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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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26 (核分裂の光)〇

 1945年8月6日午前7時10分…広島県物産陳列館(原爆ドーム) 屋根の上。

 ハルミやクオリアが、リアルタイムで情報を流してくれている情報を聞きながらナオ(オレ)は 屋根に寝転がって空を見上げる。

 上空には B29爆撃機3機が、広島上空を通り過ぎる所だ。

 中国軍管区司令部から7時9分に警戒警報が発令されたのだが、そのまま 空爆せず 広島上空を通過離脱した為、7時31分に解除される。

 高度があるとは言え、広島の上空にB29爆撃機が飛んでいると言うのに、空襲警報やラジオからの警戒放送は無しだ。

 最近の誤報もそうだったが、明らかに 分析能力が落ちている。

 恐らく日本の上の人間は 特殊爆弾の威力をアメリカ軍から聞いているんだろうな…。

 正しく放送して住民をパニックにさせるよりか、いつもの日常生活を送らせつつ 苦痛を感じる間も無く、一瞬で広島民を蒸発させる方が良いと判断したのだろう…。

 何より 面倒な人間が消えてくれた方が、後々の問題も少ないだろうしな…。

「さて、NHKを電波ジャックをしますか~」

『ウーーーーーーー。

 07時30分、敵の編隊B29が3機が、広島県 呉市を経て、広島市 方面に進む事が分かりました。

 予想到達時間は 午前08時00分~午前08時30分ごろ、敵編隊は、広島市への空爆をすると思われます。

 なお、帝国海軍より、このB29 3機には『強力な 新型爆弾が搭載されている可能性がある』との情報が入っています。

 該当地域の皆さんは直ちに防空壕に入り、空襲に備えて下さい。

 また、新型爆弾の爆発後には、致死性の高い 黒い雨が降ります。

 その為、雨がやむまで 決して防空壕から出ないで下さい。

 また、川の水も汚染される可能性がありますので、今の内に防空壕への飲料水の持ち込みをお願いします。

 繰り返します………』

 オレは NHKのアナウンサーを装って、このアンテナからラジオに音声を送り続ける。

 電波を送っているのは、この広島市 全域…NHKの放送に割り込んでの海賊放送だ。

 ちなみにラジオ局側からは、オレが海賊放送を流している事が分からない。

 恐らく、この放送も歴史の闇に消えるだろう。

 通常2回繰り返して終わりの所を 今回はひたすら繰り返し続ける。

 これで緊急性が高いと住民も分かるだろう…。

 街の雰囲気も変わった…オオカミ少年の様に空襲警報を軽視されると思ったが、住民達は緊迫感を持ち、次々と防空壕などの避難場所に移動している。

 これで 直撃での犠牲者を いくらか数を減らせるかな…。


 8時00分…。

「あっいた、ナオせんせー、さがしたよ~」

 声は建物の下方向から聞こえ、乗り出して見てみると楓ちゃんの姿が見える。

「あ?楓ちゃん?如何(どう)してここに?」

「せんせーが、ぼうぐうごうに いないから…」

「あちゃあ…好感度 稼ぎ過ぎたかな…よっと」

 オレは天井から飛び降りて、しっかりと手足の4点で地面に着地する。

「お~すごい」

 楓ちゃんが拍手をする。

「暢気な事を言っている場合じゃないって…空爆が来るんでしょ…。

 う~ん、誤差を考えると間に合わないな…仕方ない。

 ここに入ろう…お母さんは?」

「ぼうくうごうのなか…」

「今頃 心配しているだろうに…」

 オレは広島県物産陳列館(原爆ドーム)の中に楓ちゃんを入れる。

 ここは 爆風の直撃コースだが、建物が残る事自体は 知っている。

 ここから、相生橋(あいおいばし)までは100m…その真上600m上空でリトルボーイが爆発する予定だ。

 つまり、横からでは無く、縦方向から強い衝撃波と熱で建物を押し潰す様に力が加った為、運良く 建物の原型が残った事になる。

 まぁ中に避難した人も、頭から足までを押し潰されてペシャンコになっているはずだろうが…。

 それより重要なのは放射線かな…。

 原爆ドームは、鉄筋の骨組みの上から木材で補強されている建物だ。

 木材の放射線の遮断力って どの位だっけ?

