28 (不法占拠)〇
幌筵島司令部。
「えっ何ですって?
攻撃するなですって…そんな、ここは如何するんです?
あ~クソッ!!」
池田末男はそう言って無線機の受話器をガチャリと乱暴に切る。
「大佐…本部は何と?」
「日本は敗戦の為にアメリカとの交渉に入る…現場の戦闘は直ちに停止だ。」
「ですが、向こうは戦闘を辞めるどころか戦力が増えて来ています。
このままでは、戦闘を停止した我々を射殺して、千島列島を乗っ取るでしょう…。」
不可侵条約を破ってのソ連軍に対して、こっちは使者を既に3部隊も送ってるが、いずれも帰って来ていない。
捕虜になったか、その場で射殺されたか…分からないが、ソ連が停戦に応じる気が無い事は はっきりとしている。
「それは 分かっている…。
上は 停戦交渉に入れば ソ連軍が止まると思っているのだろう…。
だが、上の連中が 正式に書類にサインするまで、この戦闘は続く…。
そして 上が交渉してサインする前に千島列島や北海道は確実に奴らに取られるだろう…。」
「しかも、こちらは 本部から戦闘を停止する様に言われています。
抵抗もせず 大人しくソ連兵に殺されろと?」
「そう言う事になるな…。
そこでだ…我々は本部の命令を無視して独自の行動を取る事とする。
独断軍だ…当然、軍法会議で銃殺刑になる…だが…。」
「このままでも、ソ連兵に頭を撃たれて終わりですからね…大して変わりません。」
「よし、参加する兵達を集めろ!!
俺達 士魂戦車隊は、命令を無視して千島列島を防衛する。
覚悟を決めろ!!」
「はっ」
「本部に暗号で連絡。
士魂戦車隊 部隊は 命令を無視し、独自の行動を取る…以上終わり。」
「はい」
俺達は 電信を打ち終わった後、ソ連からの侵略から領土を守る為、戦う準備を進めるのであった。
占守島。
こちらの戦力は2万3000…。
速成訓練を出たばかりの学徒兵も大量にいるが、アメリカ軍の海軍が千島列島を抜かれない様にする為に防衛として比較的多く戦力をまわして貰えて、なおかつ アメリカ軍が南からの針路を選んだ事により、こちらでは 戦闘が少なく、食糧と備蓄弾薬は比較的豊富にある。
この島から10km離れたロパトカ岬では、砲台で固められおり、定期的に占守島に砲弾がやって来ている。
「来たな」
カーキ色のワイシャツに日の丸の鉢巻きをした決戦装備の俺が、戦車の上から身体を出して 部隊の指揮を取る。
空から大量の爆撃機が 占守島に爆弾を落として行き、海から大型の軍艦がやって来る…。
対空砲で爆撃機を撃ち落としても 落ちた爆弾が占守島内で爆発する為、大して効果が無い。
ただ、敵の目的は 停戦前に占領地を可能な限り増やす事だ。
ゆっくりと砲撃や爆撃して占領して行く方法は取らず、大量の歩兵部隊を一気に上陸させて来るはずだ。
敵軍艦から陸地に向けての砲撃が始まり、その間に上陸部隊が上陸しようとする。
ただ、少ない艦に武器を詰め過ぎたのか、過積載の為、接岸が出来ず 1隻が座礁…。
乗っている歩兵達は 次々と、泳いで上陸して来る。
「国籍不明の上陸部隊が、上陸を開始…歩兵が先行…こちらに向かって来ています…っ早い!!」
「ソ連軍は やっぱり急いでいるな…細かい所に問題が出ている。
国籍不明部隊をソ連軍と暫定…。
歩兵部隊は敵を引き付けつつ後退…敵歩兵部隊を後方 支援部隊から引き離す。
………来た、砲兵隊は指定位置を攻撃…こちらの歩兵は、砲撃に巻き込まれるだろうが、速やかに退避だ。
良し、士魂戦車隊 行くぞ!!」
俺は そう言いつつ、俺達 士魂戦車隊780名が、砲撃で混乱しているソ連軍の歩兵達を次々と殺していく。
敵の軍艦は過積載で接岸出来ないので、対戦車砲などの重火器や戦車を地上に降ろす事が出来ない。
島内の砲台からの砲弾の雨で、何故かロクに動けていない敵艦13隻が大量の対戦車兵器と共に海に沈んで行く。
敵艦は推進機関でも やられたのか?だが、こちらには もう航空機も潜水艦も 無いはずだ。
俺達 士魂戦車隊は、四嶺山の南の麓の歩兵部隊の攻撃に入る。
ソ連兵は畑から採れると言う冗談があるが、今の光景はまさに それだ。
対戦車兵器は 船から降ろせずに船と一緒に沈み、上陸した大半は歩兵で、少しの迫撃砲。
それが 次から次へと投入されて行く。
1人1人の練度は大した事無く、小銃の弾も こちらの戦車の装甲は抜けない…。
大した苦労も無く殺せる…だが、歩兵の数が多すぎる…。
主力の歩兵達は 砲兵部隊の10センチカノン砲の水平射撃で 次々と吹き飛ぶが、大量の砲撃で辺りは 白い火薬の煙の霧が視界を遮っており、非常に見にくい。
「隊列を乱すな!!」
俺が旭日旗を掲げ、他の戦車部隊との目印にし、視界の悪い中ロクに狙わずに 機関銃を撃ち続ける。
辺りには弾の数より多いと思わせるだけのソ連兵がおり、無謀な突撃を繰り返す。
弾が切れたら こちらが殺られる。
「奇数部隊と偶数部隊に分ける。
奇数部隊は、弾を撃ち尽くしたら 補給を受けに戻れ!
