13 (人道的支援)〇
11月…外交島。
外国との国交を開始してから、各国の外交官がトニー王国に交代でやって来ている。
海のど真ん中で、こちらが客を回収して入国しないと いけない都合上…まだまだ人数は少ないが、既に貿易も始まっており、トニー王国銀行が発行する新通貨『貿易トニー』は 既に各国の通貨との交換レートも決まっている。
国内と国外で使用通貨を分けている為、世界情勢により貿易トニーの価値が変動しても、国内通貨のトニーには影響がない。
これは地味に重要で、他国への借金の為に戦争をするなんて言うバカな事を回避 出来る。
外交島、役所 バートの執務室。
「私達トニー王国も この戦争に参加しろと?」
バートがドイツの外交官に言う。
「ええ…あなた方の国は まだ若い…。
国際的な信用を勝ち取る意味でも、我が同盟国に参加して頂きたい。」
「同盟国にですか…。
こちらにも情報が入って来ていますが、開戦時の勢いはもう無く、負け越している様ですね。」
現場のナオから既に かなりの情報を貰っている…双方に貴重な労働男性を使い潰すやり方…本当にヒドい ものだ。
「いいえ…確かに戦死者数では こちらが上ですが、重要拠点である 西部戦線は 十分に維持 出来ています。
再度のパリへの侵攻は可能です。」
「それでパリを占領して意味があるのですか?
フランスは既に政府機能をボルドーに移しています。
多大な死者を出してまで パリを占領する意味は無いのでは?」
このまま労働者を戦線に送り続けたら、戦争に勝てたとしても 国の生産力は 大幅に下がってしまうだろう。
適度な所で見切りをつけた方が、傷が少なくて済むんだけど…。
「一度 パリを墜としてしまえば、周辺の街も占領出来ますから…。
フランスの国土を4分の1程 削れるなら、十分に価値があります。」
だけど 占領した地域は、住民の反乱やフランスに再占領される危険があるので、一定の数の軍を現場に置いておかなければ ならない。
それは労働人口が減っていてる 国にとって かなりの負担になる。
しかも これが火種で、次の戦争が生まれる可能性を考えると、本当に採算が合わない。
「それで…もしも トニー王国が同盟国側に付いた場合、あなた方は 如何使いますか?」
「私達は戦線を押し上げてパリに侵攻。
トニー王国は ピスケー湾に入り、ボルドーを占領して下さい。
西と東からの両面攻撃なら もう逃げられません。」
ドイツの外交官は 地図を出して説明する。
「確かに…」
「それにボルドーを占領したと言う栄誉をトニー王国に渡す事が出来ます。
国際社会でのあなた方の立場も上がりますし、あなたの名前は 英雄として後世の歴史に残り続けるでしょう。」
それが悪名の可能性もあるんだけど…。
「まぁ良いでしょう。
検討はします…別の方の意見も聞いとかなければ なりませんし…。」
「あなたの権限で行けるのでは?」
「確かに 私は国の全権を持っていますが、民意を無視 出来る訳ではありません。
国民が武装蜂起した場合、最悪 私が殺される事になりますから…。」
一国の権限のすべて預かっている私は、同時に国民に私の命を預けている。
これにより、私の権限を使っての過度な圧政は 出来ない様になっている。
「分かりました。
良い返事を待っています。」
ドイツ外交官は こちらの慣習に合わせて 頭を下げて部屋から出て行った。
「悪い人じゃないと思うんだけど…。
次の人…お願いします。」
「はい…」
秘書にそう言うと、隣の物置から個人用のソファーが運ばれ、別室で待っていたお客がやって来る。
ブリテン、フランス、ベルギー、ロシア、アメリカ、日本の6名の外交官だ。
アメリカも日本も まだ戦争に参加していないと言うのに 水面下では 既に繋がりがある みたいだ。
「トニー王国代表のバートです。
どーぞ」
私の言葉に次々とソファーに座って行く。
