33 (愛する人の命は 5000万の兵士の命より重い)〇
夜明け…。
ティルトウィング機のエアトラ3機と護衛の6機の戦闘機型ドローンが領空を侵犯…狙うは ホワイトハウス…。
ホワイトハウスにいる大統領とその側近を守る為、近くの飛行場から大量の戦闘機が出て来るが、次々と戦闘機型ドローンに蜂の巣にされ、無意味に撃墜される。
「降下ポイントまで後12!!」
エアトラの後部ハッチが空き、遠くには こちらの護衛の戦闘機が見える。
0のカウントと同時にエアトラが斜めに傾き、積まれていたDLが滑り落ちる様に落とされ、パラシュートが展開する。
今までのDLとは違い、身体が細く、引き締まった体型の青色の6機のDLだ。
スピーダー…エアトラによるパラシュート降下の為に武装と機体の重量を削る事で 機動性能を極限まで上げた機体だ。
目標は ホワイトハウス前の広場…。
6機のスピーダーは 十分に減速した所でパラシュートを切り離し、コックピットブロックの丸い背中から地面に着地しして衝撃を熱エネルギーに変換し、周りの空気が熱せられて陽炎を発生させる。
1秒位の受け身行動の後、DLサイズのM3グリースを構えて すぐに起き上がり、バサリとパラシュートが地面に落ちた時には 既に戦闘態勢に移っていた。
警備をしていた装甲車らが機関銃の掃射を開始するが、全身を覆うほどに大きい盾で弾を受け止め、M3グリースで反撃…20mm弾を受けて次々と穴だらけになって行く。
そして こちらが装甲車に対処している間に 近くにいるバズーカ兵が、こちらにM9バズーカーを向けてトリガーを引きロケット弾が放たれる。
発射兆候のアラートが鳴った瞬間に1機のスピーダーが盾を構え、放たれたロケット弾が盾に当たって爆散…保持していた左腕も一緒に持っていかれる。
ロケット弾などの成形炸薬弾系は装甲の貫通力が高いが、装甲との間に隙間が出来ると急激に威力が減衰してしまう。
その為、手で盾を持ってコックピットブロックとの間に大きな隙間を作る事で成形炸薬弾が貫通した後の影響を最小限に留められる。
実際、見た限りでは コックピットブロックには たいした被害が出ていない。
撃墜 出来無かった事に驚いたバズーカー兵が、次の瞬間 スピーダーのこめかみに付いている頭部機関銃で頭を撃ち抜かれる。
DLに対して攻撃を加えた者は、すぐに位置を割り出されてカウンター攻撃を喰らう為、生き残れない。
続いて 駐車場にある高級そうな車のボンネットをM3グリースで撃って破壊して行く…逃走防止の為だ。
そして 現場を確保した所で、3機のエアトラが垂直着陸状態で、空中に静止し、炭素繊維のワイヤーが降ろされ、12機のドラム達が次々と降りて行き、暴徒鎮圧モードで次々とホワイトハウス内の警備員の腹部にゴム弾を撃ち こみながら突入して行く。
「さあ、オレらも行くぞ」
空中で静止している状態のエアトラからパイロットスーツを着た少女ユリンを おんぶ状態で ワイヤーを伝って素早く降り、ナオ達 ヒトの部隊も突入する。
事前にドラムが切り開いていた事もあり、かなり制圧が楽だ。
オレ達はうめき声を上げて倒れている敵を腕を背中にまわして拘束…次々と進んで行く…地下室への扉にはドラムが集まっており、酸水素のバーナーで扉を融かして扉を開けようとしている所だ。
「後どの位掛かる?」
「最小値で2分…最大値で5分です。」
ドラムが言う。
「分かった…3分で戻る…地下室の制圧はオレ達が戻って来てから」
「了解しました。」
オレはユリンを降ろすと 扉をドラムに任せて 仲間と共にホワイトハウスの地上を制圧して行く。
「よし…地上を完全に制圧…次、地下に行くぞ」
オレ達は扉から離れ、ドラムが扉を開けると拳銃弾による弾幕がドラム達の装甲に当たって行くが大した効果が無い。
そして、次々とショットガンによるカウンター攻撃で 警備員達が無力化されて行く。
「クリア…」
「よし…会議室まで もう少しだ。」
ドラム達が次々と警備員達を無力化して行く中、オレ達は 警備員達の拘束を続ける。
「よし、空調室を抑えた…」
ここを抑えてしまえば、地下シェルター内に 毒ガスを入れる事も出来る。
「ナオ隊長…この扉は焼き切れません。
爆破の許可を」
ドラムが核シェルターに使ってそうな 分厚いコンクリートの扉の前で言う。
「許可するセムテックスを使用…皆 退避だ!」
セムテックスの爆薬をコンクリートの壁に貼り付け信管を挿す、突入部隊が近くの部屋に退避し、セムテックスが爆発…ドラムが突入する。
イーストウイング地下壕 会議室。
「突入…3、2、1…GO! GO!」
オレ達が会議室に突入し、次々と政治家や将校達の頭に銃を向けて行く。
「クソうぐっ」
オレは銃を抜いた大統領の拳銃を アミュレットリボルバーで撃ち抜いて弾き飛ばし、口を開けた大統領にリボルバーを突っ込み、そのまま 地面に叩きつける。
「このリボルバーとファックするかい?
