29 (始まらない停戦交渉)〇
10月28日…宮崎県 宮崎市の海岸。
テント指令室。
「ほらほら急げよ…11月まで もう時間は無いぞ!」
ナオが無線で次々と指示を出していく。
オレ達トニー王国は、アメリカの攻撃に備えて、自衛のみの消極的戦闘状態を保っている日本軍と現地部隊のみで協力…。
アメリカ軍の海からの上陸を防ぐ為に海岸線の簡易要塞化の為に雇われていると言う事になっている。
広島と長崎の原爆の投下から2ヵ月…。
あれから 毎日の様にアメリカ軍が九州の各所に空襲を行っている…のだが、それ以外の攻撃は めっきり減った…大規模作戦の前の静けさだ。
通常型のDL…ベック部隊はシャベルで土を掘り起こして 海岸線に そって ひたすら続く長い塹壕を造り、コンクリートで厚く固めている。
海岸には大量の地雷と鉄条網で侵入を防ぎ、重装備型DLアーセナルによる遠距離狙撃で戦車を片っ端から潰してく作戦だ。
更にそのずっと後方には、トニー王国の駐屯地があり、ドラムやDLの生産設備も一式持って来ていて、現地の物資で生産中だ。
これもドラムが24時間体制のブラック労働をしてくれているからで、そろそろ防衛網が整う。
「支援助かります。
今では私達は真面に戦う事も出来ないので…」
日本軍の指揮官が パイロットスーツ姿のオレに言う。
「上が機能しない以上、現場の工夫で如何にかするしか ありません。
まぁ敗戦が濃厚な現状では 最後まで手伝えないでしょうが…。」
「それでも助かります。
停戦交渉に入るまでの時間を稼げれば良いので…。」
「あれから2ヵ月も経っているのに 未だに交渉の場も付けません からね~」
オレは作業現場を見ながら言う。
8月15日…日本は天皇陛下がラジオで、日本の敗戦を正式に認めてアメリカと停戦交渉をする事を国民に伝える玉音放送をした。
だが、日本軍が停戦交渉の為に攻撃を弱めた場所から、次々とアメリカ軍、ソ連軍、トニー王国が占領して行き、満州が ソ連の実行支配を受けてソ連の領土…沖縄はアメリカ領土。
千島列島、樺太はトニー王国領となり、北海道にいる日本軍そっちのけで、千島列島と樺太を巡ってトニー王国とソ連が停戦まえに実行支配を握ろうと戦闘を繰り返している。
なら、1日も早く停戦交渉に入らないと いけない状況だが、アメリカは 日本への要求をエスカレート。
『戦争犯罪者として日本の皇族の全員の処刑』と言う 日本からすると、絶対に受け入れられない条件を突きつけて来た。
皇族の血統の途絶は、日本の文化的死を意味し、例え 土地だけ残ったとしても、日本人は それだけは 受け入れられない。
だから、日本側が この条件を呑めるはずも無く、停戦交渉をする前の段階で揉めに揉め、更にアメリカとは停戦交渉への段取りすら決めていない。
「もう、アメリカは日本と停戦したくない んじゃないでしょうか?
もう日本には海上、航空戦力は無いに等しいですし、一度アメリカ軍が上陸してしまえば 歩兵はともかく戦車を止める手段を日本軍は持っていません。
なら、停戦交渉をグダグダと引き延ばして 日本全土を実行支配してから交渉に入れば、日本の領土を全部が手に入る事が出来る…そちらの方が今 停戦するより明らかにお得でしょう。」
オレが喜楽に指揮官に言う。
「つまり、我々には 後が無いと言う事ですか…。
トニー王国の巨人…えーとDLは戦車と戦えますか?」
「ええ…ですが、重戦車を持ってこられると流石にキツイですね。
こちらの武器弾薬は充実していますが、米軍規格で日本の武器規格とは合いません。
残念ながら日本軍への補給は出来ないのです。」
「食糧は如何ですか?」
「ある程度は出来ます…。
ですが、補給量は今の日本軍より遥かに貧弱です。
こちらは 大規模な部隊を食わせて行くだけの補給が出来ないので少数精鋭の兵士に金を掛けまくった最新兵器で数の不利を補っている状態です。
万単位の人の腹は到底 満たせません。」
「兵士の食糧、死亡した兵士の補充、負傷兵の回収…。
兵士の数を減らして装備を強化する事で、兵站への負担を軽減しているのですね…。」
「そうです。
トニー王国では 戦死は非常に不名誉な事ですから…。」
「我々の国とは違う価値観です。
日本軍も戦後は 意識改革も必要なのでしょうね…我々の部隊は如何動きますか?」
「トニー王国と日本軍では 根本的に戦術が違います。
すり合わせの為の共同訓練も していない状態で、一緒に戦うのは難しいでしょう。
なので、こちらが殺し損ねた 海岸から抜けて来る部隊の排除をお願いします。
対処が難しい戦車や装甲車は こちらで積極的に排除します。
敵歩兵は 8割減って所ですかね…こちらは、減らせるだけ減らして こちらに戦死者が出る前に撤退します。
これでも いくらかラクになるかと…。」
オレが×だらけの世界地図を広げて言う。
10月始め、中国軍の攻撃で 日本にとって 唯一まともな同盟国であるタイ王国が寝返り、日本軍に対して攻撃を開始。
インドネシアのボルネオ島でも 石油資源が残り僅かな日本は、ブルネイ油田を巡ってオーストラリア軍と戦闘を行っている。
ただ、日本軍は それらの地域に補給しようにも この頃は既に沖縄にフィリンピン全島、小笠原諸島が連合軍に占領されている状態で制海権は完全に連合国軍の支配下にある為、補給は不可能…彼等は完全に現地に取り残された。
この為、日本は 中国、台湾、インドシナ、インドネシアを実質放棄…。
更に10月11日に小倉、熊本に原爆が追加で投下。
2日後の10月13日に京都、新潟に原爆を投下。
敵が何を目的で核を使ったのかは分からないが、京都にある日本の文化遺産の数々が蒸発した。
明らかにアメリカは核の威力に舞い上がって過剰な程の弱い者いじめを始めている。
まぁ勝ちが確定している弱い者いじめで相手をいたぶるのは 一番楽しいからな。
そんな訳で、日本軍は停戦交渉に入る為 消極的な戦闘しか出来ない事を言い事に、日本の領土がドンドン小さくなっている。
そして昨日…10月27日。
種子島、屋久島など大隅諸島の島々が米軍によって あっさりと占領。
鹿児島、宮崎への上陸は目前だ。
「ここでアメリカとイギリスを防げなければ 日本に未来は ありません。
ご協力頼みます。」
「こちらが死なない程度で頑張ります。」
オレは指揮官にそう答えた。