表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/339

12 (不真面目の方が生き残る)〇

 コンクリートブロックで作られた医療用の地下室で、送られて来る負傷兵をナオ(オレ)達は ひたすら治療する。

 基本は 手足腹部などを撃たれ、細い血管が出血…それ適切な止血作業で終わる事が多い。

 ただ、太い血管をやられて出血した場合、10分を越えると失血死になってしまう確率が上がるので、苦労して運んで来たとしても既に死んでいる事が多く、ドックタグを回収して 死体を別の人に渡して完了。

 原型が残っている死体は服を脱がされ棺桶に入れられ土葬…これはキリスト教徒が多いからだ。

 血だらけの服は まとめて後方に運ばれ 洗浄されて 穴を塞ぎ、次の新兵の服にリサイクルされる。

 と言う訳で、兵士は一発の銃弾で死んで行くが、死んだ後の方が非常に手間が掛かる訳だ。

 これなら 大きな穴を掘って死体をぶち込み、火葬した方が手間が無く兵站にも優しいのだが、キリスト教徒の為、それらが出来ない。

 さて、そんな感じで人の傷を塞いでいく作業は簡単だ。

 たが、オレ達 衛生兵の本当の敵は 水虫と感染症だったりする。

 塹壕は、土の地面に穴を掘り、それを土嚢や木で補強した物だ。

 なので、一応の排水機能はあるが、雨が降れば塹壕は川となり、足場の土が水分を吸収して泥になり、足を侵食する。

 で、この不衛生極まりない地獄な戦場は、病原菌にとっては 非常に繁殖しやすい天国となる。

 な訳で、生きている兵士達もオレ達に迷惑を掛けて来る訳だ。

 水虫はともかく、感染症系は塹壕部隊の全滅にも繋がる非常に厄介な問題で、熱を出した兵士は 後方に輸送される事となっているが、輸送システムが崩れた時が心配だ。


 先週の死者数は4万人程…。

 今だと大体2週間に1回のペースで大規模作戦を行い、その度に双方に多大な死者を出している。

 死体の腐敗は感染症の原因となる為、この4万人の死体を速やかに処分しないと行けなく、今月中には 新しく2万人が補充される予定で、2万人の死者が出る予定だ。

 もう…何というか兵士達は 射殺されに来ている感じで、治す気すら失せて来る。

 幸いか…はたまた 不運なのか医療班には まだ死者は出ていない。

 この分厚いコンクリートの地下室は、他の防空壕と違い 砲撃程度じゃ破壊が出来ないからだ。


「ああ…こりゃダメだな…」

 今日もオレは 適度に手を抜いて 仕事をしつつ、新しく入荷された『人を救いたい』と思っている新人の熱心な医者達に任せ、オレは地下室の外に出て適度にサボる。

 オレは 仕事が増えてオーバーワーク状態になると、自分の寝る時間を確保する為に負傷兵を意図的に手を抜いて殺し、早く負傷者 全員をさばき切ろうと考え始める。

 なんでコイツらはオレの睡眠時間を削るんだ?

