30 (オリンピック作戦)〇
1945年11月1日。
厚いコンクリートで覆われた指令室で、ナオ達トニー王国軍は現場に指示を出し続ける。
アメリカ軍内でXデーと呼ばれる この日に、70万人の陸戦部隊と空母42隻を始めとした大艦隊を編成した アメリカ、イギリス軍を中心として連合国軍が日本にやって来る。
彼らは 四国高地 沿岸への陽動上陸作戦であるパステル作戦に合わせて、鹿児島と宮崎の海岸に接近する。
それに対して、日本軍は おおよそ30キロまで米海軍が接近した所で、初手の攻撃として 桜花を中心とした多数の神風特攻を…海中からは 人間魚雷回転などの水上特攻を行う。
桜花は 対策が立てられ、大半が 一式陸上攻撃機に搭載されている状態で撃墜…。
発射がされた後も、大量の艦隊によるハリネズミの様な対空砲火でロクなダメージを与えられない。
そして回転は、命中率が良く何隻かにダメージを与えるが、致命傷にはなっていない。
そして、海上での最終防衛ラインには 北海道以外で日本が保有している19隻の駆逐艦と、多数の武装ボートで突撃を仕掛けるが、その程度では連合国軍は止められない。
アメリカ軍は、宮崎の沿岸、鹿児島の志布志湾、串木野周辺の3つに艦隊を別れ、合計35ヶ所に分かれて上陸作戦を行う。
鹿児島県 串木野市へは 第五海兵上陸軍団を進める。
彼らの目的は、鹿児島西側を攻略、その後は 内陸部へ進撃して鹿児島制圧を狙う事だ。
宮崎南部へ上陸する部隊は 第一海兵上陸軍団。
彼らは 近隣の飛行場を制圧した後に、宮崎から南進して来る日本の援軍の阻止を目指す。
志布志湾の先端に上陸した第11師団。
彼らは 付近の飛行場を制圧した後、第一海兵上陸軍団と合流する為、北進する予定だ。
艦隊が海岸付近に来た辺りで、機雷を装い 予め水中ドラムが艦隊に設置していた爆薬が爆発…。
推進機関の破壊と多少の浸水が次々と発生している…が、航行不能にさせる事は出来たが 全損させるに至らず…。
ただ、空母は船体が傾かせ 戦闘機の発艦を困難する事が出来た。
航空戦力を無力化 出来た事は、それなりの戦果と言っても良いだろう。
上空を旋回待機させている戦闘機型のドローンが現場を観測する。
上陸作戦が始まる…敵の大艦隊の砲撃支援の元、オマハビーチの上陸作戦でも使われていた アメリカ軍のLCVPの大群が海上を進んで行く。
LCVPの中には 36名の上陸部隊が乗っていて、それを厚い装甲で覆われており、上陸まで敵の銃弾から兵士の身体を守ってくれる。
後方で待機しているアーセナル部隊が、座った状態で戦車砲サイズのボルトアクションライフルを構え、戦闘機型が送ってくれた情報を元に軍艦の砲台を的確に潰して行き、その前に配置されているベックのDL部隊は 敵艦からの砲撃を避けつつ、LCVPにM3グリース型の20mm機関砲の弾を浴びせる。
歩兵の機銃を想定しているLCVPの正面装甲は、次々と20mm弾を貫通して行き、乗っている兵士に破片が突き刺さりLCVPが沈む。
が、何せ数が桁外れに多い。
宮崎の沿岸、鹿児島の志布志湾、串木野の3ヶ所からの同時攻撃…。
1エリア辺り アーセナル24機、ベック24機の合計48機。
それが3ヶ所だから144機…DL1個大隊で対応しているので、流石にDLでは無理がある。
LCVPが上陸し正面装甲が下に下がる…その瞬間…LCVPに乗っている上陸兵士36名が眉間に1発ずつ撃たれて即死する。
どのLCVPも同じ様な状況で、上陸して来る兵士がいない。
塹壕でM1ガーランドを箱型マガジンが使える方に改造したスプリングフィールドM14ライフルを構えている1万2000機のドラム達の狙撃だ。
そして 運良く上陸出来ても、対人地雷と鉄条網で移動を阻害されている間に頭を撃ち抜かれる。
続いて、後続からLCVPに搭載された戦車や装甲車がやって来る。
アーセナルがライフルで落としているが、命中率が低い…。
観測情報を受け取ってから撃つまでの間に 敵がその位置から移動してしまうからだ。
生き残った戦車部隊が次々と上陸…あれはM4中戦車か?
