19 (フェノール樹脂)〇
工作室。
「よし、次はフェノール樹脂の為の木酢液だな…。」
ナオの作業場で 今まで溜めていた木炭や竹炭から発生したガスを回収して常温冷却して液体にした物…。
木酢液と竹酢液の混合物が入ったガラス容器を持って来てクオリアに言う。
テーブルの上には理科の実験に必要そうなガラス容器があり、それを持ってクオリアと外に向かう。
向かう先は 川の近くにクオリアが造った炉だ。
「厳密には それは まだ木酢液では無いのだが…」
「また ここに入れるのか…。」
炉の3段目は空気を抜いて熱する事で木炭や竹炭を作る場所で、そこから出る気体を回収して自然冷却したのが木酢液になる…。
今回使う炉も同じ場所だ。
「そう、蒸留もここで出来る。
まずは この液体を3回程 蒸留する。」
クオリアが言った通りに1回蒸留してみると 蒸留前のガラス容器に黒いドロドロとした物が残る。
「それが木タールだな…。
炭素繊維に使う重要素材だ。」
残った木タールを回収して蒸留後のガラス容器をもう一度入れて蒸留をする。
そうするとまた、黒い木タールが残った。
3回目の蒸留でガラス容器に木タールが殆ど残らなくなる。
「で、この蒸留された液体がメタノール、メチルアルコールとも呼ばれている…。」
「あ~目散るアルコールね…飲むと失明するって言う。」
「そう」
工業用アルコールの一種で 酔っぱらう事も出来るが毒性が強く、失明や死ぬことも普通にある飲料としては向かないアルコールだ。
だが、酒が手に入り難い戦時前、戦後の日本で 当時の酒税法の対象外だった事もあって安価に入手出来た事から 酒飲み達が 代用アルコールとしての密造酒が流通し、大量の犠牲者が出た事で有名だ。
「で、このメタノールを更に蒸留して不純物を除いたのが木酢液だな…。
だが、必要なのは その不純物の方だ。」
クオリアが薄い銅の板を熱してながら 最後の蒸留を始める。
蒸留されて出て来た気体に熱した銅板を接触させ、液体になってガラス容器に落ちて行く。
「メタノールの水蒸気を空気中で酸化させ、銅板と反応させる事で出来る液がホルムアルデヒド…酸化メチレンだな…。
これに木タールと水酸化ナトリウム水溶液を混ぜるとフェノール樹脂の完成だ。
ちなみに木タールと酸化メチレンは 発がん性物質だ。
この程度じゃ問題無いレベルだが、皮膚に直接触れないように防護服を作る必要がある。」
クオリアが ガラスの容器の中で固まってるフェノール樹脂をオレに見せて言う。
「何かイメージと違うな…。」
「それは、砂状じゃないからでは無いか?
実際に使う際には これ砂状にして型に入れて 熱を加える事で成型出来る。」
「あ~ペレットじゃないからか…。」
「そう」
「で、これは何に使うんだ?
集積回路か?」
「いや…集積回路にはフェノール樹脂を使わない。
繊維強化プラスチックに必要な材料だ。
ガラス繊維をフェノール樹脂で固めて強化する。」
「ガラス繊維強化プラスチックね…。」
絶縁体で断熱性が高く耐腐耐性があり、軽量のガラス繊維をプラスチックで強化する事により、素材の特性を そのままに柔軟性と強度を上げる事が出来る。
今後の装甲素材に必須の材料だ。
「そうだ…これで 後 電気が使えるようになれば 大抵の物は造れる。」
「それも…天然の永久磁石が見つかればOKか…。
200年みっちり掛かると思っていたのに半月で終わりか…。」
「いや…素材が揃ったと言うだけで、まだ最低限の物しか作っていない。
200年使って この素材から出来る製品の質や精度を ひらすら高めて行くんだ。
それだけ奥が深い分野だからな…。」
「ここからは トライアンドエラーと根気が必要になって来ると言う事か…。」
「そう それじゃあ 私達はフェノール樹脂の作り方を教えつつ、量産しよう…木酢液を片付けて行かないと 倉庫が ガラス瓶だらけになる。」
「ああ…分かった。」
化学的理屈は面倒だが、詰まる所、木炭、竹炭を作る時に出るガスを集めて、蒸留を繰り返して 熱した銅と酸素にさらし、水酸化ナトリウム水溶液と木タールと混ぜるだけだ。
そう思い、オレとクオリアは オレ達が作る物に興味が有ったり、暇をしている人を集めてフェノール樹脂を作り始めた。