25 (戦後処理)〇
「さて…実質の無条件降伏に持ち込めたが…これから如何する?」
村を占領し、100m先の森から残りのリアカー11台を村まで 引っ張りって来た所でクオリアがナオに聞く。
「取り合えず クオリアはファントムで 遺体を入れたリアカーを回収して持って来てくれ…まずは そこからだ。」
「分かった…」
クオリアがそう答え、ファントムを出して乗り込んで リアカーを取りに飛びたった。
「えっ墓を?」
トミーも予想外だったのだろう驚いたように言う…。
「そう…そっちの戦死者の墓穴は オレ達が掘って埋める。
で、オレら側の戦死者は オマエ達が墓を掘って埋めて貰う。
まずは互いの戦死者に対して敬意を払って埋葬する…死者を蔑ろにすると後が面倒だからな
手頃な墓地はあるか?」
「それなら私達の共同墓地に…。」
「あるのか…それじゃあ そこにしよう。
トニー王国軍…集合!!」
オレが大声を出すと 近くにいた 槍兵とクロスボウ兵のトニー王国軍が歩きながらオレの前に集まって来る。
「よし…これから相手国の戦死者の埋葬を行う。
オマエ達は遺体の回収を頼む…リアカーに丁重に載せてくれ。」
オレは 食料などを降ろして 1台のリアカーを確保し、兵士達が遺体を載せていく…。
「何でオレ達が こんな事を…。」
1人の味方兵士が愚痴をこぼす…。
「死者への敬意は人にとって必要な事だからだ。
それとコイツらの家族にも参加させるから、しっかりやれよ。」
オレは 地面に落下して首が折れたり、腕が変な方向に曲がっている遺体のパーツを元に位置に戻して、手を腹の上に乗せ それっぽくする。
オレが テロリストをやっていた時の会社は 武装警備の他に運搬、土木、特殊清掃と多岐に渡って仕事をしていた。
特に人を殺す仕事をしている オレにとって遺体の処理は非常に重要で、見つからない処理方法や戦死者の埋葬の仕方や それを行う際の心構えなど…一通りの教育を受けている。
「流石に従軍聖職者の訓練は受けていないから、天国に行けるかは分からないんだが…これで良いだろう。」
だいぶマシになった遺体を乗せたリアカーを作戦を指揮したオレが引く…。
「それじゃあ…墓地まで頼む。」
オレはトミーにそう言い、泣き始めた遺族たちや住民と一緒にオレ達は墓地に向かった。
共同墓地は 直径1kmの丸い湖の南側になり、北側に位置する村とは真反対になる。
そこは一面の花畑になっており、ここに埋める事になる。
オレ達は交代交代で 野生の動物が掘り起こされないようにシャベルで墓を深めに掘って行き、遺体を1人1人丁寧に寝かせる。
その隣ではオレ達が出した戦死者の為の穴が、現地民の竹製のシャベルで掘られている。
やっぱり 道具は、交流が無い状態でも使う目的が同じなら 似るんだな…。
「おっ来たか…早いな…。」
上空から両手でリアカーを丁寧に持つファントムが降りて来て、リアカーを降ろし、現地民の手で穴に入れられる。
オレ達は それぞれの文化の形で黙祷をし、全員の穴に土で埋めて 花の種を蒔く…。
来年あたりには この遺体の養分にして 綺麗な花を咲かせるだろう。
「はぁ…人の死体を吸っているだけあって 農耕には 良い土地なんだが、流石に合意は取れないだろうな…。」
オレがクオリアに言う。
「残念だがな…。」
2600年の世界では死体は リサイクル炉に入れられ各種元素に分解されて、各種資材となり、人の成分的に高確率で食料になる…。
それが普通で常識なのだが、ここで それを押し付けるのも問題だ。
「クオリア…行こう、死人まで出してまで占領したんだから、良い村にして元を取らないと無駄死になる。」