偶数部隊は 弾の温存だ…奇数部隊が戻って来るまで戦線を支えるぞ!!」
「了解!」
補給は十分に間に合っている…これなら行ける…。
次々と現場でソ連兵の死体が積み上がる…が、あっあれは…対戦車ライフル部隊!?
「マズイ…対戦車ライフルだ!!
砲撃で吹き飛ばせ…おい、下がれ!」
ボン…俺が掲げたいた旭日旗が撃ち抜かれる…そりゃ目立つ様に掲げている訳だからな…。
「各戦車隊は俺から離れろ!!俺が囮になる」
穴が空いた旭日旗を大きく振りながら後退する…。
俺が乗っている戦車は 対戦車ライフルの集中砲火を受けて遂に小銃ではビクともしなかった装甲が貫通し、弾薬庫に当たる。
通常なら誘爆で吹っ飛んでいた所だが、今は砲弾が空の状態だ…運が良い。
ただ、その運も続かず履帯が損傷…その場で動けなくなる。
「これまでか…」
俺は 杉浦式自動拳銃を抜いて、群がって来るソ連兵士を撃つ。
1人に2発…4人殺した所で弾切れになり、機銃弾も0…。
敵の銃を奪えば まだ戦えるか?
「ここは日本の領土だ 渡しはせんぞ!!」
俺が敵の大群に向かって怒鳴り声を上げる…次の瞬間…。
空から戦闘機が6機 戦場を通過…戦闘機は下部分に取り付けられている爆弾を落とし、その爆弾の殻が割れ、中から大量の子爆弾が雨の様に戦場に降り注ぐ。
ソ連機?…いや、多少の日本兵を巻き込んではいるものの、吹き飛んでいるのは 大量のソ連兵だ。
こちらに味方する軍って どこの軍だ?
その答えも すぐに分かる。
歯車の国旗マントを背負っている24機の巨人…トニー王国の人型戦車だ。
こめかみに設置されている機関銃が火を吹き、あれ程 苦労していた歩兵の大群を一掃して行く。
厄介だった対戦車ライフル兵も次々と殺されて行き、歩兵の流入が止まった。
そして、海から爆発音がし、次々と敵艦が沈んで行く。
『仕込みに時間が掛かりました。
我々はトニー王国軍です。
日本軍の撤退を援護します。
直ちに この島から退避し、北海道の防衛に入って下さい。』
巨人サイズの大型の国旗を持っている人型戦車から女の声が聞こえる。
「撤退を援護?
俺がここの指揮官 池田末男だ。
我々は 攻撃の停止命令を拒否し、この土地を守る為に戦っている。」
『指揮官でしたか…丁度良い。
千島列島と樺太はトニー王国が武力による不法占領する事になりました。』
「……それは日本政府の決定か?」
『いいえ…正式手続きでは無い非公式の密約です。
ソ連と日本の間にトニー王国を挟む事で、トニー王国を日本の盾として使う計画です。
あなた方は 速やかに北海道まで撤退し、防衛を強化して下さい。』
トニー王国を盾にする?
確かに 俺らが戦闘を止めて撤退すれば、ソ連軍に千島列島を奪われる。
どうせ奪われるならトニー王国に奪わせた方が 日本への利益が高いと判断したか…。
『撤退しない場合は、現地の日本軍を殺して 土地を奪う事になります。
トニー王国の方針として あなた方に 出来るだけ死者を出したくないのですが…ご協力して頂けますか?』
機関銃を取り付けてある巨人顔がこちらを向いて言い、一瞬ドキリとする。
今の戦力でトニー王国を相手に出来るか?いや無理だ。
こちらは かなりの消耗をしている…。
もしかしたら、こちらと ソ連軍を戦わせて 俺達を弱体化させるのが目的だったのか?
いずれにしても ここで粘る必要はないか…。
俺達の次の戦いは、北海道を防衛して戦後の戦いに備える事だ。
「了解した…この戦闘が終わり次第 撤退する。
ただ、船の数が少ない…撤退には 時間が掛かる。」
『分かっています。
海上ルートは 既に我々で確保しているので歩兵達は こちらの潜水艦を使って下さい。
戦車などの重量物は運べませんが…』
「助かる…おい!撤退だトニー王国が助けに来てくれた」
「おおおっ援軍だ!援軍だ!」
『別に助けに来た訳じゃないのですが…』
「その方が兵士達が納得し易いし、撤退も早い…」
『あ~戦後に騙し取られたとか言われそうですね。
ま~領土問題になる事 前提の作戦なのですが…。
よっと…はい、これで この島はトニー王国領土です。』
無煙火薬の白い煙が広がる霧の中、女が乗る人型戦車は、一番目立ちそうな場所に巨人サイズのトニー王国の国旗を立てる。
そして、トニー王国の戦闘機から日本軍とソ連軍の死体が大量に混ざっている戦場に 焼夷弾が落とされ、敵も味方も関係無く 燃え盛る炎で火葬されて行く。
あ~コイツらには 死者を弔う気は無いんだな…。
人型戦車が戦場の警備に入り、戦場の安全が確保された所で 戦車砲サイズの狙撃銃を持つガッシリとした体格の人型戦車がやって来る…。
トニー王国の砲兵部隊か?
確かに あれなら防げそうではあるが…。
『さあ、お早く…』
「ああ」
俺はそう言い、生き残った味方の戦車の上に捕まり、撤退して行った。