14 (医療支援)〇
12月1日。
モナコの隣でイタリア領土のジェノバに潜水艦艦隊が到着。
ドイツとフランスの塹壕戦や、それに伴う 国境問題に悩まされていたイタリア政府は、戦争終了まで ジェノバにトニー王国軍が駐留する事を許した。
「なんだこりゃ…」
潜水艦から次々と巨人や車が降りて来る。
巨人は 巨人サイズの銃をベルトで肩から吊り下げていて、背中には白地に赤十字マークが描かれたマントを背負っている。
「ご迷惑お掛けします。」
「いや…報告は受けていたが、これは凄いな…。」
なるほど…戦車とは違い塹壕を足で跨いで通る気か…。
巨人が折り畳まれていたコンテナを組み立て、コンテナを3階建てに重ねて、人が移動する為の足場を組み立てて行き、1時間も経たずに前線基地の完成する…普通なら早くても1週間は掛るだろう…。
前線基地を組み終わった巨人たちは次々と西部戦線に向かって行く。
驚いた事に彼らは、走り易い様に山を迂回して作られた舗装された道を使っておらず、山岳地帯を2本の足で歩いて行く。
確かに直線距離で突っ切った方が早いのだろうが、あの悪路を機械の足で突っ切るとは…。
本当に何もかもが規格外だ。
200mの間隔を開けた同盟軍、連合軍の2本の塹壕に、それぞれ6機のマントを羽織ったDLが到着する。
「驚かして済まない…指揮官はいるか?」
同盟軍側の塹壕で、頭に一本のツノを生やした隊長機がスピーカーを使って女性と思われる高い声で言う。
4.5mのアトラスが羽織る赤十字マークのマントは、良く目立ち、これなら見えなかったと言う方便で敵を撃ち殺す事も出来ないだろう…。
程無くして その光景を見ていた指揮官がやって来る。
「聞いてはいたが、これは凄いな…。
降りてくる事は?」
「出来ます。」
アトラスが地面に座り、手を後ろに付いて身体を支え 背中が後ろに下がり、パイロットが降りて来る。
「トニー王国、海外派遣部隊 隊長、ハルミ・サカタ中尉です。」
「女か…兵士に言い聞かせないとだな。
話は聞いている…事前の契約通りに 救護班と土木班に分かれてくれ。
その巨人で塹壕を掘るのか?」
「ええ…まぁ私は、救護と その護衛に回るのですが…。
捕虜を回収する部隊や 塹壕を掘る部隊は少し 遅れています…後少しで到着するかと…。
さて…救護班の場所に案内して下さい。」
救護班 地下室。
ハルミが塹壕に入り、コンクリートの壁でしっかりと覆われた地下室降りると、そこには 大量の負傷兵が寝かせれており、少数の衛生兵達が必死で治療を行っている。
衛生兵の数が少ない…赤十字マークの腕章をしているのに殺されたのか?
負傷兵は生ものだ…時間が経てば経つほど生存率が下がって行く。
「アンタら傭兵の衛生兵だな…助かった…。」
そう言い出た来たのは背が低くまだ少年と思える衛生兵だ。
まぁ…4年ぶりって所か?
「ナオ・カンザキ伍長…いや今は昇進して軍曹だ。
ここを任されている。」
「軍曹?…こちらの尉官は?」
周りに人がいるので、私は初対面の様に振る舞う。
「いや、いないよ…。
ここに来た時には少尉がいたんだが、オレより階級が高いヤツは皆 死んじまったし…で、現場を指揮出来そうな オレの階級を上げて、オレが 救護班の指揮しているって訳だ。
歓迎するよ…と言うか現場を任せたい位さ…」
「早速ですが、医薬品のストックは?」
「あ~こっち…これが 一応 つけさせているリスト。
ただ少量の誤差は出ている…横流ししている暇なんて無いし、記入ミスだと思いたいんだが…。」
「う~ん 備蓄が少ないですね…」
私はリストを見ながら言う。
「これでも結構 節約している方なんだけど…。」
「医薬品は節約する物じゃありませんから…。
こちらで手配します…いくらか負担の軽減には なるでしょう。」
「助かる」
「さて…皆さんお仕事です。
給料分は 頑張りましょう…」
私がそう言うと、衛生兵達は負傷兵の治療に掛かった。
「良かった これで希望が持てる。」
「希望…ですか?」
「ああ、オレも含めて 皆やる気が無くて 必要以上に治療をしないから…これで いくらかマシになるかな…。」
「こちらは出来高制ですから 助ければ 助けるだけ儲けられますしね。」
「え?って事はオレらは、固定給でコキ使われているって事か?
まぁオレは昇進があったから、いくらか給料が上がっているだろうけど…。」
「まぁそこは職業軍人か傭兵の違いですかね。
私達は死んだり、負傷しても 費用はトニー王国持ちで こちらに請求 出来ませんから…。
遺族年金が出る方が特と言えば特です。
特に この戦場では…。」
「身内が死んで利益を得るって…。
嫁さんが夫の戦死を望んで、別の男と浮気をしているなんて事にならないと良いんだが…。」
「ははは…それは実体験?」
「まだな…体験したのは親父だよ。
せめて帰る場所は あって欲しいんだが…」
「私も目的も無く戦うのだけは、マズイと思っています。」
「あの~お2人共、階級が下な私が 上申させて頂くのですが『2人共働いて下さい。』」
「あ~悪い悪い…ウチのヤツらを3時間位眠らせたい、その間持つか?」
「ええ…十分に」
「それじゃあ、お~いオレらは3時間休憩だ。
今の内に寝ておけ…それと体調が悪いヤツは必ず申告しろ。
オレらの敵はフランス軍じゃなくて過労だ。
過労は対策を取れば必ず助かる…良いな。」
「はい!」
「そんじゃあ、オレも寝るわ…おやすみ」
ナオはそう言うと、地下室の隅に座った状態でリボルバーを床に置いて寝むり始めた。
ナオは戦場だと いつも座りながらの反覚醒状態で眠り、何か有った場合すぐにリボルバーを抜く。
逆を言うならナオが横になって寝れる場所は、ほぼ確実に安全な場所だ。
「さて…仕事っと…」
私達は固定給であるナオから仕事を回して貰って儲け、彼らは適度に休むのだった。