一瞬で天国に逝ける事を保障するよ」
大統領は涙目で脂汗を流しながら顔を左右に振る。
「ナオ隊長…制圧完了しました。」
「了解…命拾いしたね。
それじゃあ、交渉と行きましょうか…。
皆さんを座らせてあげて…。」
ボディチェックが終わり、銃を回収した政治家や将校達が席に着く。
更に両手に抱えるサイズのビデオカメラをドラムが持って来て、映像記録も残される。
「何が交渉だ。
これは完璧に恫喝だ…こんな事は神が許さない。」
大統領が言う。
「普段戦争で相手国を恫喝しているヤツがよく言うよ。
それに こんな大規模な戦争を許している時点で、アンタらの神様は戦争が大好きのクソ野郎だ。
さて、そんなクソな戦争を終わらせましょう…。
もしかしたら 私達がここに来たのは 戦争を止めたい神様のせいかもしれませんね…。」
オレは政治家や将校達に書類を配って行く。
「こっこれは…私の娘の名前だ。」「こっちは私の妻の名前だ…まさか…生きているのか?」
「ええ…生きています。
あなた方が愛する家族、愛人たちは 捕虜として 捕虜島に入れられています。
もちろん 他の捕虜と同様に爆弾付きの首輪をはめてね…。
この交渉が破綻した場合、首輪が爆発して頭が身体から切り離されるでしょう…もちろん あなた達も死ぬことになります。」
「これじゃあ 条件を受け入れるしかないじゃないか…。」
「何故そう思うのです?
人質を合わせても たかだが数十人程度…100人も行きません。
戦場でなら100人の死者なんて日常的に出るでしょう…大した損失じゃない。
自分ら100人を切り捨てる事で戦争を続行出来るなら、お安くないですか?
それとも、自分と愛する人を救う為に今まで死んで行った5000万人の戦死者を許容して終戦しますか?」
「むぐっ…」
建て前上では 人は平等だが、実際は平等じゃない。
金、権力、立場が上の物は自分達の利益を追求し、自分に関係の無い他人がいくら死んだ所で上には 大したダメージにならない。
死ぬのが 自分や自分が愛する人じゃないから、無茶苦茶な命令で兵を損耗させる事も普通に出来る。
大統領が直接最前線で指揮を取っていたら もっと犠牲者も少なく済んだろう…と言うか、自分が死ぬリスクを おかしてまで戦争しないだろう。
「もし、私達が死を選び、連合軍が戦争を続行した場合、キミ達は 如何動くのかね?」
大統領がオレの目を見て言う。
「今回の件で現場の兵士をいくら殺しても意味が無いと トニー王国は学習しました。
なので、戦争を継続しようとしている好戦派の議員や将校達を片っ端から暗殺して行く事になります。」
相手が民主主義をしている以上、好戦派の議員を殺して行けば、他の好戦派の議員の抑止にもなるし、それで過半数を取れれば戦争は終わる。
現場で戦死者を出し続けるより、かなり効率が良い やり方だ。
ただし 暗殺は非人道的とされ、戦争の引き金を引く事もある…現場の兵士なら ゴミの様に いくら殺されても問題無いのにだ。
「……取り合えず条件を見て見よう」
「良いでしょう…。
こちらは 一切の妥協をしません。」
「なっ」
大統領はオレが渡した書類を見て驚く。
「こんな条件で良いのか?」
こちらの条件は 日本の停戦条約を8月時点での条件で 受ける事。
皇族の処刑は無しで、日本は存続…。
ただし、日本の文化を尊重した上で アメリカ主体による傀儡国家になる…いわゆる ポツダム宣言だ。
敗戦するとは言え、日本人を皆殺しする計画が動いていた事を考えれば、それなりに真面な条件だ。
