04 (宗教法人 エクスマキナ教会)〇
1946年10月。
日本敗戦から6ヵ月…。
GHQの占領政策により 戦前の日本の文化が徹底的に破壊されて行く。
アメリカからは日本の復興の為の補給物資が届けられる…小麦だ。
ラジオでは 小麦の調理の仕方、パンの優秀さをアピールする内容の番組が多く放送され「日本軍が負けたのは、米を食べて バカになっていたからだ。」
と米文化を侮辱し始めている…ちなみに栄養学的には 米の方が遥かに優秀だ。
だが、そんな事も知らない日本国民は、メディアに洗脳され、原爆でふっ飛ばされた事で 流通が少なく高価な米よりも、アメリカから送られてくる安価な小麦料理を食べるようになり始める。
ただ、問題なのは 一般の人は パンの作り方が知られておらず、パンを食べる文化も存在しない事。
その為、学校ではパン食が基本になり、更に町中には アメリカのキッチンカーが派遣され、パンの作り方を主婦の皆さんに教えている。
これで 将来の日本国民が小麦に依存する環境を作り出し、アメリカの余剰の小麦を日本人に売りつけ…もしくは、小麦の輸出を停止させる事で、日本を飢餓状態にさせられる食料制裁が出来る様になる。
そして、マッカーサーが箸が使えなかった為、給食に先割れスプーンを導入された事で日本から箸文化が衰退し、箸が扱えない人々が増え始める事になっている。
千葉県 館山市…。
連合軍の爆撃で建物が徹底的に破壊され、近くの九十九里浜から連合軍が なだれ込み 住民達と決死の戦闘を行った為、ここら辺に人は ほぼいなく、瓦礫に埋まった死体も そのまま放置され、死肉を むさぼる鳥やネズミが大量発生し、それを媒介にした感染症が発生した事で この土地は 完全に放置された。
クオリアは 戦後で安くなった この土地を買い占めた。
あれだけの犠牲を払って日本人が自国の領土を守って来たと言うのに、これだけの土地が ほぼタダ同然の値段で買える…。
まぁタダにはタダの理由があり、瓦礫の撤去費用や病原菌、再建の為の費用を計算した場合、普通に高くつくからだ。
おそらく 私達に復興をさせて 人が戻って来て地価が上がった所で、買い上げる戦略だろう。
さて、タダ同然の値段で買った土地を酸水素のバーナーで綺麗に燃やして、私は そこに教会を建てた。
トニー王国の建築に多いコンテナを重ねて作るブロック方式で作られ、黒一色の壁にレンガのタイルを張って飾り付けた教会になる。
教会に付いている看板には『エクスマキナ教会』と書かれており、機械の神である エクスマキナを信仰する教会だ。
私は扉を開ける…。
「結構な人数が集まって来たな。」
教会の長椅子には、各町で布教して信者にさせた 日本人のエクスマキナ教信者が座っている…人数は120人。
彼らの首には信者の証であるトニー王国の国旗の元になった歯車のペンダントを ぶら下げている。
「あっシスタークオリア…おはようございます。」
「おはよう…」
私は皆に挨拶をしつつ壇上に上り、信者たちの視線を感じる。
「さて信者の諸君…朗報だ…まずはこれを見よ」
私は わら半紙で刷られた紙を皆に見せる。
「私は この教会の住所で 正式な手続きを踏み、日本政府から 公式に宗教法人だと認められた。
今日からここは『宗教法人 エクスマキナ教会』となる!」
「おおっ」
信者達が言い拍手をする。
「宗教法人とは、教義を広め、宗教活動を行い、信者を教育する事を主たる目的とする団体だ。
つまり、道具の神であるエクスマキナ神の場合『技術を広め』『物を製造し』『技術者を教育する』事が宗教活動となる。」
日本の敗戦後、アメリカから工業製品の生産に大きな制限を受けて 今まで この国を支えて来た日本の優秀な技術者達が大量に失業してしまった。
ただ、GHQに押し付けられた 大日本帝国憲法の第二十八条により『信教の自由』が保障され、宗教活動が自由に出来る様になった為、エクスマキナ教の宗教活動としてなら、製造、研究、開発が自由に出来る…。
実質 この国を占領しているアメリカへの意趣返しだろうか?