 コイツが死ねば、オレはゆっくりと寝れるのに…。

 こう考え始めたら、どんどんと死者が増えて行く…。

 と言うか、こんだけ死んでいると『兵士を助ける』と言う熱意も無くなり、こちらの労力を惜しんで過度に助ける事を嫌う。

 医療班は60人もいないはずだが、毎週平均1万人の患者を診ている。

 兵士の名前は覚えるだけ無駄だし…何か言う時は 階級で呼ぶ。

 本当に 軍は こんだけの自殺志願者(兵士)をどっから集めて来るんだか…。

「さてと…」

 オレは 塹壕の壁にへばりついて医療班の防衛をしてくれている兵士を押しのけ、棒を取り付けた鏡を塹壕の上に出し、敵陣地の状況を確認する。

「あらら…これは マズイかな…」

 隣の兵士達がこちらを向く。

 大砲の数が増えて来ている…近日中に大規模な砲撃が始まるな…。

「そろそろ200m後退かな」

 この後ろには まだ味方陣地の塹壕がある…。

 ここが取られる場合、オレ達は 後ろの塹壕に移り、兵士達は この塹壕の奪還作戦をする事になる。

 そうなれば、またオレの手間が増える。

 そろそろ脱出計画を立てた方が良いかな…。

 オレは そう思い、荷物をまとめるのであった。


 翌日…夜。

 敵の陣地から照明弾が打ち上げられて天に上り、その光を頼りにライフルによる射撃と砲撃が始まった。

 すぐに味方の兵士は攻撃を止め、それぞれの防空壕に退避…。

 上空からは無数の砲弾の雨が降り注ぎ、塹壕内にダメージを与えて行く。

 急増で作った木製の柱の防空壕がいくつか潰され、中の兵士は数トンの土に生き埋めになり 死亡…。

 こっちはコンクリート製なので崩壊まではしないだろうが…地震の様な振動が一定間隔で続いている。

「60秒砲撃、60秒休憩…か…。

 これはマズいな…」

 オレは腕時計を見つつ 地下室の入り口近くの壁に背を向ける。

「おい…何処(どこ)に行く気だ?」

「次の60秒砲撃の後にオレは外に出ます…敵の陣地を確認したい。」

「やめろ…危険だ。」

「分かっている…が、このままだと すり潰される」

如何(どう)言う事だ?」

「60秒間隔での砲撃…つまり砲撃でオレ達を地下室に退避させて こっちからの攻撃を防ぎ、砲撃が止んだら その隙に歩兵を突入させる。

 移動弾幕射撃…もし オレが塹壕を出て敵兵を確認した場合、確実に塹壕内での戦闘になります。」

「な…」

「10秒で行って、30秒観測して、10秒で戻ります。

 それじゃあ」

 オレは地下室を飛び出す。

「おい、待て」

 上官はオレを止めるが、砲撃が怖くて追って来れない。

「よっと…」

 塹壕の壁に背を向けて鏡だけを上に出して状況を確認する。

 塹壕を横一列に並んだ兵士がライフルを構えながら こちらに向かって歩いている。

 今まで見たいな全力疾走な突撃戦術じゃない…こちらの機関銃の弾幕が無いからだな。

「あたり…」

 30秒も要らなかった。


「戻りました。

 やっぱり敵が来ます…白兵戦に備えて下さい。

 負傷者は脱出の準備…」

「分かった…次の砲撃が終わったら出るぞ」

「了解」

 オレは赤十字の腕章が付いた血だらけの白衣を脱ぎ捨て、軍服姿になり ホルスターから ウージーマシンピストルを抜く。

 塹壕戦だし、ライフルはいらないな…。

何故(なぜ) 白衣を?」

「赤十字マークを背負っているヤツが殺しをやったらマズイだろう…。

 まぁ…こっちも向こうも 負傷者を助ける余裕なんて無いんだろうけど…。

 初弾装填よーし…退路を確保するよ」

 カチャっとコッキングレバーを引いて初弾を装填する…セーフティはまだ…鉄のヘルメットをしっかりと被り、アゴ紐もしっかりと締める。

 砲撃が止んだ。

「よし行け!」

「待て!!」

 上官達が塹壕内に戻る中、オレはそう言い、慌てて 出入り口の隣のコンクリートの壁に背を向ける。

 オレが空中に見た物は丸い何か…多分アレは…。

 次の瞬間…塹壕内で無数の爆発音が響いた。

「くそっあっぶね…マークII手榴弾(パイナップル)か…」

 フランス製のマークIかマークIIの手榴弾。

 10m程度の爆発力で、巻き込まれば死亡、50mの人が まき散らされた破片を身体に受けて死ぬ可能性がある手榴弾だ。

 外に出ていた兵士達は 爆発に巻き込まれて死亡…。

 オレはコンクリートの壁を盾にしていた為、無傷…。

 ドアが無い出入り口は、外に出ようとしていた兵士がその身で栓をした事で、兵士が悲惨な事になるが 地下室内への被害を防げた…。

 更にボンボンと…手榴弾の爆発音が続く。

 塹壕内に手榴弾を投げ込まれた場合、一切の逃げ道が無い。

 いずれここも手榴弾でやられるだろう…。

「出入り口から離れろ…壁によって伏せて」

 オレが地下室の中の人に言う。

 敵が持っている手榴弾の数は1個のはずだ。

 爆発が止むまで待って射撃音がしたら出るか…。

 遠くでライフルの発砲音。

「よし」

 オレは 手榴弾の破片だらけの赤十字マークが描かれている地下室から出て塹壕内に入る…塹壕の上から降りて来たばかりの兵士の鼻にウージーマシンピストルを向けて同時にセレクターをセミオート(セミ)にセット。

 敵兵の鼻を撃ち抜き、ストンと、泥まみれの地面に落ち、セレクターを戻してセーフティに入れる。

 周りを見ると 次々と塹壕の上から敵が侵入して来ており、味方の兵士は 発砲による味方への誤射を気にしているのか 銃剣を取り付けたライフルで敵兵に銃剣突撃を仕掛けている。

