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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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24 (コラテラル・ダメージ)〇

 1945年8月1日…広島県、呉市(くれし)…。

 海の中には アメリカ軍が爆撃機から落とした大量の機雷が浮かんでおり、戦闘で損傷した軍艦を入港させて 修理する事が出来なくされている。

 その機雷の中をトニー王国の潜水艦に搭載されている水中ドラムで、様々な機雷のセンサーを誤魔化したり、糸を通す様に慎重に進んだりしながら、進む…。

 爆破しない隠密とは言え、機雷の突破に半日も掛かった。

 これ、アメリカ軍の上陸も しにくく なるんじゃないかな…。

 深夜。

「よっと…」

 ナオ(オレ)は 4ヵ月前に沈んだ戦艦大和を造った造船ドックである呉海軍工廠から陸に上がる。

 現在、ここでは 飛行機のエンジンなど様々な開発もされているが、そもそも海軍戦力が壊滅している状態の為、実質 開店休業状態だ。


 オレは 青の甚平姿に背中にリュックを背負い、腰には いつものアミュレットリボルバーとウージーマシンピストルが 左右のホルスターに収められている。

 市街地は、木造の民家がアメリカ軍のB29爆撃機による空爆により 破壊されており、無事な家が かなりの数 減っている。

 呉市(くれし)から少し離れた場所にある闇市と遊郭(ゆうかく)

 物資を合法的に入手出来なければ密輸するしか無く、お隣の朝鮮…後の韓国から様々な物資が運ばれて来ている。

 タイ米、大豆、砂糖…そして遊女(ゆうじょ)…。

 公営の性風俗店である遊郭(ゆうかく)…死が身近な軍人は 誰もが子孫を残そうと必死になり 性衝動が高まる。

 それを 一般女性を傷つけない様に、ある程度 発散させて性衝動を制御する為に必要なのが遊郭(ゆうかく)だ。

 実際、軍艦が帰港する度に 繁盛し…そして 確実に死が待っている戦場に行く彼らに勇気を与え続けてくれる。

 特に大和の出航の時は 死ぬ事が確定していた為、酷かったらしい…。

 彼らは遊女(ゆうじょ)が 自分の子孫を受け継いでくれない、残せない事を頭で理解しつつも、それでも 万が一を期待して 求めるしかない。

 ……それが 今ではアメリカ軍の丁寧な絨毯(じゅうたん)爆撃により瓦礫になっている。

「本当に酷いな…」

 オレは暗闇の中、この惨状を記憶に収めつつ歩いて行く…目指すは 隣の広島市…距離は ここから10km程…。

 まだ 生き残っている線路を目印にして、周りの風景を見ながら歩いて行く。

 道には行き倒れもいず…と言うより、死んだら火葬されているのだろう。

 腐った死体は 感染症を引き起こすからな…。


 広島県、広島市…。

 相生橋(あいおいばし)…史上初の原爆『リトルボーイ』の投下地点になる。

 オレが ここに来た目的は 観光だ。

 これから始まる大規模作戦に備えて、消滅する この風景を見たかった。

 橋は 再建された後と あまり変わらない…。

 そして、100m程離れた所にある原爆ドーム。

 爆心地から半径5kmは被害が出ているってのに、良く無事だった物だ…相当 頑丈に造られたのだろう。

 ウゥゥゥゥゥゥゥ。

 空襲警報?…え~と この近くの防空壕は?

