31 (戦争は続くよ 何処までも)〇
戦争は 続くよ何処までも…。
海岸線の防衛網の構築が進み、海岸からの進入は困難。
日本を舐めて護衛機無しで空爆していたB-29爆撃機も、トニー王国製の戦闘機が事前に爆撃機を破壊出来る様になった事で、戦闘機 部隊の護衛に付き、こちらの戦闘機とドックファイトを始めるが、人を乗せない為 機体が軽く、人じゃ潰れる程の高G機動と取れるので、プロペラ機では明らかに分が悪い。
敵の戦闘機は こちらの戦闘機の下部に取り付けられている20mm機関砲が火を吹き、次々と撃墜されている。
この戦闘機は エアトラ社が開発した最新型の試作戦闘機で、試作ジェットエンジンを取り付けた左右の翼の向きを自由に設定出来るトニー王国の航空機では お馴染みのティルトウィング方式だ。
この戦闘機の凄い所は 左右の翼の向きが別々に動く為、垂直離陸から左右の翼の向きを 別々に変えた急旋回 、急上昇が普通に出来る。
これは左右の空力特性が常時変わるので、人間のパイロットでは扱いが非常に難しいのだが、第一次世界大戦 終戦後にアメリカ空軍の軍縮により大量の失業した空軍パイロットをトニー王国で雇って、戦闘機用のAIを鍛え、その後は ひらすら仮想空間上でAI戦闘機同士で戦わせて経験値の蓄積を行っていた事もあり、もう人が出来るマニューバーを使っていない。
一応 機関砲のトリガーだけは物理的にAIに制御させず、こちらの兵士に引かせているが、AIの反応に人のトリガーが追い付かず、中々兵士が撃てない状態になっている。
そんな訳で 九州一帯の安全を確保出来たのだが、戦争は まだ終わらない。
アメリカ、ブリテン軍は 輸送可能な船の約半数を失った事で、補給が非常に困難になり、更に別動隊がトニー王国の本島を攻撃しているので 日本への攻撃が明らかに減っている。
ジガが担当している 北海道側の日本軍は、トニー王国が千島列島と樺太を盾になって守っている状態なので、損害が殆ど無く、一応真面な軍として機能している。
ただ、ソ連の戦法は明らかに酷い…。
ちゃんと指揮官に戦果の報告がされていないのか?粛清を避ける為に損害を過小評価しているのか?歩兵をベルトコンベア式に次々と送る 同じ戦法を繰り返し、その度に相手の死者が増え続ける。
多分、ソ連軍内では 責任の押し付け合いと粛清が始まり、優秀な人材が次々と消えて行っているな。
スターリンは粛清を避ける為に嘘の情報しか流さない大量の部下を抱え、誰も信用 出来なくなっていたからな…多分、それだろう…今の戦術を使っている限り こちらは いくらでも耐えられる。
さて、連合軍 各国はトニー王国を日本の同盟国と見なし、枢軸軍 認定した…つまり実質の宣戦布告だ。
トニー王国は日本との傭兵の契約だと主張して日本との同盟を否定…。
連合軍は 日本との傭兵契約の破棄を訴えるが、トニー王国側は『日本と停戦交渉して終戦すれば済む事だ』と至極最もで真面な事を言う。
が、連合軍側は『無条件降伏による停戦の段取りを整えている所だ』と言い、実質 日本と交渉する気は無い。
まぁ連合軍は、本来 連合軍が占領出来るはずだった九州を こちらが実行支配しているのが 気に喰わないのだろう。
この状況では トニー王国を敵として戦争をしないと、70万人と大量の軍艦を無意味に溶かした連合各国の遺族から非難が殺到する。
更に連合国では 戦死者の遺族年金と軍事の為に発行した大量の戦時国債の支払いがある為、ここで日本が条件を飲んでしまえば、戦勝国なのに借金を返す為に 国民から税金を徴収して借金を返し、国の経済規模を大幅に落とすアメリカ独立戦争前のブリテンの状態となる。
つまり、連合軍側は 更に戦時国債を発行して借金をし、日本全土を手に入れ、莫大な賠償金を日本に支払わせるしかない。
つまり、第一次世界大戦に敗戦したドイツと同じ事をやろうとしている。
学習能力が欠如しているのか?それとも、自分達の代の政権さえ無事であるなら、その後に第三次世界大戦が起きても構わないと思っているのか…。
なので、アメリカ側、ブリテン側からトニー王国の本島を攻撃。
次々と2国軍の軍艦が次々失われる中、両軍は上陸部隊を出すが、海岸は完璧に要塞になっており、上陸は不可能。
空母から発艦した戦闘機達が、雪が積もっている森林が大半の本島へ焼夷弾で空爆を行っているが、無人の戦闘機で 次々と敵戦闘機を落としている状態だ。
なのにも関わらず、アメリカ軍とブリテン軍は 攻撃するしか 手段が残されていない。
軍の消耗から言って、現在トニー王国が世界で一番 軍事力を持っている。
ここで 手を緩めれば、狩る立場から狩られる立場に変わってしまい、今度は日本と同じ様にアメリカ、ブリテンが滅ぼされる。
自分達が日本に対してやっている事を 相手もやると思ってしまう…。
にも関わらず『自分が やられて嫌な事を相手にしてはいけない』と言う思考が無い。
こうなると国中の低所得者が全員死ぬまで戦争が続くだろう…金持ちは 自分が戦場に行って死ぬ事を望まないからだ。
1946年1月1日…。
カリブ海 パナマ運河、トニー王国潜水艦 外交船。
日本の外交官を乗せたトニー王国の外交船が、パナマ運河でアメリカの外交官を潜水艦に乗せる。
「ようこそ、クラウド・エクスマキナです。
本日はトニー王国の外交官をさせて頂きます。」
クラウドがアメリカの外交官と握手をしようとするが、拒否される。
イラッ…。
落ち着け…無礼な態度を取る事も立派な外交戦略だ。
外交船 食堂…。
私達は開けたままのドアを通って食堂に入る。
高級感が溢れる暗めの木目で、床、テーブル、椅子が作られており、椅子には 座り心地は 良さそうなクッションも取り付けてある。
左にはキッチン…正面には テーブルクロスを掛けた6人用テーブルが4つ配置されており、椅子が24席分ある。
潜水艦の中だと言うのに、かなり広い空間で、窮屈感が無い。
トニー王国の潜水艦は 人員が少ない分 スペースを多く取れ、更に非戦闘艦である外交艦なので、戦闘に関係ない設備が結構 充実している。
トニー王国に日本、アメリカにブリテンの外交官達が席に座り 交渉の開始だ。
「こちらが日本からの停戦条件です。」
日本の外交官が停戦の為の条件を提出する…。
基本的には アメリカの要求通りだが、皇族の助命や他国の日本列島以外の領土の放棄…。
トニー王国からは、いくつかの日本領土の実行支配が条件だ。
で、別件のアメリカとブリテンがトニー王国領土へ攻撃した事に対しては、互いに損害賠償を請求しない。
と言う非常に相手に譲歩した条件だ。
「ふっ…」
アメリカの外交官は些事であるかのように書類を見てふと笑みを浮かべる。
「こちらは 一切譲歩する気が無い。
これでは停戦は不可能だな…」
まさか…この条件でも戦争続行?