 原爆ドームの中では、ラジオがオレが作った警告を鳴らし続けている。

 職員も含めて避難者が結構いるな…40人位か?

 下への階段を使って次々と 地下室に逃げて行く。

 ドアは鉄製…中は コンクリートで補強されていて、狭いがラジオと食糧、飲料水がある…元々は 備蓄倉庫だったのだろうな…。

 うん ちゃんとしている…これなら潰れずに生き残れるかも しれない。

「楓ちゃんは この中に…」

 オレは反対方向の上の階段を上ろうとする。

「どこ行くの?」

「屋上に…」

「あぶないよ…」

「皆を守る為に屋上に行くんだ。」

「かえでも いく」

「危ないよ…」

「でも、せんせーあぶないのに いくんでしょ…」

「あーそうだね…じゃあ、見届けて貰おうかな…。

 絶対に辛い事になるだろうけど…」

「つらくない せんそうはない。」

「そうだね…よっと」

 オレは 楓ちゃんを脇に抱える。

「屋上に行くのか?」

 地下室の扉を閉じようとしているオジサンがオレに聞く。

「ええ…新型爆弾の威力を見たいので…。

 記録に残せないと次の対策も立てられませんから…。

 危なくなったらノックするので、今は閉めちゃって良いです。」

「ご武運を…」

「どーも」

 オレは楓ちゃんを抱えて 階段を駆け上がる。

 現在、8時07分…史実では残り8分…歴史改変や記録誤差を含めたら、もう そろそろ降って来ても不自然(おか)しくない。

 屋上に たどり着く。

 空にはB29…が 落下傘を2つ落とした…。

 あれは 核じゃない…目標地点に落ちるかを見る為の模擬弾だ。

 模擬弾は風に流される事も無く、相生橋(あいおいばし)の中心に落ちる。

 ヤバイな…。

「楓ちゃん…ここを絶対に動かないで…ここで見た事は誰にも言わず、墓場まで持って行って…」

「うん」

「よし良い子だ」

 オレは楓ちゃんの頭を撫でるとリュックから手のひらサイズのサイコロを取り出し、空中に浮かべる。

 最近は充電位にしか使っていなかったが、2600年に作られたオーパーツ…ファントムを召喚する。

 緑色の量子光を放ちながら浮かぶサイコロは、量子光色に光る4.5mの巨人のシルエットを映し出し、実体化が始まる。

 空間の中のあらゆる量子情報を書き換えて、任意の事象を作り出す 空間ハッキング。

 それの技術を元に生まれたファントムは位置エネルギー、運動エネルギーの操作で自由に空を飛べる。

「おおおおっ」

 楓ちゃんが巨人を見て興奮している…。

 オレは ファントムのコックピットブロックを開いて乗り込み、機体と身体を接続…ダイレクトリンクシステムを起動させ、翼を展開…。

 量子光を推進剤の様に背中から吹きだして、ゆっくりと浮き上がる。

『クオリア…防御する為に最適な位置を割り出してくれ』

『了解した…マーカーを打った。

 念のため、私が演算バックアップをする。

 一応言うが、リトルボーイ自体は止めるなよ…。』

『向こうの防空壕は 自力で頑張って貰うしかないか…。』

『最初の爆発に耐えられれば、あの場所なら 十分 生き残れる…。』

 オレはファントムを操作して、盾を斜めに構える。

 ファントムの背後には、屋上で こちらを見上げている楓ちゃんの姿が見える。

 コン…模擬弾がファントムの頭にぶつかる。

『上空から落下物…模擬弾…B29はここに落とす気だ。』

『は?史実と…』

『近場に光るファントムがいるからな…目標地点を変更したのだろう』

『あ~そっか…これ、威力は凄いんだけど 隠密性が 皆無だからな…。』

『ビーコン修正…ドームの真上からになるな…。』

『了解…』

 オレは背面 飛行状態で、ドームの真上で盾を構える。

 ドクドク…。

 もう存在しないが、オレの頭の中でシミュレーションしている架空の心臓が激しく打ち付ける。

 どんな過酷な戦場でもおきなかった 久しぶりの高揚感…。

