10 (小学生からやり直し)〇
保育院…6人部屋…。
「あさだよ~おきろ~」
子供達が部屋の中に入ってジャンプをしながら言う…非常にうるさい。
「はい、起きてます…先輩方は他の子供達を起して下さい。」
「うん、わかった」
子供達はそう言いながら出て行く。
「グリース 子供の扱いが上手いな。」
ミラーが言う。
「僕には 小さな弟妹がいましたから…よっと」
グリースは ベッドから降りて服を着替え、俺達も次々と着替えて行く。
都市長に 救われた俺達は、右頬に縦線が3本、横に1本の入れ墨を入れられている。
まだ罪を許されるには程遠く、周辺の人達は非常に警戒されているが、ここの子供達は そんな事とは無縁だ。
外の情報が欲しいのか、好奇心が旺盛な子供達は 俺達が外の話をすると興味そうに聞いて来る…保育院での友好関係は良好だ。
「それにしても、大学を出ているオレ達が小学校からやり直しか…」
ステンが服を着ながら言う。
「仕方ないだろう…国の事を話せない以上、俺達には 学歴が無いんだから…。
それに 外交島で移民申請した場合、トニー王国 移民学校で3年は通わないと国民になれない。
それに比べれば、経歴が白紙になったとは言え、最初から国民に迎えられたのは結構大きい。
年3回の昇級試験をクリアして行けば、最短だと1年で この学校を卒業出来るしな…。」
俺がステンに言う。
入学初日にトニー王国語が それなりに扱え、食事にトイレ、シャワー、着替えを自分で出来る為、赤ん坊用の保育院は速攻で卒業。
今は主に10才以下の保育院で子供達と生活し、ここでは『幼年学校』と呼ばれている小学校に通い始めている。
ここを卒業すれば 義務教育が終了し、職業訓練校で 自分の興味に合わせて会社に入社する為に必要な研修資格を取ったり、皆とクラブ活動をするのが ここでの学生生活になる。
国が子供を全員育てている為、学費は全部無料…。
職業訓練校には 年齢などの入学制限も無く、誰もが仕事について学べ、クラブ活動で遊べる。
この都市の地域コミュニティは、主に 学校で行われているらしい。
「さあ、今日も学校で頑張ろう…。」
俺は皆を起しつつ そう言うのだった。
食堂。
俺達は銀色のトレイに器を乗せ、フリーズドライ加工され真空包装された野菜やベーコンを出して乗せ、熱湯をかける。
野菜がベーコンが急激に水分を吸って大きくなり、野菜スープとカリカリベーコンが出来た。
それに ここでの主食である緑色のポレンタを保育士が器に入れ、朝食が完成。
「いただきます」
俺達は いつも通り 朝食を食べる。
緑色の粘性の高いポレンタをスポークで食べつつ、野菜のスープ、ベーコンなどを食べて行く。
予め知っていたが これは全部ミドリムシを加工して出来たソイフードと呼ばれる合成食品だ。
しかも食材のコストが 畑の作物の100分の1位で出来るらしい。
外交島での安いと言われたいたソイフードも、かなり ぼったくった値段になっていた事になる。
味は 本物を食べている俺達からすると少し違和感を感じるが、それを受け入れてしまえば 非常に美味く、日常で食べる分には 不足はない。
「ごちそうさまでした」
そして、皆一列に並んで流しで歯磨き…。
潜水艦でも使われているプラークチェッカーを使って歯を赤く染め、赤い部分が無くなるまで 歯磨きをして行く…。
ここで習慣にする事で、将来の虫歯の患者を大幅に減らせるとか…。
歯医者などの医療機関の費用も完全に国持ちの為、健康や虫歯への教育は徹底的に刷りこまれ、国が支払う医療費の負担を減らす狙いだろう。
「いってきまーす」
保育士に見送られながら俺達小学生は、近くの幼年学校へと向かって行った。
幼年学校の学力は非常に高い…特に理数系。
6才児が科学を高レベルで把握しており、一部では 俺達より理解が深い。
ここを卒業する子供達は 化学式や分子構造を完全に理解していて、理科の実験には 抗生物質などの薬品の調合も行っている。
10歳までに 大学卒業相当の知識を教え込まれている訳だ…その為、トニー王国民は教養が深い。
俺が好きな授業は 国語…。
宇宙船の故障で地球に降りた宇宙人が、トニー国を建国する建国神話は、非常に興味深い。
道具の神であるエクスマキナ教を信仰するだけあって、建国時に使われた数々の道具の設計図が残っており、それを分かり易く物語に組み込まれ、映像作品にも されている。
そして、宇宙船を動かす文明なら当たり前の技術なのだろう。
俺達は全然知らなかった 核分裂を使って莫大な熱量を発生させ、その熱で電力を発生させる核分裂炉が 建国神話の割と初期に実用化している。
だが、トニー王国から採れる核燃料の濃度が低い為、今までは発電用とでしか使っていなかったのだが、こちらが核分裂技術を兵器に転用してしまった事で、トニー王国に核分裂の兵器転用の発想が生まれてしまった。
子供達によると、軽量で小さいトニー王国の無人戦闘機に積める火力を上げる為、ミサイルの弾頭に核が使う研究が進んでいるとか…。
やっぱり上が言う様にトニー王国は大量破壊兵器を保有していた。
ただ唯一の救いはトニー王国は開発に熱心だが、好戦的な国では無いと言う事だろう…。
それで ここでの最大の難題は コンピューターの授業だ。