「そうだな…。」
クオリアは そう言うと村に向けて歩き出した。
皆で遺体を埋葬したお陰で、占領から半日程しか経っていないと言うのに住民への虐殺も無く、治安も それなりに良い。
それなりなのは 強姦事件が発生しているからだ。
クオリアに聞いたオレは すぐさま走り出す。
場所は 村で一番安全な一番奥にある竹編みのドームだ。
女性達は この中で 乳幼児を産んで育てている。
この事から血縁の親に育てさせるのでは無く、部族で子供を育てる集団育児方式だと言う事が分かる。
軽く悲鳴が上がっているドームの中に入ると、10代中盤から後半の半裸の女性が 乳幼児の前で こちらの兵にぶち込まれている。
「あっ如何ですか?ナオ隊長も…。」
連結したままの裸の兵士が普通の事のように言い、オレに女を進めてくる。
この時代の価値観では 負けた地域の男は奴隷に、女がレイプされて売春宿に送られるのが一般的で 人権と言う概念は まだ無い。
「あ~一応オレ妻帯者だし…」
根本的な嫌悪感を現地文化として飲み込み、軽い言葉で拒否しながらオレは強姦されている女性の身体を遠目で確認して行く…。
それぞれ 手で身体を押さえ付けられて動けなくされているが 顔や身体に暴行の痕は無く、比較的マシな状態だ。
昨日から死と隣り合わせの戦場にいて生存本能が刺激され、子孫を残そうとしているのだろう…戦場では そこまで珍しい事では無い。
通常の軍なら同じ環境にさらされた 女性兵士とヤるか、任務明けに売春宿などで発散させてやるのが一般的なのだが、今の状況では それも望めない…。
そもそも それを罰する法律も それを強制する法執行機関も無い状態だ。
ジガが入れば もう少しは上手くやれるのだろうが、今後の士気の維持の為にも 今だけは 容認するしかないだろう。
「は~…オレは無理やりは嫌いだ…それに女を殴るのもな。
大切に扱え…」
「「はい!!」」
兵士達は元気よく返事をし また女を抱き始めた。
「は~やれやれ…。」
「良いのか?」
オレが 外に出た所でクオリアが言う。
「良くないが 今の所は 現地の価値観だと思うしかない…。
何事も綺麗には収まらないし、戦争と強姦は 悲しい事に ほぼセットだ。
もちろん、これで良いとも思っていないから 後でモラルも含めて教える事になるんだろうが…これはジガの担当かな。
クオリア…連絡は取れるか?」
「ああ…今連絡した。
2人共 来る見たいだ。」
「分かった。」
クオリアは量子通信で月の裏側にあるホープ号を中継し、それに繋がっているジガとハルミに連絡を入れる。
量子通信とは 2つの通信機同士の空間を極小のバルク空間で繋いで、すぐ隣にある状態にし、そこの間を光速以下の光通信で通信する方式だ。
これにより通信の傍受、妨害の類は物理的に不可能。
ほぼノータイムで大容量の通信が出来るので非常に便利な通信方法だ。
「それでナオは如何なんだ?」
「オレか?
知っているだろう…オレは大人の女が苦手だって…。
かと言って子供に手を出す程 モラルを吹っ飛ばせる訳でもない。」
「報われないな…。」
「まぁその代わりに オレにはクオリアがいるからな。」
オレはクオリアを見て言う。
感情に流されずに常に論理的に思考出来る頭を持ち、年齢の問題をクリア出来る少女は人間にはいない…。
そう考えると機械人のクオリアはオレの好みに どストライクな訳だ。
オレが そんな事を考えていると 周りに影が差し込み、上を見ると上空に1機のファントムが静止している…竹の森の拠点からジガとハルミだろうか?
