17 (ネプチューン作戦)〇
1944年6月6日
アメリカ軍 1歩兵師団 第16歩兵連隊 のライアン二等兵は、仲間と共に LCVP上陸艇に乗せられ、大量のLCVPと共に オマハビーチに向かっている。
LCVPは長細い箱の様な形状の船で、前面の厚い装甲に覆われ 敵の機銃弾を防いでくれて、上陸時に装甲を降ろして 僕達 兵士を降ろす構造になっている。
ただ、波が酷く 恐ろしいぐらいの揺れで、気持ち悪くなった 仲間が船から顔を出して 海に吐しゃ物を吐き出している状態だ。
空を見ると天気は憂鬱とした曇り空だが、波で打ち上げられた海水が雨のように僕達に降り注ぐ。
僕はビニールで包まれたライフルが濡れていないか確認する。
僕らの目的は敵の要塞となっているオマハビーチに上陸し、弾幕を掻い潜りながら、敵の陣地内まで侵入…もしくは 侵入する為の道を作る事だ。
生存率は絶望的だと言われている…。
が、この作戦は 連合軍が勝つか負けるかの命運を握る重要な作戦になる。
「ライアン…震えているのか…」
前にいる部隊長が聞いて来る。
「はい…でも やれます。」
「大丈夫…オレは運がいいんだ…きっと生き残れるさ…。」
「さあ おしゃべりは終わりだ…上陸まで30秒!!」
「いよいよだな…生き残ろう」
「はい!!」
敵の砲弾が絶え間なく 海に向かって放たれ、次々とLCVPが爆発して中の兵士だった肉片が空中に舞い、雨のように降り注ぐ。
身体が震える…歯がガタガタ言っている…。
敵の機関銃の掃射が始まり、前面装甲に次々と命中する…大丈夫…防げている。
「行け!!」
前面装甲が降ろされた瞬間、僕の前にいた兵士達が 次々と撃たれて 死んで行き、その中には運が良いはずの隊長も含まれていた。
「あああ…っ」
このままだと絶対に死ぬ…そう確信した僕は、思いっきり息を吸い込み LCVPの側面から海に飛び込んだ。
なっ…無数の今まで兵士だった死体が海に沈んで行き、僕の身体もまた沈む。
装備が重い…身体が浮かばない…でもこれが無いと…。
そんな考えが頭によぎるが、僕は すぐにライフルと荷物を捨てて 泳いで海から上がろうとする。
が、隣の兵士が海で 大幅に減速された銃弾を受けて死亡…。
その隣には 装備が外れず、『助けて』と僕に手を向けながら窒息死して沈んで行く兵士…。
僕は慌てて 下に潜り、海中から泳いで上陸を目指す。
息が続かない…砲弾が海に着弾して爆発し、爆風と衝撃波が僕を海に沈める…。
「ぱはぁ…」
上陸した…生きている…。
海岸には 戦車の上陸を防ぐ為の鉄骨をXの形にした物…チェコの針鼠が大量に設置されており、海上からの戦車の侵攻を防いでいるが、今では 数少ない僕達の盾となっている。
僕はチェコの針鼠に背を向けて盾にしながら座り、辺りを見回す。
ここもそうだが、チェコの針鼠には 大量の兵士が取り付いており、少しでも身体を出せば 機関銃から放たれた弾で殺される状態だ。
しかも、強行突破で走り出した兵士達が海岸中に 砂浜に ばら撒かれている対人地雷を踏んで足を吹っ飛ばす。
更にその先には 鉄条網が張り巡らされていて、兵士達は足を止めると、機関銃の弾幕で身体が穴だらけになり殺される。
その地雷原と鉄条網の組み合わせを 交互に3層になっている。
守りが非常に硬い…突破は不可能…戦車部隊の上陸を待つ?…いや、チェコの針鼠で上陸は 出来ない。
思考がぐるぐる回る…ポジティブに考えろ…何かマシな状況は…地雷か…。
敷設するのが面倒だったのか、地雷は剥き出し…落ち着いていれば踏まない場所は分かる…それに 敵の機関銃の掃射で誘爆もしている…。
兵士の死体がある場所は 地雷で吹っ飛ばされない。
それにしても鉄条網は如何する?
