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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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22 (残留兵)〇

 1944年10月20~25日の最大規模の開戦で、レイテ沖海戦で日本の艦隊が壊滅…。

 そして、1945年4月30日にヒトラーが自殺した事によるドイツの実質の敗戦。

 これにより アメリカ軍からの攻撃が増え、無線の暗号は 解析されて ほぼ筒抜け状態になり、フィリピンのレイテ島に10万、ルソン島に25万が取り残された形となった。

 日本軍は 減った船の中で 何度か補給部隊を送るが、アメリカ艦隊が海路を完璧に抑えた事により補給線が断たれ、到達数は0…。

 日本からの情報によるなら 1945年6月までの戦闘で、主力部隊が壊滅した以降は、ジャングルを彷徨いながら 散発的な戦闘を続けている…らしい…らしいと言う表現なのは 現場の兵士が敵から位置を特定されない様に、無線機を捨ててしまったからだ。


 1945年6月。

 フィリピン海、トニー王国 潜水艦内、発令所。

 日本政府からの今回の依頼は、この通信不能な状態の残留兵 推定 600人を救い出す事にある。

 この600人のせいで、好戦的な軍の派閥は 次の補給部隊と戦艦を出して フィリピンを奪還する計画を立てている。

 対して、本土防衛を考えて徹底防衛をしようとしている 臆病者と言われている派閥は、この部隊が戦場で無駄に沈められるのを 何としても阻止したい…。

 そこで、トニー王国に救出の依頼を出す事にした。

 通常、救助の場合 面子の問題から 他国の支援を断る物なのだが、その文句を言えない位に戦況が ひっ迫している。

 まぁ大和が沈んだのが大きいかな。

「そろそろだな…」

 艦長席にいるハルミ()が言う。

「ええ、それにしても…アメリカ軍からの要請も あるんですからね…。」

 女性の衛生兵が私に向かって言う。

「向こうも 残留兵に かなり苦戦しているんだろう。

 こっちが 引き取れば、基地の安全を確保 出来るからな…。」

 そもそも、この話を最初に持ち掛けて来たのは アメリカ軍だ。

 フィリピンで戦っている日本人は捕虜にならず、最後の最期まで戦う。

『生きて虜囚の辱めを受けず』と後の記録に残されている通り、彼らにとって捕虜になる事は 大変 不名誉な事で、助かる見込みがある負傷者ですら 捕虜になりそうなら、指揮官が拳銃で頭を撃ち抜いて安楽死させる。

