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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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09 (上杉暗号)〇

 ブレッチリ―無線機器製造所 敷地内の倉庫…暗号解読所(表向きは 無線研究所)。

「と言う訳で、本日から僕達のメンバーになる、クオリアとジョーンだ。

 よろしく頼む」

 アラン()がメンバーの皆に新しく入った2人を言う。

「えっと…このお嬢さん方が新しいメンバー?

 チューリング…この2人が 前にキミがクビにした メンバーより優秀だと?」

 コーネルが睨み付ける様に僕を見ながら言う。

「そう 僕が7分32秒で解いたクロスワードを クオリアが 3分20秒…ジョーンは 5分55秒で解いた。

 どちらもクロスワードに限って言えば、僕より優秀だ。」

「だがな…何で女が2人なんだ?チューリングの好みか?」

「いや…僕は女性に興味……あ~いや、一般的レベルで女性に興味はあるが、彼女達が選ばれたのは偶然だ…実際 1人男が辞退している…それに…。」

「それに?」

「今のメンバーは 全員が男で大人だ。

 コーネル…キミは チェスの選手で 暗号解読のスペシャリストだが、スペシャリストが故に 自分の経験から生み出した方法の枠から出れない。

 彼女達は 女性で しかも1人は子供だ。

 僕達の価値観に縛られない事が出来るだろう。」

「それで 本当に使えるのか?」

「今はまだ…な…1年後位に活躍 出来れば それで良いと僕は考えている。」

「即戦力になるメンバーを2人もクビにして これか…アンタがリーダーだから指示には従うが…。

 おい…2人は しばらく雑用だ!…その間に ここの仕事を覚えろ!」

「はい…」

 ジェーンが不満そうに言う。

「リーダーは アランでは 無かったのか?アランの意見は?」

 クオリアが僕に聞いて来る。

「僕もコーネルと同じ意見…今は 頭脳より人手が足りないから…。

 だけど、空いている時間は キミ達の好きに やってくれて良い。」

「了解しました…アラン隊長…。」

 クオリアは胸に手を当てて頭を下げる独自の敬礼をして書類の整理を始める。

「おい…アンタ、書類には 孤児で学歴が無いと書かれているが、文字をまともに読めるのか?」

 コーネルがクオリアに聞く。

「大丈夫…お構いなく、こっちは こっちで勝手にやる。

 何か用事があるなら手伝うが…。」

「まったく…チューリングが増えた見たいだ。」

「それは良かった…」

 コーネルの言葉に僕は嬉しそうに言う。

「何が?」

「クオリアの能力を認めてくれて…」

「いつ私がそんな事を言った?」

 ?違うのか?

