13 (自動計算機-コンピューター-)〇
トニー王国軍 ドーバー基地。
今日の天気は 晴れ時々、戦闘機の残骸の雨。
クラウドは コンテナハウスの私室を出て基地の敷地内を歩く。
ほんの少し前までは ここは港だったが、現在はトニー王国の前線基地となっている。
港の周りの平地には 折り畳みが出来る コンテナハウスが大量に積まれ、常駐している兵士達が 住み始めており、高度治療が出来る医療施設もある。
基地の中心には 大型のレーダーが回転しており、敵を見つけると戦闘機ドローンが発進して 敵戦闘機の迎撃を行い、更に近づかれた場合は、地上にある対空陣地で迎撃が行われる。
これらの設備は 指揮官1人と多数のドラムで運用されていて、非常に判断が早いのが特徴だ。
今日も爆撃機と戦闘機の破片が雨の様に落ちて来て、前線基地の皆や敵の地上部隊の方々に 大変な ご迷惑を掛け続けている。
地下施設 作戦司令部。
「DL部隊 帰還しました。」
「ご苦労…被害は?」
私はモニターを見ているドラムが言う。
「ベックを2機 損失しました…ただコックピットブロックは無事…。
パイロットも無傷です。」
「了解…補充リストに加えておいて…。」
「了解しました。」
ドラムがそう言い、またモニターを見続ける。
私は こちらのモニターで損失機のダメージを見る…。
如何やらDL2機は敵に誘い込まれて 対戦車地雷で脚を やられた様だ。
現在、ドーバーの陣地を守る為 DLによる攻撃をし続けて、こちらの陣地を増やし続けている。
が、最近は 対戦車兵器の大量投入が始まったらしく、相手の戦闘力が高すぎて攻撃に踏み切れない。
そして そうこうしている内にドーバー周辺は 対戦車地雷で出来た地雷原になっており、こちらも進みにくくなっている…まぁ向こうも近寄れないので 当初の目的は達成してる訳なのだが…。
こう言った事もあり、現在では アーセナルでの長距離砲撃や、戦闘機ドローンでの後方部隊への攻撃と地味な嫌がらせをして、相手の部隊を分散させた所で こちらが相手の3倍の戦力で叩いたりしている。
ただ、ブリテンから見れば ごく少数の損失だ。
今日もDLが2機 落とされ、また貴重で優秀なパイロットも命の危険に晒された。
「とは言え、人の損失が無ければ 実質無傷か…。」
DLが破壊されてもトニー王国 本国から補充され続けるし、ここでは 既にDLの盾や装甲材の製造も始まっている。
歩兵の弾では DLに大きなダメージを与えられないとは言え、ダメージが蓄積され続ければ 機体性能に影響が出て来る…その為、一度でも攻撃を受けた装甲は取り外して交換している。
なので、一番 補充が必要な装甲を ここで製造している訳だ。
港は 占領時の混乱が収まって来ており、民間船がトニー王国の潜水艦の護衛の元、物資をカレーに送り続けている。
ブリテンの戦艦もドイツ軍の海軍を攻撃して貰う為に 港に駐留を許しており、現場レベルだが非公式の協力関係にある。
これにより、ドイツのブリテンへの侵攻が抑えられている訳だ。
ブリテンの陸軍の大半は ヨーロッパ大陸に送られており、ドイツ軍と戦闘をしている。
その為、ブリテン側では あちこち抜かれてドイツ軍が侵入して来ており、実質 ブリテンだけでの防衛では無理…。
このまま放置すれば いずれ首都陥落もあり得るだろう…。
味方でいれば 非常に頼もしいナオだが、ナチス側に付いていると本当に厄介だ。
「あ~早く停戦してくれよ~」
私はモニターを見つつ そう言うのだった。
研究所。
「皆、こっちに来てくれ」
少佐がそう言い皆を集める。
「少佐…次は何処が落ちましたか?」
コーネルが言う。
トニー王国軍との戦闘はおおむね負け続き。
ただ、彼らに首都を攻撃する つもりはなく、DLを土木重機として使い、ドーバーに厳重な要塞を建設している。
戦略としては一昔前の戦法だ。