こんなに国が無茶苦茶になっている 今の状態で、行政が頑張ってくれて6ヵ月の最速で法的な書類がまとめられ、戦後初の宗教団体が出来た。
役人からすれば 失業した日本の技術者を保護してくれれば、未来に繋げられるからだ。
「さあ まず キミ達の仕事は、技術を文字で残す所からだ…始めよう。」
今は占領政策で日本語での文章がローマ字に移り変わっているので、日本語の読み書きを維持する為にも必要だ。
これをしないと昔の日本の本が読めなくなる。
「建築系の技術を持っている者は、信者達の寮の建設だ。
日本の復興は この教会から始まる…我々は科学の発展を妨げる者を許さない!
これからの日本はキミ達が創っていくんだ!」
「おおっ」「やってやるぜ」「アメリカめ!見てろよぉ!」
私がナオを真似て信者を鼓舞すると、信者達は席から立ち上がって言うのだった。
数ヵ月後…。
館山市は 非常に賑わっていた。
廃墟だらけだった建物は撤去されて トニー王国式の住宅が並び、アスファルトの工場と簡易型の車の工場が稼働し始めた。
まずは館山市の 道を整えて車を素早く走らせ、物流網を構築する事。
その後は 今まで 人力だった農地にトラクターを入れて作業を大幅に軽減させ、肥料を生産して 食糧の生産量を増やす。
まぁ今は物の生産と言うより、3年後の1950年に 規制が解除され、復興活動が 本格的に始まる時の人材の育成がメインなので、ここの他にも 技術者や戦災孤児を国境島に次々と避難させている。
「おい、工場の建設は 禁止だ!
貴様ら逮捕されたいのか?」
ジープに乗ったアメリカ軍兵士達が、M3グリースを構えてやって来る…数が多いな。
彼らは 工場で作業中の信者を外に引っ張り出し、一ヵ所にまとめて銃を向けている…。
彼らは日本にいると言うのに日本語を使わず、常に英語で喋っている。
マッカーサーが 日本の過去の文書を読めなくし、歴史を消失させる為、難易度が高い日本語を駆逐し、日本の公用語を英語にしようと教育をしている言語侵略をしようとしている為、駐留軍が英語しか話せない事も珍しくない。
このままだと現場の判断で笑いながら住民が皆殺しにされそうな雰囲気だ。
「何事です!?」
私が教会から出て来て 軍人達に近寄り、あえて日本語で言う。
「おまえは?」
「私はクオリア…この教会の責任者です。」
「責任者?おまえがか?
良いだろう…我々GHQは 治安維持の為、日本国民が 工業製品を製造する事を禁止している。
今すぐ この工業を取り壊せ、さもなくば逮捕だ。」
彼らの隊長…階級は少尉か…が言う…コイツは日本語が話せる みたいだ。
今の時代、日本には警察は まだあるし、法律もまだ機能しているはずなのだが、実際の所は逮捕権すらない…完全にGHQの言いなりなので、警察も裁判官もGHQの裁量で決まる。
「私達は 宗教活動の自由を行使しているに過ぎません。」
「何故そこで宗教が出て来る?
しかも この工場での製造がか?」
「少尉。あのマーク…エクスマキナ教です。
道具を司る異教の神です。」
兵士の1人が言う。
「そうです。
機械の神であるエクスマキナを信仰する エクスマキナ教は、技術者を守り、技術を広め、技術を伝える事で 科学の発展を追求する宗教です。
彼らのやっている事は、次世代の信者を育てる為の宗教活動です。
それに 教会には ちゃんとした正式な書類もあります。
これは 法的に認められた行為です。
あなた方がやっている事は 我々の権利の侵害です。」
「それは 詭弁だ!!
GHQは 日本の技術開発や製造を一切認めない。」
「では、あなた方が戦争の引き金を引き、トニー王国と宗教戦争をしますか?
先の戦争でトニー王国の実力を身に染みて理解しているはずですよね。」
「んぐっ…」
彼らは正義を執行している訳ではなく、戦勝国の高揚感から 何かしらの理由を付けて 逆らえない日本人に対して 弱い者いじめを楽しんでいるだけだ。
なので、自分達が弱い者になる事は 決して望まない…。
と言うより こんな下らない理由で 戦争になったら、引き金を引いた こいつらが 上から処罰されるだろう。
「ちっ…引き上げるぞ…上の判断を仰ぐ。」
「はっ」
兵士達がジープに乗り引き上げて行く。
「助かりましたシスター…。」
工場長が言う。
「いや…良い…エクスマキナ教の技術者を守る事も また宗教活動だ。
礼なら10年後、20年後に この国を豊かになる様にして欲しい。」
「はい…おら!仕事…いや、宗教活動を再開するぞ!!」
「はい!!」
そう言うと信者達は工場に向かい、また作業を始めた。
「うん…良い流れだな」
私は彼らを見てそう言うのだった。




