表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/339

24 (占領作戦)〇

 暗闇の中 月灯(つきあか)りと 小さい松明の光だけを頼りに 見通しの利かない中、周囲を警戒しながらの夜間の行軍で 兵達の進軍速度は半分程になったが、森の中をゆっくりと進んで行く。

「今の所…それっぽい気配は無いか…ロウは如何(どう)思う?」

「大丈夫…あの犬、良い子。

 ちゃんと言う事を聞いてる。

 飼い主()の所に戻た。」

「良い子ね…」

「大丈夫だ…私も感知していない。

 この分だと夜明け前に到着して少し休憩(きゅうけい)を取れるだろう。

 それと…ナオは大丈夫か?」

 リアカーを引いているクオリアが言う。

「オレか?」

「そうだ…交流が少なかったとは言え、仲間を殺されたんだ。

 ちゃんと状況を見えているか?」

 クオリアは オレがブチ切れると殺人機械(キリングマシン)状態になる事を知っている。

 多分それを気にしているのだろう。

「見えているよ。

 まだまだ余裕がある相手だしな…。

 それに仲間の敵討ちって戦争で一番やっちゃいけない事なんだ。」

「と言うと?」

「戦争ってのは 詰まる所…暴力で相手に無茶な要求を通させる為の外交戦だ。

 つまり 国は常に国の損と利益を天秤(てんびん)に掛けて、敵国との妥協点(だきょうてん)を探っていく事になる…それが正しい形の戦争だ。」

 オレが右手にリボルバー持って いつでも 撃てるようにしながら言う。

「だが、殲滅(せんめつ)戦では その理屈は効かない。

 どちらも勝利条件が 相手国の民族の消滅や土地の占領、民族同化になるからだ。

 この状況なら損得は関係無く、国が消滅するまで戦い続ける。

 そして そんな状況で苦労して勝ったとしても、主要労働者である若い男は死に、建物や道路は戦争でボロボロで 食料供給も衛生管理も難しくなる。

 (さら)に占領した地域の労働者も死ぬ訳だから、統治者(とうちしゃ)派遣(はけん)に 反乱を防ぐ 治安維持の為の組織が必要になり、ますます労働力を割かないと ならなくなる。

 で、戦争で国が弱体化した場合 別の国の侵略を警戒しなくてはならず、弱体化した戦力を補う為に別の国と同盟を結ぶ事になり、戦争規模がどんどん拡大し損失も広がって行く…と。

 最終的には 相手国を無条件降伏させて、損失を取り戻す為に国が消滅するレベルの賠償金(ばいしょうきん)を背負わせて、占領国は数十年後に それがキッカケで独立の為の戦争をやる事になる…。

 最初は ちょっとした無理、無茶を通そうとした結果…大損になるって訳だ。

 だから 現場の兵士は『これは外交戦の一環』だと ちゃんと理解させないと いけないし、敵討ち なんて感情は…戦争の長期化と自国に不利益をもたらす…1番やっては いけない事なんだ。」

「だが、有限の命と(もろ)い身体を持つ人に それは難しい。

 私達エレクトロンを殲滅(せんめつ)する為に核戦争を起こして、100億いた人類が10億人まで減ってしまった位だ。

 私達 機械人が人類に代わって統治(とうち)しなければ、石器文明に戻っていただろう。」

「そう…だから 不老不死で丈夫な身体のオレらが 統治(とうち)する必要がある。

 食事は電気だから食べ物で釣れ無いし、ハニートラップも効かない。

 それに不老不死だから何百年先の反乱の事も考えて統治(とうち)する必要がある。

 統治者(とうちしゃ)としてはオレ達が適任だよ。

 多分コレが本来の神の仕事なんだろうな…。」

「そうか…ちゃんと考えているなら それで良い」

 クオリアはそう言うと前を向いて移動に集中した。


 夜明け…。

 暗闇の空が明るくなり、森に光りが さしこんで来る。

 ギリギリ森の位置で夜明けを待っていたオレ達は 装備を整えて戦闘態勢になり、現地民の村へ向かう。

 この時代の人達の起床時間で、一番頭が回っていない時に攻め込む つもりだったが、夜襲(やしゅう)を行った偵察部隊が(あらかじ)め時間を伝えていたのだろう…村民達は もう起きていて戦闘態勢になっている。

 村の広場には 竹槍のバリケードが増強され、オレが撃ち込んだ左右にある 竹のやぐらも直されていて、かがり火を()いて、合計12人の弓兵が警戒している…ただ まだ気付かれては いないようだ。

