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30 (賠償金はパン1個)〇

 11月11日午前11時…。

 正式に同盟国、連合国との停戦が有効となった。

 だが、まだ終戦はしていない…戦争は いまだに続行中だ。

 ただ、戦闘する事も無くなり実質 終戦状態だ。


 中央病院…。

 毒ガスで肌や呼吸器官をやられ 入院していたアディ()は 病院のベッドで看護婦から終戦の話を聞く。

「負けたのか…我が国が…」

「いえ…終戦への交渉には入りましたが、まだ負けたとは…。」

「くそっ…まともに情報が上に伝わっていれば…上が情報を歪めて報告しなければ…。

 あんな無茶苦茶な命令になる事も無かったと言うのにぃぃぃ…」

 私は 歯を噛み締め、涙をポロポロと流す。

 伝令としての自分の無力さ…今まで国の為に犠牲になってくれた勇敢な戦友たちの命が無価値になった事…だが 何より…戦えず病院のベッドで停戦を迎えた事が一番悲しかった…。

「あっあああ…」

 包帯だらけの私は 看護婦の前で号泣する事となった。


 1919年1月18日…フランス外務省内会議室。

 パリ講和会議。

 第一次世界大戦における連合国と中央同盟国の講和条件ついての交渉を行うパリ講和会議が始まった。

 世界各国の首脳が集まり、講和問題だけではなく、国際連盟を含めた 新たな国際体制構築についても話されている。

 史実でなら これから7ヵ月にも渡る 長い終戦の為の交渉だ。


 連合国軍側 別室…。

「無茶苦茶です…こんな賠償金

 ベルギーと北フランスの損害再建費用として10億金マルク…。

 更に無制限潜水艦作戦の損害賠償で380億マルクなんて…。

 今のドイツでは 良い所 200億マルクが限界でしょう。」

 ケインズ()が書類をテーブルに叩きつけて言う。

「キミはどちらの味方なのかね…ジョン・メイナード・ケインズ。

 キミは ケンブリッジ大学の経済学者だからアドバイザーとして呼んだのだがね。」

 ソファーに座っている ブリテンの交渉団の1人が言う。

 彼らは 私の話をアフタヌーンティーを楽しみつつ聞いており、全く危機感を持っていない。

 この戦争で各国にどれだけの経済的な損失が出たと思っているんだ…。

「ええ…もちろん連合です。

 私は同盟国側を(かば)う気はありません…。

 ですが こんな金額を支払わせたらドイツの経済は 確実に崩壊します。」

 私は 必死に交渉団を説得をする…これを実行すれば ドイツの民間人に大量の餓死者が出てしまい、次の争いの火種になりかねない…。

 もし それで戦争なんか起こされた日には 賠償金 以上の損害が発生する。

 それだけは 何としても阻止しないと…。

「彼らが行った 無制限潜水艦作戦は、民間人にも犠牲を出す非人道的な作戦だ。

 これは何としても 防ぐ必要がある。」

 民間人が乗っているルシタニア号(旅客船)に武器弾薬を積み込んでアメリカから密輸して荒稼ぎしていたのによく言う…。

 まぁそれを正当化出来るのが戦勝国の特権か…。

「それに これが最後の戦争だ。

 最低でもこれから100年は 大きな戦争は無い…これからは 精々が地域レベルでの紛争だ。

 それに 連合国軍には、飛行機を生産する為にアメリカから借りた大量の借金がある…これでも賠償金は 少ない方だ。」

「っ…この戦争で ドイツの恐ろしさを あなた方も理解しているはずです。

 ドイツは 今回の報復に 次の戦争を始めますよ…ここは妥協するべきです。

 相手国を締め付けるだけじゃ 次の争いが始ます。」

「少なくとも ドイツが我々に 戦争を仕掛けてくる事は まず無い。

 賠償金の支払いで まともな軍も 維持出来ないはずだ。

 これは ドイツの軍備を弱体化させて 世界の平和を維持する為でもある。」

「賠償金の支払いを終える前にドイツが崩壊しても良いのですか?」

「そうなれば ドイツがフランス領になるだけだ。」

「あなた方はドイツの経済への影響を考えていない…。」