 夜明け前だと言うのにサイレンで叩き起こされた住民達が、一斉に外に出て来ている。

「あの~近くの防空壕の場所を教えて貰えませんか?」

 オレは 防災頭巾を被ったオバサンを止めて言う。

「アンさん何 言ぃとる…ん、こっちのモンやないんね…付いてきぃ!」

「助かります。」

 オレは 走るオバサンの後に付いて行き、住民達が 次々と防空壕の中に入って行く。

 爆弾が地上で爆発した場合、爆風は地面にそって横に向かう…その為、地下室を造れば 爆弾からの爆風はやってこない。

 ただ、地下室だと換気の必要が出て来るので、斜め下になる様に穴が掘られている。

 防空壕の中のトンネルは 30人位は入れるスペースがあり、木材を使って坑道を同じ要領で補強されていて、座る為の畳も敷いてある。

 そこには、10歳も行かない少女と25位の若い母親が座っている。

「ご一緒させて頂いても?」

「どうぞ」

「感謝します」

 オレが少女の隣に座って重いリュックを降ろす。 

「おにぃちゃん、ぐんじんさん?」

 少女がオレに聞く。

 まぁ男は皆、戦場に行っている訳だから そう思うのは当たり前か…防空壕に入って来ている人を見ると、大半が女性で、1人幼児がいる。

 少女の言葉に周りの皆が反応して、ここにいるナオ(異分子)に目を向ける。

 脱走兵なら軍法会議をして コネでもない限り処刑だ。

 更に匿ったと言う罪で、連帯責任を取らされる可能性もある。

「一応 まだ軍人…トニー王国 所属の潜水艦の中で軍医をやっていた。

 で、詳しい事は 軍規で話せないが、呉市(くれし)付近でアメリカ軍の機雷に捕まって潜水艦が大破…オレは泳いで陸にたどり着いたって訳…。

 トニー王国…知っている?」

「確か、ラジオで言っていました。

 傭兵の国で、フィリピンに取り残された軍人さんの救出作戦に参加したと…。」

「そ、オレの部隊じゃないけどね…。」

 良かった…オマハ・ビーチで連合軍に協力した事は 知られていないみたいだ。

 まぁ、ネットもスマホも無く、電話の普及率も非常に低いし、今の情報収集は 基本的にラジオで、新聞は あるのだろうが、紙が不足しており、一般人には 入手が難しいだろうからな…。

「傭兵って こたぁ金払えば 裏切るって事やけな…。」

 オバサンが言う…あ~イラン事を…。

「ははは…まぁ否定は出来ないのですが、オレは 原隊に復帰するにしても、この国には トニー王国の基地が無いので、回収が難しいですね。

 しばらくは、こちらで仕事をしつつ 救助を待つ事になります。

 トニー王国の通貨は あるのですが、ここでは 両替も難しいですし…。

 何か こちらが持って来た物を現地通貨に換える手段…闇市とかは ありませんか?」

「まぁある ちゃあるけど…アンさん 何もっているん?」

「そうですね…。

 まぁ一番 高く売れるのは 銃なんでしょうけど…。

 オレが持っているのは 威力の低い拳銃弾ですけど、流石に竹槍よりは強いでしょうし…。

 本土決戦に備えて持っておくのも良いかも知れませんね。

 後は砂糖が1㎏…」

「砂糖…今、配給も切れているしぃ、闇市だと10倍は するんよな…。」

「おっ良い話 聞きました。

 後は ミドリムシパウダーかな…」

「ミドリムシ…川の上に浮かんでいる(青い)やっちゃね…。

 ウチらも タンポポとか食べてるけど、ホント 何処も食べ物が少ないんやね…」

「いや、ミドリムシは トニー王国の主食ですよ。

 これが結構、美味しいんですって…栄養価も高いので、栄養失調の方には かなり有効ですね。」

「栄養失調…確か お医者様だと言っていましたね。

 娘を見て貰えないでしょうか?

 栄養失調だと言われているのですが…。」

 少女のお母さんが言う。

「リュックの中にある医療キットだと 簡単な診断しか出来ないですが…。

 お嬢さん、お名前は?」

「かえで」

「かえで ちゃんか…それじゃあ、お腹と背中を見せてくれる?」

「うん」

 オレは 服を半分めくっている かえで ちゃんの腹と背中を見る。

 胸は肋骨が浮き出ていて、腹もへこんでいる…身体に備蓄されている体脂肪が全部使われているな…。

 ただ、蚊に刺されている痕があるが、発疹などは見当たらない。

 蚊を媒体にした厄介なウイルスの可能性もあるか?

 少なくとも壊血病の兆候はなさそうだ…ビタミンCは足りているな。

 聴診器を使って、かえでちゃんの 心音、肺音、腸音を聞く。

 心音と肺音は 正常…風邪じゃないな。

 腸音がグジュグジュと言った水分を含んでいる音がする…腸の動きの間隔は正常…。

「うん、普通に消化不良だね…。

 下痢してるでしょう?

