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03 (ジェットエンジン)〇

 少し荒れた海の中を潜水艦が進み、高い岩の絶壁に囲まれた1kmの無人島が見える。

 小笠原諸島の南にある姉島だ。

 ここの人口は 10人程いて牧畜などをしていたのだが、第二次世界大戦の戦況悪化により日本列島からの物資の補給が困難になり、小笠原諸島の住民達は軒並み 日本列島に向かってしまったので、今の小笠原諸島には一般の住民はいない。

 今いるのは、不当占拠しているトニー王国軍位だ。

 姉島の山の様に盛り上がっている形状の土地は トニー王国軍により綺麗な平らにされていて、その上から耐熱アスファルトによる舗装がされている…ここは エアトラ用の大型ヘリポートだ。

 トニー王国の潜水艦が潜り、水中用ドラムが船体に張り付いて押し、針路の微調整。

 姉島の絶壁をくり抜いて作った潜水艦用の海中ドックに慎重に入り、潜水艦が入った所で水密隔壁が下がり閉鎖…中の海水の排水が始まる。

 潜水艦の左右には 直径9mのガラス繊維の建築用の足場があり、ドック内の海水がみるみるうちに排水され、直径9mの筒型の潜水艦が完全に陸揚げされた。

 その後 左右から足場が接近し、船体を完全に固定…これで足場を使って下に降りられる。

 潜水艦の船体の上では 厳重に梱包された荷物がエレベーターで上に運ばれ、天井のクレーンで吊るす事で陸揚げをしている。

 吊るされているのは、水素ターボジェットエンジン。

 トニー王国の小型無人戦闘機に使われていた 水素ターボジェットエンジンを大型化した物で、今回は燃焼試験が目的だ。

 今までは 小さいエンジンで、少ない推力で、軽い無人戦闘機で飛ばしていたから出来たのだが、大規模な推力を得る為には 大量の水素をエンジン内に流す必要があり、エンジン内部が異常過熱が起きてエンジンが爆発する可能性が出て来る。

 その為、重量が重く出力も必要な 輸送機のエアトラでは ターボジェットエンジンでは無く、ターボシャフトエンジンが使われている。

 今のままでも問題ないのだが、巡航速度が500km位に制限されてしまい、このエンジンでは 原理上 音速(時速1000km)を突破出来ない。

 マッハ24が必要の地球の周回軌道に行く為には、ジェットエンジンは絶対に必要だ。


「配達お疲れ様です…ナオ主任。」

 先ほどまで海水に沈んでいた建築の足場を降りると、作業服のオッサン ボーマが言う。

「ああ…ボーマ…状況は…問題無い見たいだな。」

 ナオ(オレ)が周りを見て言う。

「ええ…工事は少し遅れが出ていますが、まだ許容範囲でっす。」

 オレが 受け取りリスト表をボーマに渡し、ボーマはクレーンで降ろされた荷物を確認している。

 今回持って来た品は、テスト用の試作エンジンが4種類、合計8基、それに実験機材と補給物資一式だ。

「それにしても、なんで本国で実験をしないんすか?

