表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/339

19 (日本人は米無しじゃ生きられない)〇

 トニー王国 外交島…食堂。

 日本の外交官()は ステンレスのMY箸を使って食事をしながら思う。

 人である以上 絶対に腹が減る為、国によって様々な食文化がある。

 私はドイツ人の座るテーブル席を見る。

 例えばドイツ…。

 寒冷地であるドイツは、寒い冬に備え保存の効く食品が好まれ、寒冷な地域でも育ちやすいジャガイモ を主食に、豚肉を燻製(くんせい)にして加工したソーセージやハム、乳製品のチーズ。

 更にキャベツを発酵して作って酢漬けにしたザワークラウトを食べ、酸っぱい物を好む人が多い。

 次に エゲレス人の席も見るが、内容はドイツと一緒で、取れる作物の種類が あまり多くない為、食に関心の無い地域だ。

 で、アメリカ人。

 エゲレス、ドイツ人などの人達の移民で出来たアメリカでは、多種多用の料理が生まれるが、最終的には ここも揚げ物とハンバーガーに落ち付いている。

 食に関してだと、フランスに学ぶ所が多い。

 農業大国として知られているフランスでは、各地域の特産品を使用した郷土料理に誇りを持つ人も多い。

 その為、味に対しての こだわりが強く、一切の妥協が無い…。

 ただ、高級料理と家庭料理の味格差がヒドく、貧困層は やっぱりジャガイモを主食の貧相な食生活を送っている。

 なら、庶民向けの料理が美味い所は何処(どこ)か?

 自国のひいきになりそうだが、やっぱり 我が祖国の日本だ。

 前線基地には 本国からの補給の軽減の目的もあり、現地の食材を使った魔改造料理が多く登場し、それが出来る料理人も現地に送られる。

 前線基地には、製氷機、豆腐製造機、炭酸飲料の製造機、小麦粉を作る為の製粉機…製麺機、パン焼き機、それから給水車に電気炊飯器を搭載した車両があり、兵士は常に暖かい食事が取れる。

 更に最前線には 鍋と炊飯器を搭載した調理車を持って 部隊を移動させ、現場で調理する事で 毎食 白米や味噌が食べられ、兵の士気も上がる様になっている。

 兵士の食事のクオリティでは、世界のどの国にも負けないだろう。

 ただ この問題の欠点と言えば、缶詰と言った場合、日本では 軍用 乾パンかコーンビーフ位しか無く、しかもコーンビーフ缶は、日本の生産力の問題でアメリカに外注している状態だ。

 その為、軍用レーションのクオリティについては 世界に比べて 全然 発展して無い。

 私は トニー王国の郷土料理…ミドリムシの(かゆ)である ポレンタを食べながら思う。

 トニー王国の食品加工技術は 非常に上手い。

 ここの食堂の食事は 全部ミドリムシを加工した物で出来ているらしく、どれも それなりに美味いし、各国の外交官が集まるこの島で、各国の郷土料理も いくらか取り入れ、多少の違和感があるらしいが再現に成功している。

