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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 8巻 (戦争は続くよ 何処までも)
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03 (国民を助ける為には10年掛かる。)〇

 ミュンヘンの決起が起きた事で、ドイツ国民のナチ党への支持率が急上昇し、一気に第2位の支持率を手に入れた。

 クラウド商会は ナチ党の出資で 新しくミュンヘンに支店を持つ事になり、クラウド商会のミュンヘン支店が誕生。

 ミュンヘン支店では ナオ(オレ)をトップに物流面での国内情勢の安定を はかった。

 ナチ党は 弱者を救って行く事で 着々と国民からの支持を集めて行く。

 国民達には 高等な政治思想を説明した所で支持を得られない…国民はバカだからだ。

 皆で決めると言う思想自体は理想論としては良いが、政治も経済もロクに分からない国民に投票権を与えても それは人気投票にしかならない…。

 だから可能な限り分かり易く、国民の印象に残る活動をしているのが今のナチ党だ。


 6年後の1929年10月24日

 ニューヨークの株式所で起きた空前の株価暴落…世界恐慌が始まった。

 ただ、アメリカを含めた世界は散々な目に合っていたが、元々ハイパーインフレのドイツでは、今までと 大して変わらない生活を送っている。

 そして、次に始まるのは 世界恐慌で打撃を受けたイギリスからドイツに対しての食糧の大量輸出だ。

 これは イギリスの言いなりである政党が、ドイツ再建を理由に イギリスから食糧の関税の大幅引き下げする事を議会で可決してしまった事だ。

 これにより イギリスは輸出で儲けられ、ドイツ国民は 飢餓には悩まされ無くなった。

 が、市場に 安い食糧がドイツ国内に大量に送られた事で、農民が育てた国産の食糧は 高過ぎて 国民に買って貰えなくなり、農民は廃業に追い込まれている。

 ここで農民が廃業した場合、ドイツ国民はイギリスに胃袋を握られ、イギリスが気まぐれで食糧の輸出でも停止しようとしたら、ドイツ国内で餓死者が大量発生する…なので、ドイツは イギリスに従うしか無くなる。

 これは、アメリカ独立戦争前に 東インド会社がやったのと同じ戦術だ。

 しかも 更に厄介なのは、ドイツ最大の農業地帯が 第一次世界大戦で連合国に奪われた事で、ドイツ国内の食料自給率を上げる事も難しいと言う事…。

 これに ともないアディが率いるナチ党は、農民に裏で武器や隠れ家を与えて反乱を支援。

 農民達は 単純に政府に反抗して税金を支払うのを拒否するだけでは無く、役場や金融機関に爆弾を仕掛けたり、発砲事件を起こしたりする直接的な暴力活動に出た…まぁ完璧なテロ行為だ。

 が、こちらの民意を武力で示した事で、政府は関税の見直しをし、更に クラウド商会が農民から一括で高めに買い取り、市場にイギリスからの食糧と同じ金額で売る。

 当然、差額分クラウド商会が損をする事になるが、それは ナチ党からの補助金を入れて貰う事で、如何(どう)にか採算を合わせている。

 これで ナチ党は 農民たちへの支持率を手に入れ、議席数608の内、230席をナチ党が占める事になり、第1党まで のし上がったのだった。


 クラウド商会、ミュンヘン支店。

「本を書いているのか?」

「ああ私の自伝だ。

『虚偽、愚鈍、臆病に対する 闘争の4年半』と言うタイトルに するつもりだ。」

 本来、ヒトラーが刑務所内で書くはずだった『我が闘争』だな…。

「付き合いが長いオレなら分かるが、流石に長すぎだな…一般人には 分かり づらい…。

 いつも、単純で分かり易い 演説をしているのに、何でこうなった?」

「なら、書き終わった 後で 出版社に相談してみるか…。」

「そうだな…。

 それで…何で自伝を書こうと思ったんだ?」

「これは 私の自伝を装ったナチ党の宣伝本だ。

 そうだな…この国の歴史を さかのぼれば ドイツは 元々は 小さな国の集まりだった。

 戦争では フランスに敗れ、工業化ではイギリス(ブリテン)に劣っていた…その状況は 大筋だが 今も変わっていない。

 常にどっかで戦争が起き、強い国が弱い国を すり潰す…それが このヨーロッパ大陸で、これがドイツの歴史だ。

 だから この国には いろんな人種、宗教、政治思想の人間がいて、常に対立構造になっているから、いつになっても国が成長しない。

 ドイツ国民のバラバラの思想を統一して、1つにする必要がある。

 その為の この本だ。」

「?自伝で、ナチ党の宣伝本で、ドイツ国民の思想を統一するのか?