 身体が食べ物から上手く栄養を取れていないんだね。

 お母さんの方は、下痢は?」

「いいえ…私は大丈夫です。」

「なら、炭水化物はともかく、栄養は足りているな。

 水気を多く含んだ おかゆ系の食べ物…後は タンポポは有効です。

 吸収効率を上げる為にドロドロになるまで、すり潰して見て下さい。

 後はストレス…あ~苦痛に感じる事を減らすのが良いのですが…。」

「来るよ!…耳と目を塞いで、口を開きな…目が飛び出る事になるよ」

 出入口までのオバサンが そう言い、扉を閉めて 防空壕の下に向かう。

 B29爆撃機のエンジン音が聞こえ、次々と爆発音が聞こえ始める…空爆が始まったな。

 少女は耳と塞いで、目をキツく(つむ)り、震えながらじっと 耐えている。

 呼吸が浅い…あ~ストレスの原因はこれか…。

「はい、落ち着いて、落ち着いて、地上はともかく、ここは 大丈夫だから…。」

 オレは ゆっくりとした 声で かえでちゃんに言う。

 ここは それなりに作りが良い見たいだ。

 爆弾が直撃しない限りは大丈夫だろう…つまり リスクは 塹壕と同じ位だ。

「だいじょうぶ?おばあちゃんみたい に しなない」

 かえで ちゃんが怯えながら言う。

「うん 大丈夫…医者は、生き残る人には 嘘を付かないから。」

 オレは かえでちゃんを 多少強く 抱きしめて、腹の少し上に手を当てて 首の後ろを丁寧に撫でる。

「落ち着いて深呼吸して見ようか…はい、吸って………吐いて…。

 はい、上手、上手、はい、吸って………吐いて…。」

 吸うタイミングで横隔膜を少し押して、呼吸を助けつつ 正常タイミングまで持って行く。

 やがて爆発音が去っていく…空爆が終わったか…。

「この子の おばあさんは?」

「前に 防空壕が崩れて 生き埋めになったので…。

 私と この子は掘り起こされて 助かったのですが…。」

「そうですか…。

 さて、空爆が終わった見たいですね…。

 ちょうど屋根がありますし、朝まで ここで寝ますか…」

「先生は 今、何処に住んでいるのですか?」

「さっき、この街に来たばっかりなんで、家は無いですね…。

 しばらくは ここに滞在させて貰おうかな…サイレンがなっても そのまま寝てられるし…。」

 オレが笑顔になりながら言う。

「おかあさん、たすけあい…」

「そうだね…先生…私達の家に来ませんか?」

「お心だけ頂きます。

 オレは余所者ですから…それに長い間 塹壕の生活をしていた事もあって、塹壕の方が安心 出来るのです。」

「そうですか…戻ろう、楓…」

「うん、せんせー、さよなら?」

「ここに来れば、また会えるよ。」

「せんせー、おなまえは?」

「ナオ…」

「ナオせんせー、あんがとね…」

 楓ちゃんがそう言うと、お母さんと一緒に防空壕から出て行った。


 オレは畳の上に寝ころぶ…。

「まずは宿 確保か…」

 オレがそう言うと、目の前が緑色の量子光が発生し、20cm位の電子妖精が現れる…クオリアのアバターだ。

『ナオ、リトルボーイを止める気か?』

『そうだな…核反応前に爆撃機ごと撃墜すれば良いだろ…。

核反応前なら放射線量も大した事ない。』

『いや、不可能だ。

 それが可能なのは、インプロ―ジョン型 原爆。

 今回はガンバレル型の原爆だ。

 撃ち落とす際に原爆の中の火薬に引火すれば即座に核反応が起きる。

 また、墜落させて水の中に落ちた場合、水が減速材になって核爆発する。』

『つまり、爆発 その物は防げないと…』

『そう、それに ヒロシマに原爆が落とされるのは、核兵器のデモンストレーションだ。

 核抑止をするには、核が危険だと世界中に思わせないといけない。

 つまり、危険だと証明する為には 何処かの街が核で吹き飛ぶ必要がある。

 核抑止が効かなかった場合、冷戦が起きず、アメリカとソ連が核戦争を引き起こす事になるだろう。

 未来の犠牲者数を考えた場合、今犠牲を出して置く方が遥かに少ない人数で済む…それに、ここの人間は 史実では 蒸発しているはずだ…気に病む事はない。』

『分かっているさ…。

 でも、抑止の為には 生き証人を増やした方が良いだろう。』

『………。

 分かった…ちゃんと爆発させるなら止めない。

 それと、こちらに入っている情報からすると 史実通り 1945年8月6日に原爆が投下される。

 ダウンフォール作戦の準備も順調に進んでいる。

 ハルミからアメリカ軍が大量の軍艦をグアムに集めている事が分かっている。

 中国の軍艦は黄海で、ソ連側は まだ行動に出ていない。』

『了解…出来るだけ やってみるさ…。』

 電子妖精のクオリアが消える。

「さてと…まずは 核シェルターを造らないとだな。」

 オレは寝ころびながら そう言うのだった。

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