「ジョーンは そこの暗号文の日付を仕分けして棚に入れて欲しい…」

 僕は書類の山を指してジョーンに言う。

「こんなにあるんですか?」

「ああ…でも、こんなに傍受 出来ていると言うのに このままでは 何も役に立たない。」

「でしょうね…さてと まずは 私が使える所を見せないとね…」

 そう言いジョーンは作業を始めた。


「ふむ…ふむ…ほう…」

「あっ私のデスクを触るな!」

 クオリアが コーネル()のデスクも片付けようとした所で 私が止める。

「これ…トニー王国軍の傍受した通信か?」

 だが、クオリアは言う事を聞かずに書類の中身をチェックして行く。

「ああ…まずは エニグマより簡単そうな こっちから取り掛かっている。」

「これが簡単?根拠は?」

「使われているモールス信号の文字の数が12種類…。

 恐らく12進数を使った暗号だろう。

 エニグマより遥かにラクではある…。

 そうだ…トニー王国の電文の文字 頻度を調べてグラフにしてくれ。」

 今の通信暗号は 紀元前から使われているシーザー暗号の発展型になる。

 これは 伝えたい文の文字をズラして暗号にする方式だ。

 例えばABCを伝えたい場合、『3文字ズラす』と言う暗号を解く為の『鍵ルール』を相手に伝えてDEFと書いて渡す。

 これを発展させて 1文字ズラしや、5文字ズラし などのズラす数を変えて鍵を増やする事により、簡単に暗号が解けない様に工夫された。

 ただアルファベットである以上、26回 総当りで文字を並べて行けば 解読が出来る。

 そこで次は、対応する文字をランダムにする事で 総当りを防ぎ、更に解読が困難にする事が出来た。

 実際 これは かなり有効で、その後 900年程 これらの暗号は解読が不可能だった。

 これを破ったのが、9世紀にアラブで生み出された『頻度分析』だ。

 どの言語でも 使用頻度が高い文字と使用頻度が少ない文字が必ずある。

 なので、暗号に出て来る文字の使用頻度から それに対応した頻度の文字を割り出す事によって暗号の解読を行う方法が編み出された。

 更に この問題に対応させたのが ヴィジュネル暗号…。

 これは、シーザー暗号に奇数には〇文字ズラし、偶数には〇文字ズラすと言う複数の暗号ルールを暗号内に組み込み、頻度分析をしづらくした物だ。

 ただ、現代の複雑化した暗号にも 頻度分析は 難しくなったが、まだある程度 通用する手でもある。

「やってみるが、無意味だ。

 文字の使用頻度は おおよそ同じ…。

 使用頻度の多い単語からの探索は 不可能だ。」

 私の考えを見越した様にクオリアが言う。

「何故 キミがそれを知っている?」

 クオリアの返答に驚きつつも 私は聞き返す。

「私はクラウド商会のドーバー支店にいた時に 趣味でAM無線を使い 付近の無線を傍受してた。

 もちろん 文章の解読までは 出来なかったが、一通りの探査方法は 試している…。

 真っ先に調べたのが 文字の使用頻度だった。」

「なるほど…最低限チューリングが選ぶだけの事はあるのか…。

 なら、さっきクオリアは『これが簡単?』と私に言ったな。

 つまり、トニー王国の暗号より エニグマの暗号の方が 簡単だと睨んでいる訳だ…その根拠は何だ?」

「検証が仕様が無くて 予想になるが、トニー王国の暗号変換アルゴリズムの予想が既に付いているからだ。

 その上で この暗号の解読が不可能だと判断した。」

「は!?」

 チームの皆が作業を止めてクオリアの方を向く。

「分かったのか?この変換アルゴリズムが…如何(どう)やって?」

「トニー王国の文化圏で使われていそうな 暗号方式を可能な限り集めて、1つずつ検証した。

 12種類の文字で表現 出来る 条件だと、1つの暗号が見つかった…結果 この暗号が上杉暗号の改良型だと言う事が分かった。」

「ウエスギ暗号?」

 私の知らない暗号方式だ。

 クオリアは部屋の脇にある黒板を引っ張って来る。

「日本の戦国時代…中世に使われていた暗号方式だ。

 トニー王国が この暗号を使っている理由は 恐らく非常に機密性が高いからだろう…。」

「クオリア…その暗号の仕組みを説明 して欲しい」

 チューリングが言いクオリアが「了解した」と簡潔に答える。

 クオリアは黒板にチョークで文字を書いて行き 説明を始める。

「日本には『いろは歌』と言う物がある こちらにおける アルファベットの並びに近い。」

 クオリアは黒板に『いろはにほへと』と書いて行く。

「そして これをチェスの盤面の様に線で区切って 表にして、縦と横に番号を振る。

 で、1-1が『い』で1-2が『ろ』だ…実にシンプル…。

 これが上杉暗号になる。」

「だが、それでも 日本語と言う言語である以上、頻度分析で文字を特定 出来るはずだ。」

「そう、なので 送信者と受信者は この盤面のパターンをランダムにした物を100ページ位 持っている。

 無線の暗号の内容は『何ページ目の盤面を参照しろ』と言う指示暗号があり、後は 対応する盤面の見ながら 数字を文字に変換して いけば解読が出来る…仕組みは それだけだ。

 これがトニー王国の暗号が解析出来ない理由でもある。」

「………あっそうか!…鍵か!」

「そう…シーザーもヴィジュネルも 文字を組み替える事で暗号化していて、現代では それを解析されない様に 暗号を複雑化する事で 元の情報を隠している。

 だから、変換方法さえ解析してしまえば 解読が出来る。

 でも、トニー王国の暗号の変換方法自体は 実にシンプルだ。

 だが、暗号の盤面は 毎回変わる。

 で その盤面を書いた鍵の書類は…。」

「この方法だと 鍵が奪われたら すべての暗号が無意味になる。

 となると 作戦を展開してる部隊の一番 後ろになる だろうな…」

 ようは作戦の展開部隊が鍵の警備も 兼任している訳だ。

 こうなると 電波の傍受だけでは解析が出来ず、直接鍵を盗み出す 武力が必要になって来る。

「そ、そして トニー王国軍を攻撃して 盤面の書類を奪おうにも 守りが堅過ぎて 大部隊じゃないと 突破は不可能…。

 しかも、苦労して突破したとしても 少しでも時間があれば 到達前に 指揮官は 鍵の書類を燃やすだろうな…。」

「そう言う事か…とは言え、一応検証は しないとな。

 クオリアが行っていた方式なら確認する方法を いくつか思い当たる。

 まずは これが ウエスギ暗号だと言う事を確定させよう。」

「了解した。」


 その後 1日かけて検証を行い、トニー王国の暗号方式を特定した。

 相手に気付かれない様に鍵の書類を盗みに行く必要があるが、そこは我が国の優秀な スパイに任せよう。

「後は エニグマの解析だけか…」

「あれは 依然と難解だけど…。」

 私は隣にいるクオリアを見て私はそう言う。

 この子は神童だ…見つけたのは 偶然だろうが チューリングは アタリを引いた。

 この子がいるなら あのエニグマも解析できるかもしれない。

 私は 絶望の暗闇の中で一筋の光が見えた気がした…。

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