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06 (偶像崇拝-ぐうぞうすうはい-)〇

 小笠原諸島、母島。

 ジェットエンジンの爆音が定期的になる宇宙港がある姉島から 北に10km程度の距離にある母島では、巨大なショッピングモールが建築されている。

 トニー王国のコンテナハウスを重ねて作った 3階建ての巨大なショッピングモールで、商品の生産施設に、学校、病院、役所、日用品から趣向品までが幅広く売られ、フードコートがあり、映画、ゲーセンなどの娯楽施設もある。

 ここが 島民の職場であり、生活拠点だ。

 この島の元の人口は0人で、主に ここに住んでいるのは トニー王国軍人、研究員、その家族などになる。

 トニー王国人の子供は ユートピア島 本島でトニー王国政府が育てる都合上 ここには いないのだが、空襲で親が死んで餓死しかけたり、親が食い扶持(ぶち)に困って格安で売られてた日本の子供達が保育院で生活をしている。

 ちなみに 家の労働力として使える男児は売られていなく、買えたのは まだ労働力として使えない 年齢1ケタの女児だけになる。

 まぁ今の日本では 10才以下で婚約や嫁がされる なんて事も珍しくはないし、ナオ(オレ)みたいに ロリコンを(こじ)らせているヤツでも 衣食住が保障出来るなら まだマシ…と言う考え方だろう…何と言うか イギリスの教会を思い出すな…。

 と言う訳でオレは『母島保育院』が建て、男女60名がトニー王国の教育を受けつつ過ごしている。

 今の日本は まだその日を生きるので精一杯な環境なので 学者は必要ないが、いずれ来る日本の復興期には この子達が大活躍するだろう。


 母島保育院。

「おはよう ナオせんせー」

「皆おはよー」

 ナオ(オレ)の言葉に舌ったらずの幼女達が元気いっぱいに答える。

「…………。」

 ロクに挨拶をしない無口の14才の少年が歯を磨き、席に着く。

 彼は ここの最年長で野坂(のざか) 晴太(せいた)

 4才の妹が栄養失調で死に、妹の後を追うように一切の物を食べず、駅前で餓死 仕掛けていた所を たまたま訪問医療に来ていたハルミに無理やり救われ、オレがエアトラで回収した。

 彼のポケットの中には 一般労働者の月収位まで高騰したドロップ缶を持っており、その中に妹の遺骨を入れている。

 晴太は 海軍大尉の父親を持つ裕福な家庭の出身だが、父が死に、最後まで信じていた国には裏切られ、今は やる気も無く、ただただ 生かされている状態であり、放っておけば、また妹の後を追って死に出すだろう。

「もう…せいた ちゃんと 働いてよ~。

 おにぃちゃん なんでしょ…」

 広島で原爆を凌いだ 楓ちゃんが、大鍋で大量のポレンタを作りながら晴太に言う。

「まぁ今の晴太にそれを言うのは酷かな…」

 隣で料理をしているオレが楓ちゃんに言う。

 戦後の日本で うつ病なんて珍しくも無いのだが、精神論が普通の日本では うつ病は怠け者をして扱われ、更に周りが患者を追い詰めて症状を悪化させる事も普通にある。

 向精神薬と言う名の軽い麻薬を調合して患者に飲ませる薬物療法が効果的ではあるのだけど、根本の問題を解決しない限り、この病気は永遠に続く…。

 いくら薬を飲んで気分を誤魔化せた所で、日本がアメリカに敗戦した事実は変えられないし、餓死した妹が復活する事も無いからだ。

 友人達が次々と天寿を全うして 死んで行った オレと一緒で、もう これは慣れて貰うしかない。

「それにしても、何でこっちに来たんだ?

 お母さんは 生きているだろう…捨てられたのか?」

 オレが楓ちゃんに言う。

「ううん…あこ じゃあ、勉強 できない…。

 かえで 科学者に なりたい。

 ピカドンで みんなを 幸せ にするの」

「は?核兵器で?核で脅して この国を統率する気か!?