強固な要塞は敵の進入を防ぎ、防衛側に対して非常に有利ではある。
が、そもそも要塞を迂回してしまえば その強固な防御力も意味が無くなるし、要塞に向かって来る補給部隊を攻撃してしまえば、要塞内を物資不足にさせて無力化出来る。
更に今なら 防壁の遥か上から爆撃機による爆撃で要塞内を焦土に変える事も出来る。
トニー王国軍は兵器の技術は凄いんだが、戦術が古いんだよな。
「いや…これを見てくれ」
少佐はテーブルの上に残骸を置く。
弾痕が付いている黒色の板に 白色の立方体、それに巨人の筋肉の欠片も見える。
「これは…DLのパーツですか?」
「そうだ。
トニー王国軍は こちらの兵器の解析が一通り終わったらしく、兵器を回収して、素材を再利用している。
これは そのスクラップ置き場で見つけた物だ。」
「良く侵入出来ましたね。」
「物流を維持する為に民間のトラックの出入りは 許可されているからな。
民間人として忍び込んだ。
スクラップの扱いは かなり ずさんだな。
大型倉庫に そのまま 投げ入れられていた そうだ。」
「全く、優秀何だか バカ何だか分からないな。」
「それで…素材の解析は?」
「おおよそ 終わっている…DLの素材は 予想通り 炭素繊維とガラス繊維の複合装甲。
トニー王国では 主に この2つの素材が使われている。
炭素繊維は軽くて強靭な炭素の極細の糸で編まれる布らしい。
その編み方次第で 非常に汎用性が高く、これに使われているのは 熱や衝撃に強い素材との事だ。
そしてガラス繊維は断熱性が高く、抵抗率が高い。
素材としては非常に優秀だ。」
「この素材の弱点は?」
「材質屋いわく、製造難易度と工程が多く、コスト高になる事 位しか弱点は無いとの事…。
多分、短期間に多くは 製造 出来無いだろう…。
と、上は よんでいるが、あの国は一般の家電製品にまで この高級素材が使われているからな~」
「安価に製造出来る素材と思っていた方が良いでしょうね…。
それで?こちらは人工筋肉で、これは?」
「それは完璧に分からん…炭素繊維とガラス繊維の箱の中に 炭化ケイ素が分子レベルで規則正しく入っている事は 分かっているが、これが何の部品なのかは 分からない。
磁石の端子で繋がっていた事から、何かしらの電子部品ではないか?と言うのが専門家の見解だが…。」
「こんな手の平サイズの箱で何が出来るのでしょうか?」
「だから分からん。
ここに来れば何か分かると思ってな…。
前にチューリングが数式を見つけただろ」
「あれは数式だったからで…。
そうだ…クオリアは トニー王国と繋がりのあるクラウド商会の孤児院出身…何か知っているかも しれません。」
「私は孤児院出身と言うだけで、トニー王国との関わりは 殆ど無いんだが…。
あ~これか…それは ブレインキューブと呼ばれている。」
デスクからやって来たクオリアは立方体を見て即座に言う。
「箱型の脳?」
「そう、これは ネズミの脳を機械で再現した物だ。
ただ、脳と言っても ネズミだから そこまで高度な仕事は出来ず、私が使っていたのは もっと小型な物で 無線のスイッチング操作のパーツだった。
多分、人型の姿勢制御をサポートしている機械では無いだろうか?」
「ふ~ん、何かに使えるかと思っていたのだがな。
まさかネズミに暗号を解いてもらう訳にもいかんしな…。」
少佐が苦笑いを浮かべながら冗談を言う。
「ちょっと待って下さい…。
これ、ネズミの脳とは言え、脳なら数学の計算が出来るはず…。」
デスクで話を聞いていたチューリングが興奮した様に言う。
「まさか…これは クリストファーと同じ自動計算機か?」
私が箱を見ながら言う。
「かもしれない…トニー王国は自動計算機を既に実用化している。
とにかく解析をして見ないと…。」
チューリングはそう言い、ブレインキューブを持って自分のデスクに向かって行った。