18 (航空機の始まり)〇
1915年。
第二次世界大戦の原因は何だろう。
塹壕内でナオは考える。
まずは思いつくのが 敗戦国ドイツへの賠償金だ。
これは 国民総生産20年分の金額となり、いくら戦争賠償金の目的が『国力を削ぐこと』とは言っても、これは削ぎ過ぎで、遠まわしに『国を消滅させろ』と言っているに等しい。
こんな金額を飲まされて国が消滅を待つだけの生活なら、そりゃあ もう一度 戦争も起こすだろう。
なら、この賠償金額に なった理由はなんだろう…。
それは 戦争が世界大戦まで発展して戦費が かさみまくったからだ。
大量の戦死者に、大量の兵器などの物資を失い、生産拠点を失い、それの元を取り替えそうとするから こんなイカれた金額になる…開戦から1年で止めていれば、かなり傷が浅かったと言うのにだ。
なら、このイカれた金額にした兵器とは何か?…それは 間違いなく航空機だ。
ライト兄弟が世界で初めて動力飛行機を飛ばしたのが1903年。
ライト兄弟は アメリカ軍に売り込みをしたが、非常に苦労したらしい。
アメリカが試験で導入した飛行機が2機。
意外な事に これがアメリカ軍の航空戦力のすべてだ。
他の国も2~3機程 保有していて、今、世界で一番多い所だと同盟軍と戦争しているオレ達の敵であるフランスで、30機だったか…。
まだ誕生してから12年しか経っていない事もあるんだろうが、世界の航空機の数は少ない。
これが後4年で 生産台数が、フランスが7万機、ドイツが 少し出遅れた事もあり4万8千機、イギリスは5万5千機、イタリアは2万機となる。
なら、なぜ こんなに航空機が普及したのか?
それは、偵察の他に空から爆弾を落とす使い方を見つけたからだ。
確かに何もいない上空から一方的に爆弾を地上に落とせれば非常に有効だろう。
これにより、爆弾投下専用の爆撃機が生まれ、その爆撃機を撃墜する為の戦闘機、その戦闘機に対抗する為の戦闘機が必要になって来て、航空機の需要が一気に拡大して行った訳だ。
で、そんな戦争の需要で 急ピッチで生産された訳だが、まだ動力付きの航空機が生まれてから12年位した経っていない…つまり 飛行機を教えられる教官が いない。
この時代、新米パイロットに操縦を教える教官は、1週間程 飛んだ新米パイロットで、先週習った人が今週教える状況だ。
しかも パイロットの平均余命は6日位だったらしく、世界中の どの保険会社も拒否したレベルだった。
結果…この戦争で パイロットが4万人 死に、飛行機学校で 1万5千人が死ぬ事になる。
で、この金は何処から捻出した?
それは アメリカのモルガン商会からだ。
これにより 各国はアメリカに返せない程の借金を行い、ドイツは当然 賠償金を踏み倒し、各国は借金の返済の為に更なる借金をして戦争を起こす。
これが、第二次世界大戦の主な理由だ。
結局、これも貨幣感を間違えているから起きる戦争だ。
今日も塹壕では空から爆撃を受けている。
爆弾と言っても手持ち式の手榴弾を空から落とす形なので、まだ良心的だが、これでドイツはパリに対して爆撃機による直接攻撃が出来る様になった。
今は試験の為、1日に1発パリに爆弾を落としているとか…。
で、意外も意外…民間人を巻き込む やり方にアメリカはご立腹だそうだ。
今のアメリカは 民間人を盾にドイツから攻撃を受けない客船に武器弾薬を積み込んで、イギリスに売りさばいているのだが、民間人を殺すのはダメでも民間人を盾にするのは 良い見たいだ…全く都合の良い事…。
相手の塹壕に侵入するには、今までは砲撃をしつつ全員で突撃する戦術を使っていた。
だが、ここで防御側が圧倒的に有利になる兵器が開発される…鉄条網だ。
鉄のトゲが付いた網で、接触すれば人は血だらけになる。
これを塹壕前に設置する事で、敵の足を止め、その間に機関銃による掃射で相手を全滅させる。
鉄条網は 鉄線の為、ピンポイントに弾丸を命中させるのが非常に困難であり、榴弾の爆風も通り抜けてしまうので、砲爆撃や機関銃などの集中射撃だけでは 排除するのは難しい。
つまり、相手を塹壕に近寄らせないバリケードになり、なおかつ こちらの攻撃を通してくれる優れものだ。
ただ、それはこちらにも同じ事が言えて 相手の陣地に近寄れない為、突撃が非常に困難になっている。
これにより、両軍は 諦めたり、攻略方法を考えたりするのでは無く、学習能力が無く 無意味な突撃をさせて犠牲者が増えさせ、補充しては使い潰す膠着状態になり、戦闘の主流は塹壕戦では無く、爆撃機による攻撃に変わりつつある。
鉄条網を攻略する為に板を持った敵兵士が突入を仕掛けて来る…。
が、塹壕間の距離 200mを走り切る前に板が機関銃でボロボロになり、敵兵達は死ぬ。
パーン…オレはライフルで敵兵の鼻を撃ち抜く。
今回は敵兵の数が少なかったな…品切れか?
「上手いな」
「そりゃあ、ここでは 最古参ですから…」
オレは名前を覚える気になれない兵士にそう言い、赤十字の腕章を付けて負傷者の回収に出た。
ここが また地獄になるのは もう少し先になるだろうな…。