 ヤバいな…こっちの性能が高いせいで、核兵器級の難易度じゃないと高揚感を感じられないのか…。


 そして…8月6日午前8時15分20秒…。

『爆弾投下…』

『防御シールド最大、絶対に伏せぐ!!』

『ナオなら十分に出来る。』

 地表600mでリトルボーイが爆発し、オレの思考が加速される。

 ファントムの防御シールドで原爆の直撃を防ぎ、ファントムの背中にある原爆ドームを守り続ける。

 爆発から0.2秒で、全体の90%の放射線が放たれ、原爆ドーム以外の周辺は 3000℃の高温で焼かれ、外に出ていた人は身体が 一瞬で沸騰して蒸発する。

 残されるのは、強力なレントゲンで人の形が地面に張り付いた影だ。

 続いて、爆発から0.5秒後…。

 放射線で加熱された空気が膨張…空間中の酸素が次々と消費されて行き、その膨張圧力が衝撃波となり、木や家、神社…様々な物を吹き飛ばし、瓦礫へと変ていき、運良く生き残った人に追い打ちをかけ続ける。

 オレ達が造った核シェルターは、計算通り 爆風が斜面を上がった事で無事…。

 余剰の演算能力は まだまだ十分にある…このまま行けば 耐えられる。

 そして爆発終了…。

 まだ、周辺は3000℃近い熱波に覆われており、呼吸をすれば気管が焼かれ、皮膚も焼かれ、とても 人の住める環境じゃない。

 密閉されていない防空壕は この時点で死亡かな…。

 そして、人やら建物を蒸発させた水蒸気は、上空に上って きのこ雲になり、上空で冷却されて雨になる。

 この時、人や木材に含まれる炭素と、放射性物質を大量に含んだ黒い雨が発生して降り注ぎ、大量の水蒸気を発生させながら地上を冷却し続ける。

 ここまで耐えれば、生存は出来る。

 ただ この雨に当たって被ばくすると細胞異常が発生して ガンに なり易くなり、これも危険だ。

 確か、発がんリスクが タバコレベルになるまで48時間だったか…。

 それまでは 出来るだけ、外に出ない方が良いだろう。

 オレは 無傷な原爆ドームの屋根に着地して、ファントムを降りる。

「きえた…みんな、きえた…なにもかも…」

 楓ちゃんは その場に座り込み、オレに言う。

「そうだね…消えちゃったね…。

 でも、この力を嫌いにならないで…。

 この力は これから電気を作る為の必須のエネルギーになるから…。

 この後、今日の犠牲者の何十倍も、何百倍も人を救う事になるから…」

「でも…」

「今は分からなくても良い、今の言葉さえ覚えてくれれば…。

 それじゃあ、原爆ドームの中に入って…この雨に触れると危険だから2日位はここにいて、それじゃあ オレは行くよ…。

 他の防空壕も 見に行かないと行けないし…」

「あっ なお せんせー」

「ん?なに?」

「ありがとう…たすけてくれて…。

 このいのち、たいせつに、つかう。」

「そっか…じゃっ…。」

 オレは楓ちゃんを屋上の階段まで送り、ファントムをキューブに戻して、雨が屋上を濡らし始めた所でオレは飛び降り、所々焼けている外壁に文字を残す。

 La nuklea reago estas(核反応は、)

 Se uzite por mortigi, ĝi iĝas nuklea armilo.(殺しに使われると核兵器になります。)

 Se uzata por paco, ĝi fariĝas nuklea energio.(平和の為に使われれば、原子力エネルギーになります。)

 とエスペラント語で書き込んでいく。

『決めたよクオリア…オレ、ダウンフォール作戦を止める。』

『準備はして来ているが、敵に かなりの死者が出るぞ…』

『分かっている…でも、このまま 放って行く事も出来ない』

『了解した…と言う事は 宣戦布告だな…忙しくなりそうだ。』

 クオリアはそう言うのだった。

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