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09 (温情)〇

 裁判所は警察署の中にあり、この部屋が使われる事は滅多に無い…。

 ここの法律は他の国と比べて驚くほどシンプルで緩いし、しかも産まれた子供は 政府が全員引き取り 教育をしてしまうので、そうそう犯罪が起こる事がないし、犯罪が起きたとしても仕方がない理由が大半だ。

 それに犯罪に対しての見方も我々とは 大きく違う。

 我が国の警察だと 法律違反をする人が悪いとして 捕まえて罰を与えるが、その原因を作った環境を治す事はない…。

 その為、犯罪者が発生する原因を排除出来なく、犯罪者がいなくなる事は絶対にない。

 対してトニー王国では『人は金が無くなったり 腹が減れば 物を盗み、生活不安が溜まっていくと ちょっとした事で怒り出し、それが 最終的に殺しに発展する』と言う考えの元、法律違反を起こすような環境を作る方が悪いとする文化になっている。

 なので、トニー王国で 犯罪が起きてしまうと 法を犯した犯罪者の過去の記録を徹底的に洗い出し、犯罪を犯す切っ掛けとなった出来事を特定して、しっかりと対策をし、次の犯罪者が出ないようにする為、非常に面倒な事になる。

 この考え方は他国では不可能だ。

 と言うのも、この環境の原因を辿って行くと 必ず 金の不足にたどり着き、銀行や政府の失策が原因となるからだ。

 政府も見た事も無い犯罪者の責任を負うなんて したく無いだろう。

 そして、領地内の犯罪行為は 領主の責任として都市長に裁かれるのが、この国の文化だ。


 法廷。

 法廷の傍聴席には空席があるが、昨日捕まったと言うのに結構な客が来ている。

 傍聴席から見て右側が検事側、中央が裁判長席、左側が弁護士側で、現在 弁護士側の席は空席だ。

 キャプテン()達は弁護士側にある被告人席に座る。

「弁護士がいないって…ひでぇな…」

「まぁやる人が いないんだろうさ…」

 法律違反者が殆ど出ない ここでは 弁護士の仕事は成り立たない。

 と言うかトニー王国の法律は小冊子で200ページしか無く、国民の全員が法律を把握している為、弁護士が必要無いのだろう。

「その代わり弁明の機会を多く設けられるそうですよ…。

 つまり、僕達が弁護士になりますね。

 法律書も持って来ましたし…」

 グリースがトニー王国の法律書を持って言う。

 トニー王国の法律書は 単行本サイズの本に収まる位で、子供でも分かる分かり易い内容で、ページ数は200程度だ。

 我々の撲殺が出来る程 重い辞書が複数必要な国とは 明らかに法律の数が違う…。

 つまり細かい指定は せず、大きな枠組みの法律が多く、細かい所は現場の裁量なのだろう。

 俺達は弁護士側にある被告人席に座らされ、裁判長…いや ここの都市長が入って来る。

「それでは裁判を始めます。

 検察側…」

「はい…今回は Sクラスの犯罪、外国人による不法入国です。

 最低量刑は 入れ墨4本刑…最大量刑は死刑となります。

 彼らは海岸から泳いで潜入…フェンスを破り、トニー王国領土に不法入国しました。

 現場はドローンによる熱源センサーで捉えています。

 これが現場の映像です。」

 検事がキーボード(ボタンが沢山ついた板)を操作し、オシロスコープのブラウン管の画面に映像を美しい映像を写し出す。

 そこには、空から見た森の中にいる俺達の映像が流れていて、少し色が明るくなっている。

 俺達の身体の輪郭には 黄緑色の線で強調され、分割した画面端には俺達の顔が表示されている。

 如何(どう)やら 俺達は ずっと監視されていた様だ。

「続いて、夜明けと同時に移動…。

 地下都市アトランティスと港街を繋ぐ大通りで待機。

 トラックの通過の後に移動…アトランティスの出入り口である倉庫に到着。

 ここで警備用のドラムに見つかります。

 ドラムは他の都市の住人だと判断…如何(どう)やら観光客だと判断したようです。

 警備用ドラムから地下に報告を受け、彼らの追跡と監視から情報を得ていた私達は、エレベーターを降りて来た彼らを拘束し逮捕…今に至ります…。