「それは敗戦国側の責任だからだ。

 戦勝国である我が連合国には関係の無い事だ。」

 なるほど…ドイツ国民は どれだけ死のうが構わない訳か…。

 明らかに戦争に勝って 彼らは 気分が浮かれている…。

 これは同盟国側が逆らえない事を良い事に、弱い者 いじめの様なあり得ない要求が 始まるだろう。

「そうですか…私は体裁上 呼ばれただけで、私の発言をまともに聞く気は無いのですね…。

 では 私から一言…経済がボロボロになったドイツ国民は その恨みを連合国軍に向ける事でしょう。

 私は そのドイツ国民を統率する 指導者が現れない事を祈るばかりです。」

 私は 事の重大性を全く理解していない 彼らに そう言うと部屋を後にした。


 トニー王国 外交島…役所 都市長室。

 未来を知っている 我が国の神の言う通り、史実通りの停戦から7ヵ月後の1919年6月28日にドイツがヴェルサイユ条約に署名し、一応の戦争が終了…トニー王国にいる両軍の捕虜の返還が行われた。

 ただ、アメリカ側は 一番遅れて参戦した為、自称 最終戦争での陸軍 海軍の戦果が著しく悪く、大衆が終戦を支持してた にもかかわらず、アメリカ合衆国上院は条約を批准せず、遅れて 1921年7月2日にウォレン・ハーディング大統領がノックス=ポーター決議に署名したことで、アメリカが ようやく この戦争から手を引いた。

 前回と違うのは 第二次世界大戦で参戦するはずのトニー王国が両軍の人道支援をした事。

 これにより 両軍の死者数が減り、本来現場で殺されるはずだった 両軍の捕虜 合計 200万人の命をトニー王国が 救えた事になる。

 こちらの戦闘による損害は DL1機が小破…DL用のシールド1枚が全損で1000万トニー。

 戦車や歩兵2万を相手に使用した弾や爆弾は 合計で500万程…人的損害は0。

 で、捕虜や負傷者の治療費、輸送費なんかの費用は その都度 支払われているので、全体では 大幅に黒字だ。

 この戦争で明確に黒字になった国は 我が国…トニー王国だけであり、その他だとアメリカ…。

 アメリカの場合 飛行機の生産の為に世界中から金を貸しており、各国も大赤字で 返済は滞るだろうが、借金を理由に 世界中から外交的に譲歩を引き出せると考えれば、結果的には黒字になる。

 その他、ロシア帝国の崩壊し、その他の連合国は 大赤字だ。

 近い内に この借金を返済した事で起きる世界恐慌が始まり、次の戦争が また始まるだろう…。

 そして 同盟国側のドイツ…。

 実質 国ごと滅ぼしかねない金額の賠償金を支払う事で、マルク札の価値が暴落…。

 物の値段が7桁程上がり 人々は 札束を重さで計算して取引きを始め、紙幣の山をリアカーに積んで買い物をしたり、酷い所だと 燃料より遥かに安いので 札束をストーブに入れて 温まってたりする。

 パン1個の価値が1兆マルク程度になった 今のドイツでは、賠償金の400億マルクなんてパン1個以下の価値しか持っていない。

 賠償金がパン1個以下なんて連合国も驚きだろう…。

 ちなみに こうなる事を知っていたトニー王国は、暴落前に貴金属に換金しているので 大した損害が出ていない。

 全く…経済論を知らないヤツが 欲をかいて儲けようとする からこうなる…。


 コンコン…。

 都市長室のドアがノックされる。

「どーぞ」

「失礼します。」

 ドアが開け、まだ若い青年が都市長室に入って来る。

 そこにいるのは、現在 このマルクの暴落の責任を全部 押し付けられているケインズだ。

「ジョン・メイナード・ケインズです。

 専門は経済…トニー王国の文化を学ばせて頂きます。」

 彼は 本国にいると殺されかねたい為、この事態が落ち着くまで こちらに留学する事となっている。

「ようこそトニー王国へ…外交島の都市長…バート・トニーです。

 我が国はあなたを歓迎します。」

 私はそう言い、ケインズと握手をしたのだった。 

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