17 (不意打ち攻撃)〇
翌日25日…朝。
「おらっ…そっち行ったぞ…」
「任せろ…よっと…ほら…行け!」
白い雪が薄く積もった西部戦線では 朝から両軍によるサッカーが始まり、他だとレーションなどの交換会が開かれている。
これに対してトニー王国は、両軍の真ん中で即席の大型キッチンを造り、ミドリムシ料理を振る舞った。
ここでは ミドリムシの事をグリーンコーンと呼んでいて、結構 好評だ。
両軍共に毎日同じ食事だった為、味が違う新しい食事は魅力的に写ったのだろう。
で、今は トニー王国軍の隊長は、指揮官に保存性が高いミドリムシの売り込みをしているみたいだ。
「はぁ負傷者が出ないって良いな」
普段なら頭を撃ち抜かれるはずの塹壕の外に出て、朝日を浴びながらナオが言う。
この状況で負傷者が出る事もまず無く、オレ達 衛生兵も開店休業状態で、それぞれの休暇を楽しんでいる。
「敵だぞ…戦時中に このような事をするべきでは無い。」
塹壕下でアディがオレを見上げて言う。
伝令をやっている アディは、この休戦が 次の大規模戦闘を行う為の準備期間だと言う事を良く知っている。
「良いじゃないか楽しそうだし…。」
「9日後には、また殺し合うのにか?」
「そう…例え 殺し合うとしてもね。
サッカーで戦争してくれれば、世界が平和で済むんだけど…。
それで医薬品の補給は?」
「私は ちゃんと電信をした…補給が来るかは 向こう次第だが…。」
「上手く連絡が取れていないんだよな。」
「そう…上に報告する時には 気を使うから…。」
「アディは気を使っているのか?」
「そうだな…色々やっているが あまり成果は無い。
勝つ為にも 出来るだけ、現場の消耗は 押さえたいんだがな。」
「そっか…また仕事が増えそうだな。」
もう負傷者が増える事について諦めているオレが言う。
「なぁこの戦い…本当に勝てると思うか?」
「一応、個人技能では こっちが上…数では断然 向こう。
だから その内すり潰されるだろうな。
今の内に講和して次の勝てる戦争に備えた方が良いんだが…無理だろうな~」
既に多くの戦死者を出していて、更に遺族年金も支払わないと行けなくなる。
だから最低限 遺族年金分位は 取り戻したいと言った所だろう。
「また臆病者とか言われそうだな。」
「臆病者と呼ばれても生き残った方がエライ…。
おっ…アトラスが戻って来た。
塹壕の工事も休戦なのか…」
オレが黄色に塗装された土木工事用のDLを見て言う。
オレ達のDLは こっちだとアトラスと呼ばれている。
確かギリシャ神話に登場する 天を支えている巨人の名前だったか…。
両軍の工事部隊も集まり、1人のパイロットが降りて来て周りからの注目が集まる。
「尻尾!?
アイツ人間なのか?」
アディが言う。
上部に耳の形に膨らんだヘルメットを外すと、身長が150cm程度で、中学生位の活発そうな 褐色肌の女の子が見える。
彼女の頭の上には獣の耳があり、尻の上には ふさふさの尻尾が付いている。
オレも そうだが、周りの人間がデカい為、更に小さく見える。
「獣人族だな…トニー王国の固有種らしい。
トニー王国を建国したのは 月からやって来た宇宙人って事らしいから、その子孫に なるんだろうな~」
「宇宙人と人のミックスか…。
それにしても ナオは 良くトニー王国の歴史を知っているな。
つい最近 国と認められた国だろう。」
「トニー王国の救護班に直接 話を聞いたんだよ。
あんな超技術を持っている相手を理解する為に…。」
まぁこれは嘘で、実際には オレがトニー王国で神の役職に付いているから なんだけど…。
「それにしても 黒人か…情報では知っていたが、本当に黒いんだな。」
フランス、イギリス、ドイツ共に 黒人兵士は おらず、ほぼ全員が白人。
トニー王国は、白、黒、黄と様々だが、普段はヘルメットを被っているので、顔色が見にくい。
「まぁ…あの位の色なら アジアでもいるかな…。
流石に獣人は いないんだろうけど…。
とは言え、この子大丈夫かな…悪魔付きとか言われて 火炙りにされたり しないかな。」
オレは心配そうに獣人の女の子を見る。
「いつの時代の話だよ。
流石に もう そんな事はやってないだろう…多分な」
あ~そこで多分が付いちゃうんだ。
しばらく見ていると、一緒にサッカーを始めて良いプレイをし始めた。
「問題無い見たいだな。」
「見たいだね…」
オレはそうアディに返した。
その後も両軍の交流は続き、1月1日の夕方を過ぎた頃に両軍からの待機命令がでて、遊んでいた集団が解散し、塹壕内での待機に入った。
塹壕内空気は 戦闘前のピリピリとした雰囲気になり始める。
そして、1月2日午前0時…停戦が終わった。
停戦の終了と同時に照明弾が連合軍側の空へ打ち上げられ、目視観測による敵陣地への砲撃が始まる。
「うおおおおお」
補充が終わった大量の同盟軍の兵士達が一斉に敵陣地に走る。
機関銃座による掃射が始まり 片っ端から撃たれて行くが、同盟軍側からの砲撃が直撃し 敵兵士がバラバラに吹き飛び、同盟軍が肉片のシャワーを浴びつつも突入して行く。
補給したからだろう…砲撃が いつもより多い。
休戦明けで気が抜けている所での突撃なので、連合軍は対応が遅れている。
これは抜けるだろうな…。
敵の塹壕に入った同盟軍兵達は、銃剣で相手を刺し、手持ちシャベルで相手の喉元に突き刺す。
しばらくして発砲音が鳴り止んだ。
「よし勝ったな」
相手の塹壕の制圧の報告が上がり、オレ達は ゆっくりと占領した塹壕に入る。
この塹壕は、前に占領されてオレ達が後退した物だ。
新しい救護班の地下室で 負傷兵の治療を行いつつ過ごし、日の出と同時に大量の死体回収が始まった。
「あちぁあ…サッカーが上手かった人だ。
やっぱり死んじまったか…。」
よっと…。
身体の体格に見合わない程大きい成人男性のバランスを取らなくなって重くなった死体を担いで、オレは 死体置き場へと向かった。