 そして、確定ではありませんが 彼らには モールス信号で外交島と情報のやり取りをしていた疑いもあります。

 こちらが回収した通信機です。

 検察としては、機密防止の為にも彼らには死刑が相応しいと判断しております。

 正しい判断をお願い致します…以上です。」

「結構…被告人…今の検察の発言に対して異議はありますか?」

「いいえ ありません。

 こちらもカメラで監視されているとは 思っていませんでした…お見事です。」

 俺が都市長に言う。

「では罪を認めると…。」

「ええ…我々は全面的に罪を認めます。

 ただ…我々に都市長の お情けを頂ければ と思っております。」

「あなた方が国の命令を受けて 派遣された軍人なら、我々は あなた方をトニー王国軍に引き渡し、捕虜として丁重に扱われ、相手国に身代金を要求します。

 ですが、あなた方は派遣された国はおろか、自分の本名すら言わない。

 こちらは あなた方が工作員だと確信していますが、あなた方が それを否定する以上、民間の法律で裁くしかありません。」

「申し訳ありません…私達は 何処の国から派遣された訳もない、ただの不法入国した民間人です。

 そして、例え 都市長のお考えが正しいとしても、引き取り手は いないでしょう。」

「でしょうね…。」

 都市長が苦笑いしながら言う。

「それで申し開きは ありますか?」

「そうですね…我々が不法入国した事は確かに問題ですが、物理的な損害はフェンス位です。

 俺達はドラムも人も あえて殺していません…。

 あなたの国はフェンスを破損されただけの我々を、死刑にするのですか?」

 俺が都市長に言う。

「ですが、不法入国は重罪です。

 そして、このまま彼らを逃がせば、こちらの どんな情報が相手の国に渡るか 分かりません…。

 最悪、危険だと判断されれば また無益な戦争を起こしてくる事も十分に あり得ます。

 未来で起こすであろう問題に対処する為に、ここで殺しておくべきです。」

 検事が声を荒げて言う。

「この国では、犯罪者より、犯罪を起こしてしまった環境を重要視するのでは無いのですか?

 我々は 犯罪を犯した経緯や どんな環境で育ったのか まだデータを提供していません。

 ここで殺してしまっては、次の不法入国を防げなくなりますよ。」

「言っている事が無茶苦茶だ。

 彼らは 本名すら教えない非協力的な犯罪者で、しかも外国人だ。

 外国の内政に干渉して、こちらの都合の良い様に法律を変える事が出来ない以上、彼らのデータに価値はありません。」

「確かに内政干渉は出来ませんが、データがあれば 外交努力で防げるかもしれません。

 生かしておく価値はあると思いませんか?」

「リスクが大き過ぎます…都市長ご決断を…」

「そうですね…では聞きましょう…。

 助命したとして、その後は 如何(どう)するつもりでしょうか?

 国に帰るつもりですか?」

「いいえ…我々は 国には帰れません…。

 移民として この国に迎えて貰う事となります。」

「ふむ…移民ですか…。

 私達が国民として迎えてしまえば、本島の侵入に対して正当性が持たせられる…それに30代の労働者は極端に少ないですよね。」

「確かにそうですが…まさか助けるのですか?」

「ええ…死刑は いつでも出来ますから…。

 ですが、今殺してしまったら彼らの働きを見れ無くなってしまう。

 それに 外界との接触を断って独立性を維持している私達には 外からの刺激が必要だと考えています。

 なので判決…入れ墨刑4本…頬に4本の入れ墨を入れて下さい。

 それと彼らの学校の手配を…後、首輪は 外さない様に…何かあれば私が責任を持って首を吹っ飛ばします。

 以上…」

 そう言うと都市長が法廷から去っていく。

「ありがとう ございます。

 期待に答えらられる様に頑張ります。」

 俺は都市長に そう言い、その後 俺達は、保育院に放り込まれるのだった。

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