キーボードと呼ばれる大量のボタンが付いたタイプライターで、コンピューターに入力指示を出すと 結果が画面に映し出される物で、この分野に関しては MPが比較的 対応が早いが、俺達が完全に知らない未知の道具だ。
これに慣れるのには時間が掛るだろう…正直、1年で卒業出来るか怪しくなって来た。
学校は 9時に始まり、12時~13時に1時間の昼食休憩…。
その後2時間勉強して、今日最後の授業は体育の授業。
パンパン…。
射撃場でイヤーマフをした俺がリボルバーを構え、25m先の吠える熊が描かれた紙の的に向かって撃つ。
弾は9mmで威力不足を感じるが、反動も少なく当てやすい。
俺が普段使っているハンドガンは オートなので、リボルバーは初めてになるが 射撃訓練は慣れている。
ただ…問題は隣だ…。
「熊だ!熊が現れたぞ!!」
先生が見守る中、少年が声を上げ、メンバーであろう残り6人の子供達が すぐに横一列に集まる。
「構え!!」
少年が熊の紙にリボルバーを向け、次々とメンバー達が熊にリボルバーを向ける。
「撃て!!」
パパッ、パパッ、パパ……。
両手でしっかりとリボルバーを握っている子供達が、熊の紙に容赦なく合計36発の弾を撃ち込んで行く…。
そして、シリンダーを外して弾の排莢…弾の装填…シリンダーを戻す。
この動きは非常に滑らかで、銃の安全管理も含めて 手慣れている事が分かる。
「こんな小さな子供が銃を ぶっ放しているなんて 本来なら異常なんだけど…。」
グリースが言う。
「とは言え、ここの外に出れば、危険な野生動物が野放しで いるらしいからな。」
ステンが言う。
トニー王国の本島の地上は、道路以外 整備がされていない 無秩序な自然が広がっており、当然 外に出れば 野生動物からの攻撃も想定される。
しかも、ライフルやショットガンは持っていないが、トニー王国民は 基本的に腰にリボルバーを携帯している アメリカの様な自己防衛前提の社会だ。
なら、子供の頃から自衛の手段を教えておいた方が結果的に良いのだろうか?
そんな事を俺は思った。
さて、午後3時に学校が終わり、子供達は下校。
子供達は 人さらいを 気にする事も無く、寄り道をしつつ自由に保育院に帰宅。
6時までは自由時間だ。
リビングでは 大型テレビに接続されているテレビゲーム機にキーボードとトラックボールを接続して子供達がテレビゲームを楽しんでいる。
ここの子供達にとって コンピューターは 娯楽らしい。
MPが興味深そうに4分割されたテレビ画面を見つめている。
子供達がプレイしているゲームは、相手のドラムを銃で攻撃する対戦ゲームだ。
なるほど…こうやって子供の頃から無人機に慣れさせているのか…。
夜、食事後。
俺達は子供達と大きな一緒に風呂に入る。
子供用だからか水深が浅く、半身浴状態だが それなりに落ち付く。
「何と言うか、未だに この文化は慣れませんね…。
しかも幼い男女と一緒の入浴…性的虐待として捕まらないか心配です。」
法律に詳しいグリースが俺に言う。
我々が住んでいた国では 風呂は1人で入り、複数人と入る習慣はない。
「まぁ それがここの文化だし…。
これは ある意味で平等なのか?」
トニー王国の法律では、年齢や男、女の区別が無く、すべて『国民』と言う区別しない主語が使われる。
こうなった理由は、トニー王国を建国した宇宙人が 地球に来る前の生活では、肌の色の違いだけでは無く、見た目も違う様々な特徴を持つ種族と一緒に生活していたからだと言われている。
例えば、18歳以下の人との性行為を禁じる法律を作った場合、生後2歳で成人レベルの知能を持つ機械種族は、16年も無意味に 待たなければならず、かと言って普通の人間が2歳児との性行為をした場合、確実にアウトだ。
なので年齢で区別する事が出来ず『双方合意の無い性行為を しては ならない。』と言う合意さえ取れていれば、年齢も種族も性別も関係ない法律になってしまった訳だ。
トニー王国の法律の大前提には この考えがあり、男も出産する事を想定されている法律となっている…実際に過去にそんな種族の宇宙人がいたのだろうか?
洗い場では ある程度 成長した子供は自分で身体を洗い、自分で洗えない子供は年長者の子供が洗っている。
流石に年齢1ケタでおっ始める子供はいないが、やや過剰なスキンシップが取られている。
「ふぁあ 湯船も悪くありませんね…」
「あの時、死なないで良かった~」
ステンとMPが半身浴をしながら言う。
「オマエら適応はやいな~」
「はい、触らない 触らない、後10年位 経ったら おじさんと遊ぼうね~」
ウィングがウィングのデカいブツに触っている幼女を引き離して言う。
「なんか皆 楽しんでいるな。」
「そうみたいですね…。」
さて、食事を取って歯を磨き、自由時間…消灯時間が午後11時。
就寝時刻は 午前0時だ。
「おやすみなさい~先生」
「はい、おやすみ~」
子供達が保育士の先生にそう言い、部屋に戻って行く。
文句も言わずに皆が部屋に向かっており、非常に統率が取れている。
「それじゃあ、俺達も寝るか…あ~せんせーおやすみ?」
「はい、おやすみ~また明日…」
俺が保育士の先生にそう言い、部屋に戻って行った。
「はぁ…異文化って慣れないな…」
俺はベッドに寝転がりながら言う。
「でも、悪くなかっただろ」
スナイパーの言葉に俺は天井を見て「ああ」と一言答えた。