20 (風呂屋)〇
翌日…。
「さて…ガラス繊維も安定供給 出来るようになった事だし、本格的に浄水所と風呂を造ろう。」
「浄水所…水を綺麗にする所ですね…。」
ジガの言葉に ユフィが答える。
「ああ…構造自体は 結構 簡単だ。」
ウチらが川に行くと 川の横に穴を掘って造った川の 迂回路があり、その隣には壁が無い 竹の屋根だけの建物で、一応、竹の板で、仕切りをしてある露店風呂だ。
とは言え、今は骨組みだけで まだ中には何もない。
「まずは川の水を汲み上げる 汲み取りポンプだな…。」
「ポンプ?」
「そっ」
汲み取りポンプの素材はガラス…素材も構造も注射器とほぼ同じだ。
まずは注射器の針の部分…。
これは ガラスパイプで作ったストローを作り、その上に異物の混入を防止の為にガラス繊維でのフィルタを取り付ければ出来る。
で、その上に 一回り大きい注射容器 部分を作り、ガラス繊維の紐を取り付けた大き目のビー玉を容器内に落とす。
注射容器の底は Vの字になっていて、ビー玉が穴を塞ぐ事で 上からの水をせき止める。
で、次 注射容器の押し込むゴム部分。
ここは グラスウールをフェノール樹脂で固めた物で作り、真ん中にビー玉に取り付けた紐を通して融けたガラスで完全に固める。
これで紐を上に引っ張ると、ビー玉が上に上がり、気圧差で下の水が上がって来る…随分と ぶっ太いが 注射器の完成だ。
で、この注射器の下の部分にガラス繊維のフィルタを取り付けた蛇口を取り付ければ、気圧の通り道が出来て水が汲み上がる。
ただ、気圧差の関係上 紐を持ち上げるには かなりの力がいる。
そこで、上部に てこの原理を利用した鉄の取っ手を付けれやれば 完成だ。
ちなみに その取っ手の先端部分には3分の1だけ歯が付いている歯車が取り付けられていて、今後 電気が出来た時に上下運動をモーターによって自動化する事が出来るようになっている。
「ここまでは 大丈夫か?」
ウチは蛇口を閉め、汲み取り機を逆さにして針部分に水を入れて、容器内の空気を完全に抜き、それを また逆さまにして川に戻す。
で、重い取っ手を上下させると 水が引き上がり、蛇口を開けば水が出る。
透明なガラスで出来ている為、内部機構が非常に分かりやすくなっている。
「ええ…何とか…私達は いつも桶と滑車を使って井戸から水を汲んでいましたが…。」
「飲み水位にしか使わないなら それでも良いんだが、風呂で使う水の量は最低1000L…桶は10L位だから100回は汲まないと行けなくなる…出来ないレベルでは無いが、手間も時間も掛かるな…。」
と言うか昔の風呂屋の人達は良く1tもの水を毎日運んだな…。
「で、この水を竹のパイプで浴槽に持って行く。」
「浴槽?」
「あ~そうか風呂の概念が無いのか…。
まぁデッカイ桶と思って置けば良いかな~
取りあえず 昨日作ったガラス繊維のデッカイ布を持ってくるぞ…。」
「あ~あれですね…。
服にするには大きすぎると思っていましたが…。」
「そりゃ縦横6mの人間は いないからな…。」
ウチらが使っている編み機は 服の布を作るのが目的の為、縦のサイズには制限は無いが 横の最大が1mで、それ以上長い布は作れない。
なので 縦6m×横1mのガラス繊維の布を6枚作り、部分部分を手縫いで繋ぎ合わせている…それが2セットだ。
これにフェノール樹脂を竹の刷毛で薄く塗って行き、熱した鉄の大鍋で体重を掛けて布をプレスし、フェノール樹脂を硬化させて行く。
「よし、ブルーシートの完成だ。」
「コレが青?」
ユフィが白色のガラス繊維のシートを見て言う。
「後は骨組み さえ出来れば…」
「ジガ…骨組みを持って来たぞ…。」
パイプを持った クオリアとナオが部屋に入って来る。
「おお…早いな…。」
「そりゃ…こっちは 寸法通りの筒の型を作って、ガラス繊維の布をハサミで切って巻き付けて フェノール樹脂で固めて、型を抜いただけ だからな…。
ひたすら編み機で編んでいたジガ達よりは そりゃ早くなる。」
ナオの手にはハサミが握られている…如何やら、鉄が出来た事で刃物の類も出来始めた見たいだ。
「それじゃあ…組み立てますか~」
「ああ…」「私は窯を取りに行ってくる。」
ナオとクオリアが それぞれ言う。
ナオとウチで ガラスで作ったパイプで風呂の枠を組んで行き、その上からブルーシートを床まで被せて、端をガラス繊維の紐でしったりとパイプに固定して行く。