次々と対人地雷を爆発して行き、鉄条網も踏み潰す。
戦車の後に到着した上陸部隊は、対人地雷が爆発し終わった戦車の後ろに付いて行き、潰させた鉄条網を踏み越えて侵入して行く。
ベックの部隊が十字砲火になる様な位置で、M4中戦車に20mmM3グリースガンで撃つ…だが、効果はそれなり…。
M4中戦車の装甲は一応貫く事が出来るが、複数発の命中が必要だ。
だが、時間は稼げた。
地面に伏せたアーセナルが、ライフルをM4中戦車に向けて 正面から撃ち込む。
戦車砲の弾の直撃を受けたM4中戦車は 次々と爆散して行く。
だが、その間に塹壕内に歩兵の進入を許した。
塹壕内ではドラムとアメリカ軍との戦闘が始まり、歩兵達が次々と頭を撃ち抜かれて死んで行くが、銃身長が長いM14ライフルは塹壕内で取り回しが悪い。
なので、取り回しが良いアメリカ兵のM3グリースには敵わず撃たれる…が、次の瞬間には撃ち返され、頭を撃ち抜かれる。
被弾したドラムだが、装甲内部にダメージは無く、厚い複合装甲で すべての弾を受け止めている。
ドラムの装甲を 対人兵器で貫く事は非常に困難だ。
もちろん それに見合うだけの重量があり、人が身に付けるのが難しいのだが、装備しているのは 人じゃない機械のドラムだ。
ドラムなら それが出来る。
更に火炎放射兵が塹壕内のドラムに火を浴びせるが、また即座に頭を撃たれる…火炎放射の炎の温度は精々が1500℃…。
3000℃に一時的に耐えられるドラムの装甲を燃やせない。
更に味方がいると言うのに化学兵器を使用…マスタードガスだな。
マスタードガスは 人体を構成する蛋白質やDNAに対して強く作用することが知られており、目や呼吸器の粘膜を冒し、水疱、潰瘍を生じる…更にDNAを傷つける為、発がん確率が高くなる。
これはガスマスクを していてもガスに接触した皮膚から症状が出始めるので、塹壕戦で効果的で完璧に条約違反なのだが、残念ながらドラムは呼吸をしない。
なので、仲間の犠牲を無視してばら撒いたマスタードガスで、次々と味方の兵士が倒れて行くと言う地獄の光景が生まれたのだった。
戦闘開始から1時間後…。
結局、少数のドラムの犠牲はあれど こちらの死者は0人で、3ヶ所に展開した 70万人の上陸部隊に空母42隻と他多数の軍艦を沈め、連合軍側の生存者は確認出来る限りでは0…。
上陸作戦から1時間程度で敵部隊の全部を削り切り、今は死体で出来た海岸でドラム達が 敵の銃や弾の回収している。
潜水艦に繋がっている水中ドラムは、海中に沈んだ船から大量のレーションを回収しており、これは日本軍の食糧事情の解決になるかもしれない。
連合軍は 大量の犠牲が出る事は想定していただろうが、絶対に勝てると踏んで 用意して来た 過剰過ぎる戦力をトニー王国が削り切るとは思っておらず、今回の犠牲で各国が保有している軍事力が大幅に低下し、トニー王国が相対的に世界一強となった。
これで連合軍も日本と和平を結ぶしか無くなった。
のだったが、連合軍は 合理的な思考はもう出来ず、この損失で止まれなくなったのだった。