23 (死ハ救済ナリ、生きるハ地獄ナリ)〇
医務室には 大量のガリガリの兵士達が 腕と足を拘束されて寝かされ、衛生兵部隊が 腕に針を刺し、チューブに接続、ブドウ糖とビタミン剤の点滴パックに接続して 体内に栄養を送り続ける。
今の彼らは食べ物を消化する為のエネルギーも無い状態だ。
この状態で物を食べても嘔吐と下痢をするだけで、栄養を身体に取り込めず餓死する…。
なので、しばらくは点滴で 食べ物を消化が出来るまで 持って行って、その後にやっと 固形食だ。
残留兵の首には いつも捕虜に使う爆薬付きの首輪を取り付けていて、反抗すれば 即座に首を吹っ飛ばせる仕組みだ。
飢餓状態の人間は 話が通じない…猛獣を扱う様に細心の警戒をする必要がある。
「うっうっ…」
「起きたか…イカレ野郎…。」
「ここは?」
「潜水艦の中、医務室…。
私達は 陛下の依頼の元、アンタらを救出に来た トニー王国の部隊…。」
「陛下がっ…あーここまで来てくれて悪いが戻してくれ。
オレ達は 米兵を あの島で 食い止めないと行けないんだ。
オレ達が1日 米兵を止めていれば、本土上陸を1日止めさせられる…。
そうすれば、対策を立てる為の時間を取れるかも しれない。」
「もう、日本の都市が 空爆されている事は知っているだろう?
なんで…長い間 補給も無しに食いつないでいたんだ?
そんな ボロボロになるまで 戦ってまで、この国に忠義を果たす必要があるのか?」
私がイカレ野郎に聞く。
「…ある…このまま 本土に上陸されれば、日本は アメリカの植民地になるだろう。
敗戦国は、歴史も文化も、人の権利すら はく奪される…。
しかも 土地だけ残して 住民を皆殺しにする 可能性すらある…だから戦う…家族を守る為に…。」
「はぁ…実際、やりそうだから完全否定も出来ないな…。
取り合えず、ここの奴らは 全部トニー王国に逃がす。
戦後、落ち着いたら日本に戻ると良い。」
「戦後…日本は負けるのか?」
「アメリカ、ソ連、中国の臨時 同盟軍が、日本 全土を侵略する為の計画を立てている。
日本は 北日本、中日本、南日本に分割 統治するらしい…日本国民は 如何なるかは 知らんがな…」
史実では これにより、純粋な日本人の血は トニー王国から絶滅危惧種 指定を受ける事となり、2000年以上繋いで来た 皇族の血を信仰対象にしている 日本人の文化を守る為、皇族や陛下が トニー王国に一時亡命する事となる。
「なら、私達は戦う。」
「その身体じゃ絶対に無理だろ…。
それに、オマエが大人しく撤退しなかったせいで、オマエらに 物資を届ける為に何隻のも 日本の補給艦がアメリカ軍の軍艦に破壊され、大量の戦死者が出ている。」
「私は切り捨てろと言ったはずだ。」
「それが 現場が 心情的に切り捨てられなかったんだよ…だから被害が増えた。
大人しく保護されて帰れ…戦後の復興も重要な仕事だ。」
「国が分割統治されるんじゃ、もう それは日本じゃない…。
それを復興しろだなんて…。」
「だったら、その命は 分割統治された 日本を統一する為に戦え…。」
日本が独立するのが1990年…ドイツの再統一と同じ時期だ。
今回の任務だと未来に 絶滅危惧種指定される純血の日本人を 今の内に大量に保護する目的もある。
「っ…戦友が沢山死んだ…国の為に死んで行ったんだぞ!
これで戦争に敗北したら彼らは 無駄死にじゃないか!」
「ああ、無駄死にだ。
だが、無駄死にだと 分かっていれば、損切りが出来る。
次に無駄になる 命を賭けなくて済む。
実際にアンタらの命が救われた。」
「じゃあ、俺達を殺してくれよ。
靖国に…皆の所へ行かせてくれ…」
「50年程こっちで ゆっくりして行っても、戦友達は文句を言わないさ…。
私は衛生兵だ。
例え、天使のお迎え…あ~こっちだと三途の川だったか?
まぁとにかく 生きている限り 私が救い出す。
自殺する事は大罪だ。死んでラクになろうとするな。
生きて地獄を味わえ…それも また人生だ。」
まぁ私は機械の身体で、死んでもバックアップから蘇生される都合上、天国から出禁をくらっている…私が死んでラクになる事はない。
これが不老不死の大きな代償だ。
私は部屋を出る…まだ患者は山の様にいる…そっちも見に行かないと。
「あっ…アンタ名前は?
名簿に残したいんだが…。」
「的射 雄二」
「マトイ…ユージ…マトイね…懐かしい名前だ。
分かった…書いておく、それと普通に話してくれて構わないが、大声だけは出すな…敵のソナーに捕まる…それじゃあ」
私は拘束された状態で泣き崩れるマトイを見ながら、次の患者の元へ行った。
「自分だけ…生き残って すみません」「無様に生き残って ごめんなさい」「一緒に逝けず、申し訳ありません」「何一つ守る事が出来なかった…」
死体袋と兼用の生地の薄い寝袋に包まれながら ガリガリの兵士達が涙を流しながら幻覚を見ているのか ブツブツと戦死者達に懺悔をしている。
見た目からして まだ若い…速成訓練を受けた兵士だろうか?良くここまで持ったな…。
彼らは 国の為に生まれて、戦って生き残った。なら生き残った後は?
国が滅び、信じていた国を根底から覆す 占領政策…。
自分の基本となる自己が失った場合、コイツらは新しい目的を生み出せるのか?
そして、私から患者を取り上げたら一体 何が残るのか…私は何処まで行っても衛生兵だ。
そんな事を私は思いながら、患者達の細かな 手当をして行くのだった。