あ~条件が悪かったのか?
相手に高額な賠償金を要求しないと言う事は、今の内に終戦しておかないと確実に負ける状況…。
つまり、トニー王国の戦力は表向き かなりある様に見えて、実際に裏では既に かなり疲弊している…と判断されたのか…。
なので、連合軍は 戦争を継続してトニー王国を敗戦させた方が良いと判断する…自分に都合の良い条件だけを見ようとする拡張バイアスか?
「後悔しますよ…」
「我々には核がある。
威力は 既に知っているだろう?
トニー王国の本島も焦土に出来るぞ」
「それは無理ですね。
核を搭載出来るB-29は重量と滑走距離の問題から空母では発進が出来ません。
アメリカとトニー王国を往復するだけの飛行能力はB-29には無いでしょう。」
アメリカ軍は 確かにトニー王国の豊かな森林を焼夷弾で焼いて行るが、今は豪雪の時期であり、あまり効果が無い。
そもそも トニー王国の本島の住民の全員が 地下10kmのジオフロントに住んでおり、核の集中運用をした所で地表を焼くだけで、国民を1人も殺せない…こっちは 核戦争を想定した国造りをしているからな…。
まぁ本島には誰も入れていないから 敵は予想だけで判断する事になるし、まさか地下都市みたいなロマンだけで採算が取れない計画を馬鹿正直にやっているとは 思っていないだろう…。
私室。
「これ如何するのです?」
日本人外交官が言う。
「さあ…アメリカやブリテンの政治家に贈り物を送っては いるのですが…」
この戦争を止める為、何人かの外交官が現地に行き、発言力を持つ政治家に対して接待や贈り物を送っている…まぁ賄賂だ。
人は国の利益より個人の利益を優先するので、政治家に賄賂を贈って終戦の流れを作って貰う方が戦争の終結が早くなる。
そして、早くも政治家やマスコミに働きかけられる人物達が 賄賂のおかわりを要求して来ている。
これは どの国でも やっている割と常識な外交戦略だ。
「ここは耐えるしかないのでしょうね…。」
私は日本の外交官にそう言うしかなかった。
トニー王国 外交島…市役所、都市長室。
去年 年齢が60を過ぎたベテラン都市長のバートが、15歳の都市長 見習い のユリンと一緒に戦争終結の為に日々の業務をこなしていた。
「また他国の外交官からの賄賂ですわ。
今度は金塊ですわね…よっと…。」
ユリンは 都市長室の横のドアを開けてる…そこには宝石や絵画、女性の裸体像、酷いのだと札束満載のアタッシュケースなどが置かれている。
「だいぶ この仕事に慣れて来ましたね…。」
「ええ 私が おじいさまに拾って貰えてから5年も経ってますわ。
まだ おじいさまの様な威厳は ありませんが、他国との交渉も しっかりと出来ています…。」
「おおっそれは頼もしい…。」
私は 書類を見ながらユリンに言う。
ユリンは 私がアメリカの貧困の実情を肌で知る為に護衛と共にスラム街に入った時に私の財布を盗もうとした泥棒だ。
私は ボロボロの服にカビたパンを食べる10才の少女をトニー王国に連れて行き教育を授けさせた。
自分の後継者の都市長は、貧困を肌で感じている人物に したかったからだ。
「それにしても…。
なんで クラウド様の要求は断るのに、こちらに講和の為のお願いされるのでしょうか?行動が矛盾してますわ」
「ユリンも まだまだですね…読みが甘い。
彼らはトニー王国へ譲歩を求めているのです。」
「減額?タダなのに?」
「額面上ではね…。
でも、実質 戦争を仕掛けた側が負けたなんて、彼らの後ろの政治や軍は それでは納得しないでしょ…」
「またプライドの問題ですか…。
では 表向きには 勝ちを譲れば良い訳なのですね…。」
「それが出来れば 苦労はしないのですが…。」
私は苦笑いしながら ユリンにそう言い、今後の戦略を考えて行くのだった。