僕の隣の兵士が頭を撃たれて即死した…スナイパー?チェコの針鼠で 釘付けにした所を狙撃で狙っている…ここも安全じゃない。
「くっそ…打てる手が無い…」
僕がそう言った瞬間、冗談の様に 目の前の兵士の腕は吹っ飛び、文字通り手が無くなった。
上陸から僅か2分…その間に僕は敗北を悟った。
「はははははっこれでどう勝てって言うんだよ…あはははは」
僕は狂った様に笑い出した…僕は狂ってしまったのか…いや、この状況で狂わない兵士の方が狂ってる…僕は正常だ。
「あはははは…」
せめて苦痛の無い安らかな死が訪れますように…。
次の瞬間、僕の目を覚まさせる様に血の色の波が海岸を襲い、チェコの針鼠の付近にいた僕らを飲み込み、波を引いた所で僕はかろうじて正気を取り戻す。
「かはっはっ」
海から次々と巨人が現れ、チェコの針鼠を飛び越えて、巨人の身体を覆う程の盾を構える。
巨人の顔が小刻みに動き、耳の上から放たれた機銃弾が地面をに撃ち込まれ、自分の進むルートに地雷があるかを確認している…DL…トニー王国の人型機動兵器だ。
DL達は 待ち構えていた対戦車砲を横に飛び跳ねる事で 回避し、仲間の死体を踏み潰しながら進む。
DLが持っているのは ギャングが持っていそうな見た目の銃…DLサイズのトミーガンだ。
トミーガンを対戦車砲に向けて発砲…。
流石に この距離だと数発撃って 如何にか 当たるレベルだ。
だが、対戦車砲を破壊出来た…。
次にDL達は 盾を構えながら 頭だけ こちらを見て、背中に手を回して叩く。
こちらに来い…ハンドサインか…。
僕達は チェコの針鼠の盾から抜け、DLの後ろに隠れる様に移動して一緒に移動する。
DLは 仲間の死体を何とも思っていない…平気で踏み潰して進んで行く。
まぁどこも死体だらけで あの巨体が踏まずに 通れるスペースが無いだけなのだろうけど…。
僕達はDLの足に潰された味方の死体を踏み潰し、DLの後を追う。
地雷原の先の鉄条網は如何する?と僕は思ったが、盾で鉄条網に のしかかる様にして踏み潰し、こちらの進行ルートを確保する。
「これなら、勝てる」
僕達は希望を感じてDLの後を追う…。
DLの頭から背中のバックパックに入っている 弾帯の髪が次々と機関銃に吸い込まれ、進行方向の地雷を誘爆させて行くが、とうとうロングだった髪がショートになり、完全に弾切れとなった。
だが、それでも トミーガンで機関銃座、トーチカに撃ち込んでおり、まだ 如何に かなりそうでは ある。
ただ機関銃の数が非常に多い…あの大口径のトミーガンでは 威力が高いが 総弾数は残り僅かだろう。
『プリーズ!スプリングフィールド!コンバット!ベルトリンクス!』
DLの操縦者がスピーカーを使って 発音が下手な英語で単語を叫ぶ。
スプリングフィールドの弾帯を集めろ?もしかして共通弾薬なのか?
言葉を聞いた兵士達が 機関銃兵の死体から弾帯を外して 持って行く。
僕達はDLの誘導で次々と地雷原と鉄条網を突破して やっと抜けられた。
ルートが分かってしまえば 後は簡単で、後ろから 次々を兵士達が続いて行く。
後は 僕達の仕事だ…DLの大きさではトーチカがある塹壕の中には入れない。
DLはコンクリートの壁に背中を向けて しゃがみ、機関銃 兵達が 即興で弾帯を左右の頭部 機関銃に繋いで行く。
如何やら装填方式は ブローニング機関銃と同じ見たいだ。
僕は 穴だらけの盾を持つDLに敬礼をして、大量の兵士と共にトーチカ攻略の為の突入部隊に参加した。
トーチカがある塹壕に僕は突入する。
味方の兵士の死体から受け取ったライフルをドイツ兵に向けて ひたすら撃ち続ける。
が、塹壕内が狭い為、取り回しが悪い…。
「くっそ…誤射しないでくれよ」
僕はドイツ兵の死体からMP40と予備マガジンを抜き取り、トーチカに向かって進み始める。
弾は敵の死体から手に入る…これで弾切れの心配はない。
パパパ…パパパ…。
塹壕内の敵を蹴散らし、味方の兵士がトーチカにの中に向けてドイツ兵から抜き取ったM24型柄付手榴弾を投げる。
トーチカ内で爆発が起き、殺し損ねた兵士達が次々と外の塹壕に出て来て、その度に こちらの銃弾を浴びて死ぬ。
アメリカ兵が 木製のバリケード破壊用と言う名目で 戦場に持ち込んだ非人道兵器とされる火炎放射器を遠慮なく、トーチカ内のドイツ兵に炎を浴びせて 兵士達を焼き殺して行く。
戦闘は おおよそ終了した…今は投降したドイツ兵を いたぶって撃ち殺している最中だ。
完璧に条約違反な訳だけど、それを守るには こちらは死に過ぎた。
更に 上の上官が兵士達を止めに入っているが、しばらくは止まらないだろう。
トーチカの隣からオマハビーチを見ると、あちこちで弾痕が目立つDLが盾を捨てて、チェコの針鼠を排除している。
続いて来る 戦車部隊の上陸を援護する為だろう…。
「これは…酷い…。」
海水は血で真っ赤になり、味方の原型を留めていない バラバラになった死体が、海岸に絨毯を引いた様に散乱している。
一生の様に長い時間に感じたが、作戦時間は たったの30分…。
投入した兵士は 4万人の兵士うち、1万人が死傷、および戦闘の続行が不能の怪我…その他 負傷者が多数…対してドイツ軍が 今の所2000程度。
全体の25%…軍だと部隊の30%を越えれば 全滅扱いになるので、まだマシなのだろうが、トニー王国がいなければ 確実に1人も たどり着けなかった。
本当に軍は何を考えているのだろう…それに…これで本当に勝てるのか?
僕はそう思いつつ、僕は緊張の糸が抜けて その場に へたり込んだ。