代表はイギリスとフランスだ。
「連合国への加盟の件と言う事でよろしいですか?」
「はい…」
「そうですね…では、先ほどドイツの外交官との同盟国への参加を呼びかけられました。」
私はフランスの外交官に言う。
「なっ…呑んだのですか?」
「いいえ…ですが、かなりの好条件でした。
向こうの期待値は高い様です。」
実際の所、ドイツ側についても名誉位しか貰えないのだが、こう言う事で 連合側の契約金額を跳ね上げる。
「私達が それ以上の利益をトニー王国に与えれば、加盟して貰えますか?」
おっ乗ってきた。
「どうでしょう…。
う~ん…私は 駆け引きは苦手なので 正直に言いましょう…。
我々 トニー王国は、ドイツにもフランスにも恨みはありません。
そもそも戦う理由が無く、戦死者が出れば こちらの不利益になります。
ここは 中立を宣言して この戦争に介入しないのが正しい選択なのでしょうが…中立国であった ベルギーは、ドイツに巻き込まれる形で戦っていますからね…」
私はベルギーの外交官を見て言う。
「あなたの国は 国際社会に認めて貰う為の実績が欲しい はずです。」
そう…国際的な取引きをして行けば、もっと色々な事が出来る様になるだろう…私達はそれを得たい。
「ええ…なので、両陣営と同盟を結ぶ事とします。」
「え?…」
私の予想外の解答に各国の外交官が驚く。
「驚くのも変わりますが、まずは我々のプランを聞いて下さい。
現在 西部戦線では、双方 敵の治療をせず、また捕虜も その場で殺しています。
これは ジュネーブ条約、ハーグ陸戦条約に抵触、また違反する行為です。」
「戦時下に置ける やむを得ない対応だと ご理解下さい。
後方ならまだしも 最前線では 医薬品の補給が難しい為、味方の兵の命を救うには 敵の治療の優先順位を下げるしかないのです。
また捕虜に関しても、輸送に負担がかかる為、現場の判断で殺されてしまいます。
私達としても可能な限り 条約を守りたいと思っていますが、過酷な現場では そうも いかないのです。」
と慌てた様にフランスの外交官が良い訳をし、現場の指揮官の責任だと擦り付ける。
「そうです…別に条約違反で訴える つもりでは ありません。
現場の事情は知っている つもりですから…ですが、現実の問題として守らていない。
そこで 私達トニー王国が 双方の兵士の治療、捕虜の回収、管理、条約を守っているかの監視、それらの仕事を各国から委託して貰います。
もちろん…戦闘には参加しません…あくまで人道的な支援です。」
こうする事で、勝っても負けても少額の利益は確実に出せる。
戦争が激化しても戦い続けて 勝ったのに、借金まみれで国が傾く よりかはマシだろう。
「なるほど…それなら『平和な国』としている この国としても良い。
つまり傭兵として、仕事ごとに報酬を受け取る形での戦争参加になりますか?」
「ええ…傭兵なので 戦勝金は 受け取れません。
また賠償金の支払いも しません。
更に受ける仕事は こちらで決める事が出来ます。
私達は『人道支援』に関連する仕事を選び、基本的には『戦闘関連』の仕事は受けません。
この条件で良いなら、トニー王国は 連合と条約を結びますが…」
フランスの外交官が他国の外交官を見る…問題無さそうだ。
「……それで お願いします。」
「では…会議場を用意しています。
専門家を集めて、正式に条約の文章を作成しましょう。」
その後 ドイツの外交官と一緒に私達は条約を取り決め、報酬は各国の通貨で支払う事になった。
これは トニー王国が各国の通貨を使って物を購入する事により、それぞれの国に金が戻って来るからだ。
そして これはトニー王国の貿易実績となり、これで他国との商売もやり易くなる 世にも珍しい『不利益が出る人がいない条約』だ。
そして 各国から値段交渉をした仕事の依頼を受け、12月1日から西部戦線に参加するのであった。