22 (クロスボウ)〇
ここに来てから半月の時間が流れた。
ナオがファントムで やっていた海岸からの道路工事は順調に進んでおり、もう そろそろ森を抜けて、現地民の村と繋がる。
面白い事に オレが整備した この道は 向こう側の人も使っているらしく、何度か森の中に隠れている現地民を見つけている。
そして、竹編みのタイヤの上に 竹の板を紐で結んだ リアカーの量産体制が整い、現在6台中3台が海岸の牡蠣や砂浜の砂の珪砂の採取に…残りの3台が森の食料採取に回されている。
リアカーは非常に重要だ。
例えば軍人のフル装備の重量が最大で50㎏…。
この50㎏の中で銃などの装備、リュックの中の荷物などの重量が やり繰りされる…この辺りが人の積載量の限界だ。
対してリアカーの場合 200㎏まで積載量が上がり、人の4倍の輸送能力を持つ事が出来るようになる。
これにより 陸送コストを大幅に下げられ、兵站の問題が かなり ラクになったとされている…。
3時になってオレが拠点に戻る…。
リアカーによる大量輸送が可能になった事で、竹の森の拠点は順調に 食料物資を集めて行き、ハルミの調理部屋が 大きくなっており、中に入って見ると ハルミが女性陣に教えた 動物性脂肪でコーティングして更に瓶詰にした瓶詰ペミカンの 量産がはじまって、順調に数が増え続けている。
更に別の女性…。
と言うか おばちゃんにハルミは ウサギの長い腸に 海水を炉で沸騰させて生成した塩とウサギのくず肉と血液を混ぜて入れ、端を縛って茹でたブラッドソーセージを教えている。
これは 昨日ハルミが作ってスープに入れた物で 皆からも好評だったので、その内 これも量産されるだろう。
これで 味を無視すれば 当分の間は 食料不足に悩まされる事も無くなった。
川岸では オレらの炉を見て 奴隷達が小型化した3基の小型炉で融かされたガラスを モルタルの型に流し込んで ガラス瓶を作っている。
もう 炉も自力で作れているし、オレらが手を貸さなくてもガラスを作れるだろう。
「おっやっているな…」
オレが 完成途中の小型炉を見上げる。
耐熱素材のガラス繊維強化プラスチックで造ったリアカーの荷台に ガラス繊維強化プラスチックの内側に石英モルタルを張って造った新型の耐熱小型炉を奴隷達が造っている。
「おう大将…」
後にアメリカ先住民と呼ばれる人種の血を引く黒人奴隷で『移動出来る炉』の発案者 ゲイリーが荷台から降りて言う。
「順調か?」
「ええ…今日中には 完成しますよ。」
「そうか…炉に火を入れる時が楽しみだな…」
オレがリアカーの小型炉を見ながら言う。
この炉が完成すれば 行軍中に温めたスープが食べられる。
「これで拠点の移動が出来ますね。」
「ああ…ここは農耕に向かないからな…。」
ここら辺の土は海からの風による塩で塩害状態になっており、作物が育ちにくい…。
竹の森の中は いくらかマシな状態だが、土の改良には大量の石灰が必要で 更に時間が掛かる為、現実的ではない。
そして こちらが歩いて行ける近場で 条件が良い場所を考えた場合、それなりに高さがある原住民のいる村の付近が最適な環境となる。
「それで…何の武器を使うんだ?」
オレの後ろから来たクオリアが言う。
事前に宣戦布告時に言った開戦まで残り半月…。
やぐらにいる やたらと精度が良い弓兵を突破するには こちらも遠距離から仕留められる弓が必要だ。
ただ 弓には年単位の訓練が必要で、こちらに そんな時間は無いし、教えられる程の技術も無い…何より訓練なんて面倒くさい。
「クロスボウしかないな…。」
オレが言う。
「そう来るか…分かった作ろう。」
クオリアがそう言い…オレ達は 川岸に向かう…。
海岸石が3個取り付けられた紐を手首で回して、遠心力で相手にぶつけるボーラの練習をしているロウがいる。
その精度は 15m先でも確実に当てられる位の精度は出していて非常に優秀だ。
ただ ボーラは簡単に作れるが、熟練度が高い…。
ちゃんと与えられるような数は揃えられ無いだろう。
「さてと…作るか」
クロスボウは意外と簡単に作れる…。
まずは竹をアサルトライフルを構えるように狙いを付け、肩で竹を支えてストックにする…。
で、丈を支えている左手より10㎝程度先の位置で 竹を切断し、紐を通せる穴を開けて置く…そこの上がクロスボウの銃口になる。
竹を縦に4分の1にカットし、炉の火であぶって炭化させる事で よくしなるようになる…。
炭化させた竹をオレの肩幅に合わせて切り、最初に切断した竹の上に左右均等に乗っけて引っ張る…うん…良い調子…。
そこを紐でしっかりと固定し、左右の竹の先に穴を開けて紐を通して キツく結ぶ。
そしてクロスボウを下に向けて紐を強く引っ張り、限界地点まで紐を持って行って行き、その部分を竹を削って隙間を作り、紐を乗せる…よし、これで固定された。
クオリアはトリガー機構を作っているが、仕組み自体は 割りばし鉄砲と同じで、トリガーを握る事でクロスボウの固定している棒を前に倒して解除する非常に単純な構造だ。
そして銃身の竹の上部を平らに削って矢を滑りやすくする為に石鹸を塗り、銃口に2本の棒を縦に差し込んで矢の進路を固定し、間に矢となる棒を入れる…。
「試射するよ~」
オレは川に向かってボウガンを構える。
銃口の矢の進路を固定している2本の棒の間に 紐を固定している棒が見える…それを アイアンサイト代わりにして撃つ…。
パスッパスッ
先端に石を付けていないただの棒の為、貫通はしないが 次々と竹の壁に当たって行く。
「ふむ…。」
射程は20m程度で人のどっかに当たるだろうのレベルだが…威力は強い。
「どんな感じだ?」
「使えるは使えるけどトリガー感覚がクソだな…。」
スプリングでトリガーが戻る訳でも無いので いちいち こちらが戻さないと行けず、竹を使っている為、グリップ部分の感触も悪い…。
「それは仕方がない…強度の問題があるからな。
ただ、命中精度への影響は軽微だ。」
「まぁ…そもそも命中率が低いからな。
せめて矢を均一化出来れば良いんだが…」
今使っている矢だと個体ごとの誤差が原因で 弾頭重量、矢のバランスの変化から毎回軌道が変わってしまうので 感覚での誤差修正も難しい…。
多分、この誤差を経験から補って命中出来るのが経験者のカンなのだろう。
「なら、矢を鋳造で造るか…素材は鉄で良いか?」
「あ~そうか…なら、ガラス繊維強化プラスチックで クロスボウも一緒に作るか…。
あ~鉄だと弾頭重量が上がるよなとなると射距離も落ちるな…それも含めて計算かな~」
オレはそう言い…竹のクロスボウをバラして、そこから型を取り、クロスボウの量産を始めるのだった。