 だが、日本食は無い…日本とは 最近交流が始まったばかり だからだ。

「あ~玄米が食いてぇ…」

 ここに来てから半年…日常の生活自体に 不満はなく 快適だが、米が無い。

 今までは ソフト麺と呼ばれている 麺料理に使われる万能麺とスープの味を変えて 凌いでいたが、そろそろ限界だ。

 そうだ 食文化の技術交流を進めよう…。

 トニー王国からは保存技術を…こちらからは 日本食を提供させよう…。

 私は本国が中国との戦争に突入しようと言う中、食文化の交流の案を本国に送るのだった。


「ほう…食文化交流ですか…」

 企画書を見ながらバート()が言う。

「ええ…トニー王国の料理 再現能力は非常に優秀です。

 トニー王国 国民の食生活の多様性を確保する意味でも食文化の交流が必要だと感じます」

「なるほど…確かに私達は 料理をオリジナルで生み出す能力が低いです。

 全部 外国の料理の再現ですからね…それで、対価は?」

「我々の国は 前線に調理車を持って行くので、缶詰などの保存食の技術が劣っています。」

「なるほど…袋詰めですね。

 とは言っても 包装をビンや缶からガラス繊維にしているだけで、基本は代わりませんよ。」

 トニー王国だと 大半の食べ物が ガラス繊維の袋に フリーズドライ加工をし、空気を抜いて真空包装されて保管されている…この為、まず腐る事がない。

「ええ構いません 製造工程の方が重要ですから…それで何が欲しいのですか?」

「そうですね。

 食材は勿論の事…和食の料理人…。

 出来れば、軍で食事を作っている人に来て貰いたいです。

 この機会に各国にも 呼び掛けて見ますか…。

 まぁ向こうは戦時中なので、余裕があるかは 分りませんが…。」

「トニー王国も戦時ですよね。」

「まぁ人道支援と言う事にはなっていますが 確かに戦時ですね。

 でも、現場は信頼の出来る人物に任せていますし、こちらは死者が出ていないので、補給を行うだけで ラクですから…。」

 私はそう言い、棚から資料を取り出して それを見る。

「あ~やっぱり…。

 米の製造は 一度失敗していますね。」

何故(なぜ)です?」

「粉物は割と簡単なんですが、米粒1つ1つの形を維持するのが難しいのです。

 最終的に米は出来たのですが、通常の100倍のコストがかかって いましてね…。

 味はともかく 食感が不評で、値段が高く、不味いから誰も買いませんでした。」

「100倍もですか…」

「ただ、こちらの技術力も上がっていますし、本場の監修があれば 行けるかもしれません。

 こちらとしても食品加工技術が 更に上がれば良いと思っています。」

「分かりました。

 我が国と交渉しましょう。

 まぁ無線を中継して貰わないといけないので、時間が掛かるでしょうが…」

 日本の外交官はそう言い、その後は 数日に渡り、日本政府と詳しい話を詰めるのであった。


 1ヵ月後…。

 潜水艦でやってきたのは、大日本帝国陸軍の調理レシピ本『軍隊調理法』全400ページを完全習得した軍人…タムラ料理長だ。

 タムラ料理長は、日本から貿易船でアメリカに行き、そこからアメリカからブリテンに向かう定期便を使い、トニー王国の付近で貿易品と共に潜水艦に降ろして貰い、潜水艦内で防疫の為に全身を検査され、最後にワクチンを注射される。

 ここは 日本から一番遠い場所で 孤島の為、1ヵ月位は普通に掛かってしまう。

「ふう…やっと付いた。」

 タムラ料理長は 潜水艦のハッチを空けて太陽の光を浴びながら言う。

「ようこそトニー王国へ…。」

 バート()は、港で彼に向かって頭を下げる。

「ワタシは 大日本帝国陸軍の料理長…タムラ中尉です。」

 タムラ料理長が敬礼をしながら言う。

 鍛えてはいるが 少し小太りの体型で、軍人とは思えない 親しみやすいそうな雰囲気を感じる。

「私が外交島の都市長のバートです。

 主に この島の管理と外国との交渉を担当してます。」

「聞いております…あなたが この国の実質の王であると」

「まぁ間違ってはいませんが…では、お部屋を用意しています。

 まずは 旅の疲れを落として下さい。

 それとこちらは 10万トニーとなります。」

 私がタムラ料理長に紙幣を渡す。

「ありがとうございます。」

「この島では10万トニーで 低所得者が1ヵ月生活出来るだけの生活が出来ます。

 毎月10万トニーは こちら持ちで、それ以上は日本への貸しになり、貿易品で回収する事になります。」

「ええ、分っています。

 それでは、それでは まずは食堂に行ってみます」

「え?お部屋は?」

「地図を貰っていますので場所は 大丈夫です…食堂の上ですよね。

 それに ここの料理を試して見ない事には 始まりませんから…。」

 そう言うとタムラ料理長は、食糧満載のリュックを背負い、迷わずこの島の食堂へと向かった。

「タムラ料理長は如何(どう)です?」

 私は彼を迎えに行き、検査をした医者の女性に聞く。

「彼は まだ日本では珍しい洋食店の一流コックだったらしいのですが、店が火事で焼けて軍に入隊したみたいです。

 日本軍の調理レシピ本『軍隊調理法』の作者で、移動中の大半の時間は キッチンで こちらの料理を解析をしていました」

「なるほど…一番良い人材を送ってくれた訳ですか…分かりました。

 あなたは引き続き無線の中継任務に戻ってください。

 後1ヵ月で交代要員を送ります。」

「了解しました。」

 彼女はそう言うと、また潜水艦に戻り ゆっくりと港を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