 中央の出入口には 数枚の竹を重ねて組んだ 分厚い竹の壁の盾があり、(わず)かに 空いている隙間から竹槍を差し込んで、剣山のようになっている。

「目標まで25mが限界か…クロスボウだとギリギリだな…。」

 バリケードにより接近して撃つ事が出来ず、限界まで近寄っても25mからの攻撃になる…。

 そして こちらが外せば 位置を特定されて弓で撃たれる。

「よし…リアカーを盾にして進むぞ。

 ロウとクロスボウ兵は やぐらの弓兵を狙え…。

 槍兵はリアカーを盾にしつつ中央から突撃、リアカーを あの壁に ぶつけてブチ破る。」

「了解…」

 夜明けの薄暗い暗闇を利用しつつ リアカーを押して バック走行状態で走らせる。

 その後ろには槍兵にクロスボウ兵が 息を殺しながらゆっくりと近寄り…距離25mまで接近…。

「撃て!!」

 オレの合図で11人のクロスボウ兵がトリガーを引き、鉄の矢が 左右の やぐらに向けて放たれた。

 命中…右1名…左2の3人が撃たれ、左1名が やぐらから落ちた…。

 続いてロウ…。

 ボーラを縦に高速回転させ、風を切る音が聞こえ始めた所で手を放し、遠心力で加速されたボーラは、右1名の頭に正確に命中…頭蓋(ずがい)を やられて多分死亡。

 オレ達と槍兵は その間を狙って 正面の壁に向けてリアカーを全力で押し、大きな声を上げて自分達を鼓舞しながら 派手に接近をする…。

「うおおおおおお!!」

 弓兵が やられた仲間からオレ達に注意が移り、矢を構えて引き絞り撃つが、接近が間に合い、壁の盾の(かげ)にある射線外に入っているので撃てない。

 クロスボウ兵達は クロスボウを下に向けて思いっきり(げん)を引いて、矢を乗せ次弾を装填…。

 オレ達が敵の注意を引いたのは、次弾装填に必要な10秒を稼ぐ為だ。

 2射目が放たれ、今度は6人を撃ち抜く…射撃精度が上がっている…。

 散々(さんざん) 射撃練習をした甲斐(かい)があったな…。

 やぐらの弓弓兵の残りは2人だが、相手の戦意が落ちている…3射目で行けるだろう。

 リアカーを破城槌(はじょうつい)の代わりにして壁に衝突させる。

 間に挿しこんでいた竹槍はリアカーの装甲を貫通するか 先が折れるかし、無力化…。

 今はこちらがリアカーを押し、敵が壁を押して(おさ)える力比べになっている。

「押し返せ!! こちらは オマエ達の頭を吹き飛ばせる。

 殺されたくなければ 降参しろ」

 リアカーを押しながらオレが言う。

「黙れ部外人!!

 祖先から受け継いで来た この村を渡す訳には行かん!!」

「相手は6人か…(おさ)えていろ。

 前にも行ったが悪いようにはしない…。

 オマエ達()() 家族がいるんだろ…ここで死ぬことは無いはずだ…警告2回目だ。」

「ッ!!…」

 力が少し弱りこちらが押し返す…が すぐに持ち直した。

「3回目最終警告だ…道を開けろ!!」

「仲間を殺したオマエ達を許せない…拒否する!!」

「そうか…」

 オレはリボルバーを左ホルスターに仕舞って、右ホルスターのウージーマシンピストルを取り出し、セーフティを解除…セミオートに設定する。

 コッキングレバーを引いて初弾を装填…。

 オレは 銃を構えて、相手の頭の位置であろう部分に一発撃ち込んだ。

 放たれた初速の高い9mmパラベラム弾は 竹の装甲を軽く貫抜いて、相手に命中…。

 敵が倒れた音と敵の悲鳴が聞こえ、戦意が下がった所で こちらが押し返し、今出来上がった死体を踏みながら 村に進入…。

 死体を見て見ると予想通り眉間(みけん)を撃ち抜かれていた。

 左右から味方の槍兵が展開し、床に倒れている敵に槍を向けて突き刺そうとする。

「止めろ!!…勝負は付いた。

 武器を捨て 手は頭の後ろに組んで座れ!!」

 オレは 槍兵を手で止めさせて言う。

「ですが…コイツは仲間を…。」

「なら次は コイツの家族がオマエの首を取りに来るぞ!

 オレ達は ここに住むんだから 殺す機会は山のようにある。」

「ッ!……ですが…。」

「ならオレが貴重な一発を使って 今すぐ仲間の元に送ってやろうか?」

 オレが冷徹にウージーマシンピストルを味方の兵の頭に向ける。

「この武器の威力、知らない訳は無いよな…。」

 低い声で脅しつける…味方の兵は眉間(みけん)を撃たれて踏まれた敵兵を見る。

「でも…」

 ここでコイツを粛清(しゅくせい)するのは 味方の心証(しんしょう)を悪くする悪手だ…出来るなら殺したくない…。

「なら、後で敵兵に一発殴る権利を与える。

 味方を殺したヤツを割り出してやるから その時に殴れ…いいな」

「……はい。」

 味方は しぶしぶ(うなず)く…。

「よし、それで良い…それじゃあ…村の制圧に掛かるぞ。

 槍で間合いを取りつつ、住民の武装解除させて ここに集める。

 自分の命を優先して良いが 襲い掛かって来ない限り、住民の殺害を禁ずる…ただでさえ、貴重な労働力だ…殺すなよ………返事!!」

「「はい!!」」

「それじゃあ 行ってこい。」

 味方の槍兵が 即席で作った こちらの家より上等な構造の竹の家に進入…次々と住民を集めて来る…。

 クオリアは制圧部隊が人道から外れた行動を取らないように、彼らの元に向かった。

 見た所 竹の家の建築技術は 向こうの方が圧倒的に上 見たいだ。

 まずは、100人分の家を作って(もら)うのも良いだろう。


 しばらくして村長が連行されてきた。

「やあ…村長、宣言通り 村を(もら)いに来た。」

「私が死んでも いつか絶対に この村を取り戻す!!」

 村長が兵に(ひざまず)かされながら、言う。

「まっそれでも良い…。

 村が快適になれば そんな事をする気も起きなくなるだろう…それで、アンタ…名前は?」

「…トミー」

 なるほど…トニー王国の建国者か…。

 と言う事は オレはトミーを使って傀儡政権(かいらいせいけん)を造るって事か…。

「そうか…よろしくトミー」

 オレは 極力 友好的な声色で そう言い、握手をしようと手を出すが、彼はオレの手を握らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