「早いな」
竹の森の拠点とこちらまでの距離は35km…。
それを時速1000kmを出せるファントムで2分ちょい…加速と減速に時間を取られても5分も掛からない。
広場にファントムが着地し、中からジガとハルミが降りて来る。
「済まないな…急に呼んで」
「どっちにしろ、負傷者の手当てをする為に来る予定だったからな…。」
ハルミは そう言うと、早速 負傷者の手当てに取り掛かる。
「それで、レイプが発生しているのは…。」
ジガがオレに聞く。
「ああ…あそこ…兵の士気を維持しつつ、如何にか穏便に抑えてくれ。」
ドーム型の竹の建物をに指を差してオレが言う。
「分かった…それと検査も必要だしな。
厄介な事にならないと良いだけど…。
あーそれと…これは真面目な話なんだが、避妊は させないで良いんだよな…。」
ジガが直球に言う。
「まぁ…人口が圧倒的に足りないからな…。
今の状態だと6人ずつ産んでもらっても20万人超えるのに7世代も掛かる。
だから制限を設けずに産まれた子供は全員 政府が責任を持って育てる形にする。
ここの文化も そう見たいだしな…。」
子供は 親が子供の頃に いくら金を投資したかで、就職した後の収入が決まる。
つまり、低所得者の親の元に生まれれば 低所得者になり、高所得者の元で生まれれば 高所得者になる…親ガチャだ。
この前提で考えるなら 一番の大金持ちな 政府が膨大な金を使って子供に投資をし、個々の性能を最大限に伸ばして育てるのが一番優秀な人材に なるはずだ。
「子供の頃から思想教育をして、国の行動に疑いを持たせなくするのか?」
オレの隣にいる クオリアが言う。
確かに この手は独裁国家が子供を洗脳する時に使う手だ。
ただ、義務教育などの教育で国の思想を植え付けられる以上、遅いか早いかでしかない…結局は 使い方の問題だ。
「悪く言えばそうなるが…。
だったら教育方針や教育内容を国民に公開すれば良い。
そこで問題が有れば修正する…。」
「ふむ…なら問題無いが…。」
「てか…何でナオは一括で育てる事に こだわるんだ?
ウチらが支援をして両親が子供を育てても良いんじゃないか?」
ジガがオレに聞いてくる。
「………統計上、離婚件数は 年間20万9000件…。
結婚した35%のペアが離婚して、慰謝料をめぐる裁判や調停による家庭環境の悪化…経済的な問題…それに巻き込まれる子供達…。
男女共に 5人に1人が浮気し、しかも浮気相手の子供を育てさせられる托卵行為すら普通にする。
もう ここまで来ると人間の本質的に1人を永遠に愛する事は出来ない。
なら、誰とでも好きなだけヤって、誰の子供を産もうが関係ない社会にしてしまった方が 一番問題が無い。」
「それは体験談か?」
クオリアが言う。
「………ああ そうだよ…。」
オレは 母親 勝子と、その浮気相手…と言うか本命の男の子供で、勝子は妊娠後、オレの養父の直樹と寝た事で 妊娠したとしてデキ婚…。
オレは 直樹と勝子の子供の直人として育てられた。
まぁ実際は ナオキは 今から300年後のオレなので、托卵すると分かっていて俺に媚びてくる淫乱な憎っくき母親と文字通りの母親と性行為し、自分を育てる為に勝子と結婚する事になる。
勝子は特殊作戦群のナオキの金を浮気相手に貢ぐ事が目当てで、ナオキは自分を生み出して育てるのが目的…そこには打算だらけで愛の類は 一切無い。
「乱交 文化の土地だと性感染症が発生した場合 あっと言う間に広がるんだけどな…。」
ジガが言う。
「分かっている…そこはジガとハルミに頑張って貰うしかない。
現実の問題として 全力で産んでもらわないと間に合わない数字だし、例え20万人が揃っても、馬鹿じゃ意味が無い…。
産まれた全員が 大卒程度の賢者になって貰う必要がある」
「分かったよ…それじゃあ 行ってくる。」
ジガが竹のドームに向かって走り出す。
「クオリア…。
もしも、オレがヤバイ独裁者になったら、その時は独裁国家の慣習に則ってオレを殺せ…オレの殺傷を許可する。」
