32 (コロネット作戦)〇
交渉から3ヵ月後の1946年3月1日。
関東への空襲に住民達は恐怖しならが暮らしている中、海を埋め尽くす程の黒い影が千葉、神奈川の遠くの沖に突如として現れる。
アメリカ軍によって25個師団、30万人を超える部隊が1日で神奈川県西部の湘南海岸と千葉の九十九里浜に上陸して東京を墜とす作戦…コロネット作戦の開始だ。
オリンピック作戦を阻止した事で コロネット作戦を防げていたと思っていたが、連合軍は作戦を強行…。
厄介な事にトニー王国軍は、連合軍の陽動で 北海道、仙台、四国、北九州に主力を分散配置されているので、一番近くの仙台から現場まで おおよそ200km…部隊を移動させるのに最短でも半日は掛かる距離だ。
日本の首都である東京の近辺にトニー王国の戦力を配置すると トニー王国が裏切った場合 首都を制圧をされる事になるので、日本に 気を利かせて部隊を配置しなかったのだが…それが裏目に出た。
つまり、日本軍はトニー王国の支援なしで上陸を防がないといけない。
日本軍は 上陸前に特攻機と人間魚雷回転で敵艦に攻撃加えるも、既に特攻機の在庫すら付きかけているぐらいに海軍と航空戦力が存在しないので、ほぼ無傷で接近を許してしまう。
神奈川県西部の湘南海岸と千葉の九十九里浜の海岸には 塹壕が掘られており、残りの鉄の備蓄が ほぼ枯渇している日本軍は 代用素材で耐久性に難がある銅条網とチェコの針鼠が設置されている状態で、あまり防御力に期待出来ない状態だ。
塹壕の中には周辺から あちこちから かき集めた寄せ集めの歩兵達と比較的 戦力を維持出来ている皇族を守る為の軍隊…近衛師団がいる。
装備は小銃、軽機関銃、重機関銃、バズーカ砲…それに 火炎瓶や古式火縄銃などが加わる。
1人に1丁銃が供給出来ない状況では、火縄銃でも かなりマシな部類だ。
その後ろでは、12万の女子供をかき集めた私服姿の国民義勇隊が待機しており、彼女らが竹槍、農機具で武装している。
現地民達は この数ヵ月の準備期間で、敵の戦力は多くて数万。
つまり、捨て身の5人が米兵1人を殺せば確実に侵略を防げると教育されている。
だが、数値上は25万の兵力がおり 防衛が可能な数字ではあるが、近衛師団以外の戦力は 速成訓練すら真面に受けられていない素人で士気も低い…結果は既に見えている。
敵軍艦からの海岸への大量の砲撃が始まる…。
塹壕に隠れていた兵士達は 比較的無事だが、この最初の集中砲火だけで おおよそ半数の兵士達が敵兵士の顔を見る事も無く 吹き飛ばされる…彼ら彼女らの功績は敵の弾を消耗させた事だ。
横一列に並んだ歩兵達の火縄銃による攻撃…。
火薬量も弾の口径を多い為、威力は期待出来るが、ライフリング加工もされていない火縄銃は 命中率が極端に悪く、横並びに配置しないと とてもじゃないが当たらない。
そして 横並びで竹槍や農機具で武装した女子供が一斉に突撃を仕掛ける。
明らかに時代錯誤の戦法で最新装備で固めた連合兵を殺せる訳も無く、上陸し 砂浜に伏せた機関銃兵が持つ機関銃の掃射で簡単に死んで行く。
衛生兵がいない為 負傷した兵の救助は出来ず、訓練不足から止血の仕方も知らず、応急処置が出来ない。
明らかに異常…狂っている…が、これが正常だ。
そして、25万人が半日程度で死に…。
集まったトニー王国軍が散らばった上陸部隊を片っ端から排除して、敵の軍艦も沈める。
大して役に立たなかったが、この半日稼いでくれた事により、オレ達トニー王国軍の陽動が完璧に決まり、オレ達は この戦争を止める為の最後の作戦を開始するのであった。
カシャッ…ボン…ドン!!
ショットガンで、扉の蝶番を破壊してドアを蹴り飛ばし、まずはドラムが突入…。
その後ろからパイロットスーツを着、ヘルメットを被った兵士達がクリアリングをしながら 慎重に建物の中に入る。
「何を…」「侵入者だ!!かはっ」
ドラムが警備員に見つかるが、次の瞬間には ドラムが持つショットガンから放たれた暴徒鎮圧用のゴム弾を腹部に受けて倒れる。
ドン…ドン…ドン…ドラムは無慈悲に淡々と腹部にゴム弾を喰らわせ、その後ろからオレ達が警備員を次々と拘束して行く。
「いやっ!…誰か助けて!!うぐっ」
この屋敷の政治家の妻である女性がそう叫ぶが、口を手でキツく塞ぎ、腕を背中側に回されて拘束…。
更に捕虜用の爆発する首輪を取り付けられる。
「やめて おとなしくするから らんぼうしないで」
涙目になっている10才程度の女の子も確保…。
2人は無理やり麻酔薬の注射を打たれて意識を失い、家の柱にセムテックスを仕掛けて行き、そのまま偽装した軍用トラックに積み込まれる。
それがアメリカ国内、イギリス国内で大量に しかも ほぼ同時に起きる…。
ただ、その家の主人達はコロネット作戦の為に家を留守にしており、家族がさらわれたと言う情報が届くまで かなりの時間が掛かる…。
そして、その主人が現場に駆け付けた頃に起爆して、建物自体を炎上倒壊させる。
これで倒壊した建物から妻子を探そうとする為、更に時間が掛かる。
政治家である主人は、自分達が起こした戦争の報復により、自宅が破壊されて妻子が失った事を非常に後悔する。
そして、そこに付け入る隙が生まれる。