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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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07 (伝説のクロスワード)〇

 開戦から1年後。

 1940年…ブリテン…クラウド商会ドーバー支店…夜明け前。

「はい、いつもご苦労」

「まいど」

 まだ暗い中 浮浪少年がジガに新聞を渡して金を貰って さって行く。

 この時代 まだ自宅に新聞を届けてくれるシステムは無く、朝一で浮浪少年を新聞社の前に行かせて こちらまで新聞を配達をして貰っている。

「おっ…来た来た来た、遂に来たぞ。

 伝説のクロスワード」

 食堂の席に座ったジガが新聞を見ながら言う。

「エニグマのクロスワードか?」

 キッチンでドーバー支店の従業員の為の豆料理を作りながらクオリア()が言う。

 エニグマは 第二次世界大戦でナチス・ドイツが用いた攻略不可能と言われていた ローター式暗号機だ。

 大鍋の火を消して ジガから受け取った新聞を見る。

 新聞には『10分以内に解けた方に素晴らしい仕事のチャンス』との文言と共にクロスワードパズルが書かれている。

 これを解いて応募すれば『ブレッチリーパーク無線機器製造所』と言う裏で エニグマを解析している会社に入社する事が出来る。

「おはよーございます…ふぁあ」

 欠伸をしながらドーバー海峡で輸送をしている水夫達が降りて来て 席に着く。

 私は皿にスープをよそい、彼らに料理を出す。

 今日のメニューは ニンジンと豆のスープ…。

 小さなジャガイモが3つと薄切りのベーコンが1枚だ。

食べ物に感謝を(サンクスフード)

 水夫達が私が作った 食事としては 非常に質素な料理を食べ始める。

 戦争は軍事物資、生活物資を際限なく飲み込んで行く。

 しかも厄介な事に、こちらの穀倉地帯がドイツ軍の爆撃機から『トビバッタの卵』が大量に投下された。

 そして卵がふ化し、幼虫となり、バッタが増え続ける。

 大量発生したバッタは あっという間に 穀物地帯のありと あらゆる食べ物を食い尽くし、雑草も食べてしまい、畑を不毛な地へと変えて そして卵を また産み付けて行く。

 この為、バッタの駆除に大量の人材が割かれ、食糧の自国生産は絶望的…。

 ブリテンだけでは このバッタの被害と 大規模戦争で消費される食糧では足りず、アメリカからの食糧援助に頼っているのが実情だ。

 だが、アメリカは毎週10万トンの食糧を送ってくれてるのだが、その食糧はドイツ軍よって海底に沈められ、食糧の供給量が減ったブリテン国民は飢えている。

 正直 質はもともかく もう少し食べさせたいんだが、今の時代 1日に2食 食べられるだけでも かなりの労力が必要になって来る。


「食べながらで良いから聞いてくれ。

 今日の仕事も一段とハードだぞ」

 ジガが皆の前で言い、私は コンセントにケーブルを挿して首に繋げ、給電を開始…食事を始める。

「またですか~」

 船長がジガに言う。

「一応の安全は確保してある…今日は このルートだ。

 こっちは ブリテンの戦艦がいて、ドイツ軍と交戦する可能性がある。

 ただ戦艦が盾になる様に進むから こちらの被害は出ない。

 それと下には トニー王国の潜水艦が警護に付いてくれるはずだ。

 敵と交戦する前に進路変更の指示があるはず…緊急時は そちらの指示を優先してくれ」

「了解ですジガ…」

 渡した書類を食べながら確認し、船長が答える。


 最終戦争と呼ばれた 第一次世界大戦。

 ドイツは連合国からの賠償金を支払いはしたが、マルク札での支払いだったので 果てしないインフレで 賠償金が パン1個程度の価値に なってしまった。

 なので、連合国は ドルレートに換算して 貿易での賠償金の支払いを要求して来た…つまり、賠償金の お代わりだ。

 まぁ連合国軍は 爆撃機や戦闘機を配備する為にアメリカから大量の借金を負っているので、賠償金がパン1個の金額になるのは 非常に避けたいはずだ。

 だが、賠償金がパン1個の金額になるまでに マルク札を発行した事で 国内の失業率が30%を越え、ドイツは 更なるお代わりに対応する事は出来ない。

 その為、ヒトラーと その側近のナオが率いるナチスが、第一次世界大戦で連合国からの賠償金を実質 踏み倒した。

 ドイツは ナオとヒトラーの経済政策で立て直し、それを民主主義だが 実質の独裁政治の状態で現場に強制させる。

 ナオは 元々ヒトラーの経済政策が好きだった事もあり、ヒトラーとの相性が抜群で、この短期間で地獄まで真っ逆さまに墜ちていた経済を立て直し、連合国軍が無視出来ない最強の軍隊を作り上げて来た。