 その方が機密性も高いってのに…。」

「本国は 今はスパイ天国で駆除が忙しいし、アメリカやイギリスの事を考えると あまり派手な事は出来ないからな。

 それに ここならハワイまで直線距離で2500km…ジェットエンジンの試験をしても そこまで問題にならない。

 それに この島は いずれ宇宙港になるから その土台作りでもある。」

「宇宙港?飛行機で宇宙に行くんすか?」

「そ、流石に このエンジンじゃ宇宙までは 行けないけど…。

 あ~スクラムジェットエンジンが 出来れば良いんだが、その為の前提技術をこのジェットエンジンで身に着ける事になるのかな…。

 はぁ…オレは理屈は知っているんだけど、ここまで必要な部品の精度が上がって行くと 本だけの知識じゃ無理。

 実際に飛ばして見て 実測数値からエンジンの修正作業を行わないとな…ボーマ頼むよ。」

「ええ…航空エンジンは 私の専門ですっからね。

 よし、確認が終わりました。

 早速 運びましょう。」

 ボーマが受け取り表にサインをしてオレに渡し、オレ達は梱包されたエンジンをハンドリフトで持ち上げて、奥の分厚い水密隔壁に向かう。

 隔壁が開くと中は 大型のエレベーターになっていて、オレ達はエンジンと一緒にエレベーター内に入る。

 潜水艦の側面の足場にはドラム達が潜水艦の装甲のダメージチェックをしている。

 エレベーターが ゆっくりと上昇し、地上の倉庫に出る。

 梱包されたエンジンを地上の倉庫に降ろし、潜水艦から降ろされた物資も次々と上げて行く。

 地上には24人程の作業員がおり、観測機器を組み立てて燃焼試験の準備をしている。

 彼らはトニー王国から派遣された 航空機エンジンのスペシャリストで、ノリと遊びが半分でオレに付いて来てくれている。

 その為、ここの人間は クラブ活動の様な雰囲気が流れている。

「まずは どれから行きますか?」

 ボーマがオレに言う。

「そうだな…オレ的には、2番が一番使えると思うんだが、順当に1番からかな…。」

「そんじゃあ1番を開けますんね」

 作業員達で厳重な包装を丁寧に外して出て来たのは、炭化ケイ素で造った 水素ターボジェットエンジン。

 通常車に使われているエンジンは、吸気と燃料への点火と排気のサイクルを同じ場所で繰り返す構造になっているので、排気の際に内部を冷却してしまい、そこで出力が落ちてしまう。

 なので このジェットエンジンは 前方から空気を取り込んで空気を圧縮、真ん中で空気と燃料と混ぜて着火、熱で膨張した空気を後方に排出して推力にする一本道構造にする事で各段に出力が上がる…これがジェットエンジンの基本だ。

 ただ、この方法だと高温の環境であれば ある程 燃費が良くなる都合上、パーツの大半が常に高温にさらされ、更に回転時の強い遠心力が掛かる為、パーツの融解や破断が起きる可能性が高まる。

 その為、耐熱、強度に強い チタン・チタン合金・ニッケル基耐熱合金などを 一方向凝固合金や単結晶合金などの特殊な方法で強度を更に上げて製造される。

 で、こんな重い金属を大量に使ってエンジンを造っている為、ジェットエンジンの重量は非常に重くなり、その重量を空に上げる為に また燃料を消費すると言う悪循環が始まる。

 なので、オレ達は 強度、耐熱性が高く、軽量な炭素と珪素を使ってエンジンを作り、重量を落とした分だけ 高温を下げて行けば、通常のジェットエンジンと同じ出力を出せると考えた訳だ。

 当然、炭素と珪素でジェットエンジンを作るなら 非常に膨大な時間を掛けて材料工学の研究をして行かないといけない訳なのだが、建国時から炭素、珪素、鉄、銅で大半の物を作っている為、この4物質に関しては この研究は 非常に進んでいる…逆に言うなら これ以外の素材は あまり進んでいない。

