29 (命令違反をする愛国者達)〇
エアトラの後部ハッチが開き、兵士がDLの固定を外す。
「5…4…3…2…1…GO!」
高度12m前後でエアトラが斜めに傾いて急上昇。
ナオ達が乗っているDLが 後部ハッチから滑り落ち 地面に落下する。
落下した オレ達の2機のDLは、DLの身体を丸めて地面からの衝撃を受け流し、後転を繰り返しながら着地…。
すぐに ライフルを構えて現場の安全を確保する。
上空を見ると、次々とエアトラが2機ずつ DLを落とし、より簡単で安全な 背中から綺麗に地面に落る方法を取り、確実に受け身と取って衝撃を分散させる。
機体が受けた衝撃が 装甲に挟まれた耐弾ジェルのお陰で 熱に変換され、熱せられた機体の装甲の周りには 僅かな陽炎が見える。
『全機、着地…ダメージ0』
「よし、上出来…行こうか」
『はい!!』
6機のDL部隊の兵士達が オレに行い、救出部隊の回収に向かうのだった。
「上空から見た限りだと この辺りだよな。」
ナオ達 DL部隊は 森を歩いて抜けて行く…視界が悪いな…。
路面は 木なんかを取り除いて地面を固めただけの物で、舗装はされておらずギリギリ車が2台通れる位のサイズだ…DLだと多少 狭い。
地面は積もっていた雪が融け出し、泥濘になっている。
DLの足で地面を踏みつける度に、地面が重さで圧縮されて中の水分が外に飛び散る。
『本当に こんな所にいるんすかね…』
「気を抜くなよ…」
『了解…なっ』
複数個の手榴弾がDLの足元に投げられ 爆発…。
衝撃と破片で脚に命中し、バランスを崩して転倒する。
「あ~いわん こっちゃない…」
とはいえ、こちらの先手を取るなんて かなりの手練れだ。
すぐに味方機の損傷具合が算出されて、仲間に共有される。
足に被弾した物のダメージは 許容範囲…まだ十分動ける。
「それより」
味方の被弾した事で 被弾部分から撃たれた場所を瞬時に割り出して味方機に自動送信する。
通常なら1発撃たれたら、即座に別の機体からカウンター射撃を喰らってバラバラになる訳だが、今回は手榴弾なので正確な位置は分からない。
だが、投げられた位置は特定出来た。
「2機編成を崩すな…1人こい…。」
『了解』
オレ達2人は盾を構えつつ、走って 森の中に入って行く。
「見つけた…可能な限り攻撃は するな…」
こちらが6人の兵士の上から盾を構えながら銃を突きつける。
やっぱり…手榴弾がマークII手榴弾だったからフランスを含んだ連合国軍だとは思っていたが…。
こちらに スプリングフィールド小銃を震えながら向けている男らの顔の色は皆 墨を塗ったかのように黒い…アフリカ系の黒人だ。
連合国軍で部隊に黒人がいる国は1つしかない…アメリカ軍の部隊だな。
『大人しくしろ!!。
その銃を1発でも撃ってみろ その瞬間 オマエの人生が終わる。
後少しで終戦だ…オマエも国に帰りたいだろう。』
オレはスピーカーを使って英語で話す。
『っ……』
男達はこちらには発砲せず 森の方に逃げた。
『止まれ!』
すぐに味方機が銃を向ける。
「良いんだよ。
撃ったら撃ち返す…だから 撃たずに逃げた訳さ…。」
『ですが…こっちの情報を伝えられたら…』
「隠密時ならともかく、今の状態じゃバレバレだよ。
と言うか、やっぱりトニー王国人って素直だな…搦め手は使わないのか?」
『搦め手?』
「DLで死の危険に晒されれば 相手は確実に逃げるだろう…。
さて彼らは 何処に逃げる?」
『拠点?』
「そう…つまり、道案内してくれる訳…」
『誘い込みの可能性は?』
「それもあるが、オレ達は拠点に行きたい訳だからな…。
と言う訳で 適度に脅しつつ後を追うよ…」
『了解』
黒人の敵を追って行くとトーチカが見え始める。
少し高い丘に 大量の土嚢を積み上げたドーム型の家を造り、機関銃座を設置しただけの簡易的な物だ。
ただ 全方向に対応出来る様に設置されており、歩兵では 攻略が難しいだろう。
「見つけた…トーチカ6…大きなテントもある。
ここが 拠点で間違いないだろう。
よし、全機 集合だ!」
『ポイントを確認しました。
5分掛かります。』
「こちらは待機する。」
ババババ
『銃声?』
「らしいな…こっちじゃないぞ!丘の反対側だ。」
『もしかして…取り残されたドイツ軍ですか?』
「だろうな…目立つこっちに敵の注意が行った所で、反対側から攻撃を始めた訳だ。」
『私達を陽動に利用したって事ですか?』
「ああ…だが、これで目的は達成だな。
このトーチカを攻略して、やって来たドイツ兵を回収すれば 終わりだ。
こちらナオ…待機命令を中止…2機でトーチカを潰す。
合流 急いでくれ」
『了解』
「行くよ」
オレ達はDLの身体を隠す様に盾を構えて丘に走り出す。
森の中でサイズの大きいDLの回避は困難。
いくらDLの機動が良くても 避けるスペースが無い…。