クオリアはロボット三原則に縛られており、人に危害を加える事は出来ないのだが、本人が命じるなら別だ。
「了解した。
とは言え、そうなる前に私達が止めに入るがな…。」
「それじゃあ…オレは 村長のトミーに言って来る」
「なら、私は保存食を使って料理を振る舞おう…。
住民に味を覚えさせれば 食事を対価に言う事を聞いてくれるかも しれない。」
クオリアは オレにそう言うと リアカーに乗った窯の元に向かって行った。
「私が村長を?」
村長の家の中で座るオレにトミーが言う。
「ああ…占領国のトップが命令しても、村民が付いて行かないだろう。
だから村民の信用があるトミーに引き続き、村長を頼みたい。」
つまりは 名目上の村長をオレ達が間接的に操る事で成立する傀儡政権だ。
「私は いずれ この村を独立させるつもりだ…その私が従うとでも?」
「だったらトミーが 従う国を造るさ…これだ。」
オレは 交渉材料として持って来た ペミカンの瓶詰をトミーに見せる。
「これは?」
トミーが初めて見るガラスの容器を見てオレに聞く。
「ペミカンと言う保存食だ。
この器はガラスの瓶…この保存食は10年は腐らずに持つ。」
「10年も?」
「ああ…自然に任せている以上、森の実りが少ない不作の年が有るはずだ。
これが あれば餓死者を出さずに済む。」
「私が村長になってから餓死者を出した事は無い。
アトランティス湖から川に流れて来る魚があるからな…。」
「アトランティス?」
「ああ…この村の名前だ…水の都アトランティス…。」
「伝説じゃ無かったのか…。」
アトランティスは 古代高度文明の名前で、種子から生命エネルギーを生成出来たり、空を飛んだりと科学文明とは別の何かを発展させた文明と言われていて、宇宙人やら未来人やらのSF設定も持ち込まれている超文明だ。
確かに 伝承にある植生などの条件から この辺りの島も候補の1つとして取り上げられていたが…まさか本当にあるとはな…。
「ふむ…森と川の資源で十分生活出来る訳か…。
じゃあ…何で人口が100人程度しか いない?
食料の量に上限が あるから人が増やせないんじゃないのか?」
「死ぬ人が多いからだ。
この村は未熟児が多いし、子供は病に掛かりやすい。
狩りに言っても少ないが人が死ぬ。」
「なるほど…未熟児か…それじゃあ こちらは 治療が出来る医師と武器や保存食などの快適な生活が出来るようにする道具を提供する。
その代わりにアトランティス側からは 労働力をくれ…道具を作るにしても人の数が足りない。」
「だが、こちらも食料調達に人手がいる。
多くは割けないぞ…。」
「分かっている…。
とは言え、農耕…。
あ~植物をオレ達が世話をする事で、効率良く食料を育て行くには 人手が必要なんだが…。」
「農耕か…だが、それは無理だ。」
「何故だ?」
「ウサギがいるからだ。
植物を育てても 片っ端から食われる」
「あ~」
おおよそ の事情は 分かった。
ウサギは繁殖力 適応能力が非常に高く、万単位のウサギが農作物を食い散らかして畑を全滅させてしまい、食料がウサギしかない食料危機になった事は 非常に有名な話だ。
周辺諸国は ウサギが国内に侵入しないように金網を張って国境を封鎖。
ただ 金網を張っても 土を掘って国内に侵入してしまい、人間とウサギの戦争が勃発した。
軍が99%のウサギを殺す薬を作って99%のウサギを殺したが、その薬物に耐性を持った1%が生き残り、数年で同数に戻り、その薬物は効かなくなる。
その後も あらゆる薬物で絶滅寸前まで追い込まれるも 次々と耐性を獲得して行き、薬殺が不可能な最強の個体が大量発生してしまった。
そして、この問題の原因は 外国から狩猟用に輸入して檻から逃げ出した3匹による物なのだから本当に恐ろしい相手だ。
「分かった…そこも含めて改善だな…。
とは言え まずは…食事かな。」
空が赤く染まる夕方になりつつある中、クオリアとジガが振る舞うペミカンとウインナーを住民達が 美味そうに食べながら互いの文化の交流を深めて行き、この長い一日が終わった。