 建国時にクオリアが言った通り、本当に炭素と珪素は 様々な事に使える万能素材だ。


 外、試験場。

 倉庫に駐機されている4.5mの人型の重機DLに作業員2人が乗り、慎重に ターボ ジェットエンジンを持って 海の方を向いている外の試験場に置く。

 足元の作業員が ターボジェットエンジンが ジェット噴射で飛んで行かないエンジンΩガタの金属板を取り付け、ボルトで地面にしっかりと固定する。

 そして、地下に埋められている24mの球体のガスタンクに収められている液体水素を大型のガスボンベに入れて、ガスボンベをエンジンに取り付ける。

 その後、ガスのバルブを全開にして ポンプで液体水素を流し、エンジン側の遮断弁で塞がれる…これで準備は完了だ。

「さあ、速く退避しろ…。

 もたもたしていると ガスボンベの方が吹っ飛ぶぞ」

 ガスボンベの断熱性能は高いが、冷却装置を積んでいない為、液体水素が気化した場合、圧力で簡単に容器が吹き飛ぶ。

 その為、240m程 大袈裟に離れて無線通信でエンジンを起動させる。

「退避完了…観測機器も正常に稼働…いつでも どうぞ」

 120m位置で盾を構えて現場を観測しているDLの中のパイロットが通信でオレに言う。

「それじゃあ、行きますか…」

 オレがコンピューターを操作してターボジェットエンジンを順次起動させる。

 前方にあるターボジェットエンジンのファンが内部電力で回り出し、前方の空気を取り込んで空気を圧縮して行く。

「ファンモーター正常稼働…回転数、温度共に許容範囲…。

 試験続行可能…」

 画面を見ている作業員が報告をする。

「よし、燃料いくぞ…」

「はい…バルブ開きます。」

 液体水素がコンピューターで制御された規定量流し込まれ、ターボジェットエンジンの後方から水素が排出される。

「排出量、システム正常…行けます」

「それじゃあ、着火…様子を見ながら出力を上げて行くよ」

「はい、着火します。」

 ターボジェットエンジンの熱で気化した水素を圧縮空気と混合して着火。

 水素は周りの圧縮されて空気の中の酸素の燃焼を助けて、莫大な推力を生み始める。

「はい来た来た来た!!」

 懐かしい ジェットエンジンの音が辺りに響き渡る。

「出力上昇中。

 推力は おおむねシミュレーション通り…。

 速いのですが、やっぱり これ、燃費悪いですね。

 軽い戦闘機では さほど問題無かったのですが…。」

 作業員の後ろから画面を見ているボーマが言う。

「まぁこのエンジンの美味しい所は、音速付近だからな。

 一気に音速まで加速させて 止まる必要が無いミサイルなら構造が単純な このエンジンの方が優秀なんだけど…。」

「ミサイル?確か桜花の事でしたかい?」

「そ、あれは人力で機体を誘導している訳だけど、これからのミサイルは、コンピューターを使った遠隔や自立式の無人ミサイルが主流になって来る。」

「ウチらが使っている無人戦闘機に爆薬を積んで、敵艦にカミカゼをさせるのですかい?」

「まっそう言う事…桜花は 人道的には非常に問題があるが、戦術としては非常に有効だからな…。

 で、核を搭載した長距離ミサイルを無線誘導で敵の首都まで送って首都を吹っ飛ばすって訳だ。」

「その為に長距離飛行が出来る航空エンジンの開発をするのですっかい?」

「まぁ宇宙に行く事が目的でミサイルは おまけなんだけどな…。

 さて、燃費は如何(どう)だ?どの位飛べる?」

「そうですね…。

 入れる燃料タンクの事も考えると 今の状態だと2000は 行けるでしょうか?

 エアトラが酸水素状態で3000kmは 進める事を考えると、多少 性能は低くなりますが、速度は2倍程 出ますんね。」

「エアトラが液体水素を使えるようになれば、航続距離は4倍以上に 伸びるはずなんだが…問題は空港だな…。」

「ええ…液体水素を補給出来る空港は トニー王国以外には ありませんからね。

 かと言って そんな航続距離が必要な場所もありませんし…。」

「そうなんだよな~。

 おっ警告が付いたな…そろそろ燃料が切れるか?」

「ええ…3、2、1、想定通り燃焼 終了…。

 結構 良い結果が出てますんね…内部温度も正常値。

 外装のラジェーター装甲が熱を廃熱をしている為、まだ触れられませんが…。」

「まぁ飛んで入れば 装甲の外から空冷されるからな。

 よし、一回エンジンを分解して各部品の耐久性能を見よう。」

「了解…あ~忙しくなりそうです。」

「それにしては、楽しそうだな。」

「まぁこれが趣味なんでねぇ」

 ボーマは そう言うのだった。

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