 そして、仮に捕虜になって日本に帰ってきた場合、将兵は自決を強要され、一般兵は敵前逃亡罪の名目で処刑される。

 歴史では 多くの日本人が最期まで捕虜にならずに戦った…と美談の様に記されているが、彼らが残ったのは 国への忠誠心では無く、戻った後に自軍に殺されるからだ。

 これがアメリカ軍が言う大和魂の正体になる。

 アメリカ軍も このイカれた カルト宗教の団体に いつまでも 付き合ってられないのだろう…死ぬことを恐れない兵士は、本当に厄介だ。

「まずはドラムを現地に降ろして残留兵の場所を特定する…その後、上陸だ。

 現地では 気温と蚊に殺されない様に 常にパイロットスーツを着て、バイザーも降ろす。

 日本軍との戦闘も想定される…気を抜くなよ。」

「イエス、マム…。」


 夜…潜水艦を海上に上げて フィリピンの大地に黒いローブにリュックを着たドラムを12機降ろす。

 残留兵達は、捕虜になる事も 国に帰る事も出来ない…。

 なら、軍から脱走してゲリラになるしかない。

 『ジャパンゲリラ』と呼ばれている 日本軍の残留兵達は 米軍の補給物資やフィリピンの村を狙っている。

 彼らは生きる為に…盗賊行為を繰り返すしかない…。


 彼らは山に潜伏している…人が生きる為には 清潔な水が必要だ。

 となると、場所は 川付近に限定され、おおよそ の位置が絞られて来る。

 ドラム達が4足脚で器用に山を上って行く…。

 山の路面の状態から タイヤでの移動は 困難だろう。

 夜の山の あちこちには、日本兵の腐った死体が散乱しており、出血の痕は見られず、死因は餓死だろう…。

 肉を被ったガイコツの様に見た目の兵士に、肉食系の鳥がクチバシで 食い荒らされた痕が見られる。

 ただ ガリガリに痩せた彼らでは 加食分も少ない。

「サーモセンサーに ヒット…見つかりました。

 やけに 体温が高いな…うわっいました…ゾンビみたいですけど…。」

 ドラムを遠隔操作している女性の衛生兵が言う。

 見つかったのは 肋骨が見える程痩せた 上半身裸の兵士で 木に寄りかかっている…まだ息はあるが、荒い…。

 サーモセンサーで確認する限り 体温は40℃…。

 蚊にも刺されているし、この兵士が マラリア患者だと言う事が分かる…。

 マラリアは 蚊を媒体に感染する病気で、1週間は 40度の高熱にうなされ、体力を著しく消耗する。

 一応、アメリカ軍程ではないにしても 日本軍もワクチンは持って来ているはずなのだが、失った体力を補填する食糧も、熱を下げる医療品も不足しており、ここでは マラリアで体力を失うと そのまま餓死してしまう。

「近くに コイツの拠点があるはずだ…。

 この付近を重点に調査…見つかるなよ。」

「了解…。」


 一晩調べた所によると、30人程の人数の拠点が6ヶ所 見つかる。

 どれも草木でカモフラージュされ、厳重に隠された家だが、3ヶ所で赤痢(せきり)患者を発見…不衛生な水を煮沸せずに飲んだのだろう…。

 赤痢になると下痢に悩まされ、身体の水分を徹底的に持って行かれる。

 しかも、この暑さで脱水症状を防ぐには 水が必要なので飲まない訳にもいかない…。

 赤痢は 水を煮沸していてば防げるのだが、80℃で10分間…沸騰してから1分…おそらく加熱時間が あまかったのだろう。

 更に顔や身体には、殺傷目的だとは 到底思えない虐待の様な痕が見える。

 これは軍のイジメだな…。

 軍内部でのイジメは 決して珍しい事ではない。

 上官の命令には絶対であり、上下関係を兵士に叩きこむ為に良く使われている手だ。

 ただ、日本軍は常軌を逸している…。

 入隊1年目の初年兵は、2年目以降の古参兵の食事や娯楽を提供する世話係になる事が義務化されており、その娯楽の中には 部下を殴る事も含まれている。

「顔が気に喰わない」「息をしているから」「生きているから」と無理難題を理由に私的制裁をする事も珍しくない。

 こいつらは 真面に動けないし、すぐに回収 出来るな…。

 問題は後の3ヶ所…。

 これらは ガリガリに やせ細っているが、ギリギリ戦闘能力を維持しており、殺した米軍を食糧にする現地名称『グール』…。

 彼らは 米軍兵士からの装備で武装して、組織だった行動をしており 危険度は非常に高い…。

 追い詰められた人間は動物と変わらない。

 ナショナリズムやイデオロギーも、空腹の前には 意味をなさない。

 人間を 理性で縛り付ける事が出来るのは 食事や医療が保障されている時だけだ。

 なのに、それでも 組織を保てる指揮官…一体どんなイカれたヤツなのだろう…。

 次の瞬間…ドラムが撃たれた!