 そして 後100年は戦争が起きないと呼ばれていた第一次世界大戦(最終戦争)の20年後の1939年9月1日…。

 ソビエトのポーランド領内に侵攻した事で、ポーランドと同盟国であったブリテンとフランスが宣戦布告。

 これにより 先の見えない第二次世界大戦が始まり、今年で開戦から1年になる。


 最近だとドーバー海峡は 毎日が賑やかで、大量のブリテンの軍艦がカレーやダンケルクに物資や兵士を送る補給任務についており、それらは ドイツ軍と戦う為に使われている。

 私達の民間船は 民間人が飢えない様に 食糧なんかの生活物資の輸送をメインに運んでおり、自衛用のライフルを除いて武器弾薬は船に積めないので、通常なら非武装の民間船を両軍の戦闘を避けながら突破するのは自殺行為に近い。

 のだが、クラウド商会は トニー王国軍との警備の契約する事で 私達の船の近くの海中に トニー王国の潜水艦が張り付いてくれており、非武装でも ある程度の安心を持って物資輸送が出来ている。

 ただ、ドイツ軍への攻撃を妨げ、連合国軍に協力せず、海路の要所を抑えているトニー王国は、アメリカとブリテンから宣戦布告を一方的に受けていて、今だと散発的な戦闘に入って来ている。

 トニー王国は ドイツと同盟を結んでいる訳では無いのだが、敵の敵は味方理論で、実質トニー王国はドイツ側だ。

 水夫達の唯一の救いは、給料が 一般国民より各段に高い事なのだが、そもそも金が有っても買う食糧も無く、死ねば 預金残高も無意味…私達は あの世の銀行への送金方法を知らない…。

 正直、こんな無意味な戦争は 今すぐ やめて欲しいのだが、ナオは 史実の歴史を ふっ飛ばして枢軸軍(すうじくぐん)を勝たせ、ドイツによる安定した世界統一を考えているので 今では それも難しい。


 私は ジガの話を聞きながら片手間に クロスワードを解く。

 限られた文字情報から単語を予測するクロスワードは、暗号解析に対して非常に有用な手段だ。

 人の脳に比べて圧倒的に処理能力が高い私なら こんな問題なんて、1秒も かからずに終わってしまうのだが、処理能力を人並みにした場合、3分程度は確実に掛かる。

 まぁクロスワードは 楽しむのが目的だからな…これも縛りプレイだ。

「よし 出来た」

「やっぱり 速いな…うん ちゃんと出来ている。」

 ジガが 完成されたクロスワードが書かれた新聞を見ながら言う。

「じゃあ、後で書類を作って投函(とうかん)しておくよ。

 ウチは ここから離れられ無いからな…。」

「ああ分かっている。」

 私はそう言うと 仕事に入る為に私室に向かう。

 ドアを閉めて鍵を掛けると 私は床板を外して 地下へと開いた大きな穴に ハシゴを使って降りて行く。

 この商会の地下には 空爆対策用の大きな地下室があり、私はライトを点けて 大きな無線機が置いてあるテーブル席に座り、ヘットフォンを付ける。

 無線機の電源を入れると そろそろ午前6時だ。

 ダイヤルを動かして周波数を合わせると モールス信号がなり始め、私は それを聞き取って紙に記載して行く。

 こう言う無線は AM受信機さえ持っていれば、誰でも傍受が可能だ。

 ただそれは 高度に暗号化されている文章になっており、通常なら意味が読み取れない文章になっている。

 これを解読 出来るのは、解読方法を教えて貰っている宛先の人物か、もしくは それを解析して 解読方法を読み解く 暗号解析の専門家 位だ。

『午前6時、今日の天気は晴れ、ヒトラー万歳(ハイルヒトラー)

 まぁこの辺の軍の無線暗号の解き方を知っている私からすれば、トニー王国軍以外は 各軍が拡声器で喋っている様な物だ。

 ドーバー支店の船が攻撃されないのも、私の傍受による事が大きい。

 私は そう思いながら傍受を続けるのだった。


 数日後…。

 試験会場への招待状の手紙が届き、私は荷物をまとめてる。

「行くのか…」

「ああ、採用されれば 私はMI6の監視下に入る事になるから 発言に気を使う事になるな…。」

「分かった…何かあれば量子通信を入れてくれ」

 私達には 量子もつれを利用した 量子通信が使える…これは 原理的に傍受が不可能な最強の通信システムだ。

 流石のMI6も これは 見抜けないだろう。

「じゃあ、行ってくるよ」

 ジガにそう言うと私は、一人でバスと列車を乗り継ぎ 会場へと向かった。

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