それに 上手く地形を利用して 敵がトーチカの真正面を突っ切るしかない状況を作り出している…うん、良いね…ちゃんとしている。
相手の機銃から撃たれる スプリングフィールド弾は、次々と構えた盾に命中して行く。
こっちに向いている機銃の数は3…それがフルオートなので 凄い弾幕だ。
本来のこの盾なら歩兵のライフル弾 程度じゃビクともしないのだが、前の戦闘での被弾が蓄積し、盾を貫通し 威力が大幅に減った弾が コックピットブロックの装甲に当たっては 弾き飛ばされる。
「大丈夫…余裕で持つ!」
オレは味方を勇気付けながら トーチカの目の前で大きくジャンプする…。
DLは4.5mと身長は 人より大きいが、面積当たりの質量は 人を遥かに下回る。
その為、助走を付ければ 3メートル位の高さまでなら 簡単にジャンプが可能だ。
トーチカは 防御力はそれなりにあるが、設置型の機関銃は 射角を変えるのにも時間が掛かる。
ジャンプした こちらを狙う事が出来ず、5tの重さのDLが思いっきりトーチカの上に乗る。
土嚢を積み上げて出来た天井はDLの重みと衝撃に耐えられず崩れ、オレのDLは 床が抜けた様にトーチカを踏み潰した。
機関銃兵は土嚢に押しつぶされて戦闘不能…。
まだ生きているかも知れないが次のトーチカだ。
トーチカは 後ろ向きには撃てないので、丘の頂上からの攻撃では非常に弱い。
機関銃の弾幕がバラ撒かれている中、必死に進んで来ているドイツ兵が見える。
あの状態じゃあロクに進めないだろう。
オレはライフルと盾を捨てて 斧を両手で強く握り、トーチカの上に叩きつけた。
「なっ…」
鋼の刃が土嚢の砂に包み込まれ、威力が大幅に減衰…大したダメージが入らない。
「あっそっか…戦車の装甲と違って土は衝撃を吸収するんだっけ…。
結局こうなるのか…」
オレはトーチカの上に乗り、ジャンプを数回して天井を崩した。
弾幕が無くなった事でドイツ軍が突撃を開始し、こちらにやって来る。
『援護の部隊か?
助かった…よし 我が国の領土を取り返すぞ!!』
『おおっ!!』
ドイツ軍の隊長が味方を鼓舞し、オレのDLを追い越して突撃を仕掛ける。
ピピピピッ…コックピットのアラームがなる。
「いや待て…」
オレがスピーカーを使ってドイツ軍を止めようとするが、止まらない。
『無意味に 殺されてたまるか…ここは 刺し違えても守るぞ!!』
黒人部隊の隊長が銃を構えて言い、今まで各トーチカに分散配置されたいた兵士達が集まって来ている。
一食触発の状態だ。
「時計を見ろ!! 今、11時を過ぎて 停戦協定が有効になった。
これ以上戦えば 協定違反になるぞ!」
オレは盾とライフルを拾って 周り込み ドイツ兵の突撃をボロボロの盾で止める。
向こうの黒人部隊も 次々と到達している味方機が止めに掛かっている。
『処罰は覚悟の上だ。
私は 命令違反で銃殺されても これだけは やり遂げる。』
「そっか…それじゃあ、お疲れ」
ボン…。
オレは ライフルをドイツの隊長に向けて撃ち、上半身が瞬時に消え去り、バランスが取れなくなった下半身が無造作に倒れる。
オレは DLの手でボルトを引っ張り 次弾を装填する。
「さて次に 協定を破って死にたい奴は?」
隊長の統率力が無くなった上に 停戦協定も有効になり、それを無視してまで戦う戦意は 彼らには 残されていなかった。
「お利口さん…さて、アメリカ軍側も撤退してくれ…。
アンタらも死んだ方がマシなヤツなのか?」
『くっそ…あれだけ 犠牲を出して 全然 戦果を得られなかった。』
黒人部隊の隊長が言う。
「そもそも何で ここに固執している?
ここは そこまで重要な所じゃないだろうに…。」
『私達は 本国の黒人の為に戦っている…。
この最終戦争で 黒人も白人と同様に戦場で活躍 出来る事を証明しなければ ならなかった。
タダでさえ戦力外 扱いされているのに…これからは もう戦って証明する事も出来なくなる。』
「最終戦争ね…。
まぁこれで第一次世界大戦は終わりだが、また殺し合う機会はあるさ…アンタらのトップは馬鹿だからな…さあ 撤退してくれ…」
『分かったよ…ここで アンタと殺し合いをするつもりはない。
撤退作業を始めろ…もう戦争は終わりだ。
本国に帰るぞ』
『……はい』
黒人部隊はゾロゾロと撤退準備に掛かった。
「さてと…じゃあ、こちらも撤収しよう…。
コイツに乗ってくれ」
『コイツ?』
ドイツ兵士がそう言うと突風が吹き荒れ、丘の上にエアトラが垂直着陸する。
「乗ってくれ…安全な場所まで送ってくれる。」
『分かった。』
兵士達は次々とエアトラに乗り込み、飛び上がって行った。
「さてと…オレらも帰るぞ」
遅れて やって来たエアトラに オレ達のDLを積み込み、この後 オレは 捕虜に戻ってドイツに帰国だ。
取りあえず、爪痕は盛大に残しつつも オレ達の戦争は とりあえず終わったのだった。




