02 (今を生きる為に)〇
1946年5月1日…北海道上空…。
エアトラ6機と戦闘機6機の編隊が綺麗な編隊飛行をして 日本の上空を通過する。
1945年7月14日から15日にかけて、アメリカ海軍空母機動部隊の艦載機が北海道各地に空爆した『北海道空襲』があったが、あの大規模な戦争があったと言うのに、北海道には 日本の食糧を支える為の穀倉地帯が十分に残っている。
これは北海道を守っていた日本軍の成果だろう。
今は 連合国軍最高司令官総司令部により 日本軍が解体された事で、日本の防衛能力は完璧に無くなり、連合軍やGHQのマッカーサーが その気になれば、すぐにでも条約を破棄して 地上を侵攻し放題、空爆し放題の状況に出来、尚且つ 武力が無い今の日本は条約破棄を理由に抵抗する事も出来ない…な訳で、国としては非常に危険な状態だ。
だが、日本列島の周辺には トニー王国が実行支配している島がある為、そこから戦闘機を飛ばして アメリカ軍を 定期的に けん制する事で如何にか 空の平和を維持している。
地上では 先日まで日本を守る為に戦っていた日本軍の生き残りの一部が、米軍を日本から追い出して日本を救おうと まだ戦っており、アメリカの駐留軍と小規模な戦闘が発生している。
今の情勢では彼らは 愛国者では無く、国賊であり、テロリストだ。
彼らは アメリカ軍に射殺されるか、味方であった日本軍によって殺され、アメリカからの現地スパイや売国などの罪で日本の刑務所に収監されていた犯罪者や政治家達は 英雄として開放される。
彼ら売国奴達は、日本の政治を操り、日本をアメリカに都合の良い国に作り上げる重要任務があるからだ。
今の日本は 広島、長崎、福岡の小倉、熊本、京都、新潟がアメリカ軍の原爆によって破壊され、植物が育たない 不毛な大地になっている。
これは原爆の放射性物質が原因と言う事になっているが、単純に 土の中にいる微生物が 3000℃の熱で殺菌されてしまったからだ。
その為、土壌の復旧には年単位の時間がかかると予想されている。
今の日本の一番の問題は、穀倉地帯が焼かれた事により 餓死者が大量発生している事だ。
東京の周辺は GHQのマッカーサー達が駐留している都合上、周辺諸国から食糧が運ばれて来ているので、餓死者が出る事は無いが、食糧生産が出来る はずの地方に行けば 行く程、餓死者が多く出ている。
如何やら強制的な買い占めをして、首都圏に食糧を送っているらしい。
まぁアメリカ側は 日本の統治が出来れば 餓死者が何人出た所で関係無いからな…。
ウーーーーー。
瓦礫だらけの町に空襲警報が町中に鳴る。
「なんでせんそー 終わったのに…」
小さな女の子が空を見上げて言う。
「ほんらい なら 戦争は 半年も前に おわっていたのよ。
アメリカが 戦争を おわらせて くれなかったんだから…。
さぁくうばくが来るわよ…早く防空壕に逃げて…。
もう、日本軍は ないんだから…少しでも逃げて長く生きるの!!」
楓が女の子に言う。
「うん…」
「あっ…伏せて!!」
わたしが 女の子の上に覆いかぶさり、建物の後ろの地面に伏せさせる。
「大人しくして…」
後ろを向いて空を見ると、B-29の様なプロペラ機6機と戦闘機が風が当たりそうな程 低い空を飛んでいる。
爆撃機?軍を解体した所で わたし達を皆殺しにする気?
