をしており、もし ソ連が実用的な大陸間弾道ミサイルを開発してしまえば、ソ連の西と東にミサイル基地を設置され、トニー王国とアメリカに対して先制核攻撃が始まる。
相互確証破壊条約が署名されるのは1970年…。
まだまだ先の話で、未来を知らない両国は 一刻も早く大陸間弾道ミサイルを開発しようと躍起になっている。
日本は戦後復興に忙しく、アメリカ国民は 新たなフロンティアである宇宙に憧れを抱き、指揮官や政治家達は 核ミサイルが降って来ないかと毎日ビクビクして過ごしている…そんな状況だ。
トニー王国の核ミサイルは 短距離型で 大型のロケットでは無い…。
時速24,696 km…マッハ24まで加速して 周回軌道に入ったエアトラが、目標付近でミサイルを落とす戦略だ。
この速度でミサイルと落とした場合、大気による減速を考慮しても速度は 時速10,000km…マッハ10は手堅い…。
どんな高性能な迎撃システムであろうが、宇宙から飛来して来る時速1万kmの飛翔体を迎撃する術はない。
地球の何処にでも90分で迎撃不可能な速度の核ミサイルを落とせる…抑止としてなら非常に有効なシステムだ。
「さて準備は良いか?」
ナオはモニタを見ながらエアトラに乗っているドラムのクリストファーに言う。
『問題ありません』
彼はアラン・チューリングが教育をしたドラムで、AIのブレイクスルーを突破した優秀な個体だ。
今までのドラムは 体験していない事には対応が出来なかったのだが、クリストファーは 未知の事も ある程度 対応出来る能力がある。
これは 人間の発想出来ない理論、道具を開発してくれるエクスマキナ神に近づいた事になり、コピーとはいえ こんな未知の塊である実験にも駆り出されている…。
確か クリストファーは キリストを背中に乗せて川を運んだ殉教者の名前だ。
だからテストパイロットの名前としては ピッタリと言えば ピッタリなのだが…。
「実験開始…事前の手順通りに飛行せよ…なお、機体の帰還が最優先だ。
トラブルが起きた場合の判断はパイロットに任せる」
『了解です…離陸します』
1、4番ターボジェットエンジン…2、3番がスクラムジェットエンジンを搭載しているエアトラジェットが、1、4番エンジンを使って姉島宇宙港から垂直離陸…速度が乗った所で、翼を横にしたプロペラ機モード?に移行…その後 音速付近まで加速する。
エアトラジェットからは 機体の情報が電波として送られ、その様子が オレの目の前にあるモニタに簡易表示されている。
機体の詳しい数値などの詳細情報は、同じ部屋にいるエンジンスタッフが監視しており、準備は万全だ。
いつも通り 大した苦も無く、順調に飛行…。
ただ加速度が3Gと速い…ターボジェットエンジンは 音速以下だと燃費が悪くなるので、離陸から一気に加速する必要が出て来る。
『音速到達…加速順調…高度1万mを通過…上昇中…。
2、3番エンジンを始動…アイドリングで待機…スクラムジェット正常作動中…点火…点火成功…エンジンテストをしつつ加速を続行。
速度3000でスクラムジェットに切り替えます。』
クリストファーは 次々と手順を実行して行く…。
スクラムジェットエンジンは、速度が時速1000km以上じゃないと効果を発揮しない…が、これで理論上では 周回軌道に乗れる速度になる。
まぁ今回は液体酸素を積んでいないから そこまでの速度は出せないんだが…。
『3000…切り替え…スクラムジェット正常稼働中…。
アラート、アラート…燃料タンクの温度上昇…4500で液体水素が気化を始めました。
タンクへの断熱が不十分だったと思われます。
機体保全の為、パイロットの判断でミッションを中止…。
姉島宇宙港に帰投します。』
コースを見るとUターンして引き返してくるのか?燃料の残量が心配だ。
「こちら妹島…自走による帰還は可能か?燃料は?」
『はい、十分に可能です。』
「了解した…待ってる…ふう」
「惜しい…もう少しで5000を越えたのに…。」
「いや…あのまま行っていたら普通に行けた…」
技術スタッフ達が言う。
「燃料が気化してタンクが膨張…。
これで翼が破裂したら帰還出来なくなる。
本番では人が乗るんだぞ…そんな欠陥機体に乗りたくないだろ…。」
オレがそう言うとスタッフは黙り込んだ。
「戻ったら、機体をバラしてダメージ検査…。
燃料タンクは改良が必要かな…あ~熱試験では問題なかったのに…。
やっぱり、地上のテストだけだと限りがあるな。」
『こちらクリストファー…。
後少しで小笠原諸島上空に到着…。
旋回飛行をしつつ 余分な速度を落とします。』
燃料を殆ど使わない滑空状態でUターンし、大気の抵抗で速度を落としながらグライダーの要領で帰って来る…翼への負担を軽減したやり方だ。
そして無事 姉島宇宙港に着陸…。
「クリストファー…お疲れ…」
『お疲れ様です…ナオ…次の飛行は1週間後でしたか?』
「いや…来週の飛行は中止だろう…。
燃料タンクのトラブルなんて予想外だったからな。」
今回機体をバラして原因を特定したら、機体をトニー王国に持って行き、その代わりに対策を施した新型機が自走で送られて来るはずだ。
燃料タンクの問題となると影響が翼全体まで広がって来るので、それなりに時間がかかる。
『そうですか…残念です。
それでは 機体の電源を落とします…これは墜落ではありません。
交信終了。』
クリストファーがそう言うと、機体からの通信が途絶え、モニタが ブラックアウトした。
こちらを心配させない様に気遣う辺り、今までのドラムとは思考が違って来ている。
「さて、オレは姉島に戻るよ…」
そう言うとオレは ドアから出て、姉島へと向かうのだった。