02 (キョウカイ小隊)〇
太陽系のすべての星を飲み込み、ブラックホール化した木星を利用して 2600年の木星から1700年の木星まで、船内時間で900年間掛けてナオ達は時間を さか のぼって来た。
ただ、現在から未来に向かって進む 正物質で出来ているオレ達は時間の逆行を知覚できず、主観的には ほぼ一瞬になる。
乗って来たタイムマシンは 直径6km、長さが20kmの円筒形のコロニー型で側面にHope!!と描かれている『ホープ号』。
オレとクオリアの結婚式の後、調整と移動に丸1日掛け、オレらは月と地球のラグランジュポイントのL3まで辿り着く…。
2600年の月は 地球を太陽系から脱出させる為に恒星にしたが、L3から見える月は 今は見慣れた月に見える。
更に半日かけて月の『賢者の海』にホープ号を着陸させる…。
ここは地球から見て月の裏側になり、アポロ計画が始まるまでヒトに見つからない場所だ。
ホープ号の制御システム『コパイ』を休眠状態にさせ、5機の4.5mの人型の黄緑色の装甲のロボット…。
ファントムが黄緑色の量子光を噴射しつつ ホープ号を離れ、月の表側にある『静かの海』に向かう。
ここはアポロ11号が1969年に着陸する地点で、人類が初めて足跡を付けた別の星だ。
ファントムを駐機姿勢状態にして コックピットブロックをスライドさせ、パイロットスーツを着たナオは ファントムから飛び降り、月面に人類最初の足跡を付けた。
「This is a small step for a human being.
But it is a big step for humankind!!
(これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩である。)」
ニール・アームストロング船長の言葉をアレンジしつつ、地球に向かってオレは大声で叫ぶ。
『はは…あの世にいるかも知れないニールは 喜んでくれるだろうか?』
オレの隣で ファントムに乗って地球を見ているのは オレの観測者の長い銀色の髪を持つ少女、クオリア…稼働年数は14歳。
彼女は機械から生まれた電子生命体で 新しい人類でもある少女だ。
『ここで 丸一日 足止めだ…。
地球全体の地図を作らないと行けないからな…。
やっぱり、氷河期とは環境も地形も変わっている。』
「ジガが まだホープ号をシドニーに落として無いからシドニー湾も無いしな…。」
同じく短髪の銀色の髪を持つ電子生命体の元セクサロイド ジガの言葉に オレはジョークを返す。
『まぁな…。』
『問題なのは 医療器具や薬品を1から作らないと行けない事だな…。
一応ホープ号にも 一式 揃っているけど、現地人に作らせないと国が発展しないしな…こりゃ大変な仕事になるぞ。』
ジガのファントムの隣で そう言うのは、2050年のエレクトロンの独立戦争で人間側の衛生兵を勤めていて、味方に殺されて身体をデータ化して『ポストヒューマン』になったハルミ…。
ちなみにオレも生身のオレをデータ化したポストヒューマンになる。
ジガもハルミも 容姿は十代後半程度に見えるが こう見えて550歳を越えている…。
生きていた年数がヒトとは桁違いであった事もあり、2600年時点で最優秀な人材だ。
「これが地球…綺麗」
ファントムの中で 地球を見ているのは ロウ…。
彼女は 2600年の氷河期になった世界で原始的な生活をしていた6歳の獣人の少女で、狼の耳と尻尾を生やしている。
「さてと、足跡は付けたし…っと」
人類初の偉大な一歩を269年前に付けたオレは 低重力の地面を蹴ってファントムのコックピットブロックに入り、コックピットが スライドしてハッチを閉鎖…。
右手に量子光が集まり、ファントムサイズのシャベルを出し、静かの海に
4.5mのファントムの胸部が隠れるサイズの深い穴を開け、どんどんと横に掘り進めて行く…ファントムサイズの塹壕だ。
『ん?何をやって…ああ…そう言う事か…。
私も手伝うか…』
『ロウもやる~』
地球の観測をしないで暇をしていたハルミ機とロウ機が動き出し、オレは掘削データを渡して2機で作業に入る。
1日後…。
クオリアとジガの地球観測を終わった所で、休み休みやっていたオレら2人の作業も終わった。
それは静かの海に描かれた1km四方の文字列だ。
Ni venis ĉi tien per kunlaboro kun maŝinoj.(私達は機械と協力する事で ここまで来ました。)
言語はエスペラント語…地球出身の宇宙人の共通言語だ。
『よし、こっちも終わった。』
ハルミが言う。
『良いのか?大幅な歴史改変になるぞ…』
クオリア機が月の上空から文字を見つつ言う。
「ああ…これが月に宇宙人がいる証拠になれば モチベが上がって宇宙開発の予算も付くだろう…。
月基地の建設と月からの推進剤の輸送は宇宙開発で必須だからな…。」
『となるとケネディ大統領の暗殺を防がないといけないし、ロケットの開発分の予算が ベトナム戦争に行かなくなるな…。
戦争の長期化や死ななくても良い人が死ぬぞ』
「分かってる…帳尻は その時になったら合わせるよ。
それじゃあ行こうか…トニー王国に…」
『了解した』『ああ』『そうだな』
皆はそう答え、ファントム達は地球にある これからオレ達が建国するであろうトニー王国に向けて移動を始めた。
※ヒトのキョウカイ01で過去に戻った世界の話。
12巻26話を参照