爆撃機は後部ハッチを開けて、落下傘を付けた大きな箱が大量に落とされる。
「リトルボーイ?マズイ」
胸の鼓動が高まり、呼吸が短く速くなる。
爆発したら一瞬で消し飛んでしまう…ここには ナオせんせーは もういない。
せめて、この子だけでも…。
わたしは、女の子をギュッと抱きしめる…。
が、いつまで たっても熱波も衝撃波も来ない…。
「あれっ?」
恐る恐る顔を上げる…。
土を潰しただけの道路には、落下傘を被った2箱の大きな木箱が転がっている。
女の子はそれを見ると、箱に近づいて行く。
「あっダメ…不発弾かも…」
わたしは 女の子を引き留め、その場から離れた。
2日後…パラシュートを被って道を塞いでいる不発弾を爆破処理させる為、警察らが木炭車でやって来た。
彼らは地雷を爆破して撤去する部隊だ…なのだが…。
「おいこれ爆弾じゃないぞ…」
金属探知機を持った警察が言う。
「はぁまたか…まぁ金は出ているし、ハズレの分には良いんだが…。
もう大丈夫だ。」
「なんだったのですか?」
わたしが近づいて警官に聞く。
「さあな…。」
警官がパラシュートを巻き取り、大きな木箱が姿を現す。
「米軍の補給物資に似ているな…。
おっ…このマークはトニー王国だな」
側面には 歯の数が12の歯車が箱の描かれている。
「これは何のマークだ?」
反対の面には白い三角の中に黒く塗られた四角のマークが見える。
警官は釘抜きで木箱の釘を引っこ抜き、中を見る。
中には 大きい仕切りと小さな仕切りが見える。
小さい方には 透明な袋に包まれて しなびた三角形の握り飯がギッシリと入っていて、大きい仕切りには 粉物の大きな袋が入られている。
この仕切りは、補給物資を盗んだ時に一発で分かる様にする為の物だ。
「あ~握り飯のマークなのか…。
これは…トニー王国の補給物資?
この緑色の粉も そうなのか?」
「たぶん、ミドリムシです。
トニー王国の しゅしょくだと きいています。」
わたしが言う。
「こんなのを食べているのか…。
おっ手紙があった…ひらがな だけだが、日本語で書かれている。
如何やら支援物資見たいだ。
飢餓状態の人に優先して食糧をまわすようにと書かれている。」
「これは料理本かな?
次のほきゅうは 一ヵ月後…」
わたしがそう言い、大きな袋を箱から取り出す。
中には緑色の粉が入っている…これがミドリムシ?
「ふむふむ、おゆを いれて ねるんですね…。
握り飯は おゆを入れると ふらむ…干飯に ちかいのかな…。
ありがたく いただきましょう…皆を連れて来ます。」
「ああ…」
そう言い、わたしは 皆を呼んで来る。
ここに住み始めてから あまり時間が経っていないけど、ご近所関係は良好…。
今は、空襲で吹き飛ばされて住民が亡くなった空き家を無断で住んでいる。
「おおっこれで、子供達を助けられる」
やせ細った おばさんが涙を流して言う。
「あれ?警察の人は?あっ…」
握り飯3つとミドリムシ3袋が仕切りの中に無い…。
わたしが後ろを向くと警察が乗っている木炭車が道路を進んで離れて行く。
「持って行かれた?」
「まだ沢山ある…お巡りさんも、つらいのよ…さあ皆に配って食べましょう。」
お母さんが言う。
「うん…」
空き家。
お母さんと他の避難民の子供達がいる中、わたしは、沸騰したお湯を干からびた三角の握り飯に入れて、しばらく待つ…。
握り飯は 水分を吸って大きくなり、数分で手のひらサイズの握り飯になった。
「すごい…」
「ねぇちゃん まだ~」
「はいはい、できたよ ひとり 1個ね…みんなに配った上げて」
「うん…」
「それでは…いただきます」
今日の食事は、たんぽぽのスープと握り飯だ。
「はむっおいしい…」
程よい塩加減で、握り飯には海苔が撒いてあり、白米の中には鮭が入っている。
「それにしても、なんで 丸じゃなくて 三角なんだろう…。
トニー王国では 三角の握り飯が ふつうなのかな…。」
「またナオ先生と会えると良いのだけど…多分、ピカドンで吹き飛んだのでしょうね…。」
お母さんが言う。
「そう…なのかな…きっと生きてるよ」
せんせーに言われている為、せんせーの事は お母さんにも話していない。
まずは 生き残って学校に行く事…わたしの戦いは戦争後の ここからだ。
わたしは そう思い、食事を続けた。