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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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08 (就職試験)〇

 空爆で あちこち やられた町をクオリア()が歩いて行く。

 間の悪い事に昨日 ドイツ軍からの空爆があったらしく、瓦礫が散乱していて まだ火が上がっている所もある。

 ブリテン島へはドイツ軍は上陸しておらず、定期的に爆撃機による空爆を行っている。

 道の端では 小学生位の子供達が ガスマスク訓練をしていて、先生と思われる大人が 子供達のガスマスクの気密をチェックしている。

「空爆で崩壊していないと良いんだが…」


 この辺りで一番 デザインが良く 大きな建物が見える…あれが試験会場だな。

 建物の前には土嚢が積み上げられ『防空壕』と書かれた看板がある…この近くで この建物が 一番丈夫だからだろう…。

 それに隣には『私達に勝利をもたらします』とも書かれていて、現地民を勇気付けている。

 そして ドアの前には守衛が2人おり、侵入者を通さない様にしている。

「お嬢ちゃん…ここは子供が来る所じゃないよ」

 会場の扉の前で銃剣が付いたライフルを持った守衛に私が止められる。

「いいえ…クロスワードパズルの一次試験に合格したので会場に招待されました…これから2次試験です。」

「キミが?誰かが書いたんじゃなくて?」

「ええ…私が解きました。

 ほら、招待状…通して下さい」

「あ~確かに…分かったよ。

 どーぞ…それにしても子供が就職試験ね…。」

 私は彼の発言を無視して建物の中に入った。


「どんな連中なんだ?」

 このプロジェクトを担当してる少佐が階段を降りながらアラン()に聞いて来る。

「そりゃあ もう色々です。

 教員、技術者、何人かは学生です…。

 それに 大穴だと10歳前後の少女もいます。」

「少女?その彼女もクロスワードパズルを解いたのかね?

 不正では?」

「かも知れません…あれは 学校にも行っていない未就学児が解ける問題では無いですから…。

 ですが、彼女は クラウド商会のドーバー支店の孤児院 出身…。

 あそこを出た孤児達は それなりに教養を持っている事で有名です。

 ケンブリッジ大学でも、ここの孤児院 出の子供が1人卒業していますし…。」

「だが、ロクに学校にも行っていない無学な子供に務まるのかね?」

「恐らく務まらないでしょうね。

 ですが、試験を受ける権利は 与えても良いと思っています。

 彼女の能力は 今回の試験で 判明する でしょう。」

 あの問題を解いた時点で 最低限の教養がある事は 分かっている。

 それに 幼い少女が 最前線に近いドーバーから ここまで、バスと列車を乗り継いで やって来ている。

 不正が有るにしろ 無いにしろ、この時点で少なくとも彼女は本気だ。

「それで、クロスワードパズルを解いたからって それが本当に優秀なのかね?」

「少ない情報を組み合わせて 正しい答えを導く方法は 暗号解析と全く同じです。

 僕は彼らが どの様に この問題を解くかに 興味があるんです。」

「う~ん」

 少佐は不満そうに うなった。


 試験会場の席の数は6×6の32席…。

 うち30人が黒の背広を着た男性で、2人が女性で、1人が帽子を被った25(くらい)の女性…もう1人が白いワンピース姿の10歳前後の少女だ。

 少女の服装は 昨日空襲が有ったと言うのに純白で 汚れ1つ付いていない。

「時間です…まずは 遠い所から来て頂き ありがとう…僕はチューリング…ここの試験管です。

 では、まずは テーブルを見て…テーブルの上には 電気スタンド、裏返しにしてある クロスワードの解答用紙…おっと まだ見ないで、緑のメモ帳、後 英単語が書いてある辞書があります。

 これらを自由に使ってクロスワードを解いて下さい。

 制限時間は6分…では、紳士…あ~淑女(しゅくじょ)?の皆さん 始めて」

 私は腕時計を見つつ言う。

 

「それで…6分でこの問題は解けるのか?」

 少佐が僕に聞いて来る。

「いいえ、解けません…僕で7分32秒…。

 6分以内なら僕より頭が回る人材…。

 逆に10分を越えるなら 人材として使うのは無理でしょう。

 それに これは2つの答えがあります。

 僕は この問題を出された時に もう1つの解答の可能性なんて考えも付きませんでした。」

「解けた」

 少女が手を上げる。

「は?」

 僕は腕時計を見る…3分20秒!?

「お嬢さん…解答用紙を係員に渡して下さい。」

「了解した。」

 少女は解答用紙を係員に渡し、僕は残りの受験者を見続ける。

「ほお…こりゃ凄い」

 係員は解答用紙を見て言う…少なくとも正解は出した見たいだ。

「5分経過…残り1分…」

 受験者の様子はそれぞれ違い、最初は順調だったが 最後で文字が合わさらなくなり 悩んでいる人…。

 辞書を引いて 残りの文字を見つけようと している人など様々だ。

 帽子を被った女性は 少し悩んだ様子で鉛筆が止まっている。

「10…9…8…7…6…5…」

 女性は覚悟を決めた様にギリギリのタイミングで鉛筆を走らせ、手を上げた…5分55秒…。

「6分経過…そのまま…後 4分続けて…。」

 鉛筆を止めて悔しそうにしていた人達が また問題に取り組み始める。

 6分を越えても作業を止めなかった人は 好感が持てるな。

「う~んこれは スペルミスじゃないか?」

 係員が言う。

「いいえ…違います。」

 スペルミス?…もしかして もう1つの答えか?

 もう1つの解答は、1つの単語をドイツ語にする事で無理やりクロスワードを繋げる方法だ。

 時間が迫ったギリギリの状態で この発想が出来る人材は非常に欲しい。

「10分経過…はい、そこまで…お疲れ様、退出して頂いて結構です。

 解答用紙を出した3人は残って…。」

 10分を経過した時点で 僕の興味は もう彼女ら3人にしか無かった。

 僕は必要最低限の礼儀を維持しつつ失格者を部屋から 早々に追い出す。


「3人共 合格おめでとう…ようこそ 秘密諜報部へ…。

 これから見せる者に対して一言でも漏らせば 反逆者で死刑だ。

 家族や友人、周囲の誰に対しても常に 自分を偽りつつ嘘を付き続けなければならない。

 今なら まだ引き返せる…決して遊び半分で やれる仕事ではない。」

 少佐が少女を見て言う。

「では…この仕事を受ける気が無い人は、今すぐ退出してくれ…。」

 僕が3人に言う。

「申し訳ありません…僕は この仕事を辞退します。」

 男が席を立ち上がる。

「いいえ構いません…あなたは僕が 優秀だと認めた人です。

 それを誇りに思って…お2人は?」

「私には 失う物がありませんから…」

 少女が言う。

「私は単純に その仕事に興味があります。

 あの~ 一体何をするんですか?」

 男が部屋を出た言った事を確認して帽子の女性が言う。

「解読不能のナチスとトニー王国の暗号を解読して この戦争に勝つ…。」

「おお…良い仕事…。」

「私はドーバー支店で趣味で暗号無線を聞いていた。

 これは天職だな…。」

「それで…お2人はミス…えっと…あ~落ちると思っていたから覚えて無いや…。」

 僕は参加者の名簿を見る。

「クオリア…クオリア・マキナ…ミスは結構…クオリアで…。」

「マキナ…マシンか…良い名前だ。」

「ジョーン・クラーク…私もジョーンで良いわ」

「よろしく、ジョーン、クオリア…。」

 僕は2人と握手をする。

 彼女達が暗号解析に役立つかは まだ分からないが…少なくとも僕が信用しても良い相手に巡り合えたのだった。

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