 如何(どう)言う理屈だ?」

「これは いわゆる聖書だ。

 ナチ党と言う宗教を造り、ドイツ国民に共通の宗教を与える。

 基本放置で何もしない キリストの神より、国民の為の活動をしている 我々 ナチ党の方が国民に対しての利益が高い…きっと神より支持率が高くなるはずだ。」

「ははは…なるほど…宗教か…。

 確か100年前にも 同じ事を 民話で やろうとした人がいたな…。

 何だっけな…『武力での制圧では、本当の国民には なれません。

 民話と言う同じ価値観を持った人が集まるから、そこに文化が生まれて国になるのです。』

 とかだったな…グリム童話のグリム兄弟…弟の方の発言だっけ…。」

「グリム童話なら子供の頃に散々読んだ。

 翻案されていない方の物語もな…。

 だが、今では グリム童話はヨーロッパの誰でも子供の頃に読んだ事があるベストセラーだ。

 なのに100年も経っているのに 未だにヨーロッパでは殺し合いが日常だし、この国も 安定していない。

 と言う事は グリム兄弟の考え方が間違っていたと言う事だ。

 民話じゃ国民の腹は膨れないし、民話じゃ他国との戦争を止められない…。

 だから私達は 武器と農具を取り、畑を耕さないといけないんだ。」

「ふーん そう考えるか…オレは そっちの考え方の方が好みだな。

 ただ…これ、ユダヤ人の扱いがヒドイ扱いな…まだ毒ガスを開発した事を恨んでいるのか?」

 オレが原稿を見ながら言う。

 本の内容も微妙に変わって来ているな…オレが アディと関わった事で思想に影響を与えたからか…。

「それもあるが、ブリテンからの食糧輸出が 途絶えた場合、確実に我が国は 食糧危機になるし、それに 数少ない仕事も ユダヤ人に盗られる事になる…。

 ユダヤ人には 自主的に外国に引っ越しをして貰う…。

 今だと フランスやソ連なんかの連合国なら 彼らを受け入れてくれるだろう。」

「民族浄化とかは しないのか?中国では割と一般的だが…。」

「皆殺しにする為の経費が無駄だ…一体、いくらの予算が掛かる?

 仮にユダヤ人を皆殺しにしたとして 死体の処理費用は?

 墓代は?人は死体になったら自分で墓を掘って埋まってくれる訳じゃないんだぞ。」

「ごもっともで…。」

 良かった…アディ自身はユダヤ人を 皆殺しにする気は無かったのか…。

 となると 元凶は ハインリヒ・ヒムラーだな…注意しておかないとな…。

 オレは そう思ったのだった。


 アディの目的は 今のドイツ…通称ヴァイマル共和国の首相の座だ。

 パウル・フォン・ヒンデンブルク…。

 彼は 一度アディと大統領選挙を行い 僅差で 再選した ヴァイマル共和国の現大統領だ。

 彼は 他国も含めた様々な利害で 一向に進まない議会を必要無いと思っており、大統領大権である「大統領 緊急令」を 多用して議会を通さずに法案を通す独裁者だ。

 大統領 緊急令は『国家の安全が脅かされた場合、大統領が国会から独立して必要な処置を取る事が出来る。』と()()された法律で、この『国家の安全が脅かされた場合』の理由をコロコロ変える事で、大統領 緊急令を出せる訳だ。

 まぁヴェルサイユ条約のせいで 国はヒドイ事になっている訳だから、常時 国家の安全が脅かされている状態とも言える。

 この権利は議会では 非常に有効で、様々な 政党は ヒンデンブルクに賄賂を与えて 自分の政党の法案を通そうとし続ける…これを大統領内閣と言うんだが、もう この時点で議席や多数決に意味が無い。

 結局の所、表向き 民主 主義を やってはいるが、独裁制じゃないと この国は全然 回らないんだ。

 

 で、こんな事があり、1933年1月…。

 アディが 大統領の1つ下の首相に任命されて これに応じ ヒトラー政権が誕生するのであった。


 さて…1933年…2月…国会議事堂…。

 オレが仕掛けた セムテックスの爆弾を遠隔起爆し、国会議事堂の炎上が始まる…『国会議事堂放火事件』だ。

 アディは これを『国会議事堂に放火する事態が、もし組織の手によって行われていたら、国家転覆の危機だ!!』と大々的に主張…。

 国民、議会の不安を煽り、これを『左翼勢力による国家転覆の緊急事態だ』とし、アディは大統領に「『国民と国家を防衛する為に 大統領 緊急令』を出して欲しい」と言う。

 当然、議会を不要と考え 左翼政党が目障りだった ヒンデンブルクは 大喜びで 1933年3月に大統領 緊急令『議事堂炎上令』を出す。

 これは 本来 犯人と()()()になっている共産主義者を逮捕する為の法律なのだが、共産主義者の結束を阻止すると言う名目で、人身の自由、言論の自由などの基本的人権を 合法的に阻止 出来、更に州政府に対して中央政府が介入する事が正当化される法律だ。

 これにより 地方選挙でナチ党が勝てない地域に ナチ党の突撃隊を送り込み、武力でナチ党に従わせる…。

 そして 一度戦闘が始まれば、中央政府が秩序を回復させる為の名目で現場に介入して 敵対政党を鎮圧する…凄まじい位の自作自演が出来る…。

 これを あちこちで繰り返す事により、ナチ党が勝てない 選挙区を無くし、将来のナチ党の議席数を どんどんと増やして行く。


 そして 同月の3月…。

 議会が ナチ党で染まった所で、反対勢力を「議事堂炎上令」で逮捕して投票に出席させず、逮捕された場合 議員の総数から除外する、投票時には突撃隊が睨みを効かして 反対票に入れにくくする…などの裏工作を行い、全体の議員の3分の2以上の出席、その中の3分の2の賛成で成立する超高難易度の法律授権法(全権委任法)が賛成444票、反対が94票で成立。

 これは 立法権を政府に与えるもので、つまり国会を通さずに内閣は勝手に法律を作れ、更に これは憲法より優先されるので 憲法違反をしていても法律を通せる…これは『大統領 緊急令』よりヤバく、実質 この国の三権分立を無力化する事が出来る。


 そして1933年…7月…。

 更に追撃で『反対政党の活動禁止』、『聖職者の政治活動を禁止』の法律を通す。

 で、他の政党がナチ党に完全吸収された所で『政党新設禁止法』で新しい政党を作れなくする。

 これで議会には ナチ党以外は存在 出来なくなり、アディとヒンデンブルクの裁量で法律を作って ドイツ国民に押し付ける事が出来る訳だ。

「何と言うか…10年も掛けて こんだけ えげつない事をしないと、国民を救えないって…制度的に欠陥だろ」

 オレは そう言い、この国の最重要 人物となってしまった アディの護衛に付くのだった。

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