トニー王国は、日本軍が雇った傭兵と言う扱いなので、責任は雇い主である日本軍に行く。
ただ、迷惑料と言う形でトニー王国は 少額の賠償金を連合軍に支払う…。
ちなみに その金額は、バート都市長に送られて来た賄賂と同じ金額だ。
「これで あなた方 連合軍は、この戦争に勝利する事が出来る。
戦勝国なら化学兵器や、民間人を狙った無差別爆撃、民間人に対しての核兵器の使用など 戦争中のあらゆる非人道行為が許される。
あなた方は戦争犯罪者では無く、国民から国を勝利に導いた英雄として歴史書に刻まれる事でしょう。」
化学兵器などの非人道兵器は 確かに殺傷性が高いが、使ってしまったら必ず戦争で勝利しなくてはならないと言う 面倒な制約が付く…敗戦してしまえば、戦争犯罪者として 必ず罰せられる…と言うか殺されてしまうからだ。
なので、自分以外の大量の兵の命を使って 何としても戦争に勝つしか無くなる。
そう言う訳で、相手には戦勝国と言う名誉を授けて、戦争犯罪を免除する。
こちらも形だけの賠償金を支払い、相手政府を満足させる…その為の この条件だ。
「仕方ない…認めよう…手続きはサインか?」
「ええ…それと写真と動画です。
皆 準備をして…」
「はい」
皆が散らばり撮影の準備をする。
「それで調印の相手はキミか?」
「いいえ…この子です。
ユリン…」
オレはユリンと呼んだパイロットスーツを着た15歳の少女に言う。
「はい!」
ユリンはヘルメットを外し、ヘルメットの中にゴムバンドで束ねて入れていた髪を解放する。
「ユリン…トニー王国の都市長 見習いか…。」
「ええ…まだ 見習いの身ではありますが、今回 都市長のバートから調印を任されています。
どうぞ よろしくお願い致しますわ。」
ユリンが外交用の笑顔で言う。
「良いだろう…」
ドラムがビデオカメラで撮影している中、同じ画面に入っている2人が それぞれの言語で条約文を読み上げ、2人が書類にサインをする。
そして、条約文をカメラに収めた状態で2人が契約の握手をする…これを写真で取って調印式は終了だ。
「はい どーも…それじゃあ、日本と終戦した時点で人質を解放します。」
「人質は捕虜島だったな…待遇は?」
「一般の捕虜と同等ですよ…。
ただし、こちらは 男女の区別なく捕虜を扱う為、男だらけの中に入れられている訳ですが…。
今の所 問題は発生していませんが、散々過酷な扱いをして来た あなた方の身内に彼らが如何反応するのか…。
兵士達のモラルが試されている状態ですね…では…。」
オレはそう言うと撤収準備に掛かり、しばらくしてエアトラに乗って撤収した。
その後、連合軍から即時停戦の連絡が現場の兵士に通信で届き、両軍共 戦闘が終了。
続いて日本政府との交渉がスムーズに進み、1946年4月25日。
枢軸軍2000万人…連合軍5000万人、民間人3000万人の犠牲を出した この非常に くだらない戦争がやっと終結した。
まぁ当たり前の事だが、枢軸国側は 国土が焼け野原になり、連合国側は利益に見合わない戦争で勝った事により、莫大な負債を抱えた。
どちらの陣営も利益度外視で戦争をした為、実際には勝者はいない。
結局、プラス収支で戦争を終えられたのは トニー王国軍だけ…。
トニー王国は 兵器は それなりに破壊されるが、この大戦で国民、兵士、共に死者0で戦争を終えられた。
その為、各国共に戦力が大幅に減った事により、一時的だが トニー王国が世界最強の軍事力を持つ国家となる。
そして、日本では 戦後復興と言う 次の武器を使わない戦争が始まろうとしているのだった。