「なっ」

 場所は 後頭部…人だったら即死を取られていた。

 夜間で山…光学センサーの性能が落ちていると言っても、事前に気付けるはずなのだが…。

 威力からして 弾は7.62mm…着弾と着弾音から距離を推定…300m…。

 見通し50mが限界の中で ここまで正確に当てて来る…間違いない イカレ野郎だ。

 1秒で被弾ヶ所から敵の位置を特定 銃身を少し上に向け、即座にM3グリースで 弾道軌道でのカウンターを決める。

 通常M3グリースの射程は50m…射程が短い理由はオープンボルト方式だからだ。

 オープンボルトだと トリガーを引き絞ってから発砲まで僅かな時間が掛かる…その時間の僅かな手振れで命中率の低下に繋がる訳だが、ドラムに手振れは起きない。

 その為…オープンボルトでも ある程度飛ばせる。

 使っていたのは 45ACPのゴム弾…まぁ流石に死にはしないだろうが…あ~飢餓で弱っていてたら死ぬかもな…。

 イカレ野郎の元に たどり着くと倒れていたが 生きていた。

 次の瞬間…イカレ野郎は ナイフでドラムの首元を突き刺すが、炭素繊維の装甲を破れない…。

 M3グリースが至近距離で発砲され、彼は腹部に被弾して大人しくなった…。

「完全に墜ちましたね…」

 女性衛生兵が言う。

「麻酔で眠らせて…出来る?」

「多分?」

 女性衛生兵がそう言い、ドラムを操作して バックから注射器を取り出し、薬を入れてイカレ野郎の腕に突き刺す。

 これを キーボードとトラックボールマウスで これをやるのは 非常に難しい。

 が、今のドラムの設定は半自動…全自動と違い 遠隔操作が必要になるが、こちらの入力に対して ドラムが現場の状況を見て、細かい操作を補正してくれる。

 まだまだ 未熟だとはいえ、手術にも 実験的に使われている精度だ。

 ガリガリに やせ細った彼の体重が分からないので、適正量が分からない…相手の様子を見ながら じょじょに麻酔を入れて眠らせる…。

「うん、良い腕…」

 私が女性の衛生兵に言う。

「この分だとドラムだけで、良さそうですね…」

「そうだな…わざわざ行く 必要も無いか…。

 じゃあ、12番をオートで こっちに持って来て貰って、後は拠点をドラムで襲撃かな…。」

「ボリボリ、ハルミ…配置完了まで後30分…」

 兵士に相応しくない程 太った男性ゲーマーの兵士が、ミートキューブを かじりながら言う。

 彼は生身での戦闘能力は皆無に近いが、リアル(R)タイム(T)ストラテジー(S)が得意なプロゲーマーだ。

 ドラムによる遠隔操作での戦闘になって来ると、本職より ゲーマーの方が使える。

 彼の画面では 追加投入された24機のドラムユニットのアイコンが、地図の上で探索を続けており、彼はRTSのゲームの要領で 6機でチームを組んで現場に向かわせている。

 餓死寸前の部隊は これと言った抵抗も出来なく、拘束されてドラムが こちらに運んでいる…。


「じゃあ、攻撃を開始…可能な限り殺傷を控えて」

「了解…」

 ドラムが6機ずつを3ヶ所の拠点を配置して一斉に攻撃を仕掛ける。

 大まかな動きは RTSモードでユニットを選択して敵を攻撃し、精密操作が必要な時には FPS視点に切り替え、1機ずつを操作する。

 こちらのユニットが強いからだろう…敵が弱々しく銃を構えるまでに銃を撃ち抜いて飛ばし、次の瞬間には 腹部をゴム弾で撃たれて無力化…。

 必死に これまで戦ってきた 銃さえ持てないガリガリの身体にゴム弾による最後のトドメが入り、死者も出て来る。

 まぁ こちらの命が最優先だ。

 薬で眠らせて身体を拘束し、ドラムに乗せて運ぶ。

 そろそろ、12番のイカレ野郎を乗せてドラムが やって来るだろう…。

 潜水艦が浮上してドラムがエレベーターに乗り降りて来る。

「それじゃあ、こっからは 私達の仕事だ。

 医務室に どんどん運んでくれ」

 私はそう言い、医務室に向かって行った。

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