 いや、原子力発電か?」

「うん、たぶんそれ…」

「日本に原発が出来るのは 23年後の1970年…。

 確かに 今の内に学んで行けば、第一線で活躍も出来るか…長い道のりに なるだろうけど…。」

「でも、ピカドンから でんきを作れれば、ピカドンで消された人の 何十倍も、何百倍もの人を しあわせに できるんでしょ?」

「まあ これから人口が大幅に増えてエネルギーが 不足して、原発が絶対に必要になって来るからな…。

 まずは 科学の勉強をして 将来は原発職員かな…結構 面白い人生に なりそうだ。

 さっ出来たよ…皆 取りに来て~」

 オレがそう言うと、比較的 年長者達がポレンタが入っている大鍋を持ってテーブルに置き、ステンレスの銀色プレートを持っている子供達に よそって行く。

 他には ミドリムシで再現した緑色のコーンスープに、肉類は ミドリムシ ハム…サラダは ミドリムシのコールスローだ。

「いただきます~」

 子供達がスポークを使ってバクバクと食べて行く。

 ミドリムシは 着色していない為 緑一色だが、味覚剤の配合が完璧の為、どれも普通に美味しい…まぁオレは食べられないんだけど…。

 ただ この子達 日本人は 米文化の為、米が食べられない環境には少し不満。

 日本の米を再現したミドリムシ米は、日本の食糧支援に多くまわしているので こちらには 中々届かない…。

 まぁこれは 慣れて貰うしかないかな…後、いずれ日本に戻るなら箸の使い方も教えないとな…。

 オレはそう思い、子供達を学校に向かわせる為の準備をするのだった。


 小笠原諸島は海が近い為、塩害が酷く作物が育ちにくい…当然 花畑もだ。

 見晴らしが良い海岸の上には 色とりどりの造花の花畑が広がり、花崗岩(かこうがん)で作られた慰霊碑(いれいひ)が建てられ、そこには 日の丸と歯数12の歯車の日本とトニー王国の国旗のマークが掘られている。

 ここに遺骨が埋まっている訳ではないが、ここが母島の人達の共同墓地で、死者はここで眠っている…と言う設定だ。

 この花崗岩(かこうがん)に霊界通信の機能は 無いのだが、生者が ここで死者の事を思う事で精神的な安定を図る心理学的にも重要な場所になる。

 特に どこで死んだかもわからず、何に祈れば良いのかも 分からない今の この子達には必要な装置だ。

 ぞろぞろと母島の住民が集まり、保育院からの子供達も集まって来る。

 喪服(もふく)も無く 服装も皆バラバラだが、今日は慰霊碑(いれいひ)完成の為の式典だ。

 オレは慰霊碑(いれいひ)の前に立ち、皆を見る。

「トニー王国の神、エクスマキナ神は道具の神で、死後の教義は無い。

 死後は観測が出来ず、また同じく魂も観測出来ないからだ。

 だから、この祈りも無意味になるかもしれない。」

 オレは振り返り慰霊碑(いれいひ)に向かって胸に手を当てる。

「オレ達は 亡くなった あなた方の記憶を忘れず、より良い生活になる様に努力し、次世代に あなた方から教わった技術を伝えて行きます。

 黙とう…」

 1分間の黙とう…。

 トニー王国人が胸に手を当てて目を閉じ、死者を思い祈る。

 日本人の子供達は 手を合わせ、死んだ家族を思い出し、涙を流しながら彼らの魂の安寧を祈る。

「黙とう終了…最後に晴太…。」

 オレは ネックレスと取り出す。

 ネックレスには四角い枠に はめられた黄色に輝く宝石が入っていて、それがチェーンで繋がっている。

これは(こらぁ)?」

「ドロップ缶の中の妹の遺灰から作ったダイヤモンドだ。

 子供達の家族の分も作りたかったんだが、遺灰を持っていたのは晴太だけだったからな。

 死者に引きずられる事も問題だが、死者を忘れてしまう事も また問題…。

 今後は この妹の宝石と一緒に生きるんだ。」

 オレは ダイヤモンドのネックレスを晴太の首にかけてやる。

 ダイヤの大きさは1cm四方はあり、確か…2000年代の日本で調べた時だと軽く300万円位は していた はずなのだが、トニー王国では炭素 加工技術が発達している為、遺灰からダイヤモンドを作る事も安価に作れる。

 スペースコロニー時代でも そうだったが、トニー王国も面積が小さく、1人1人に墓を作っていたら、数世代で国中が墓だらけになってしまう。

 その為、建国初期から慰霊碑だけの共同墓地文化があり、今では死体は ゴミや排泄物と一緒の廃棄物としてリサイクル施設で一緒に融かされ、各物質ごとに抽出され、都市の生活物資としてリサイクルされているので 残された遺族には何も残らない。

 その為、愛する人を何らかの形で残して おきたいと考える人が、死体から炭素を抽出して宝石に加工し、首にぶら下げる訳だ。

 ちなみに 黄色やオレンジのダイヤモンドは遺灰の中の窒素などの不純物を抜かずに そのままダイヤモンドに 加工した物で、透明のダイヤモンドに比べて遺族には好まれている。

「おおきにっ……大切にするわい」

 晴太が妹のダイヤモンドを両手で優しく(つか)み、涙を流しながら言った。


 数日後 保育院。

「そんじゃあ せんせー 学校 行ってくるなぁ」

 ダイヤモンドのネックレスをした晴太がそう言い、楓ちゃんを連れて保育院を出ようとする。

「はいよ~忘れ物をしないようにね。」

「分かっとる それじゃあ 楓 行こ。」

「うん…ナオせんせー今日もまた エンジンのテスト?」

「いや、飛行機が届いたから本格的な組み上げ、日が沈むまでには帰って来るつもり…。

 そんじゃあ 学校 頑張れよ」

「うん、いってきます」

「はい、行ってらっしゃい…と」

 オレは登校する子供達の後ろ姿を見る。

 まだ あれから数日だが、晴太の言葉数も徐々に増えて来たし、楓ちゃんと仲が良いのか、一緒にいる事が多い…墓参りにも一定の効果はあった。

「さあて…オレも仕事、仕事と~」

 オレは部屋に戻り、姉島に作業員を全員の乗せて向かう 送迎エアトラの時間に間に合う様に準備を始めるのだった。

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