このガラス繊維のシートに温水を入れて 満たせば風呂の完成だ。
「まんま見た目が『野外入浴セット2型』なんだよな…。」
ナオが完成した風呂を見て言う。
確か 自衛隊が使っていた災害用の風呂だったっけな…。
「それで…次は窯か?」
「あ~もうそろそろ クオリアが持ってくると思うけど…。
何せアレは重いからな…。」
窯をリアカーに乗せたクオリアが帰って来た。
窯は、水を入れる上のタンクと下の木炭を燃して熱を上に送る窯、それを排気する為のパイプで構成されている。
「待たせた さあ…これを組み立てたら風呂の出来上がりだ。」
クオリアが自分の身長より高い水タンクを降ろしながら言う。
サイズは2m…直径は1mの筒と言った所か…。
「タンクは断熱効果が高い ガラス繊維強化プラスチック製で、正面部分は注水量が見える様にクリスタルガラス。
それで 底面は熱を伝えないと行けないから熱伝導率が高い鉄製だな。
タンクは水を入れるから理論値を信じないで結構 厚く作っているし、炉の方は1tに耐えないと行けないから重い鉄製のブロック。
構造自体は 大型の蒸留器だな。
これを使って問題が出なければ メチルアルコール用にもう1基作る…。
今のガラス瓶じゃ効率が悪いからな。」
組み立てながらナオが言う。
「あ~汲み取りポンプの高さを変えないとだな…。」
タンクの上までは約2.5m…ポンプはそれより上に設置しないと行けない。
「ガラス繊維のホースは 持って来ているから延長は出来るが…足場が必要かな…鉄パイプを作るか?」
ナオがウチに聞いてくる。
「いや…竹で作ろう。」
竹の表面にフェノール樹脂を塗りながらクオリアが言う。
「繊維強化プラスチックの竹?」
「足場としては これで十分…何より鉄パイプより軽いしな。」
「全部 竹…木製の物がないな…。」
ウチが周りの竹の家を見ながら言う。
「竹の方が圧倒的に加工が楽だし、木材を加工出来る職人なんて、オレらにはいないからな~。
それに フェノール樹脂の原料のメタノールは 木材由来だし…。」
ナオが ウチと竹のパイプで ハシゴとやぐらを組み立てながら言う。
「それに…電気が作れる様になれば 炭素繊維を作れるようになる。
そうなれば竹の家も必要 無くなる。」
「はぁ…効率の前にはレトロは潰されるって事か~」
汲み取りポンプを片手に持ちがなら はしごを昇って やぐらの前のタンクの上に汲み取りポンプを乗せて固定する。
上部分は まだフタが無く、タンクの底が見えている。
「別に残しても構わないが、夏も冬も地獄になるぞ。」
クオリアが 下から渡す ガラス繊維のホースを 汲み取り ポンプに接続し、外れないように厳重に紐を巻き付ける。
そして 汲み取り ポンプの蛇口側にも長いホースを取り付ける。
「確かに空調のある部屋の方が良いけど…よしフタをくれ」
下にいるユフィからフタを貰って 上部に取り付け、フタに付いているホースを浴槽に降ろす。
「よ~し ジガ注水開始~。」
下のナオの合図で ウチが汲み取りポンプ内に入れて空気を抜き、真空状態にし、重い取っ手を上下させて水を引き上げる。
「これで、水を沸かせば100℃のお湯が風呂に流れると…。」
「いやいや…そんなの死ぬから…。」
ウチがツッコむ。
「なんで、注水が終わったポンプは風呂に回してくれ。
3分の1位水を入れたら 後はお湯を入れつつ湯加減の調整だな…。」
ナオがウチが下に投げたホースを受け取りつつ言う。
ウチが窯に木炭と竹炭を放り込んで火を点け窯の天井の鉄の温度を上げていく。
その上には ガラス繊維のタンクがあり、そこに熱が加わり水が沸騰…。
その沸騰した水蒸気が風呂の水の中に繋がるホールに流れ、ぬるま湯になって行き、温度が上がって行く。
「後は 衣装を入れる籠と棚と桶だな…竹製で出来るか…。
椅子はプラスチックが良いかな…これは フェノール樹脂で出来るか?
今日中には作れるな~」
手を入れて温度を確認しながらナオが言う。
クオリアは、熱湯が出てくるホースの水をガラス瓶で回収している…これは安全な飲料水になる。
「これで最低限は揃ったな。
これで明日の夜には始められるかな…。」
ウチは そう言うとユフィに仲間の性奴隷達を集めて貰い、風呂屋の営業に向けての実習を開始した。