 どちらの陣営のライフルもボルトアクション式…次弾を装填する前に刺してしまった方が早いのだろう。

「そこ!」

 オレがセレクターをセミに入れてウージーマシンピストルを発砲…。

 銃剣同士で戦闘をしていた味方兵士の肩の上を通過して後ろの敵兵の鼻を打ち砕く…鼻の後ろには脳幹があるので、そこを破壊すれば 相手を一切の抵抗をさせず殺せる。

「よし…。」

 ウージーマシンピストルは、セレクターを親指で引けばセーフティが入り、押し込めば セミ、フルの順で切り替わる仕組みだ。

 オレのウージーマシンピストルのトリガーの遊びは 120gと極限まで切り詰めてあるので、ほんの少しトリガーに触れるだけでも簡単に暴発する。

 その代わり安全管理がちゃんと出来てさえすれば、高い命中率を実現する事が出来る非常に優秀な銃だ。

「はい次…」

 1人に付き1発…鼻を撃ち抜く、コメカミを撃ち抜く、首の後ろを撃ち抜く。

 相手がこちらに気付く前に相手を殺す。

 相手がこちらに銃を向ける前に殺す。

 相手がこちらに発砲する前に殺す。

 淡々と…正確に…付近の銃声は、オレのウージーマシンピストルだけ…。

 1発 撃てば 敵の命が簡単に消える。

 医薬品も限られている中、オレ達は 敵を治す事までは出来ない。

 なら、せめて死んだ事も気付かない位に綺麗に即死させてやるのが、一番人道的な対応だ。

 味方の隙間から敵を殺す…常に倒した敵の死体を支えて盾にして相手の行動を制限させる。

 敵との乱戦状態なら手榴弾は使えまい。

「よし…今だ走れ」

 救護班と負傷兵が脱出を始める。

 先頭の衛生兵が 赤十字マークの旗を敵に見える様に高く掲げ、次々と負傷兵が衛生兵の後に続き、塹壕から上がって後方の塹壕に向けて逃げて行く。

 バババッ…。

「機関銃!?」

 オレ達の頭を抑える為だろう…敵の塹壕からの機関銃とライフルの掃射が、走れない負傷兵達の背中をズタズタにし、同時に衛生兵が掲げている赤十字の旗がボロボロになるまで撃ち抜かれ、旗を掲げていた衛生兵が撃たれて死ぬ。

 比較的 走れるヤツは 如何(どう)にか逃げられたが、白衣を着た非武装の衛生兵達が何人か撃たれている。

「この…国際法を堂々と破りがやって!!」

 オレは地下室からオレのライフルを取って10m程走り、一瞬だけ顔を出して構え、機関銃を持っている兵士の鼻を撃ち抜く。

 着弾と同時に大量の報復弾が飛んで来て、オレは すぐに隠れる。

 こうやって ちまちま、射線内の敵を排除して行くしかないか…。

「おっ良い所に…」

 オレは味方の死体の腰からM24型柄付手榴弾(ポテトマッシャー)取り出し投げる。

 10m程度先の塹壕の外で爆発し、辺りに破片をまき散らす。

 それと ほぼ同時に塹壕から銃だけを出して、鏡で狙いを付けて片っ端から撃って行く。

 人は爆発や動体物を優先して目が動くから、ポテトマッシャーで一瞬だが注意を引ける。

 3…4…5…よし…排除した。

 オレは敵兵の死体を背中に乗せて死体に偽装しながら動体物と認識されない程 ゆっくりと匍匐(ほふく)前進を行って進んで行く。

 まぁここら辺には 敵味方の死体だらけだから、多少動いている死体があっても気付かれないだろう。

 と言うか例え気付いたとしても、リアルタイムで撃って来る敵の排除に忙しいだろうし…。

 目標まで200m…おおよそ1時間かな…オレは分速3mの速度で移動し、途中何度か死体を入れ換え、何とか塹壕内に到着した。

「ふぁあ…疲れた」

「うおっ…生きていたのか…」

 近くの兵士が驚いて言う。

「まぁね…よっと…」

 もうとっくに戦闘が終わり、夜明けになっているが、辿り着けたのは非常に少なく、指揮官以外 ほぼ全滅だろう。


 西部戦線に10月15日に送られ、最前線で衛生兵をやり続けて、2ヶ月目の12月…。

 負傷しないので 後方に回される事も無く、ひたすら治療をし続ける。

 当初 配属された西部戦線のメンバーは全員死に、ここでの一番の最古参の兵士となっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